TO-NAが地方創生を目論み始めた大規模イベント「ふるさとフェス」。第2弾は愛媛県で開催することになった。観光のメインストリームから外れ、アイドル不毛地帯である四国を松山から盛り上げるべく、TO-NAプロデューサーのタテルとメンバーのミクが視察する。タテルの友人で俳人のまぐ拓郎が2人をガイドする。
セレブリティパートでは毒舌全開の俳人先生。駄目な俳句に容赦無く赤筆を入れていくので赤筆先生と呼ばれている。本歌取りの範疇を越えて歌詞を丸パクリしたマリモ、番組で何度も赤筆の査定を受けてきたのに季重なりという初歩的なミスをしたゲストの氷田、間違えて短歌を出してしまったアリアに対しては特にキレキレであった。
そして、タテルと共にカクテル俳句を詠んできた経歴から優勝候補と目されていたクラゲがまさかの凡庸査定に甘んじた。あまりの悔しさにガチ泣きする。
「でも貴女は才能あると思いますよ。普段から文学に接している人じゃないとこうは書けない」
「ありがとうございます……」
「番組に来てください。この人はすぐ上手くなります。段位道場にも入れますよ」
厳しい物言いが目立つが、望みある者には優しく助言する赤筆。これもまた人々に愛される所以である。
光る物ありと査定されたのは、フトーフロ、TO-NAからは真面目が取り柄のカコと拓郎と共に型を学んだミク、そして最優秀賞を勝ち取り1万人の観客との決勝戦に進むのは早大王ニコであった。
「さあさみんな、赤筆先生に褒められた人もコテンパンにされた人も、思いっきり歌い踊る準備はできたかーい!会場の皆さんも声出していきますよ〜!」
カコの煽りでTO-NAのライヴが再開する。盛り上げ曲『LEAP!』では観客がその場でジャンプする件があり、震度1がつくのではないかと思うくらいスタジアムが揺れた。その後も人気曲や最新曲を織り交ぜて観客の心を揺さぶる。
全体の18分の13を消化したところで俳句グランプリ決勝戦。観客の投句から上位5句が選ばれ、その作者は恥ずかしくなければステージに上がることができる。小学生ならではの瑞々しい発想、TO-NA贔屓俳人の手慣れた句、山村の光景を素直に詠んだ滋味あふれる句、壮大な比喩を成立させた意欲作の作者が登壇する中、唯一「故郷は此処ぞと炎天指す天守」の主だけが姿を見せなかった。
これらとニコの句、合わせて6句の中からグランプリが決定する。セレブリティパートを勝ち抜いたとはいえ、より高度な句の集まりに尻込みするニコ。
「誇らしくいなさい。ニコの句はしっかり映像が浮かぶ。『海水よく』という交ぜ書きも見事だ、登場人物の年齢を明言せずとも小2以上小4未満であることが想像できる」
赤筆先生以上に解像度の高いタテルの称賛で勇気の出たニコ。最終的な順位は4位と大健闘であった。
「ニコさんも上手ね。クラゲさんと切磋琢磨して是非立派な俳人になってほしい」
「嬉しい……精進します!」
残るは2位と1位の発表である。山村の光景か、炎天指す天守か。顔を見せない人が優勝したら壇上が変な空気に包まれかねない。ただ天守の句は中となっている。字余りは上五以外避けた方が良い、と応募サイトの手引きにも書いてあったから、これが1位にはならないだろうと多くの人々が見立てていた。
果たして優勝は天守であった。詠み人知らずの1句が栄冠を勝ち取ってしまった。どよめきに包まれる会場。それでも誰に向けられたかわからない拍手が巻き起こる。
この句、確かに中八なんですけど、「炎天」という言葉が『○ん』を繰り返す形になっているので気にならないんですね。寧ろ勢いがあって、城の雄々しさとマッチする。広い空の一点を指し示す様が、松山城という高台にある城の天守に相応しい。一方で具体的な地名を述べていないので、各自の故郷に城があればそれを当てはめて句を解釈することもできる。ふるさとフェスの意義も併せて考えると、今日はこの句が一番になると思いました。
この講評を聴いて若気る者が裏に1人居たらしい。
———
ラザーニャを食べ終えた一行は路面電車に乗り道後温泉を観に行くことにした。大街道経由道後行きの便は多く確保されているがどれも多くの乗客を抱えており、いかに道後温泉が人気の観光地であるかを痛感するものである。


