連続百名店小説『東京街歴史探検部〜秋葉原〜』Knowledge 8「You may do maid work.」(BURGER&MILKSHAKE CRANE/末広町)

女性アイドルグループ「TO-NA」のメンバー・タマはおちゃらけヘタレキャラのイメージが定着していたが、大人っぽい趣味を欲するようになっていた。TO-NAプロデューサーのタテルから助言を受け、2人でアド街出演を目指して街歩きをやってみることにした。
初回の舞台は秋葉原。電気街やオタク文化で発展し、タマがアイドルに、タテルがアイドル好きになるきっかけを与えたAKB48の本拠地を、歴史の移り変わりを噛み締めながら歩いてみる。

  

「時間潰す場所ないもん。メイドカフェもアキバの立派な文化。学びに行く価値がある」
「でも言ってましたよね前。グルメが行くような場所ではないとか」
「そんなこと言ったっけ?」

  

———
それはとある日の秋葉原探索でのことだった。2人は末広町のハンバーガー屋に向けて、相変わらず外国人で溢れる中央通りを北進する。
「ねえねえお兄さん、構ってちょうだいよぉ」
「こここ、怖い!」
「客引きエグいな。ああいうのには絶対反応しちゃダメ」
「はい……」

  

秋葉原にはこういったコンセプトカフェの店員らしき女による客引きが散見される。しかし大手のメイドカフェのチラシ配りは行儀が良くて安心である。めいどりーみんのメイドが目に留まるタテル。
「暑い中大変だね。1枚ください」
「あ、ありがとうございます!6階なので興味あったら是非!」
貰ったチラシは英語版であった。ただ平易な英語なため解読は容易である。
「えれめんたりーすくーる…」
「小学生はカバーチャージ330円か。大人は880円だから大分安い」
「小学生で来る人います?」
「家族連れ?だとしてもかなりニッチだよね」
しかしHPを眺めてみると、「ご家族でお食事」で予算2千円台前半との記載がある。秋葉原といえばメイドカフェ、なんて言ってテーマパーク感覚で来店して、シンプルに食事と接客を愉しむ、という使い方もアリらしい。
「まあでも行かないな。オムライス1,320円なら喫茶YOUで食べた方がコスパ良いし」
「それ言ったらおしまいですよ」
「メイドのサーヴィスを欲する人だけが行く店。普通に美味いもん食いたい俺らには向かない店だ」

  

という訳でハンバーガー屋に到着。運良く2人席が空いていたがテーブルの間隔が狭く、隣にはガタイの良い男4人組が座っていて窮屈していた。
メニューは太字の英語でびっしりと埋まっており、日本語は隙間に小さく細く書いてある。英語が苦手なタマは慄いてしまった。

  

ここはミルクシェイクもまた自慢としていて、様々なフレーヴァーの品が並んでいる。酒飲みのタテルはラムミルクシェイクを選択した。よくあるラムレーズンアイスの味であり解り易く美味い。ミルクシェイクは思ったより密度が高く、最初のうちは吸い上げづらい。ソフトクリームも鎮座していてかなりヴォリューミー。

  

「ちなみにタテルさん、メイドカフェに行ったことはあるんですか?」
「あるよ」
「嘘っ⁈」
「1回だけね。中3の時、お台場のめいどりーみんに行った。気になって仕方なかったから」
「AKBも好きでメイドカフェも気になって、完全にオタクですね」
「だったかな。メイドカフェで何したか全く憶えてない。学校の不味い弁当に萌え萌えきゅんしたら美味しくなるかな、って急に魔法かけてみたけど無駄だった」
「何やってるんですか」
「元々俺は変な奴だったから、クラスメイトからは面白がってもらったぜ。ワイルドだろぉ?」
「何故にスギちゃん」

  

