ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えた。新米トレーナーの登竜門・ビギナーズコンペがいよいよ開幕。最強ポケンモを数多く携えるスミレは、優勝を果たせるか?
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ユーカク(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)
現れたのはカントク(cv.三浦大輔)と、このためだけに特別に出張してくれたスリーマティーニのバーテンダーであった。
「あれ、カントクさんじゃないですか!」
「いやぁ用事が長引いちゃって。すみませんバーテンダーさん、モッキンバードを作ってください。ダイスケくん、今どこまで進んでる?」
「今準々決勝が終わったところです」
「3回戦辺りから観るつもりだったのになぁ。スミレさんは残ってます?」
「ええ、残ってますよ。3回戦までは余裕の勝利、準々決勝は土壇場まで追い込まれてからの大逆転でした」
「噂通り強いお方なんだな」

カントクが頼んだモッキンバードは、緑色の美しいミントリキュールの刺激の奥に、テキーラの旨みとレモンの優しさを感じるカクテル。
「カビンゴは出てきました?」
「まだ出てきてないです。次あたり出てきそうですね」
「ビギコンでカビンゴの闘いを観れるなんて珍しいからな。楽しみだ」
準決勝からは時間無制限、スタジアム全面を使っての対決となる。第1試合はこの春同じボーイズグループに加入したタクトとヨシタカの対決。それぞれほむら派ユーカク、武闘派サーラダーを繰り出していた。ベンチにいるスミレ一団も気持ちが昂る。
「どちらも強力なポケンモちゃんね」
「楽しみなファイトだンゴ」
2ターン目の攻撃が終わった時のことだった。スタジアムに上から突風が降りかかる。現れたのはボケット団であった。
「ボケット団⁈何をしに来た!」
「何をしに来た、と(以下略)」
「おいそこの2人!強そうなユーカクとサーラダーだな!拐ってやろうか」
「おいボケット団よぉ!」
「スミちゃん、流石にここでヤンキーの真似は…」
「ビギコンの邪魔すんじゃねぇぞ貴様ら!」
「あら、アンタ何でベンチにいるのかしら?とっくのとうに敗退してるはずなのにねぇ」
「決めつけないでください。正々堂々と準決まで来ました!」
「ハァン。にわかに信じ難いけど受け入れよう。でもユーカクとサーラダーはアタイらのものね」
「これ以上騒ごうものならカビンゴもいただくわよ」
「何を…」
居ても立っても居られないナンバオーナーとカントク。
「スタジアムは神聖な場所ですわ。乱されたら怒りが沸いてきます」
「あんな強引な奪い方は認められない。オーナー、一緒にファイトフィールド行きましょう」
「行きましょう」
「ヨシタカ、ファイトは中断して手を組もう」
「そうだな。大切なポケンモを護るためだ」
「タクトさんヨシタカさん、私も協力します」
「スミレさん⁈次のファイトに集中された方が…」
「いえ、ボケット団の蛮行の前では大人しくなんてしていられません」
「ドラネコ!3人まとめてしまいなさい!」
「任せるニャ!」
「カビンゴ、とびのりよ!」
「そんなもん効果ないニャ!カビンゴの手の内などお見通しニャ!」
「まだまだ!」
「ドラネコ、チュマールまっしぐら!」
「ニャニャニャニャニャ!…あまり効いてないようだニャ…」
「よし、俺らも技出すか!ユーカク、クッパしちじゅうさんだ!」
「サーラダー、スパイダーばしりだ!」
「やめるニャ〜!」
「さあおやめなさい、ボケット団の皆さん」オーナーとカントクが到着した。
「やかましいわ。誰このおばさん」
「ここのオーナーですが何か?」
「オーナーとか知らねぇ。ドラネコ、やってしまいなさい」
「あのな、ここ俺らの大事なスタジアムなんだ!」カントクが声を荒げる。
「だから何だよ」
「オーナーは俺たちの野球の試合を頻繁に観戦し、選手のことを気にかけてくれる。お客様の視点に立ち、スタジアム内の施設を充実させ楽しい野球観戦を実現させてくれる。野球の試合が無い日は、ビギコン含めた外部のイヴェントの開催地としてスタジアムを提供する。このスタジアムを国内で最も親しみやすいものにしてくれてるんだよ!その聖域を汚さないでくれ」
鼻をほじりながらカントクの演説を聞くボケット団。カビンゴは怒りで肩を震わせる。
「あとな、ビギコンは一生に一度の大事な大会なんだ。優勝してもしなくても、二度と出場することができない貴重な舞台なんだよ。ポケンモトレーナー達の生涯一度の晴れ舞台、邪魔するんじゃねぇ!」
カントクに呼応するかのように、スミレはカビンゴに技を指示する。
「いけカビンゴ、バッカモーンよ!」
「この技だけは慣れないニャ!」
「いつになったらカビンゴ奪えるのよ〜」
「そろそろクビ切られちゃう〜」
「いやーんばかーん!」
茜色に染まる空に消えていったボケット団。スタジアムは落ち着きを取り戻し、タクトとヨシタカのファイトが再開された。
No.070 サーラダー メタル派
サスケポケンモ
シンプルな見た目ではあるが、闘う相手の腕力をじわじわと奪っていく魔性の鋼鉄。倒すのであれば懸垂10回はすんなりこなせるように。

