連続百名店小説『東京街歴史探検部〜秋葉原〜』Knowledge 5「サブカル教えてくれると助かる」(竹むら/淡路町)

女性アイドルグループ「TO-NA」のメンバー・タマはおちゃらけヘタレキャラのイメージが定着していたが、大人っぽい趣味を欲するようになっていた。TO-NAプロデューサーのタテルから助言を受け、2人でアド街出演を目指して街歩きをやってみることにした。
初回の舞台は秋葉原。電気街やオタク文化で発展し、タマがアイドルに、タテルがアイドル好きになるきっかけを与えたAKB48の本拠地を、歴史の移り変わりを噛み締めながら歩いてみる。

  

タマは早速、ご無沙汰となっていたアニメショップに向かってみる。しかしそこには免税店が営業していた。調べてみると、タマ行きつけの店はとっくに閉店してしまっていた。
「しょうがない、街の移り変わりによるものだ。秋葉原は確かにアニメの街だが、最近は通販も発達してるからな。実店舗に出向かなくても買えてしまうものだ。そもそもオタクの中には家に籠っていたい人も多そうだし…」
「悲しい……悲しすぎる!」

  

仕方なくアニメイトに向かったタマ。タテルにとっては初めて踏み入れる聖域である。
「これは確かにアニメ好きのための店だな。まあ俺はそれ以上語れないのだが」
「あった!ラブライブのアクスタ!ぬいぐるみも欲しいな、えーっと何階にあるのかな」
「ダメだ熱中してやがる。俺から言えることはただ1つ、アニメイトは創業も本店も池袋。秋葉原という街にアニメのイメージを抱く理由、掴めないんだよな……」

  

そもそもの話、電気街の主力製品が家電からパソコンに移り変わると、パソコンマニアが秋葉原に集まるようになった。これが秋葉原のオタク文化の下地になったものと思われる。

  

コミックやアニメの文化が秋葉原に根付いたのは、まず1994年にコミックとらのあなが開業。規制が厳しくなったアダルト向け同人誌を扱う数少ない店として人気を集めた。
そして1995年、新世紀エヴァンゲリオンが放送されるとアニメブームが再燃。パソコンマニアとの親和性も高いジャンルであり、秋葉原にもアニメやコミックの店が続々と誕生した。アニメイト、同人誌のメロンブックス、フィギュアの海洋堂など、オタクの集まる場所が数多存在していて、海外からも注目される都市となった。

  

「ふぅ〜、たくさん買っちゃいました!」
「買いすぎだ。そんな買って部屋に入るのか」
「遥香ちゃんの部屋に少し置かせてもらって」
「おい何てことを。ハラスメントだぞ」
「合意の上で…」
「他人の部屋を侵略するな。そういうところがガキっぽいんだよ」
「気をつけます……」

  

えらく素直なタマは、甘いものを食べに行く序でにタテルを聖地へ案内することとした。
「もしかして竹むら?」
「ご存じでしたか、やっぱり」
「あそこすごい混んでるもんね。アニオタの聖地らしくて。何のアニメかは知らんが」
「ラブライブです!」
「そうなんだ。ラブライブなら俺のオトンが隠れて観ている」
「そんな。堂々と観てほしいですけどね」

  

万世橋を渡って路地に入ると、歴史のありそうな建物が現れた。都選定歴史的建造物の甘味処・竹むら。ラブライブに登場する主人公・高坂穂乃果の実家の和菓子屋はここがモチーフとなっている。その他にも『仮面ライダー響鬼』、サブカルではないが朝ドラ『虎の翼』などにも登場しており、土曜日(日祝は定休日)ともなれば聖地巡礼中と思しき客が長蛇の列をなすものである。しかし平日ともなれば基本的には空いているようで、テーブル席か座敷か選ぶ余裕すらあった。この日はタマがサンダルを履いており、素足で座敷に上がるのは行儀が悪いとタテルが言い出したため、入ってすぐ手前にあるテーブル席に座った。

  

まず提供されるのは、桜の花びらを浮かべた白湯である。想像以上に塩気のある湯であり、汗ばむ体に沁み入るものである。
タマは穂乃果のぬいぐるみとアクスタを取り出して机に並べた。今流行りの推し活の形態であるが、タテルは良い気がしない。
「あのさ、ここ食べ物屋なんだよね。関係ないものテーブルに置かれると困る」
「すみません、タテルさんこういうの嫌でしたよね」
「提供されたらすぐ食う、これは常識だ。要らんもん並べてちんたら写真撮るのはいただけないね」
「反省します……」
そもそもこの店では写真撮影が憚られる。現在こそ手元だけなら撮影可能であるが、かつては全面禁止の時期もあったくらいである。

  

先ずは粟善哉が提供された。餅米より粘度が低く空気を含んでいるような独特の粘りが特徴的な粟。咀嚼すると仄かに甘みが出てくる。餡はベタつくような甘さが無く、おとなしい粟との相性が良い。
「この緑の粒々、あげます」
「要らないの?あった方が良い」
「紫蘇っぽくて、大人の味というか……」
「善哉だけだと甘ったるくなるから、塩味のもので口直しする。まあ普通は塩昆布だけど、紫蘇というのも洒落てるな」

  

揚げ饅頭は2個で1人前である。胡麻油がふわりと香ばしく、入りは歯応えがあるがふわっと解れる饅頭の生地。餡子の甘さと揚げの油がこれまた癖になるコントラストで、2個でも十分食べきれる。土産に購入する客も多いが、揚げたてがベストだと思うため買わなかった。
「アド街は大半が食い物の紹介だからな。食に敬意を払うようにしておかないとダメだよ」
「以後気をつけます」
「でもラブライブなら俺もハマりそうだな。時間がある時に観よっと」

  

タマは店を出てからも、様々な画角で建物を撮影する。玄関や2階の窓など、実際にラブライブで登場するシーンを切り取ったらしい。

  

気の済んだところで、タマはタテルに微笑みかける。
「じゃあそろそろ追ってみますか、AKBの足跡」

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