連続百名店小説『愛媛フェスプロジェクト』第一句:マドンナの素足麗しハンバーグ(洋食屋 Shii/松山市)

えひめフェスにご来場のみなさーん、こんにちは!TO-NAキャプテンのカコです。良い天気で暑いですね。今みなさんの元へ、メンバーが放水をしに向かっています。早速びしょ濡れになっちゃってください!体が冷えたら鍋焼きうどん、暑くなったらみかんジュース。その他にも愛媛の名物盛り沢山。出店、アトラクション、そして夕方からのライヴ、思う存分楽しんじゃってくださいね!

  

地方都市を盛り上げ活性化するために始動した、女性アイドルグループ「TO-NA」による年に一度の大イベント・ふるさとフェス。第1弾となる去年は秋田市にて開催され、数々の名店が自慢の食を引っ提げ協賛。ライヴの盛り上がりは勿論のこと、地元民とTO-NA贔屓(ファンの総称)の交流が活発に行われたり、秋田市内の店を多くの人が訪れたことにより絶大な経済効果が生まれた。

  

この結果を目の当たりにしたTO-NAプロデューサーのタテルは迷わず次の開催場所を決めていた。四国である。人口は少ない上減少の一途を辿っており、新幹線が通らないから観光客も訪れにくい。アイドル界からの視点でいえば、国民的アイドルグループのメンバーがなかなか輩出されず、TO-NA(旧DIVerse)のオーディションでも四国出身の人は3次選考にすら残らないと云う。

  

日本列島の中でも特に注目の集まりにくい地域という印象の四国に旋風を巻き起こしたい。タテルは四国最大都市の松山を開催地に決め、数少ない友人である松山の俳人・まぐ拓郎に相談を持ちかけた。拓郎は、それなら俺が松山を案内してやると前向きであった。フェス開催の2ヶ月前、下見を兼ねて松山を旅行することにした。

  

  

5月末の松山空港に降り立ったタテルとTO-NAメンバー・ミク。拓郎は松山市駅で待機しているとのことで、全面オレンジ色の車体が印象的なバスに乗り込もうとしていた。大型のリムジンバスと路線バスの2台が停まっていて迷うところであるが、松山市駅までの所要時間が大きく変わらない割に300円ほど安い後者を選択した。

  

30分強で伊予鉄各線のターミナルがある松山市駅に到着。立派なタカシマヤがあり、JR松山駅よりも断然栄えている。そこで手を振るのは、ロン毛で茶色い浴衣姿のふくよかな男。彼こそが松山の俳句界を牛耳る拓郎である。
「久しぶりだな。富ヶ谷のテオブロマで会って以来だ」
「相変わらず高等遊民してるのか」
「その言い方やめろ。誰だ、隣の女は」
「お前好みの女だ。自己紹介しな」
「TO-NAのあざとい女王・ミクです」
「美人だな」
「だろ。足の指もすごく長くてえんろい」
「タテルさん!」
「ハハハ。相変わらずタテルは目の付け所が独特だ。その奇抜さをもっと句に取り込んでほしいのだが」

  

拓郎にアテンドしてもらうつもりだったが、最初に向かう店はタテルがリクエストした洋食屋であった。路面電車の線路を跨ぎ真っ直ぐ北へ進むこと5分弱。マンションの一室で営んでおり、靴を脱ぎふかふかのスリッパに履き替えて入店する。
「ホンマや、ミクさんの足指長い」
「やろ。しかもちゃんと真っ直ぐやから裏から見ても長さがわかる」
「何見てるんですか2人して!」
「だって綺麗なんだもん」

  

4人席2卓にカウンター3席と狭い店であるため、予約で満席は当たり前となっている。店主はワンオペで嘆息を漏らす場面もあるが、人気者であり常連客も多い。誕生日祝いのガトーショコラも拵えてくれる、地域密着型の洋食店である。

  

