ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えた。新米トレーナーの登竜門・ビギナーズコンペへ向けファイトを重ねる日々を描く。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ムゲンシャ(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)
今日はアイス派スーミュラのファイトを行う。
「スーミュラちゃん、どこ行きたい?」
「美味しいプリンが食べたいミュラ」
「プリンね。確かバシャストリートにハイカラなケーキ屋さんがあった気がするけど、ママ知ってる?」
「知ってるわよ。10ばんかんだね。プリンなら1階の喫茶で食べられるけど、土曜だからちょっと混んでるかもね」
「待つのは平気?」
「平気ミュラ」
「じゃあ行ってみようか」

バシャストリート10ばんかんに到着すると、外の雰囲気から混雑を察知した。外のメニュー板には「喫茶は満席です」とのお達しが掲げられていた。
「すみません、どれくらい待ちますかね?」
「前に6組いまして、時間はお客様次第なので何とも言えませんが…」
「待つミュラ」
「全然大丈夫だンゴ」
「みんなありがとう。じゃあ待とうか」
レトロ建築で有名なこの店は、喫茶店という括りにはされているが、2階にはパブ、3階には洋食コースを出すレストラン、さらにその上には宴会場があって、披露宴にも利用されている。

「カビンゴちゃん、カンカン帽被ってきて良かったね」
「ジェントルマンだンゴ。足をクロスしたいけど、短くてできないンゴ」
「ウフフ。すっかりお似合いね。写真撮っちゃおう。ああいい感じ。万バズ間違いなしね。私も一緒に写りたいな、誰かに頼もう。すみません、写真撮ってもらいたいのですが」
「構いませんよ」
快諾してくれた男性の名はワタ(cv.横尾渉)。文明開化の時代を象徴するような和服姿で喫茶の空きを待っていた。
「趣深いカビンゴさんですね。ハット被って風流です」
「ありがとうございます。今どき珍しいですね和服姿。何かお仕事ですか?」
「仕事、というほどではないのですが、俳句を嗜んでおります」
「俳句ですか。それは高尚なご趣味で」
「俳句って何だンゴ」
「ちはやふる、とかいうものミュラ」
「スーミュラちゃん、それは和歌よ。五七五七七は和歌とか短歌。俳句は五七五よ」
「恥ずかしいミュラ…」
「よくある間違いですよ、気にしないでください。良かったら一緒の席に座ります?カビンゴさんは2人席だと狭いでしょう、みんなで広い席に座りましょう」
「お気遣いありがとうございます」
「ありがとうだンゴ」
席に着きプリンとコーヒーを注文する。店員は素っ気無い者が多く、呼び止めるのに少し苦労する。
「コイツが僕のポケンモ・ナツイです」
「ツイ!」
「僕の俳句を時には褒め、時には赤ペンで直してくれる」
「添削のタツジンですね」
「進化前のマナツイ時代から10年の付き合いです。コイツのお陰で俳句を詠むのがどんどん楽しくなりました」
「僕もやってみたいンゴ。スーミュラは?」
「ミュラ…」
「俳句と短歌を間違えて落ち込んでるみたい。全然大丈夫だよ、間違いは誰にだってあるさ」
「今気づきましたけど、スミレさんですよね?一遍お会いしたかったです」
「嬉しいです〜」
「ファイトならお手伝いしますよ」
「スーミュラちゃん、やってみる?」
「やって…みるミュラ」
「プリン食べたらやってみましょうか」

