超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第2章:言論の自由を健全化しよう 2話(神田きくかわ/有楽町)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。同じく革命を目論んでいるフランス帰りの男・カケル(21)に招かれ、今再びこの国を変えようと動き出す。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

カケルはネットワークに精通した手下を集め作戦を練り始めた。
「俺のやりたいことは、『検閲』により中傷発言を世に出さない仕組み作りだ。SNS、ヤフコメ、ネット掲示板。これを全てコントロールする。『検閲省』とか作っちゃってな。そのためにまず試みるのがサイバー攻撃だ」
「なるほど。しかし簡単なことではないですよ」
「それはわかっている。ただな、要らぬ馬鹿騒ぎや差別主義者、排除すればどれだけ風通しが良くなることか」
「差別は良くないですね」
「差別を野放しにする企業も犯罪集団の片割れ。容赦なく攻撃していこう」
「ウィムッシュ!」

  

とある日、カケルは再びJCCAへ出向きジャネーノ問題の会見に参列した。ジャネーノ事務所による公式の記者会見を受けて開かれた被害者による会見。
「ジャネーノは被害者への救済をすると明言し、名前を変え『スカッとUP』として再出発することを表明しました。僕はこの動きを評価します」
事務所に好意的なコメントをした被害者の会メンバー。カケルは次のように質問した。
「ネットでは肝心の前社長が出席せず逃げた、補償の内容が不透明、騒いだ記者に対する新社長・新副社長の発言が無責任などの批判が渦巻いています。そのことについて思うところはありますか?」
「そうですね、私は前の社長とも今の社長とも直接会っている身ですし、補償に関する説明も丁寧でした。誠心誠意対応して下さっていると信じています」
「それではあまり過激な批判はよしてほしいと?」
「まあそういうことになりますね」

  

想定通りの返答を得られ安心したカケルは記者会見終了後、隣のビルにある帝国劇場へbyi出演の舞台を観に行った。hkenとmmも一緒で、帰りに地下の鰻屋で食事することにした。半個室のような空間をサラリーマン集団と共に占有する。
「byiも合流するとのことだ。一番安いものでいい、ってことだからうな重イにしよう。うな重はちょっとだけ時間かかるから肝焼きも食うか」
「やったあ!鰻楽しみ〜!」
「byiさんと会うの久々です」
「そっか、hkenは休養中か。ちゃんと休めてる?」
「はい、おかげさまで。鰻食べて元気出します!」

  

まず肝焼きがやってきた。食感はひものコリコリした方が目立つ。また、百名店の鰻屋では臭みが消されていることが多いが、ここの肝焼きは内臓らしい臭みを消していない。顔を歪めるメンバー達。
「2人とも苦手か、こういうの」
「そうですね…」
「レバニラとかは平気?」
「あまり食べたことないです」
「そっか…」
そこへbyiが合流した。
「2人とも大丈夫?カケルさん、変なの食べさせないでください」
「肝焼き頼んだら由緒正しすぎた。ごめんな」
「byiさんも一口どうぞ」
「えぇ…あ、美味しいじゃん」
「さすがbyiさん。大人ですね」
「まあね」

  

「そういえばデブ夫人、過ちを認め撤回謝罪したね。一安心だ」
「でもネットでは未だ叩かれてますよ」
「ごめんなさい言えるだけでもいいじゃないの。ネットの輩なんて粘着質だし過ち認めないし。どうやったらそんな不寛容野郎になるんだか」
「やっぱ同調圧力のせいですかね」
「あるよな。ネット特有の危険な同調性」
「私たちもカケルさんに言われてから、人に流されない、自分の頭で考えるよう意識し始めました」
「そうそう。ロボットにはなりたくない」

  

うな重も他の百名店と比べると野生味が強い方で、鰻嫌いの人には向いていない代物である。ただこういう味が好きで、喜んで箸を進める大人がいっぱいいることも理解できる。ドロっと柔らかく焼かれた伝統的な関東風うな重と言えよう。丼だれが足りなければ卓上調味料で追加できるのも、他の店にはない特徴である。デザートにライチというのも独特ではあるがしっかり美味しい。

  

「君たちには中傷に負けないでほしい。君たちは素晴らしいエンターテイナーだから」
「ありがとうございます」
「芸能人を誹謗中傷することって、能無しが能ある人を潰すってことだよな。何で能無しが上にくるのか。無能に支配されたらこの世界はクソつまらんよ。負けてたまるものか。自分を出してパフォーマンスするんだ」
カケルの熱い主張を聴き、メンバーは涙した。

  

帰りの日比谷線、カケルは修羅場に居合わせる。
「チッ、車椅子かよ。邪魔なんだよ、生きてる価値ないくせにさ」
いかにもパワハラ万歳顔をした自己中中年男による、障がい者への差別的発言。周りの人々は不審な目でその様子を見つつも、関わらない方がいいと思ったのか黙りこくっていた。しかしカケルは我慢できなかった。
「俺ちょっと殴ってくるから、君たちは大人しくしてて」
そう言ってカケルは男に掴みかかった。
「生きてる価値ねぇの、テメェの方だよ!」
「何だと?暴力は犯罪だぞ!」
「暴力仕掛けたのはどっちかな?脳みそありゃわかりますよねぇ?」
「馬鹿にしてんのか?」
「えぇ、馬鹿にしてますとも。こんな虫ケラ、とっととこの世から出てってくれないかな」

  

カケルは宣言通り喉仏に拳を一発入れた。当然車内は大騒ぎになる。
「お前らもなぜ今騒ぐ。この野郎が暴言吐いた時点で声を上げるべきじゃなかったのか⁈」
「落ち着きなさい。手を出した貴方も悪ですよ」乗客の1人が声を上げる。
「なぜそういう発想になる⁈そうやって本当の悪から目を逸らす、この社会の悪い風潮だよな!」
「…」
「悪を見て見ぬふりして、それが世間に広まれば自分は悪くないと言わんばかりに他人に責任をなすりつけ合う。卑怯だなお前ら」
「出てけ!」
「ジャネーノ問題だってそうだろ。南私前氏の告発があっても、長いものに巻かれて無視して。今問題が明るみになると、今度は問題を無視してきたメディアを叩く。もちろんメディアも悪だ、でもそれを叩く奴だって問題を無視してきた悪だろ!」
「…」
「しかも匿名性を隠れ蓑にして無責任なこと言うから余計タチが悪い。そしてメディア叩きに夢中で、性加害という本質を忘れている。それがこの国の正義なのか⁈」
「うるせぇな、降りろ!」
「ああ降りますとも。くたばれク○共」

  

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