連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.013:ホッピーおたのしみマニュアル(ホッピー仙人/日ノ出町)

ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えた。新米トレーナーの登竜門・ビギナーズコンペへ向けファイトを重ねる日々を描く。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ムゲンシャ(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)

  

「ハムライピちゃん、今日はあなたのファイトやるよ」
「待ってましたピ!」
「誰とファイトやりたいとかある?」
「ペーラッピ!」
「なるほど、ホッペーちゃんね」
「ハイポールと双璧をなすサウンド派ポケンモだね。じゃあチャイナストリートで探してみようか」
「やっぴやっぴ、仙人のホッペーとやるピ」
「仙人って、もしかしてあの川沿いにある…」
「そうだピ。あそこのホッペーは最強ピ、だから腕試ししたいっピ」
「そうなると私行けない。あそこでは必ずホッピーを飲むことになるから、20歳にならないと入れないんだ」
「じゃあママが行ってあげる。カビンゴちゃんも一緒に行く?」
「行くンゴ。ホッピーたくさん飲むンゴ!」
「心強いっピ!」

  

ミヤコブリッジ付近、オオオカリバー沿いにあるちょっとディープな飲み屋街ビル。多くの店が入居し、おまけにあまりにも川の際際に建てられているから、きけんちたいポケンモ・マルゴンしか近づいてはいけない場所だと錯覚してしまう。

  

「仙人さんはね、平日のお昼は普通に仕事してるの」
「仕事終わりにホッピー振る舞ってるんだ。バイタリティに満ちているンゴ」
「ここを2階に上がるわよ」
「ぼくみたいなかわい子系、浮かないか心配ピ」
「全然大丈夫だよ、若い子もやってくるから」
「僕みたいな巨漢が上がっても大丈夫ンゴ?」
「え〜大丈夫だよ、床が抜けたりはしないよ。でもちょっと狭いかもね」
「混んでないといいンゴ」

  

18:30頃伺うと、カウンター8席は既に埋まっていたが、その後ろでジョッキを手にし飲んでいる客もいた。どうやら入れさえすれば入って良いみたいである。カビンゴは壁の隅に陣取り、邪魔にならないよう最大限配慮した。そしてカウンターの向かいで場を回しているのが噂の仙人(cv.黒沢年雄)である。俗に言う仙人の面影は無く、あまりにも羽生善治棋士にそっくりである。

  

「最初は白か黒のシンプルな生ホッピーだよ。どっちがいい?」
「白がいいピ」
「オーソドックスなものから始めるンゴ」

  

仙人はペットボトルを取り出し、中身の透明な液体をジョッキに注ぐ。
「それは水ンゴ?」
「そうそう、水水。こうやって飲んでガラガラ…喉が焼けるわい!」
「カビンゴ、知らないが過ぎるっピ!」
「ホッピーはね、まず『ナカ』と呼ばれる焼酎を入れるの。このあと『ソト』を入れて完成なんだけど、そこにはアルコールが殆ど入ってないの」
「そうなンゴ?」
「そうよ。昔ビールが高価で手に届かなかった時代があって、その代わりに流行ったのがホッピーなの」
「プリン体も糖質も少ないから、スタイル維持には持ってこいだピ」

  

———

  

「ホッピーは飲んだことあるのみんな?」仙人役が問う。
「ないですね…」
「そうだよね、若い人は飲まないよね」
「ホッピーなんて8年くらい飲んでないです」タテルがしゃしゃり出る。「地元の友達と飲み会やったら、罰ゲームでホッピー飲まされます」
「おいちょっと待て、それはどういうことだ。ホッピーをバカにしてんのか?」
「え、バカにしたつもりは…」
「タテル君、さっきも焼酎を水だと言ってたな。たまげたよ、無知曝け出されて。ホッピーのこと語るならもっと勉強しなさい。しゃしゃり出てくるものではなかった」
「失礼いたしました…」

  

前回のすき焼きに続き、グルメとしての面目を潰されてしまったタテル。まだアフレコの途中だというのに、すっかり落ち込んでしまったようである。

  

———

  

白生ホッピーを飲むカビンゴ。
「透明感があって綺麗だンゴ。でも何を飲んでいるのかよくわからないンゴ」
「カビンゴちゃんには密度が低すぎたかな」
「クラフトビール好きには物足りないかもだっピ」
「でも量はたくさんだンゴ。ゆっくり飲むンゴ」

  

ホッピー注ぎとMCに集中する仙人の補佐として、常連と思しき女性客が注文の記憶や会計計算など客裁きを行う。
「席空きました。女性の方誰か座ってくださいね〜」
「スミレママさん、座るンゴ」

  

一方、何故かボケット団が飲み屋街ビルにやってきていた。
「何でこんなところ来んのよ。もっとお洒落なバーで飲みたいわ」
「ここがお洒落じゃないと言うのか?素敵な店揃いだろ」
「お手洗いが屋外のこんなところだよ。催しても入る気しねぇ」
「文句が多いニャ、ミッチー」
「そうよ、今日こそ良いポケンモ捕まえて、ボスからカハラホテルの宿泊費貰う!」

  

そのうち続々と客が入ってきて、奥に入る客はカビンゴの腹に埋もれながら移動する。これがとても気持ち良いアトラクションで、カビンゴはすっかり人気者である。
「ちょっとジョッキ足りなくなっちゃった。洗うからごめん、待ってて!その間誰か僕のホッペーと闘いたい人!」
「はいピ!」
「おっ、ハムライピか。ダーク派とサウンド派、特に効果てきめんももうひとつもない完全実力勝負だ」
「負けないっピ!」