まずコーヒーがやってきた。1杯803円、セット値引き無しと安くはないものであるが、味わいはやや単調。

ただこの店のウリは添えられたクリームにある。液状の生クリームをウインナーコーヒーの要領で載せると、生クリームがコーヒーのフルーティな面を引き立てる。こうなると今度はコーヒーの量が欲しくなるが、2杯目値引きも無いためつくづく金がかかる。
「クリームを液面の中央に垂らすと、周りに拡がっていきますよね。こういう光景からも一句生まれるんですよ」
「私だったら見逃しちゃいます。そういうところから詩が浮かぶんだ…」
「スーミュラさんならアイスピックという技ありますよね」
「ありますあります!刺した周りが凍っていく技」
「僕それを連想しました。こんな俳句はどうでしょう?」
スーミュラの練習跡か霜柱
「スーミュラが草むらでアイスピックの練習をして霜柱ができた。実際はそんなことないと思うけど、ポケンモのいたずらだとしたら面白い」
「なるほど。ポケンモの可愛げを表現している訳ですね。素敵〜!」
「でもこれで完成ではありません。ここからじっくり推敲します」
「スミレさん、推敲って何ンゴ?」
「より良い表現を探る作業のことだよ。ここはこう言った方がもっと良いとか、ね」
「俳句は17音しかないので、無くても伝わる言葉は削ります。かと言って削りすぎると意図が伝わらなくなる。語順の違い、たった1文字の違いで作品の色が変わる、難しいけど面白い文学です」
「厳しい制約の中で色々な表現を模索する、興味深いンゴ」

風流を心得んとするカビンゴがプリンを食べる。昔ながらのハードなプリンではあるが卵の味わいが滑らかで上出来。多彩な果物で彩り、アメリカ味のミルクアイスとチョコアイスも添えてハイカラなデザートプレートを成している。
No.104 マナツイ アクア派
コントしポケンモ
俳句番組の先生みたいな格好をしているが俳句の腕は未熟。一方で多彩なコントキャラを演じ分けており子供に大人気。
その頃、無風流なボケット団もバシャストリートをほっつき歩いていた。
「はぁ暇だぁ、眠い〜」
「シャキッとしなさい。いい加減ポケンモ捕まえないと」
「その辺に転がってるポケンモ漁りゃいいじゃん」
「バカ言うな、弱っちいポケンモ持っていったら却って怒られる」
「何も持っていかないのも良くないだろ」
「アタイらは決めたんだ、アザトトガールのカビンゴを捕まえるって」
「アタイは何も言ってないぞ。勝手に決めるな」
「ニャーもう喧嘩は止めるニャ!喧嘩ばかりしてるからいつも失敗するニャ」
「ドラネコは黙ってろ!」

