TO-NAが地方創生を目論み始めた大規模イベント「ふるさとフェス」。第2弾は愛媛県で開催することになった。観光のメインストリームから外れ、アイドル不毛地帯である四国を松山から盛り上げるべく、TO-NA。フェスはいよいよフィナーレに突入する。
最優秀句が決まったところで拓郎作詩の曲『髪靡く』がお披露目された。俳句を1番に5句、2番に7句、3番に5句並べ、曲はTO-NAメンバーの遥香が、陰陽座をリスペクトして幽玄なテイストに仕立て上げた。冒頭部分をみてみよう。
黒髪は棚引く伊予の薫風に
散る汗の粒に濁りのありゃしない
それもそう幽霊草の雫なり
歌い踊る女子の正体は幽霊であるという、西馬音内盆踊りを想起させるような設定。ここから力強い2番、儚い3番と展開する。凛としたサウンドの中妖艶な舞で魅せ、最後は指先を伸ばして空に儚く弧を描く。侘び寂びの中巻き起こるシュプレヒコールに、配信で見届けていた拓郎は胸を撫で下ろした。
『雨の午後とレーズンウィッチ』が披露されるとライヴは愈愈クライマックス。メンバー屈指の歌唱力を誇るカコとアリアが高らかにSuperflyの『やさしい気持ちで』を歌い上げた。〆は恒例となったメンバー達のスピーチ。小学校卒業式の呼びかけのように、全員で故郷を大事にするスピーチを繋げる。そして最後の曲『ふるさとのにじ』では客席が虹色に染まる。快晴の夜空によく映える。拓郎の涙腺はとうとう決壊した。
ライヴ終わり、タテルはカコとエリカを連れて銀天街にウイスキーを舐めに行く。ハイボールを提供してくれたあの店へのお礼参りである。するとそこには、配信を観ていたはずの拓郎が居た。
「拓郎さん!どうしてここに」
「涼しくなったから外出してもいいかな、って。フェスなら家で見届けたぞ」
「松山にいるなら言ってくださいよ。拓郎さんならすぐ関係者席に入れたのに」
「大衆の面前で感情を表すのが恥ずかしい」
「昔のタテルさんと同じこと言ってますね。そのうち現場通うようになりますよ」
この店には千本ものウイスキーが蒐集されており、その中から好きなものを有料試飲できる。あまりにもありすぎて何を選べばいいのかさっぱりわからない。ライヴ終わりだからライトなジャパニーズが良いかな、それでいて目新しいものを、となると店員は新道を選んでくれた。

福岡県中南部、博多から大分県方面に向かう途中にある朝倉市にて製造されている。今回飲んだのはExperimental 02。美しくさっぱり、でもどことなくクリーミーな延びである。
「俳句グランプリの結果についてはどう思いました?」
「とぼけるな、って思うね」
「他に1位にすべき句があったとか?」
「だからとぼけるなタテル。最優秀句を詠んだのお前だろ」
「……バレました?」
タテルもこっそり俳句グランプリに句を提出していた。しかし大会の主催者であり兼題選出に関与した者が参戦するのは気が引けた。それでも赤筆先生が1句だけで良いから提出したら、と背中を押したので作句し、その代わり入選しても身元を明かさないという条件を課した。
「松山を題材にしておきながら、松山に限らない読みのできる句。ふるさとフェスの意義を解っている人のやり口だよな」
「言われてみればタテルさんらしい」
「お前のやり口はようわかっとるから。堂々とステージで表彰されれば良かったのに」
「コネで選ばれた、とか思われたくなくて」
「誰も思わんって。思う奴いたらシバいてやる。此の句を詠んだ者は褒められて然るべきだ。俺が褒めてやる、タテルは立派な俳人になった、ってな」
タテルはやや気恥ずかしそうに、でも目を潤ませて美酒を呷った。
ぼやけた視界の先には井川のFloraが鎮座する。タテルが注目する蒸溜所のひとつであるが、せっかくだから新しいものに出逢いたい。

提案されたのは山鹿であった。大地震のあった熊本県の北部にて製造。クリーミーでリッチな林檎の香。東京の洒落たパティスリーの拵えるアップルパイの林檎である。
山鹿市を調べてみると、炉端焼きの名店があることに気付く。鶏肉の概念が変わると喧伝されており、フーディーとしては見逃せない店である。
「次のふるさとフェスは熊本で決まりだな。震災復興フェス」
「良いですね。地元の方々も喜ぶと思います」
「喜んでもらえるようしっかり準備しないとな」
最後に、改めてふるさとフェスの意義を確認する。地元民が地元を愛し盛り上げる。東京に過度に憧れるのではなく地元を発展させ雇用を生む、地方創生を目指す取り組みとして始まったのだが、今回新たに実感したこととしては、地元民は地元の物より県外の物を求めがちという志向である。県外の人々が憧れるご当地グルメは地元民にとって当たり前すぎるし、地産食材に拘った高級店ともなれば県外の客が殆どということもざら。新鮮な物を求めて外向きになるのも良いが、偶には内の魅力を再発見してほしい。ふるさとフェスがその助けとなることをタテルは願う。
「次は伯方島の赤吉に行きましょう」
「遠いぜ」
「奢りますから。その代わり、松山の知る人ぞ知る店、紹介してくださいね」
「探してみるか」
−完−