連続百名店小説『東京街歴史探検部〜秋葉原〜』Knowledge 6「AKB48はみんなの青春です」(木内酒造/秋葉原)

女性アイドルグループ「TO-NA」のメンバー・タマはおちゃらけヘタレキャラのイメージが定着していたが、大人っぽい趣味を欲するようになっていた。TO-NAプロデューサーのタテルから助言を受け、2人でアド街出演を目指して街歩きをやってみることにした。
初回の舞台は秋葉原。電気街やオタク文化で発展し、タマがアイドルに、タテルがアイドル好きになるきっかけを与えたAKB48の本拠地を、歴史の移り変わりを噛み締めながら歩いてみる。

  

タマが何十回も足繁く通ったドン・キホーテ。その8階にAKB48劇場がある。
「エスカレーターでしか行けないんだよね」
「そうです。関係者以外はエレベーター使えない」
「中学の時版画でこのドン・キホーテの外観描いたんだけどさ」
「おお、タテルさんやっぱ独特ですね」
「前は中央通り側に『AKB劇場』の文字があったけど今は路地側に回されてる」
「2年くらい前にリニューアルしたんですよね」
「あったな何か。全然行ってないからわからんが」
「私もご無沙汰です」

  

オタク文化が根付いた2005年、おニャン子クラブを手がけた秋元康氏が新たなコンセプトのアイドルグループを誕生させた。常設劇場を持ち毎日のように公演を行うというスタイルは当時斬新であり、客席と舞台の距離が近かったり握手会ビジネスを展開するなど「会いに行けるアイドル」という概念を確立し、平成後期から現在に至るまでの女性アイドルに大きな影響を与えた。TO-NAも勿論その影響を受けるアイドルのひとつである。

  

ファン層は男性が中心であるため、公演チケットにはファミリー・カップル枠や女性・小中学生枠という特別枠もあって、タテルは1回だけ、中学生枠でチームK公演を観に行ったのが全てである。一方でタマは特別枠を使わず、男性オタクに混じって50回以上も参戦していたのである。

  

「俺はどっちかというとカフェに行ってた。推しメンのコースターが欲しくてさ」
AKBカフェのあった山手線・京浜東北線ガード下まで歩いてきた一行。現在は特撮ものやガンダム等のフィギュアを展示・販売するスタイリッシュな施設に生まれ変わっている。
「この辺にテイクアウト専用カウンターあってさ、何か色々入ったオリジナルシェイク的なやつ買うとランダムでコースター貰えるんだよ。推しってさ、狙うとなかなか出ないんだよね」
「カフェはあまり行かなかったですね。食べ飲みするより公演を観た方が思い出に残るので」
「確かに、今思えば大した飲み物ではなか…」
「失礼ですよタテルさん。美味しいもの食べ過ぎ」
「俺にだってあるよ、些末な飯大量に食ってうまいうまい言うお気楽だった時代」
「慎んでください。確かにカフェのご飯はそそられないものでしたけど」
「あれ?タマまで口が悪くなってる」
「しまった!」

  

舌が肥えた一行はガード下を御徒町方面へ進む。ちゃばらは日本各地の名産を取り扱う店であり、お贅沢な2人でも満足できそうな品が並んでいる。

  

さらに進むと倉庫のような外観の建物が現れ、その中には木内酒造が入居している。日本酒にクラフトビールの常陸野ネスト、そして日の丸ウイスキーを味わうことができる場所であり、口の奢ったタテルはいとも簡単に吸い寄せられた。

  

「待ってください。私そんなお酒飲めないの知ってますよね?」
「繁盛してなさそうだから行ってやろうと思って」
「上からすぎますよ」
「梅酒ソーダ割りでも頼めばいい。茨城の梅は美味いからな」

  

タテルは2,000円の3種テイスティングセット(ストレート)を注文した。全体的にウッディなニュアンスが強いのが、タテルの思う日の丸ウイスキーのイメージである。
バーボンバレル2308は大麦だけでなく小麦も原料としている。乾いた香りであり、この中に旨みとかあるのか、と不安になるが、口にしてみるとスパイシーな中にもフルーティな一面があり、延ばしているうちにコクのある甘みも出てくる。
フィノシェリーカスク1045は少しねっとりとしたタレの感覚、柔らかくも重い口当たり。後半になるとレーズンの香りが噴出する。後味は完全にレーズントースト。
ワインカスクフィニッシュ4181はここまでの2つと違い芳香が濃く、口当たりもサラッと入ってくる。桜の樽を経由しているためチェリーのようなコクが確とある。

  

繁盛してなさそう、と放言したタテルであったが、テイスティングしている間にウイスキーを購入する客が4組立て続く。
「全然繁盛してるじゃないですか。失礼ですよ」
「繁盛しないと困るよ。個性のしっかりある素晴らしい蒸溜所だからさ」

  

贈答用にウイスキーを買う人が多いようである。タテルが飲んだウイスキーはボトルで8,800円〜9,350円であるが、高級なものだと3万円するものもある。あまり甘みのないものを、とリクエストして高級な方を薦められてしまい慌ててしまう客もいた。

  

「あれ、タマの推しメンって誰だっけ?」
「それはもう、にゃんさんですよ」
「解釈一致だな。絶対にゃんさん好きそうだもんねタマ」

  

初期メンバーとしてAKB48を支え、現在は社長業に邁進する「にゃん」。彼女の猫のような可愛さとその奥に垣間見える芯の強さに、タマは憧れているのだと云う。
「美人だよね」
「そうなんですよぉ。握手会行ったらもう可愛すぎて、何も喋れなかったです」
「支離滅裂に喋るタマが黙るとはね」
「タテルさんだって、握手会で何も喋れなかった、って話してましたよね」
「そんなこと言ったっけ」
「目が泳いでますよ。何がしたいんですか」

  

タテルはもう1種類ウイスキーを飲みたがっていた。しかし繁盛のしすぎで店員は商品の会計と包装に追われ、おまけに会計システムに不具合が発生。声かけの隙を見つけられないでいた。

  

格闘すること20分。漸くチェリーブランデーカスクフィニッシュC-8106の注文に成功した。こちらは真っ直ぐなチェリーの芳香。焼いた後の灰の感覚もある。香りの良さが背景にありつつもかなりさっぱりとした飲み口であった。

  

2人はさらに御徒町方面へ歩みを進める。蔵前橋通りから先のガード下は綺麗に整備されたモダンな空間となっていて、手仕事の光る雑貨店や飲食店が集結している。
「にゃんさん以外に気になるメンバーは?」
「にゃんさんが卒業した後は箱推しでした。だってみんな可愛いんですもん」
「ビジュに関してああだこうだ言う奴いるけど、やっぱ実物見ると可愛いよね」
「そうなんですよ!流石タテルさんよくわかってる」
「でもさ、なんで今は追わなくなったの?」
「それは……」

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