連続百名店小説スピンオフ『茶茶劇場 春』(茶茶の間/表参道)

たまの休日を過ごしていた、人気女性アイドルグループ「檜坂46」のメンバー・ymai, sik, mzkとプロデューサー・カケル。
「うかい亭、楽しかったです。鉄板焼きって良いですね」
「フランスには無い文化だからな、俺も楽しかったよ」
「どこかでお茶していきません?」sikが提案する。
「こだわりのコーヒーが飲める店とかあるけどね」
「いや、できれば緑茶が飲みたいです」
「緑茶?そんな店ある?」mzkが指摘する。
「ないよね…」
「京都だったらいっぱいあるんだけどね…あ、ここはどう?茶茶の間、だって」
「煎茶専門店…面白そうだね。俺も興味湧いてきた」
「行ってみましょう!」

  

道順を説明しようにも取っ掛かりが無さすぎるほど入り組んだ路地にその店はある。メニューを見てみると煎茶だけで3300円と書いてあり軽く腰が引ける。

  

「まあでも立派なお茶はそれくらいしますよ。物は試しですよ」
京女mzkの後押しもあり入店する4人。メニュー(撮影禁止)を見てみると50種類くらいの茶葉がラインナップされている。
「これ全部緑茶ですか?」
「そうっぽいね。紅茶ならわかるけど、緑茶にもこんな違いあるのか」
「わからないからおすすめ聞く?」
「食べたいスイーツ決めて、それに合わせたお茶提案してもらおうか」
「ペアリング、ってやつですね。楽しみ!」

  

カケルが合わせてもらった茶葉は「流星」。50年以上の歴史がある畑で採れた茶葉である。まずは乾燥させた茶葉そのものを食べる。
「苦そう…あれ、なんだこの味⁈」
「お出汁みたいな旨味を感じる」
「なるほど。これが一流の茶葉というわけか。sikは確か茶道やってたけど、わからんものなの?」
「茶道は抹茶なんです。茶葉は粉末にされてます」
「ごめんごめん、バカな質問しちゃって」
「大丈夫です。興味ない人なんて、いくら説明してもお茶の違いを理解しません」

  

お茶に興味のある4人は一煎目を戴く。濃く煮出した緑茶。味わいは正しく出汁である。
「淹れ方ひとつでこんな味変わるの?緑茶のポテンシャルすごいな」
「花粉症で鼻詰まってるのに味わかりますもん」
「おいおい、料理は嗅覚で楽しむものだぞ。ここに来るまで何も味わかっていなかったのか」
「…はい」
「なら言ってくれよ。花粉症は症状ちょっと出たら薬もらってコントロールする。でないと春の暮らしは退屈なものになるぞ。今からでも耳鼻科に行きなさい」
「気をつけます…」

  

二煎目は急速に冷やして提供。冷やすことにより輪郭が生まれより旨味をはっきり捉えることができる。ちなみに各煎店員がタイミングを見計らって出してくれる、意識高い運用となっている。

  

頼んでいたお茶菓子も登場した。白葡萄のパウンドケーキだったと思われるが、白葡萄のフルーティな味わいが濃く出ていて美味しい。生チョコ(白い方は杏、茶色の方は何だったか…)も食感・味共に本格派であり、やはりフレーヴァーの味が濃い。
「お茶目当てで来たけどスイーツのレヴェルが高い。うわあ通い詰めたい、でもそれはできん」

  

アイドルプロデューサーの面をしているカケルであるが、真の目標はこの国を変えることである。クーデターを目指し結社を組織し、現行の法秩序では成敗されない悪者を徹底的に叩きのめしてきた。それは秘密裏に遂行されており、身元がバレてしまうとカケルらの計画および命に危険が及ぶ可能性がある。
「ちょっとくらい大丈夫じゃないですか?」
「いやダメだ。ここの店の人は客を覚えていそうだ。俺らのこと認知されて、機密事項知られたらマズい」
「じゃあここの茶葉買って帰りましょうか。そうすればあと数回はこの店のお茶を味わえます」
「でもスイーツは楽しめない!わかった、もう1品発注しよう」

  

三煎目はシンプルに熱湯で淹れたお茶。先の2杯と比べると特徴は薄く、家庭で嗜む味わいに近いのかもしれない。説明書きにある味わいを自分から感じ取るように飲むと特別感を味わえると思われる。

  

そしてカケルが追加したデザートは桜のシュークリーム。これが桜の香り抜群で夢中になる。シュー生地の仕上がりも一流パティスリー水準であり、追加注文した結果むしろまた来たくなってしまうという皮肉となる。

  

「わかった、ここはもう一回来る。Time Hopperの撮影で使わせてもらおう」
「絶対良い物語になりますよ」
「季節毎に来たいですね。メンバーだけで訪れても良いですか?」
「良いよ。でも許可制だ」
「ありがとうございます」

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です