連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』夏休み厚木SP 4杯目(厚木家)

綱の手引き坂46特別アンバサダーを務めるタテル(25)は、エースメンバー・京子(25)とラーメンYouTube『僕たちはキョコってる』を運営している。いつもは都内のラーメン店を巡っているが、今回は夏休み特別編として、同じグループのメンバー・スズカ(22)と厚木市内のラーメンを食べ尽くす。

  

「スズカ?マッサージ終わったよ」
「…あれ?みんな無事?」
「何言ってるんだスズカ。何も危ないことしてないだろ」
「寝ぼけてるんじゃない?」
「はぁ、よく寝たぁ!」

  

その後一行は平塚のアウトレットに向かった。
「最後の対決は『EzyRoller』対決!」
「何それ?」
「ニュージーランドで話題の乗り物。店内のサーキットを今回は2周してもらいます。最も速くゴールした人にはご褒美、最も遅かった人が最後のラーメン代とご褒美代を自腹です」
「うわあこういうの苦手だわ」渋い顔をする京子。
「乗り物なら負けませんよ」寝不足スズカは自信満々だ。

  

前の対決で1位だったタテルから競技を始める。大柄なタテルには運転が難しく、かなり時間がかかってしまった。
「難しいよこれ。俺負けだな」
続く京子も上手く漕げなかったが、タテルのタイムは上回った。最後は自信満々のスズカ。
「自信満々って言う人ほど負けるんだよね」タテルが釘をさす。
「負けませんよ。もう負け顔は見せません」
「ノー自腹で終わりたいんだ!頼む、負けてくれ!」タテルは余裕がないようだ。

  

スズカの試技がスタート。さすが乗り物好き、タテルと京子とは違ってスムーズに動かす。圧倒的大差で1位の座を手にした。
「ということでご褒美はスズカさんが獲得!自腹はタテルさんに決定です!」
「やったー!」
「もう最悪!最後の最後で…」
「タテルくんは2回ご褒美貰ってるからいいじゃん。私なんて1回も貰ってないんだけど」
「ということでスズカさん、あなたが5万円以内で欲しいもの、何でもタテルさんに買ってもらいなさい!」
「ご、5万⁈」
「じゃあ西川のムアツ、お願いします」
「49,500円⁈ギリ5万円やん…少しは遠慮してよ」

  

〽︎I will follow you あなたについてゆきたい
そしていよいよ最後の目的地「厚木家」に向かって、国道129号を北上する。運転は引き続きタテルが担当。
「楽しかったね厚木旅」
「そうだね」
「でも怖かったです肝試し。おばけが出て」
「えっ?おばけなんて出たっけ?」
「ラーメンの寸胴から声がしたじゃないですか」
「スズカちゃん、何言ってんの?私たち夜景を観に行っただけじゃん」
「京子さんもタテルさんもめっちゃ怖がっていました」
「それおばけじゃなくて虫だよ」
「2人とも自然苦手だから虫もダメ」
「おかしいな。あとみんなでホラー映像見たじゃないですか」
「見たっけ?」
「京子さんもタテルさんもガチで怖いもの持ってきて」
「そんなことやってないって。俺らがやったのは『持ち寄り面白映像対決』だよね」
「そうそう。タテルくんが『神レンチャンのホリケンタ反則まとめ』持ってきて優勝してた」
「スズカは自らギャグやって思いっきりスベってたよな。負け顔可愛かったなぁ」
「え〜?」
「もしかして、夢と現実がごっちゃになってる?」
「かもね。スズカちゃんだいぶ疲れてるようだし」

  

そうこうしているうちに厚木家に到着した。平日の18時頃、待ちは発生していなかった。独特な食券機で食券を購入しカウンター席につく。
「タテルさんって全然眠くならないですよね。前千葉をドライブした時もずっと起きてた」
「俺乗り物の中だとあまり寝られないんだよ」
「京子さんなんてすぐ寝ますよ」
「いやそんなことないって」
「ってか俺慢性的に寝不足なんだよね」
「その割にはすぐ寝てましたけど」大石田がタレこむ。「いびきかいて、カピゴンみたいでした」
「えっ?タテルさんも京子さんも今日眠れてませんよね?」
「何言ってるの。私もちゃんと寝れたし。温泉効果かな」
「おかしいな…」

  

