超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第6章:働いて休んで働いて休んで休もう 2話

フランス帰りのカケルは、「アパーランドの皇帝」として問題だらけのこの国に革命を起こそうとする。かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・Écluneをプロパガンダに利用しながら。
*この作品は完全なるフィクションです。実在の人物・店・団体、そして著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

翌日、TI社の真黒(まぐろ)社長と幹部が記者会見を開いた。しかし社長の口から飛び出した言葉は多くの人々を呆れさせるものであった。

  

「弊社社員・黒澤ユウカ氏の自殺事件につきまして、我々には一切の責任が無いものと考えております」

  

当然ながら記者からは怒号が飛び交う。真黒社長はそれを流石の威圧で鎮め持論を垂れる。
「黒澤氏は自らの意志で死ぬことを選びました。自分で責任持って選んだ結論です。我々はそれに何ら関わっていない」
「おたくらの長時間パワハラ労働が黒澤さんの心を擦り減らし自殺に追い込んだ。それでいてよく無関係だと言えますね」
「貴方は我々の何をご存じで?まあ確かに労働時間は長いと思いますよ。でもそれが普通なんで。定時で上がるのが正義みたいな風潮ありますけど、甘えですよね。休む時間があったらその分会社に社会に貢献するのが当たり前でしょう」

  

再び怒号に包まれる会見場。流石の真黒も自ら垂らした詭弁による紛糾を抑え込むことはできず、時間の無駄だ、業務に戻らせろ、と捨て台詞を吐いてその場を去っていった。

  

カケルも真黒のふてぶてしい態度に怒り心頭であった。夕べdraと合意した「働きたい人と休みたい人が干渉しない社会」とは相容れない事案であり、真黒とその幹部を一網打尽にする姿勢は揺るがない。そしてSNSを見ると、更なる胸糞案件が飛び込んできた。

  

黒澤ユウカ、甘ったれたお嬢さんだね。ちょっと叱られたくらいで追い込まれるなんて情け無い話だよ。毎日終電ギリギリまで働いてこそプロだということを、最近の若者は全くわかっていない。国力の低下が心配だ。

  

あけぼの大学の教授・石竹(せきちく)のふざけた投稿には糾弾のリプが数多く寄せられた。それでも石竹は意に介さず淡々と捻くれた持論を投稿する。

  

上司も一生懸命働いているんだ。そんな上司を差し置いて帰るだなんて言語道断。
ワークライフバランス、何と悪しき言葉だ。これ以上ライフに比重を置いたら人間は駄目になる。
先人達が人生を捧げて築き上げた文明を我々は生きている。ならば我々も同じ、いやもっと働いて文明を発展させなければならない。休んでいるばかりの人には文明の利器を使う資格無し。

  

「コイツの頭は縄文人か?」
「ネアンデルタールかもしれません」
「何でもいい。コイツにも痛い目に遭ってもらおう。ただ直接プリズンにぶち込むのは違うから……良いこと思いついちゃった!」

  

カケルは早速アパーランド構成員を集め、「望まない労働撲滅作戦」発令を宣言した。
「この作戦の標的は2つ。TI社とあけぼの大学だ。そこで君たちには2班に分かれてもらう。分け方は、今から俺が2択の質問を出すから答えてくれ」

  

Q.選択的週休3日制が導入された。今まで通り週休2日で働けばその分給料がプラスされる。あなたは働きたい?休みを大事にしたい?

  

「いい感じに半分に分かれたね。『働きたい』と答えた人にはTI社へ行ってもらう。班名は『働いて5』だ」
「総理の発言に因んでます?」
「まあな。『休みたい』派はあけぼの大学だ。名前は『休んで4』」
「それは確か……某漫才師の飛び道具的ネタですね!」
「ホントだ。敗者復活戦で披露してMCから『勝ち上がる気ある?』ってつっこまれた」
「知らん話で盛り上がるな。ただ文字数をつけただけだ。じゃあ働いて5にはバリバリ働いてもらうぞ。早速アパーランドに依頼が来ている。TI社の膝元に行って聞き込みからだ」

  

翌日、ラッシュの時間帯を外して少し遅めにTI社にやってきたカケルと働いて5班。TI社ビル前の大通りを、退職代行「ボクハイヤダ」の街宣車が走る。
「退職代行ってエグいよな。力づくで辞めてやれるから」
「残された人達は大迷惑ですよ」
「無責任ではあるけど、それだけ執拗に引き留めるブラック企業がある訳で」
「まあ需要はありますよね」
「濫用はしてほしくないけどね」