オーナーとカントクは部屋に戻り、夕方の空を象徴するカクテル「ヨコハマ」を嗜む。ジンとウォッカをベースにした伝統のカクテルでファイトを見守る。
「オレンジジュースを使うのが一般的だけど、これは恐らくモナンのシロップ使ってピールの苦味も効かせている。輪郭のあるキュッとした味わいで美しい」

ダイスケはウォッカとオレンジリキュールにライムを絞った「カミカゼ」を味わう。とかく透明感のある酒で、ファイトを眺めている内にすぐグラスが空いてしまう。
準決勝第1試合はユーカクが勝利し、タクトが決勝に駒を進めることとなった。その相手が決まる第2試合に愈々スミレのカビンゴが登場する。
スミレの相手は、ヨコハマシティの隣カマクラシティのクールビューティー・ナギ。繰り出したポケンモはアクア派・おばけ派のジュオンであった。
「おばけ派の技はアブノーマル派に刺さらない。使用される技はアクア派に限られそうね」
「でも進化形だからそこそこ強そうだンゴ。油断は禁物だンゴ」

カビンゴの登場に心躍らすカントク達は、スリーマティーニのママお手製ビーフジャーキーを摘む。
「厚みがあるし、噛むとしっかり肉の味がする。カビンゴのファイトを見守るのに最高の御供だ」
「ですね。ダイスケくん、カビンゴは勝つと思うかい?」
「100%は無いですよね。でも堅いとは思います」
「タクトとスミレの決勝戦ね。ということは幻のポケンモ・スミレジェの登場か」
「歴史的試合になるね、間違いなく」
先攻はナギのジュオン。
「いけジュオン、ウォーターソードだ!」
「ンゴォ!」
「ちょっと食らったか…でも大丈夫よね。カビンゴ、よんはつはらだいこだ!」
「オンオンオンオン!」
「効いた!」
「やっぱり強いねカビンゴ。いけジュオン、やまざきはくしゅうだ!」
「ンゴオォォ!」
「強い。準決勝だもん、一筋縄ではいかないよね…」