ラーメンがやってきた。家系ラーメンというと味が濃くてしょっぱいものもあるが、ここの家系は濃さがちょうど良く食べ疲れない。もちろん薄すぎるということもなく、食事としてはもちろん、飲んだ後の〆にも適している。ガッツリにんにくを入れたり、少し濃いと思ったら生姜を入れてさっぱりさせる。これも家系の楽しみ方の定番である。

  

「美味しかった。大盛りにしても良かったな」
「でも太るといけないから、これくらいがちょうどいいですね」
「今までにないほど綺麗な家系だった。ああ君は…変わったぁ!」
「タテルくん、やったじゃん!」
「えっ?あそうか、昨日どうしても『くるっくぅ』になっちゃってたやつ」
「他のも試してみて」
「いつまでもおぉー!カラダが!」
「やった!戻ってる!でも何だったんだろう…」

  

「タテルさん、高速大丈夫ですか?乗ったことないんですよね…」
「ないな。教習でも乗らなかった」
「じゃあ私が運転しましょうか?」
「いや、タテルさんが運転してください」毅然とした態度でノーを突きつける大石田。
「何でですか?私大丈夫ですよ」
「いや、まだ大丈夫じゃない。さっきからスズカさん、夢と現実の区別がついていない」
「…」
「スズカさん、今日も寝てないでしょ」
「そうそう寝てなかった」京子が告げ口する。「みんなでゲームした後、1人でずっとミュージカルのセリフ覚えてた」
「だから疲れてたのか。運転代わってほしいって言われた時ビックリしたもんね」
「2日続けて徹夜するなんて信じられない。それでいて疲弊してるんだろ?」
「…」
「コンディション整えられないのは正直言ってプロ失格だよ」
大石田の注意を受け、目に涙が浮かぶスズカ。
「病気とかなら仕方ない。でもさ、次の日のために体力温存しとかなきゃならないって時に徹夜で練習して調子悪くなった、というのは違うだろ」
「そうだよスズカ。練習熱心で真面目な君は確かに大好きだよ。だからこそやり過ぎないでほしいんだ」タテルも涙ながらに加勢した。
「そんなに不安か?夜通し練習しないと?」
「自分に自信がなくて、いくらやっても満足できなくて…」
「そんなことないでしょ!」京子まで泣き出した。「スズカは立派なアイドルだし、立派な歌い人なんだよ」
「スズカの歌を聴いて励まされた人、どれくらいいると思う?」
「自信持ちなよ。追い込まなくてもいいんだって」
「…」
「大好きだからこそ、体壊さないでほしい。倒れないでほしい。いなくならないでほしい。自分のこと、大切にしてあげてよ」

  

「みんな…本当にごめんなさい。色々迷惑かけてしまって」
「わかってくれればいいさ。…何かどんよりしちゃったね」
「じゃあ最後はいっぱい歌って帰ろう!」

  

〽︎半信半疑で世間体気にしてばっかのイエスタデイ
「これ誰の曲ですか?」
「ヒゲダンだけど」
「知らなかった」
「『Pretender』とか『I LOVE…』の方が有名だよね。でも俺の中ではこの曲が一番好き。元気出るんだ」
「いい曲教えてもらった。ありがとうございます…」
「タテルくんが『昨日』なら、うちらは『明日』を歌おう」

  

〽︎涙の数だけ強くなれるよ
「改めて聴くといい曲だよな。2人の声だから尚更」
「歌声褒めてもらえるとホント嬉しいよね」
「京子とスズカの歌を間近で聴けるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう」

  

その後も歌声響き止まぬ車内。宮崎台までの1時間弱の道のりはあっという間であった。
「ラーメン旅楽しかったです!」
「スズカと久しぶりに旅できて、俺も楽しかった。今度は2人でまた房総を暴走しよう」
「スズカちゃん、今日はしっかり寝るんだよ」
「はい!」

  

東京へ戻る電車の中。
「それにしてもスズカ、どんな夢見てたんだろうね」
「聞いた感じすごく怖そうだった」
「それはそれで夏っぽくて面白そう」
「でもタテルくん、ホラー苦手でしょ」
「そうだったそうだった」
「楽しかったなぁ。来年の夏も旅行行こうね」

  

家に帰ったタテル。
「カラダぐぅハンカチを洗濯かごに…あれ?どこかに置いてきたかな?」

  

  

  

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