連続百名店小説『東京街歴史探検部〜秋葉原〜』Knowledge 2「アキバに残る季節の息吹」(フルーフ・デゥ・セゾン/末広町)

女性アイドルグループ「TO-NA」のメンバー・タマはおちゃらけヘタレキャラのイメージが定着していたが、大人っぽい趣味を欲するようになっていた。TO-NAプロデューサーのタテルから助言を受け、2人でアド街出演を目指して街歩きをやってみることにした。
初回の舞台は秋葉原。電気街やオタク文化で発展し、タマがアイドルに、タテルがアイドル好きになるきっかけを与えたAKB48の本拠地を、歴史の移り変わりを噛み締めながら歩いてみる。

  

末広町の交差点を通過し、蔵前橋通りをさらに東へ進むタテルとタマ。デザートを求めてフルーツパーラーに向かっていた。
「もう閉店してるけど、歌広場さんのフルーツパーラーもあったな。フレンチトーストとフルーツの組み合わせが美味しかった」
「ありましたね確かに。でもあそこって女の子が行く店でしたよね」
「そうなんだよ。シンプルにフルーツ食べたくて行ったらイケメン店員目当ての女の子ばっかで。浮いたよね」
「間違いないです」
「でも歌広場さんに会えたんだ。やっぱ有名人と会うとテンション上がるもんだね」

  

秋葉原で今も残るフルーツパーラーといえばやはり、フルーフ・デゥ・セゾンである。タテルが十数年前に通っていた時は1階だけであったが、人気が高まり2階席が増設されていた。それでも休日は満席になるのだから驚きである。2人は螺旋階段をへばりつくかのように登り、2階のカウンター席に横並びで座る。

  

この店で食べておきたいものといえばパフェである。多種多様なフルーツパフェは勿論、時期に応じたフルーツ単体のパフェも用意されている。2人が訪れた時期は苺のパフェが売り出されていた。
「苺でも色々あるぞ。3種食べ比べにスカイベリー、埼玉の新鋭あまりんとべにたまもある」
「埼玉でも苺って獲れるんですね」
「そうだぞ。俺は食べたことないが一級品とのこと」
埼玉の魅力度を上げる起爆剤になるであろうあまりん達も気にはなるが、タテルは結局3種盛りを選択した。

  

喉が渇いていたためレモネードも追加する。レモンピールの苦味と果実の柔らかな酸味を楽しめる。レモンスライスはシロップに漬け込まれたことにより酸っぱさが抜け、心地良い甘みと苦みを噛み締める。

  

パフェが出来上がるまでには時間がかかる。待ち時間を活用して街の歴史を学ぶこととする。サブカルのイメージが強い秋葉原ではあるが、かつては野菜や果物の街でもあったのだ。

  

江戸時代の最初期、万世橋を越えた先にある神田須田町に青果市場が誕生した。明暦の大火を機に各所にあった青物市場が集約されるとそれは大きく発展し、千住・駒込と並ぶ江戸幕府の御用市場となった。明治時代に入ってからも発展を続け、明治34年時点では青物・果物問屋が240軒営業していたとのことである。
しかし大正12年、関東大震災が発生すると、秋葉原の地に市場が移転することとなった。その場所は秋葉原駅の北西部、現在のダイビルとUDXが建つ土地である。須田町時代の盛況は受け継がれ、東京都中央卸売市場神田市場として大事な役割を担っていたが平成元年、大田区に大田市場が開場すると御役御免となった。
「その名残の1つがこの店なんだよね。神田市場の仲卸一家が開いたんだって」
「秋葉原に青果市場があったなんて想像もつかなかったけど、この店が歴史を繋いでくれてる」
「偶には良いこと言うなタマ」
「偶には、は余計です!」
「いや、絶対に偶々だ」
「偶々じゃないです、ちゃんと調べてきたまら…」
「噛んだね。神田だけに」

  

苺パフェがやってきた。タテルの3種盛りパフェは、上から紅ほっぺ、きらぴ香、やよいひめというラインナップ。
群馬のブランド苺であるやよいひめはかなりジューシーで甘みも纏まっている。紅ほっぺも果肉が非常に柔らかく、三者の中では最も味が濃い印象。静岡のブランド苺であるきらぴ香については、タテルは日本料理店の水菓子で経験済みである。中は色白で食感は硬め、優しい甘み。経験則に基づくともっとクリーミーな味わいがあるはずなのだが、そういう苺は1粒でこのパフェと同等の値が付くものであろう。
器の下部にも良質な苺達が込められている。艶が良くて大ぶりで味も確かな苺を沢山摂取できる楽しみがあり、食に疎いタマも目を輝かせて食べ進めた。

  

青果市場の伝統を引き継ぐ店ではあるが今時のサーヴィスもあって、SNSにパフェの写真を投稿すると次回使えるドリンク無料券が貰える。それがあれば旬の果物を使ったフレッシュジュースも無料で飲めるのでお得である。

  

