連続百名店小説『愛媛フェスプロジェクト』第二句: 梅雨の道後ミルクコーヒーは土色(フルーツパーラーみしま/大街道(松山))

TO-NAが地方創生を目論み始めた大規模イベント「ふるさとフェス」。第2弾は愛媛県で開催することになった。観光のメインストリームから外れ、アイドル不毛地帯である四国を松山から盛り上げるべく、TO-NAプロデューサーのタテルとメンバーのミクが視察する。タテルの友人で俳人のまぐ拓郎が2人をガイドする。

  

フェスには昨年同様、タテルが口説き落とした県内の名店が数多出店している。食事系も人気を博していたが、特に人が集まっていたのは、暑い日ということもあってか、果物のブースである。こちらは松山の老舗青果店が提供していた。

  

———

  

松山市駅に戻った一行は、拓郎の導きで路面電車に乗車した。年季の入った古い車両は人で溢れていて、ぎったんばったん揺られながら何とか立っていた。路面電車とは風流なものではあるが、現代人のせっかちな性格とは喧嘩するものである。

  

大街道で下車。北に向かって行くと鯛めし屋が多く立ち並ぶ道を抜けて松山城行きロープウェイ乗り場へ続く。南には広いアーケードが延びていて、三越もそこにある。松山観光の重要拠点と言えよう。

  

アーケードに入って間も無くして現れたフルーツパーラー。こここそが拓郎お薦めのスイーツ店である。
「フルーツ大好きです!」
「良かった。松山にはタテルが好むようなケーキ屋とか無いからさ、探すの苦労したぜ」
「タテルさんが拘り強いだけですけどね」
「悪いか」

  

人気店であり、3人が入ったところで満席となった。拓郎はフルーツサンド、ミクは苺パフェとミニバナナパフェを選択した一方、果実をそのまま味わいたいタテルは少しお高めなフルーツ盛り合わせが気になって仕方ない。
「パフェの方が良いのか?アキバのフルーツパーラーでいつも食ってるから偶には違うのとか」
「自分で決めなさい。5年以上の付き合いだが未だに君のことはようわからん」
「まあ変な人ですよ」
「パフェ2つも頼む人に言われたくない」

  

結局タテルは自らの素材原理主義に従い盛り合わせを選択した。しかしどうも失敗した感じが否めない。というのも、愛媛における名産の果物といえば柑橘類。柑橘類の旬は基本的に冬から春であり、暑い時季に出回るようなものではないことは明白であった。
「紅まどんなに美生柑、せとか、八朔。甘平もいいな」
「松山市民の俺より詳しいのう」
「柑橘は日本フルーツの強みだからね。いやぁ、冬フェスにすれば良かったな……」
「確かにな。夏の愛媛で美味いもんって何や」

  

運ばれてきた盛り合わせを見て慄くタテル。苺、バナナ、オレンジ、グレープフルーツ、西瓜、メロンが3〜4カットずつ盛られていて、明らかに1人サイズではなかった。
しかし味は良い。苺は紅ほっぺで、さっぱりした入りから仄かに載る甘みが、濃い訳ではないが心地良い。西瓜はどろっとした食感がありつつ、夏に相応しい瑞々しさ。メロンは美しい実で甘さも十分。驚くはオレンジで、流石柑橘王国と言うべき果汁の濃さ。酸味の尖りも無く非常に綺麗な果実である。

  

セットでアイスカフェラテを注文していたが、これまた暑いからと言ってアイスにしたものの、胃を冷やすのは良くなかったか、等考え込んでしまうタテル。物憂げな土色であるが味わいは湯上がりのコーヒー牛乳という不思議。

  

—梅雨の道後ミルクコーヒーは土色—

  

「素晴らしい果物達ですね。県内のものですか?」
「……確認してみます」

  

確認の結果、盛り合わせの果物は苺を除いて県外産であった。あれだけ美味い美味い言っていたオレンジも愛媛産ではなかった。
「まじかぁ。まあしょうがないよな、でもやっぱ愛媛の果物をみんなに食べさせたい」
「難しいんよな、愛媛の夏って」

  

冬から春にかけての愛媛は魅力的である。強みである柑橘類や鯛が旬を迎え、鍋焼きうどんや道後温泉の湯が沁みる。空が澄んで海とのコントラストも光る。お土産の定番は街中至る所で名前を目にする一六タルトか、ケンミンショーで取り上げられた坊っちゃん団子や生姜餅だろうか。
これらはとことん夏にそぐわないものである。熱いものを暑い中楽しむ気にはならないしモサモサするものを渇いた口は受け付けない。では夏の愛媛観光はどう盛り上げよう。

  

「その答えは、来場者の皆さんに探してもらえば良いかと」
「なるほど。良いこと言うねミク」
「ガイドブックに書いてあることを辿るだけでなく、自分なりの視点で魅力を発掘するのが旅の醍醐味だと思います」
「そうだな。旅人各々の価値観が無限の可能性に触れ、知られざる食や風景、風習が日の目を見る。TO-NAが理想とする展開だ」

  

蜜柑や鯛が全てではない。愛媛の隠れた魅力に触れてもらいたい。夏にフェスをやることへのモヤモヤはこの時点ですっかり晴れた。

  

———

  

「大洲の西瓜と西条のメロン、食べてくださいな!」
メンバーがゲリラ的に現れ、果物露店の手伝いをする。アメ横名物のように串に果実を刺し提供する。メンバーから商品を手渡しする特別感と共に、愛媛にも美味しいメロンや西瓜があることを知ってもらう好機となった。

  

さらに会場では、愛媛県内で撮影した写真を提出して出来栄えを競うフォトコンテストも開かれた。審査員は、有名芸大写真学科を卒業し、芯を食った提案をタテルの前で堂々とかましたミク。テーマである「知られざる愛媛」に沿って厳正な審査を展開する。

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