欲張りなカビンゴはケーキを食べていた。ティラミスやサヴァランなど定番商品も気になるが、期間限定のフォレノワールに目をつけた。カップスイーツに仕立ててある。
「生クリームの割合が高めで大味に感じるンゴ。もっとチョコとチェリーが多めだと嬉しいンゴ」
「ビスカウトにした方が良かったかな?」
「名物ですもんね。お土産に買って帰ると良いですよ。あ、推敲案1が整ってきました」
スーミュラの仕業なるかな霜柱
「『練習跡』という言葉がドライで広がりの無いものだったので、『仕業』と言い換えてそこに気持ちを込めています」
「もう、まったくいたずらっ子なんだからスーミュラちゃんは」
「ミュラ⁈」
「でも霜柱はサクサクしてて楽しいから、ありがとうスーミュラちゃん!って感じですかね」
「ミュラ…」
「あなたなかなかの観察眼していますね。俳人に向いていますよ」
「え〜そうですか?すごく嬉しい!」
「スミレさんの個性を活かした俳句、見てみたいです。一日一句詠んで、良いなと思ったものをインスタに投稿したらどうでしょう?」
「やってみます!」
「キュートなカビンゴ使い俳人、すごい肩書きだンゴ」
ビスカウトを購入し、ワタと共に店を出たスミレ一行。市役所前の広場に移動しファイトを始める。
「スーミュラ、スコシモサムクナイワだ!」
「ナツ〜!」
「おっ、これはセンス良い技の出し方ですね。でも10年の絆には勝りません。いけナツイ、ダケデツタワリマスだ!」
「ミュラ〜!」
「プレバトで才能ナシを食らったかのようなダメージ!スーミュラ、反撃できる?」
「ミュラ〜!」
「わかった。スーミュラ、アイスピックだ!」
「ツイ〜!」
「なかなかやりますねスミレさん。ではナツイ、ごじ…」
No.105 ナツイ アクア派/サウンド派
はいくポケンモ
駄作には容赦なく赤ペン棍棒を振るう毒舌先生。和服を着ている姿が印象的だが洋服の方が断然好き。
「ちょっと待った!そのナツイをよこせ!」
「ぼ、ボケット団の皆さん…どうしてここを?」
「どうしてここを、と言われたら!」
「答えてあげるが世情なり!」
「ディストピアの中にユートピアを」
「人類みなピースフルであるために」
「不器用でヘタレな悪を貫く」
「ちょっと憎めない敵役」
「ミッチー!」
「サッチー!」
「陸海空を駆け回るボケット団の二人には」
「ヴィンソンマシフ白い明日が待ってるぜ」
「ニャンちゃって!」
「お待ちください。この口上ははっきり言いまして凡人です」
「あんだって?」
「ここが貴女達の一番輝ける件なのに、言葉選びが少し雑ですね。直してあげます」
「いいんだよこれで!アタイは気に入ってんの!」
「ナツイ、あかいみずだ!」
「ツイ〜!」
「まず『世情』が意味不明です。単に『使命』としましょう。そして『ディストピア〜』と『人類〜』は対句にした方が綺麗ですね。『世界の〜ため』という型にしましょうか。中に入れる言葉は貴女達に任せます。『憎めない敵役』は少し調べが悪いので『憎めぬ敵役』とします。同様に『駆け回る』も冗長。『回る』だけで伝わります。そして一番わからないのが『ヴィンソンマシフ』ですね。調べてみたら南極大陸の最高峰なんですね。でもその後『白い明日』と言っている。南極はずっと白だから、ヴィンソンマシフとの取り合わせは違うと思いました。暗いところから白い世界に出る光景は例えば、トンネルを抜けるとそこは雪国であった、なんていうのがあるでしょ。『雪国』だと短すぎるから貴女達お得意のカタカナ語にして『スノウカントリー』なんてする。これでどうでしょう?」
「知らねぇよ!何でもいいだろ」
「おいボケット団よぉ、親切に添削してもらってその態度は何や!」
「うっせぇ頼んでねぇわ引っ込んでろ!」
「サッチー、ナツイをやっておしまい!」
「アクア派だからハーブ派よね。いけヒタチノキ!」
「いつの間に持ってたンゴ…」
「いのちがけマルゲリータよ!」
「ツイ〜!」
「よく耐えた。そしたらナツイ、おうこくバタフライだ!」
「え待って、それは確かフライ派の技…」
「ハーブ派は大ダメージだンゴッ」
「ノキーーーーー!」
「待って、アタイらも巻き込まれる!」
「いやーんばかーん!」
「ふぅ〜、ボケット団は厄介な存在ですね。じゃあファイトの続きやりますか」
「やりましょう。ワタさんのターンですね」
「そうでした。いけナツイ、ごじゅんがぎゃくだ!」
「ミュラァ!」
「まだ負けてはいない!スーミュラ、ワチキはパリピだ!」
「ツイィ〜!」
「…僕のナツイが…負けた!」
「ピー!スーミュラちゃんに、勝利のヴァイオレットカードです!」
「やったミュラ…!」
「やはり強いですね、スミレさんのポケンモさんは」
「危うかったです。スーミュラがマジカル派の技出せること、失念してました。サウンド派にはぶっ刺さりますね」
「参りました。ワチキはパリピを出せるなんて、さてはラッパーですねスーミュラさん?」
「そうミュラ!」
「私がラップ大好きでよく聴いているので、みんな覚えちゃってますね」
「実は僕もラップ得意なんです。歌は恐ろしいほど苦手なんですけど、ラップならお手のものです」
「じゃあ次はラップバトルですね」
「のぞむところミュラ〜!」
ナツイとのファイトに勝ち自信を得たスーミュラ。ビギコンに向け引き続き鍛錬を重ねる。あ、ちなみに俳句は再び推敲がなされ、可愛らしい口語調を入れて「スーミュラの仕業らしいね霜柱」という完成形を見た。ワタから贈られた素敵な俳句を胸に、スミレは今日もポケンモを育て俳句を詠…んでいるかは知らない。
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