さらに2人はスタンプカードを2枚ずつ手に入れた。全パフェ用のものに加え、季節のパフェ11種類をコンプリートすると特別なパフェが貰えるという、何ともやり込み要素のあるスタンプカードである。
「これは季節毎にちょこちょこ通わないと駄目だな。タマも付き合うか」
「付き合います。フルーツ大好きなので!」

  

という訳で後日また来店した2人。この日は1階席が丁度空いていて案内された。そして目当ては柑橘パフェである。

  

その日入荷していた8種類もの柑橘を盛り合わせている。こうも盛られているとどれが何という柑橘かわからなくなるため、案内の紙を置いておいてくれる。

  

きんかんが驚くほどジューシー。清見は柔らかくこれまた果汁がたっぷり。ブラッドオレンジは苦味酸味のバランスが良く食べやすい。
スウィーティーは綿の苦味の中でも優しい甘みが感じ取れる。真夏にサラッと食べたい柑橘であるが旬は真冬である。せとかは囊の存在感がありつつもジューシーで食べ応えを感じる。
八朔は粒立ちが良く繊維と硬さが主体。姫小春は独特な味。黄色い柑橘だがオレンジ色に近い味である。甘平は名前の通り一番甘い。

  

「日本は柑橘大国だ。特に瀬戸内だな」
「寂聴さん?」
「どうしてそうなる。中国地方と四国を隔てる海のことだ。今度フェスやる愛媛も面している」
「蜜柑いっぱい食べたい。でも冬じゃないから無いですね」
「しょうがない。誰かにいっぱい柑橘送ってもらえるよう、フェスを成功させればいい」

  

ドリンク無料券でこの日飲めるフレッシュジュースはラズベリー。ハーフサイズの無料サイズアップも行われていて、どうやらそれが適用されフルサイズで提供されたようである。粗悪な冷凍品だと酸味が目立つラズベリーであるが、さすが一流のフルーツパーラー、甘みと酸味のバランスが良く果実味も濃い。ジュースだけ飲みに来る使い方でも満足できる店である。

  

またある日はパイナップルパフェを求めて来店した。2階席はカウンター席がざっと10席以上、テーブルも7卓くらいあるだろうか、かなりの席数ではあるのだが、休日であったせいかそれが全て埋まっていた。記名して10分くらい待ち入店する。

  

大ぶりにカットされ盛られたパイナップルは2種類。どちらも驚くほど果汁が溢れ出す。青い皮の方からは爽やかな、茶色の皮の方からはバニラっぽい少し重厚な香りを持つ果汁が出てくる。
ただキンキンのアイスなどで冷やされると、果実に含まれていたジューシーさが一気に損なわれてしまう印象を受けた。そしてパイナップル自体味が濃く、酸味も刺激性があるものなので大量に食えるものではない。
「やっぱマンゴーの方が良いな」
「ですね。マンゴーなら優しい味なので」
それでもパイナップルのアイスクリームは味が円く纏まっており心地良い甘さである。

  

僅か3日後、パイナップルと並行して売り出されていた宮崎マンゴーパフェを食べに4度目の来店。そろそろ常連客として認知されても良い頃合いである。これだけ訪れれば、スマホからのオーダーは秒で済ませられるし提供までの待ち時間も短く感じられるものである。なお無料ドリンクは、ジュースが因縁のパインであったため回避しアイスティーを選択した。
「初めて食べるな、宮崎マンゴー」
「タテルさん食べたことないんですか⁈意外すぎます」
「どっかで口にしたかもしれないけど、向き合って食べるのは初めて」
「タテルさんの知らない美味しさ知ってる。勝ちましたね私」
「何を勝ち誇って。食べ物を前に勝ち負けとかねえんだよ」

  

アド街と同じハウフルス制作のどっちの料理ショーを敵に回したところで、マンゴーパフェのお出まし。抗力はあるがスルスルと歯が入りほぐれる果実。マンゴーらしい濃い果実味は瑞々しくて、海外産でありがちな雑味も果実味に均され気にならない。クリームをほんの少し纏うとバターのように濃い甘みとなる。繊維が残る感覚も無く、さすが日本の一級品である。
下には繊維の箇所が入っていた。マンゴー特有の繊維質も、やはり国産だからか綺麗に解れる。

  

「どうですか、私の大好きな宮崎マンゴーの味は」
「タマには海外のマンゴーの方が似合うと思った。そうだな、フィリピン産とか」
「どういうことですか」
「ちょっとスパイシーでクセがある」
「貶してます?」
「君に王道可愛いは無理だ」
「はぁ⁈」
「柄にも無いことするより自分らしい振る舞いを貫け、ってことだ。そうすれば変にスベることも無くなる。面白くなりたいんだろ?なら自分の属性を受け入れなさい」
「またお説教された。しゅん……」
「もうすぐさくらんぼも始まるようだな。旬が短いから逃さないようにしないと。物語が果てても、季節のパフェコンプへの道はまだまだ続く、と」

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です