  

No.107 ホッペー サウンド派
ホッピーポケンモ
若者からの人気は低いが、中年の集まる酒場ではスターとして崇められている。焼酎はキンミヤに限る。

  

家で待機するスミレにビデオ通話が繋がった。スミレの指示でハムライピが技を繰り出す。
「いけハムライピ、ハムハムほうてんだ!」
「ペー!」
「お、こりゃなかなか強いな。でも僕は仙人だ、一筋縄ではいかないよ。いけホッペー、キンミヤわりだ!」

  

「ライピィ〜!」
リングに跪くハムライピ。立ち上がろうとするその体を震わせていた。
「さすが仙人のホッペー、攻撃力が強すぎる…」
「もうダメなの、ハムライピ?頑張れ、立ち上がって!」

  

ハムライピは立ち上がった。その際、あろうことか変顔をしていたためその場にいた全員が笑い転げてしまう。
「ハッハッハ、面白いなコイツ」
「フフフ、これが私のハムライピ自慢のパフォーマンスですよ」
「ガッツは認めるよ、かかってきなさい」
「ハムライピ、ひがしむくさむらいだ!」

  

「ペェ〜!」
「立派だ。ここまでホッペーを追い込むポケンモは少ない。でも次でとどめだな。よぉしホッペー、なかそとせいやくだ!」

  

「ライラライ…」
ハムライピは地面に平伏してしまった。ファイト不能である。
「ハムライピちゃん、負けたけど全然大丈夫。強いポケンモに果敢に挑んでカッコ良かったよ」
「危うく負けるかと思った。ナイスファイトをありがとう」
「落ち込まないで、今日はゆっくりしようね」
「カウンターの前におつまみのお菓子あるから食べさせてあげるね。あ、そろそろジョッキが空になる」
「スミレママさん、僕はカクテルが飲みたいンゴ」

  

仙人の作るホッピーカクテル。そのうちグラデーションの綺麗な3種類が、堀越さん(青りんご+白生ホッピー)、北米大陸の風(レモン+黒生ホッピー)、花いかだ(赤紫蘇)。
「僕、青りんご大好きだンゴ。青と夏もライラックも原キーで歌えるンゴ」
「あらすごいわねカビンゴちゃん。女性の私でさえキー高いのに」
「ヘッドボイス使えば余裕だンゴ」

  

堀越さんを注文したスミレママ一行。ただジョッキ洗いとファイトにより新規客への1杯目の提供が滞っていたため、補佐役の女性の計らいによりカクテルの提供は後回しにされた。そこへボケット団が入ってくる。
「仙人、とりあえず生3つ!」
「白と黒どっち?…ってあれ、ボケット団?」
「うわっ、甘々アザトトガールのママじゃん」
「ボケット団、何でここに?」
「それはこっちのセリフだよ」
「何普通に受け答えしてるニャ!今のは口上のフリだニャ!」
「あ、そうか」

  

(やる気無さそうに)何でここにと…
(以下略)

  

「おい仙人、ホッペー持ってるじゃないか。よこせ!」
「嫌だよ」
「ならさっさと生ビール注ぐ!」
「貴方達勘違いしてるようだね。ここはホッピー屋なの。ビールなんか置いてないよ!」
「チッ、品揃えの悪い酒場だこと。帰りましょう」
「邪魔だなこのカビンゴ、連れて帰ろっと」

  

「おい待てボケット団よぉ」リモートのスミレがヤンキー化した。
「フンッ!こんなところに連れて来るのが悪いのよ」
「カビンゴにホッピーの美味しさが解るのかな?」
「テメェらが一番わかっとらんやろ!」
「とにかくカビンゴはいただきだ。あとホッペーも貰うぞ」
「ハムライピはどうするニャ?」
「あんな弱っちいの要らない〜」
「そうそう。カビンゴとホッペーにこそ価値がある。ハムライピをおまけになんかしたら却って価値が下がる」

  

その会話を聞いて、悔しさに震えるハムライピと怒りに震えるカビンゴ・ホッペー。
「ペペ〜、ペ〜!」
「ライピ!」

  

ハムライピは突如飛び上がり、カビンゴのお腹を踏み台にしてボケット団のポケンモ(コニシン・ワルリナ)にひがしむくさむらいを見舞う。
「ギャア!」
「おい強いぞコイツ。ミッチー、何をもって弱いと判断した?」
「そ、それは、何となく…」
「何も解ってないね。僕のホッペーを崖っぷちまで追い詰めた。そんなポケンモは5年に一度現れるか現れないかだ。ナメんじゃねぇぞ。ホッペー、アメリカンストームだ!」
「ハムライピはライカヴァージンよ!」

  

さらにカビンゴの新技・100まんトンパンチまでお見舞いされ、ボケット団はオオオカリバーに投げ出された。
「いやーんばかーん!」

  

「堀越さん、飲み進めるに連れ酸味が強くなっていくンゴ。面白いカクテルだンゴ」
「はいはいみんな、ピー!ヴァイオレットカードだよ〜!ハムライピちゃんは怒りのパワーを強さに変えて素晴らしかった。カビンゴちゃんもナイスアシスト!」
「ライピ!」
「ンゴンゴ、ンゴ!」
「ありがとピ…」
「素晴らしいポケンモ達と共闘できて楽しかった。他のポケンモも連れて、また来てね」
「楽しかったンゴ。ホッピーのこと勉強して、また来るンゴ」

  

ファイトは必ずしも勝って終われるものではない。負けて蔑まれることだってある。でもその悔しさがあって、トレーナーもポケンモも成長できる。

  

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