「カビンゴ、おなかかいかいだ!」
「ジュオン、いわしみずだ!」
「カビンゴ、おおきなはらのしたでだ!」
「ジュオン、たきレンタルだ!」
「カビンゴ、オペラのかいじんだ!」
「ジュオン、ニシノミヤビだ!」
死力を尽くして互角の闘いを繰り広げる両者。カントクらは、浜風のニュアンスが軽やかに香るスモーキーなウイスキー「キルホーマン マキヤーベイ」を握り締めながら行方を見守る。
「遂に奥義を出す時が来た。いけカビンゴ、ムラムラルージュだ!」
「スミレのカビンゴだけが覚えているセクシーな技。これは刺さるだろうね」
「ジュオー…」
「まだいける?いける!ジュオン、おおなみきょうだいだ!」
「ンゴオォォォーーー!」
「カビンゴ、ファイト不能!ジュオンの勝ち!」
「そんな…」
「カビンゴが、負けた⁈」カントクらも絶句した。
「まさかジュオンから武闘派の技が出てくるとは思わなかったですね」
「それ以前にあのムラムラルージュに耐えたのもすごい」
「ナギさんにはあっぱれ、あげましょう」
試合後、悔し涙を流すスミレの元へナギが駆け寄る。
「スミレさん、なんでカビンゴをボケット団と戦わせたんですか!」
「えっ?」
「私、正直勝ったとは思っていません」
「どういうことですか」
「もし仮にカビンゴが万全の状態であったとしたら、ムラムラルージュの威力はもっと強かったはず。間違いなく私のジュオンが先に力尽きていました」
「でも結果が全てです。私は負けた、その程度の実力なんですよ…」
「それでいいんですかスミレさん?私は満足してないです」
「…」
「スミレさん、そしてスミレさんのカビンゴはとても強い。だからフルパワーで当たりたかった!」
「それはそうだよ!でも何よ、傷口を抉るつもり?」
「…ごめんなさい。でもこれだけは言わせてください。もし何処かでまた会えたら、その時は勝負させてください。貴女とは、お互い競い合う仲になりたいのです」
心を落ち着かせた後、スミレが言葉を返す。
「わかった。ユイガビーチオープンでまた会いましょう。次の決勝、絶対勝って優勝してね」
「ああ。死ぬ気で挑むよ」
No.087 ジュオン アクア派/おばけ派
ばけあしかポケンモ
けがれのない美しい姿ではあるが、現世に大きな怨みを遺している。迂闊に近づくとうめき声を上げながらストーキングされるぞ。

カントクらはカクテルの王様・マティーニを手に決勝戦を見守る。店名に冠するほどの名物であり、直線的な入りから凛とした温度感を覚える。アルコールの劈きを感じさせない美しい仕上がりは百戦錬磨の賜物である。
「タクトは武闘派マーイタ、ナギはサウンド・マジカル派カラダグゥか」
「これはカラダグゥが有利ですね。マジカル派の技が武闘派にこうかてきめんだから」
「ダイスケくんのビギコン決勝は今でも思い出すわ。1発で仕留めちゃったもんね」
「いけカラダグゥ、ほいしんのいちげきだ!」
「イタタタタタタタタタタ!」
「マーイタ、ファイト不能!カラダグゥの勝ち、ビギコン優勝はカマクラシティのナギ!98年春ダイスケ以来の1発ノックアウトです!」
「話してた側から…凄すぎるわ」
「ナギさんは全てを味方につけて優勝した。流石すぎます」
No.080 カラダグゥ サウンド派/マジカル派
カラオケポケンモ
歌い込みすぎて喉が炎症を起こし退化したが、歌詞を変えることにより音程を保ちつつ面白フレーズを生み出すことに成功した。
スミレの初大会はベスト4という悔いの残る結果に終わった。それでも表彰台に立つ姿は凛々しく、インタビューには甘々ヴォイスで応じた。
帰り道、スミレは感情を抑えきれず涙を流す。家に入ると声を上げて泣き始めた。
「スミちゃんこれ、忘れてるわよ」
「ママ…そうだよね、忘れちゃいけないよねこれは」
涙ながらにホイッスルを吹き、ポケンモ達にヴァイオレットカードを出す。
「みんな、よく頑張りました。未熟な私だけど、これからもついてきてください」
「カクッ!」
「ライピ!」
「ミュラ〜!」
「ロォ!」
「ンゴ!」
一生に一度のビギコン。優勝こそできなかったものの、様々な相手との真剣勝負は今後の糧となる。ポケンモマスターを目指して、更なるポケンモのゲインと大会優勝へ励め、スミレ。
(SEASON3へつづく)