メイド喫茶の元祖は、Wikipediaによると明治末期、上野精養軒のカフェだと云う。容姿端麗の店員が和装の上からエプロンをして接客していたらしい。
時は流れ2001年、秋葉原にCure Maid Caféがオープン。これが現代におけるメイドカフェの発祥とされる。現在もオノデン4階にて営業を続けている。さらに2004年に@home cafe、2008年にめいどりーみんが秋葉原にて創業。メイドは客を主人として扱い、オムライスにケチャップで絵を描いたり料理に美味しくなる萌え萌えの魔法をかけるなど尽くしてくれる。「萌え」ブームの中心を担い、秋葉原の新たなアイコンとなっていた。
「アキバの串カツ田中に行ったらさ、メイドカフェだったんだよ」
「全然違うじゃないですか。コウメ太夫さんのネタみたい」
「コロナ禍で行き場を失ったアイドルが接客する串カツ田中、ということだったらしい。接客は完全にメイドカフェ。あまりに俺ノリ悪かったからさ、店員さん困っちゃって」
「まあ戸惑いはしますよね」

  

ハンバーガーがやってきた。タテルが注文したのは特濃エッグチーズバーガー。パテには厚みがあり、粗挽きのブラックペッパーが深くさして肉の旨味を展開させる。さらに特徴的な具材は卵。鳥つねの特上よろしく黄身が濃厚なものを使用している。全体の一体感もあって印象に残るバーガーである。
ポテトは見た目は既製品っぽく見える、とタテルが変な言いがかりをつけるが、衣がかっちり、中で芋がもさつかず油も適度。甘いシェイクと交互に食べると止まらなくなる。

  

「でもやっぱ行ってあげたらどうです?」
「ならタマが行ってよ。俺はその金をウイスキーに注ぐ」
「可哀想に」
「チラシ貰っただけで十分だろ。俺は行かねぇぞ」

  

———
行かないと誓いを立てたタテルがメイドカフェに行こうとしている。タマは困惑する他無かった。
「安心しろ。夢中になる訳が無い。最低限の礼節は弁えて、作り笑顔でコーヒーだけ飲んでやる」
「相変わらず口が悪いですって」

  

しかしこれはただのリップサーヴィスであった。タテルは実際に時間を潰していた場所は、ちゃばらの中にある居酒屋である。ちゃばらには多種多様な塩辛を販売する名物コーナーがあるのだが、その店が営む居酒屋で、塩辛は勿論のこと、海鮮丼や静岡おでん等を日本酒と共に戴ける。ソガペールエフィスという希少な日本酒の取り扱いがあることを押さえていて、この機会に訪れようと意気込んでいた。

  

小布施ワイナリーの作る日本酒ということもあって、米の旨味が濃密な白ワインのようなコクに転化している。去年マシロを追って信濃路を旅した想い出に浸りつつ、秋葉原におけるメイドの現在地にも思いを馳せる。

  

メイドカフェは決してアキバ系男子だけのものではない。ファミリー、外国人の客も多く、最近は女性(お嬢様)からの人気も無視できない。また、タテルは飯がどうたらと述べていたが、料理のクオリティにも力を入れる店だってある。昨今の「女性が好む女性アイドル」ブームも相まってか、メイドカフェへの注目は決して衰えておらず、アキバのアイコンとしてまだまだ気を吐いている。
一方で注意したいのが、メイドカフェよりも広い概念であるコンセプトカフェの存在である。中にはキャバクラのような風営法ギリギリで営業している店もあり、客の付き纏い、ノルマ達成のための過激な客引き等トラブルの源になり得る存在である。2人にしつこく構ってきた女もその類なのかもしれない。こういう店と一緒くたにされ、メイドカフェが卑下されるような存在になってしまうのは何としてでも避けたいところである。

  

酒のアテには鰻の山椒焼きを。安物かと思いきやふっくらしていて脂のりも良い。山椒は当たり前だが痺れるため、鰻と合わせて適度に口にする。

  

もう1杯、正雪の天満月という日本酒を注文した。純米大吟醸だが透明感があってサラッと飲めてしまう。

  

公演が終わったとの報せを受け、ドン・キホーテにてタマと合流した。
「どうだった、久しぶりの公演」
「すっごく楽しかったです!また定期的に通いたいですね」
「今度は俺も行けるように…」
「ちょっと顔赤いですねタテルさん」
「そう?」
「もしかして照れてるんですか、メイドさんに接客してもらえて」
「ご想像にお任せします。タマも行くといいよ。最近は女性客もすごい多いんだって」
「だったら行ってもいいのかな」

  

この公演から3日後、マツコの知らない世界においてもメイドカフェが特集された。タマはそれを観て遂にメイドカフェを訪れる決心がついたらしく、早速めいどりーみんの予約を取ったと云う。

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