フランス帰りのカケルは、「アパーランドの皇帝」として問題だらけのこの国に革命を起こそうとする。かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・Écluneをプロパガンダに利用しながら。
第6章あらすじ
有名企業「サンクスインターナショナル株式会社」(通称:TI社)で若手女性社員・黒澤ユウカの過労自殺事件が発生した。社長の真黒は謝罪するどころか黒澤を甘ったれと批判し大炎上。さらに、あけぼの大学法学部教授の石竹が真黒の考えを全面的に支持し黒澤を中傷する投稿をしてこれまた大炎上していた。
カケルはTI社に対し「働いて5班」を、あけぼの大学に対し「休んで4班」を結成、真黒と石竹にじわじわと迫り罪を与える作戦を開始した。
*この作品は完全なるフィクションです。実在の人物・店・団体、そして著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。
「まだちょっと入りそう。もう1軒行きません?」
「えっ?まあ行ってもいいけど」
定食屋から歩いて10分くらいのところにカレー屋がある。地下に向かって細い階段を降りると、ランチのピークを少し逸していたためすぐ席につくことができた。先程の定食屋と同様、平日のみの営業である。
色々な具材のカレーがあるが、ランチ奉仕価格で提供されるカレーは2種類。そのうち1つはA5ランクの黒毛和牛すね肉や牛すじを使用した豪華なカレーであるが月水金のみの提供。この日は火曜日であったため、茄子とガーリック・チーズが入ったもうひとつの方を選択した。野菜もきちんと食べる学生2人はサラダセットを、カフェイン最強説を唱える見山はアイスコーヒーのセットをつけた。

「2人は健啖家でもあるんですよね」
「胃が若いんだね。若いうちにたくさん美味しいもの食った方が良い。歳とると霜降りの脂とか受け付けなくなるからね」
「そうですよね。でも若い頃ってお金がないじゃないですか。貯金もしなきゃですし」
「ジレンマだね。まあそれはしょうがない」
働けば金が稼げる。余暇が沢山あっても金がないと持て余す。そんな数式を経済学で学んだような気がする。しかしこの国では働く時間を増やしても金を稼げないし、働くのを辞めたらそう簡単に金は入ってこない。
「不労所得がほしい」
「投資ですかね」
「でも怖いな。俺は起業かな」
「最近多いよね、ベンチャーとか」
「誰かのしもべになるより、自分のやりたいようにする方が俺には合うと思います」
「アリだね。どんなことやりたい?」
「アプリ開発ですかね。ゴミ箱が街中にあまりなくて不便なので、ゴミ箱マップなるものを作ろうかと」
「わかるわかる。マジで少ないもんね」
「アプリユーザーにも協力してもらって、精度の高い全国ゴミ箱マップを作りたいと思ってます」
「素晴らしい。是非実現してほしい」


カレーがやってきた。ソースポッドにルーが入っているからか欧風カレーのように感じるが、実際は酸味やスパイスの痺れをよく感じる刺激的なカレーである。不思議な感覚を覚えたのはライス。米が小粒であり、水分を結構飛ばしている。決して悪くない炊き加減だと思う。

ごろっと入った茄子は、皮目パリッと中は芋のように解れて印象に残る。理想の調理法である。一方でガーリックを感じる瞬間は一度しかなく、もう少し効かせても面白いのではないかと思う。
「次カフェでも行きます?」
「いいね。ちょっと作業したい」
しかし平日の昼下がりともなるとカフェはどこも満杯である。十数分歩き回ったが4人でゆったりと腰を据えられる場所は見つからず、結局大学に戻る羽目になった。
「まあ裏を返せば、オフィスを離れてマイペースに仕事する人も多いのか」
「仕事よりも勉強ですかね。社外秘の資料は扱えないので」
「こうもカフェが満杯だと、新たにカフェ作るのもアリかもね」
「絶対需要ありますよね」
「俺コーヒー飲めないんで、お茶専門のカフェ欲しいです」
「いいね」
「ゆったり昼飯食べて、カフェでまったり作業する社会人生活送りたい」
一方、TI社の白石もまたカフェでパソコンを広げていた。新規案件獲得のため5件回ってきたがどこからも色よい返事は貰えず、会社に戻る足取りが重かった。外でできる作業をカフェで片付けて気持ちを落ち着かせてから帰社するつもりでいたが、タスクをこなすに連れ却って戻る気力が失せてしまう。気づけばアパーランドへのメッセージを綴っていた。
まいっちゃいますよ。高圧的な顧客、話を合わせない顧客、終いには「おたくと取引したら深夜でもメール対応させるんだろ?やだねぇ、俺らまで社畜にしないでほしいね、アッハッハ!」なんで言われちゃって。ただでさえイメージの悪いTI社だもん、いくら努力しても案件なんて勝ち取れない……
「本音なんだろうねこれが」
「ちょっと心配になりますね。黒澤さんと同じ轍踏まないでほしい」
逃げることも大事だよ。やりたいこと、他にもあるでしょ?自分の身を守ること考えよう。それにしてもHAYATE推してたんだね。俺も大好きで、Écluneになった今も追ってます。特にnaが好きかな。誰か推しメンいる?
さらっと返信を書いて、カケルはÉcluneの事務所に向かった。ここまで白石や神田らから聞き出した思いを一旦纏め、歌詞の一部を作成してみた。メンバーからの評判は上々である。
「仕事を程々にしてやりたいことをやろう。多くの人々が心の中に秘めていた思いを代弁してくれる歌詞が響きますね」
「怠惰を勧めるのではなく、働きたい人は心ゆくまで働ける、と言っているから説得力もありますし」
「後は物語がどう展開するかですね。今のところ提唱だけして終わりなので」
「それは俺にもわからない。これからの1ヶ月を必死で生きてみたら見えてくるさ」
「またカッコつけたこと言ってる」
「Écluneの運営に新しいスタッフが来るかもしれない。まだ詳しくは言えないが、今回の楽曲に浅からぬ関わりがある人らしい。HAYATE時代からのファンだ、みんな仲良くしてやってな」