  

午前中はTI社ビルのフロア構造やセキュリティ等を確認した。腐ってもそこそこ有名な企業であるTI社。そのオフィスエリアに侵入するのは、どんな手を使うにしても困難であり危険である。奥の手を残しつつ、ここは企業関係者と思しき人に聞き込んで社内事情を炙り出す。だが皆忙しそうで取り合ってもらえない。

  

仕方ないのでランチの行列に並ぶ。近所で有名なカレーの店であり、正午8分前に着いた外に見えているだけでも20人超の列。階段にも列が延びている(7,8人程度)ので実際はもっと多い。行列に並んでいる間なら、じっくり話を聞けると踏んでいた。
「もしかしてTI社の方ですか?」
「そうですけど。何か」
「TI社に興味があって。忙しいっすか、お仕事」
「うーんまあ、部署にもよるんじゃないですか?俺の部署はまあ20時21時退社ですかね」
「結構働いてますね」
「黒澤さんのことなら知らないよ詳しくは。部署が違うから」
「確かあそこは営業部」
「俺も営業部だけは嫌だよ。激務という噂は聞いてるから」
「やっぱり」
「朝礼がうるさいんだよね。下のフロアから地響きのように声が聞こえてくる」
「社訓とか絶叫するやつ?」
「そうそう。声が足んねぇ、って上司の怒号がまたもうやかましくて」
「まるで軍隊だな」

  

その後も行列は延び、12:16に並んだ人がこの日最後の客となった。待っている間、同じ職場と思しき人に遭遇し会釈を交わす人が散見された。
「みんな1人で来るんですね」
「ここは複数人で行っても席バラけるからな。1人ランチには最高なのさ」
「みんな外に食べに出るんですか?」
「いや、食堂もあるけど、俺はあんま使わないかな。営業の奴らが上司と部下でやってきて、上司がいっつもキレてんの」
「うわ最悪。飯が不味くなりますね」
「だろ。だから俺はいつも外。他の社員も殆ど使ってない」
「迷惑ですねそれ」
「帰り際もさ、営業の奴らが会食か何かから戻ってきて、上司がずっと説教してやがる。こっちは気楽になろうとしてるのに邪魔しやがって」
「他部門にまで少なからず影響を及ぼすパワハラ。酷いっすね」
「遂に死人が出たか、って印象です。これを機に変わらないかな。いや、この会社なら変わる気しない」

  

ここでTI社社員が店内に案内されたためリサーチは終了。漸く内部事情を聞き出すことに成功し、TI社営業部の過酷な勤労状況に衝撃を受けた。

  

間も無くしてカケルも席に案内される。荷物を纏めていると1分くらいでカレーが提供された。この日のメニューはたしか「チキンハッサン」。サラダ、チキン、カレールー、サフランライスが別々に盛られたプレートである。チキンはスパイスを含んだ美味いペーストを纏っていて、おかずとしても最高である。
カレールーは独特な口当たり。シナモン系のスパイスが溶け込んだミルクのような円やかさかと思いきや、その後辛い系のスパイスが爆発しヒリヒリ。これは面白い味わいである。辛いものと独特なものが苦手な人には向かないかもしれない。

  

引き続き、TI社ビルのカフェやコンビニのイートインスペースなどに分散して拠点を置き情報を探る一行。この日は5人の社員に聞き込み成功、有益な情報も続々と集まった。

  

・夜の9時くらいに、冷えピタを貼って明らかに体調悪そうにしている社員と出会した。体調不良でも休ませてもらえるどころか残業から逃れられない説。
・毎週木曜日の進捗会議は「地獄の木曜会議」と呼ばれ、ノルマ未達の社員は吊し上げられ休日出勤を命じられる。
・営業部長は社長に気に入られており、役員への出世が期待されている。過去に大型案件を多数勝ち取った実績があるから、パワハラがあっても逆らえない。
・営業部には「恐怖の飲み会」なるものがある。酒が入った上司は部下への説教が止まらない。

  

カケルは基地に帰還後、秘匿性の高い通信アプリを用いて、これらのタレコミが事実であるか白石に訊ねた。23時になって、概ね事実であるとの返答があった。そしてカケルは次なる作戦に打って出るのだが、その話は一旦置いておこう。

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