「お決まりかな?」
「はい。ハンバーグのイタリアンで」

  

注文を済ませ窓の外に目を遣ると、山の上に松山城がちょこんと見えた。街中から城を眺める景色は東京では絶対に味わえないものである。松山城には一応翌日訪れる予定だが、自分が気紛れであることをよくわかっているタテルは改めて訪れる必要性を確認しておきたかった。
「松山城は行った方がええよ流石に」
「だろうね。現存天守だし」
「俳句ポストもあるから投函するといい」
「あるんだ」
「至る所にある」
「流石だな松山。そうだ、俺ミクを題材にした句詠んだんだった」
それは普通の俳句ではなく、カクテルの名前を季語として俳句を詠むタテルが創設した「カクテル俳句」。名人のまぐ拓郎に一句査定してもらう。

  

ダイキリが擽る媛(ひめ)の無邪気かな

  

「ダイキリが夏の季語。そしてミクは擽られると途端にクールさを失い崩れてしまう」
「それは知らん。でも擽りという行為によって女性のあどけなさが引き出される、という光景はよく判るし、カクテルの持つ大人っぽさと無邪気という言葉の対比が面白い。やっぱり上手いねタテル」
「良かった。査定される緊張マジで慣れないからさ」
「私もですよ。勝手に自分題材されて、酷評されたら堪ったもんじゃない」

  

タテルの頼んだイタリアンハンバーグは、デミグラスソースにたっぷりチーズを載せて。柔らかめのハンバーグであるが、肉の脂がデミグラスのコクを引き立てる。チーズの味もしっかり利いていて美味しい。実はチーズの中にピーマンとトマトが忍ばせてありピザトーストの気がある。

  

付け合わせはカレー粉を纏わせたじゃがいもが秀逸。シャリっとした食感を残した仕上がりであり、完全にふかしてカレー粉が深く入りすぎると付け合わせとしては重くなるからこれが丁度良い。

  

スープには嬉しいことにソーセージが入っている。子供騙しという訳ではなく、ソーセージの旨味がスープに溶け出す。その他味付けは控えめでありホッとするスープである。
「これは是非スープだけでも出店してほしい。控えめな味だから胃に優しいし塩分補給になる」
「なあタテル、松山でそんな人入る場所あるか?」

  

拓郎が懸念しているのは、県外からも訪れる大勢の客を収容できる施設の有無である。これは去年の秋田でも重大マターであり、その時は空港裏の大きな運動公園や大学キャンパスを、ライヴ会場にアトラクションに休憩施設にとフル活用した。そして今回もタテルは確と開催地候補を見極めていた。

  

「坊っちゃんスタジアムだ」
「あんなところで?まあ確かにプロ野球の試合も開かれるけど」
「松山といえば正岡子規。正岡子規といえば野球。キャパが大きい上、愛媛の偉人にも纏わるこの上ない舞台だ」

  

ただ坊っちゃんスタジアム単体ではライヴ以外の催しができない。そこでスタジアムを含む松山中央公園全体を活用したい。園内にはもう一つ、マドンナスタジアムと称される球場があり、他にも広場やテニスコート、競輪場など様々な施設がある。
「武道館や屋内運動場もある。ここは休憩所兼交流スペースとしよう」
「プールを何らかの形で活用したいです!」
「水泳大会でもやるか」
「ええのう。俺がおりも政夫役やろうか」
「いいや、その枠はプロデューサーである俺がいただく!」
「タテルは駄目だ、下心しかない」
「まぐさんこそ下心まみれだろ」
「やめてください2人とも!」
「冗談だよ。昭和のアイドル水泳大会はTO-NAのカラーにそぐわない」

  

美味いハンバーグを堪能したところで店を出る。ワンオペの店主も愛想良く送り出してくれて心地良く店を後にすることができた。
「じゃあデザートは俺に任せろ。とっておきの店を案内してやる」

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