超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第6章:働いて休んで働いて休んで休もう 8話

フランス帰りのカケルは、「アパーランドの皇帝」として問題だらけのこの国に革命を起こそうとする。かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・Écluneをプロパガンダに利用しながら。
第6章あらすじ
有名企業「サンクスインターナショナル株式会社」(通称:TI社)で若手女性社員・黒澤ユウカの過労自殺事件が発生した。社長の真黒は謝罪するどころか黒澤を甘ったれと批判し大炎上。さらに、あけぼの大学法学部教授の石竹が真黒の考えを全面的に支持し黒澤を中傷する投稿をしてこれまた大炎上していた。
カケルはTI社に対し「働いて5班」を、あけぼの大学に対し「休んで4班」を結成、真黒と石竹にじわじわと迫り罪を与える作戦を開始した。

*この作品は完全なるフィクションです。実在の人物・店・団体、そして著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

数日経っても既読がつかないことを不審に思ったカケル。白石が何かトラブルに巻き込まれた可能性は推測がつくが、その具体的な内容は色々考えても憶測の域を出ない。
「TI社へ潜入するしかないな。アポを取るか」
「でもどういった名目で?」
「難しいな。一応ÉcluneとTI社の関わりはあるんだけど……」

  

TI社の業務の1つに、海外のプロモーターと連携して国内アーティストの海外公演を調整する、というものがある。HAYATEおよびÉcluneもそれを利用して、バンコクやロス、そしてカケルとグループが出逢ったパリ等の公演を実現させてきた。
「でも白石さんや黒澤さんの担当部署とは接点が無い」
「残念ですね」
「それにÉcluneの名前を出して派手な真似をしたら、TI社と手を切った後が怖い」
「圧力とかですか」
「そうだ。噂でしか聞いてはいないが、TI社の社長が平気で口出しして、手を離れた顧客の妨害をするらしい」
「大問題ですよそれ。パワハラも美化するし最悪ですね」
「白石さん部署の顧客となって担当営業と接点持ってその人から状況聞き出す……ダメだ、これだと足がつく。隠密を売りにするアパーランドとして告発はできない……」

  

こんな状況でも呑気でいるのが休んで4班。お茶を片手にただただ歓談している。
「おい、いくらなんでも気楽すぎないか」
「ちゃんと考えてますよ、石竹への悪戯何にしようか」
「あれやこれや雑談してると浮かぶんですよアイデアが」
「まあ気楽な方が面白いこと思いつくか」

  

「カケルさんも食べません、大福?」
「突然だな」
「平日しかやってない店で買いました」
「商売っ気無いのか。水木くらいで休めよ」
「オフィス街ですからね。土日に来る場所ではないですよ」
「こうやって豆大福盛ると、もうダルメシアンだね」
「可愛いですよね。働いて5班の皆さんにも是非」
「だったら10個くらい買ってこいよ」
「すみません、美味しくて1人2個も食べちゃいました」
「お気楽なんだから。休むことに関してはプロだな」

  

餅はかなりパワフルだが柔らかくて美白である。中のあんこは甘めにしてあり餅と張り合っている。全体的に力強いが洗練されていて印象に残る豆大福である。

  

休んで4班の下で油を売っていた間に、アパーランドには新たな依頼が舞い込んでいた。
アパーランドの皆さん、初めまして。TI社の赤井です。白石さんの直属の後輩です。実は白石先輩、今会社に軟禁されています。部長が家まで押しかけてきて力づくで引っ張り出し、もう逃げないようにと閉じ込めています。私も部長の指示で一緒に家に行き、騒ぎにならないよう先輩の口を押さえる役割を強要されました。すごく心苦しかったです。

  

働いて5班の持ち場に急いで戻り報告するカケル。
「おい大変だ、白石が部長に監禁された。懲罰労働をやらされてるらしい」
「何ですって⁈」
「部下の赤井さんがアパーランドに告発してくれた。ショッキングではあるが状況がクリアになったのは有り難い」

  

勇気ある告発をありがとう。これは誰の目からしても大問題だ。ひとつだけ質問を。部長の指示には逆らえなかったものなのか。正直に答えてください。

  

はい。私が終電に合わせて帰ろうとしたら、「帰られても困るんだけど。山のように仕事溜まっている。帰るんだったらその前に仕事やる人連れてこいよ」と脅されて、仕方なく仕事の続きをしようとしたら「もっと楽な方法考えろよ?ズル休みしてるあの女を引っ張り出すんだよ」と言ってきました。部長の運転する社用車に乗せられ、白石先輩の家に向かったという訳です。

  

部長の口車に乗せられ、逆らえなかった。なら貴女は責められるべきではない。白石さんを解放し、部長を潰すのみだな。白石さんはいつまで監禁される予定だ?