降りたらすぐ足湯があるが、暑い中入っていられる訳が無いので通過する。


神社に登ってまずは高いところから街を一望する。道後温泉本館が眼前に現れたため降りて向かってみる。


タテルはこの建物がただの展示施設や記念館の類だと思い込んでいたが、実際はちゃんと温泉として営業していた。ただやっぱり暑いので入る気にはならない。中だけ覗くことはできないため写真だけ撮って後にした。商店街にも色々気になるスイーツや酒があったが、ラザーニャで満腹になったため食指が動かない。
「また来ますよ。ここには海舟という日本料理店がありまして…」
「そこも高い店なんやろ」
「高いというのは、価格だけじゃなくて品質や格式、満足度も高いということですよね」
「……まあそういうことや」
「冬か春にでも来ますぜ。柑橘の美味い時季に……」
その後何故か拓郎は2人をカラオケボックスに連れ込む。拓郎はカラオケの達人でもあり、ピッチの精度に定評がある。女子顔負けのパワフルなハイトーンでSuperflyを歌いこなす。
「私達の曲は何か知ってます?」
「デビュー曲しか知らない。ごめんなミクさん」
「まあそうですよね。もし良かったらこの曲だけでも聴いてください」
去年のあきたフェスのために制作された『ふるさとのにじ』は、秋田のみならず聴く者全ての故郷を描いている。ミクが魂を込めて歌唱する。本人映像と歌詞をじっくり見入る拓郎。次第にその目には光る物が滲む。いつも斜に構えた姿勢でいる拓郎の涙に、タテルは驚嘆し声を失った。
「拓郎さんも泣くんですね」
「当たり前や。俺だって人間だぞ、年々涙腺が弱くなる」
「嬉しいですね、近くでこう感動してもらえるなんて」
「良かったなミク」

この後も沢山歌い、気付けばタテルとミクの乗る空港リムジンバスの時間が迫っていた。松山での最後の食事は鯛めしをリクエストしており、拓郎は手堅く宇和島鯛めしのもとやまを選択した。店頭には人が座っていたがただただ休憩していただけのまどろっこしい輩であり、実際はかなり空いていた。支店が近くに沢山あって分散しやすいからだと考えられる。

「鯛めしって炊き込みご飯みたいなやつですよね」
「それは松山含めた東予・中予スタイル。ここで食べられるのは南予宇和島の鯛めしだ」
生の刺身を、生卵を溶いた醤油ベースのタレに絡めてご飯に載せる類の鯛めし。港町ならではの漁師飯らしい料理である。
「ふるさとのにじみたいな曲、えひめフェスに向けて制作したいな、と思ってましてね」
「いいじゃん」
「俳句を並べて曲にしたいな、と思ってる」
「赤筆先生もやってたなそれ」
「そうです。今回は拓郎さんに句を提供いただけないかと」
「俺が?」
「赤筆先生に何から何までお願いすると大変ですし、色々な人の俳句へのアプローチを織り交ぜたいという気持ちもあります」
「わかったよ。ふるさとのにじ聴いて心動いた。作ってやる」

鯛めしの提供は早めであった。

刺身定食としても成立しそうな綺麗な身。

これと葱、海藻、卓上のタレに絡めて白飯に載せ、仕上げに刻み海苔を塗す。鯛からは仄かな甘みを孕んだ旨みが確と感じられ、白飯も当然のように進む。臭みも無くて食べやすい。
「さらっと食べられる。冷蔵管理さえ出来ればフェスのフードに出せるな」
「松山と宇和島、2種類の食べ比べも面白そうですよね」
小鉢は昆布のたらこ和えらしきものと、謎のグニグニを胡麻ダレで和えたもの。どちらも馴染みの薄いものであるが悪くない味である。
「拓郎さんもフェス、来ますよね」
「悪い、俺は行かない」
「えっ⁈」
「フェスの日は高田馬場でビリヤードの大会があってな」
「それはしょうがない。拓郎さんビリヤードの達人でもあるから」
「何でもできるんですね」
「逆にそれくらいしかできないよ。すまんな、配信とかあれば観るから」
「配信あるんで是非観てください。約束ですよ」
「勿論。俳句ソング作詩者として観ないという選択肢は無い」
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