  

無期限だそうです。部屋の片隅にデスク移動させられてパーテーションで囲われて、最低限の用事以外では外に出られないようになっています。異常ですよね。流石に文句言おうと思ったのですが、部長に逆らえば同じことされるとわかっているので言えません。

  

カケルは例によってダミーカメラを赤井に渡し、社内の様子を映してもらうことにした。社内をモニタリングする業務を再開できて幸せな、働いて5班の班員達。
「あ、壁を叩く音が。出てくるかな、白石さん。出てきた!こりゃかなりやつれてるな」
「化粧室まで部長同伴⁈セクハラだろ、あり得ないって」
「ここまで来ると逆に好意あったりして」
「支配欲が爆発してる。これは獣と看做して良いな。駆除してやろう」

  

一方でこの日は火曜日であったため石竹の講義も行われる。サボっているように見える休んで4班だが、ちゃんと教壇の前に鳥黐を用意する、というドッキリを敢行していた。
「足がとられて動けなくなってる」
「見事に引っかかってやんの!」
「やった!教壇にも仕掛けたんだよなぁ鳥黐」
「これでもう自由に動けない。さあどうやって脱出するかな?」

  

根性にだけは定評のある石竹。鳥黐シートと教壇を引き連れたまま講堂を脱出し、恥を忍んで助けを求める。スマホ検索を駆使した学生がサラダ油を持ってきて引き剥がしを試みる。
「まったく誰だね、こんな子供じみた悪戯したのはよ」
「大変ですね。こんな大胆な嫌がらせ、発言のせいだとしても許されない」
「そもそも俺の発言は何ら間違ってない!小賢しい言論封じに負けて堪るか」
「まあもうちょっと配慮は必要だったと思いますけどね」
「何を」
「俺は賛否保留しますけど、身を護ることは考えないと駄目ですよ。世間の反発は大きいので」
「知るか。あのな、堂々と顔出して文句言ってくるのなら俺はいくらでも相手してやる。顔も出さずにガキみたいな悪戯をするのが一番よくな…」
「暴れないでください!また鳥黐ついちゃいますよ!」

  

石竹の間抜けな一部始終を見届け、12時半過ぎに焼鳥重の名店の列にて集合した新井と学生達。
「20人くらい並んでる。こりゃ結構かかりますね」
「時間は沢山あるんで大丈夫です」
13:00でようやく10名にまで短縮。並びが長すぎて誰も並びに来なくなる臨界点が12:20辺りにあったようである。最終的に13:20頃やってきた中年男性1人をもってクローズとなった。

  

一行の真後ろには学校帰りの高校生が並んでいた。
「午前授業?」
「そうです」
「いいね。帰りにハイカラな飯食うなんて」
「実は俺の家、ここなんです」
「そうなんだ!どうりでませてるな、と思った」
「贅沢ですよね」
「大学生になったら楽しめるよ、平日にゆったりランチする背徳感」
「みたいですね。あまり大学生の生活リズムわからないですけど」
「朝は遅く起きて、空きコマで余暇を謳歌する人が多い」
「空きコマ?」
「例えば2限を受けて次の授業が4限だと3限が空くでしょ?それが空きコマ」
「何してても良いんだ。昼休み挟めば昼食もゆっくり摂れるし」
「魅力的ですね」
「俺の上司なんて空きコマあったらすぐホテルのラウンジ行ってたらしい」
「そっちの方が贅沢じゃないですか」
「人それぞれだけどね。1年生とか理系学生はみっちり授業が詰まっていて忙しいことも多い。でも社会人になったら途端に余暇が無くなるから、大学生のうちに味わっておきたいね、ってみんなで話してるんだ」

  

ぞろぞろと退店してきたタイミングで全員入店。寒空の下1時間以上も並べば指が悴んで仕方ない。高校生の2人とは座敷とカウンターで席が離れたためここでお別れである。焼鳥重は肉もご飯も増しで注文した。

  

提供は13:42。結局1時間以上も待ってありつけた焼鳥重にはたっぷりのもも肉が載っている。思い切り良く火が通っていて香ばしく、皮の脂、そして甘さの名残あるタレでご飯が進む。火入れが強くて硬くなりそうなところ、しっとりさを確と残していて、口にボソボソ残る感覚は無い。
「間違いなく美味しいけど、1時間以上並んでまで食べるものかな」
「あんま大きな声で言わない。まあせめて30分くらいの待ちが良いけど」

  

「少年よ、勉強頑張れ。大学は楽しいぞ〜」
「はい、頑張ります!」

  

石竹はどうやら自らを護衛する気が無いようです。正体隠して仕掛けられる悪戯なんて意に介さない、と強気の様子です。

  

いかにも頑固な爺さんだね。でも匿名でお馴染みアパーランドは、正体を明かさず石竹を地獄に堕とします。ちまちまと悪戯を仕掛けつつ、最後には大胆な策を用意している。流石の石竹でも音を上げること間違い無しだ。お楽しみに。

  

その後も石竹には、リプに片っ端からキモい虫の画像を投稿したり、教授室の電話にイタ電をして留守番電話に喘ぎ声を残したり、パソコンに巧妙な迷惑メールを送付してウイルスに感染させ、某医学番組のご臨終シーンを寄せ集めたスライドショーしか表示できないようにしたりと、しょうもないような、でも地味に嫌な悪戯を仕掛けた。ただこれくらいでは石竹は動じない。

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