連続かき氷小説『アイツはゴーラー』3

不定期連載『アイツはゴーラー』
アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19)を誘い出し、美味しいかき氷探しの旅を始めた。

順調に動き出したかき氷デートであったが、マリモが主演舞台を控えていたためなかなか予定を合わせられなかった2人。本当は鵠沼海岸の名店に行く予定だったが、1ヶ月も間が空いたことにより狂いが生じた。ハイシーズンである真夏は客が多く来ると見込まれていることから、手狭な本店舗での営業は6月いっぱいで一旦終了。7月は24日まで、なんと新宿に場所を移しての営業だという。

稽古の合間を縫い、新宿西口の半地下空間に集合した2人。小田急百貨店は改装中であったが、同じグループの地下街があって、その奥、普段ラーメン屋が入れ替わり立ち替わり出店するスペースが営業場所である。平日の昼間なので並びはなく、入口でサクッと注文して席につくシステムだ。
「あぁどうしよう、早く決めないと…」焦るマリモ。
「こうなったら頭の片隅にあるやつで即決しよう。俺はメロンチャイナで」
「じゃあ私もそれで」

「舞台の稽古はどう?」
「セリフ量が多くて大変です」
「そうだよな。ドラマや映画と違ってNG出せないし、プレッシャーすごいと思う。演技指導も厳しそうだし」
「まあそれなりには。でも共演者の方々は本当にお優しくて」
「ディラン・マッケイさんのツイート見てるよ。さすがマリモちゃん、外でも『アイツ』かましてるね」
「だから『アイツ』って言わないでください!」
「ディランさんはいいのに、俺はダメなのか?」
「10年早いです」
「売れっ子になるしかねぇな…」もう少し頑張ろう、タテル。

メロンチャイナは杏仁豆腐風ミルクとフレッシュメロンシロップをかけた一品。中華のデザートでもメロン杏仁はよくあるし、誰もがしっくりくる組み合わせと言えよう。目新しさには欠けるが、天然氷の綺麗な口溶けが、メロンの果実味をしっかり演出する。
心なしか量は控えめだったようで、2人はもう1杯食べてもいいと思っていた。しかしタテルはちゃんとした昼食も摂りたくて、一度退店する。近くで店を探すが、カレー屋に行こうとしたら立ち食いシステムだったし、京王の上の方にもレストラン街があるがタテルのモチベーションが高まらない。結局このかき氷屋に舞い戻った2人。
「あら、2回目ですね」店員にもつっこまれるほどの独特なムーヴである。

「じゃあチョコミントにしよう」
「私もそれで」またもやタテルの注文に乗っかるマリモ。
「タテルさん成長しましたね。つい最近まで2杯食べるの嫌がってたのに」
「食べ比べしたいだけだ」
公式インスタを確認していたタテルは、天然氷と純氷の違いが気になっていた。盲目的に天然氷が良いとか言わないでほしい、みんなが食べる純氷のかき氷だって大事にすべきものだ、と主張する店主。そんなこと言われたら両方食べてみたい。純氷かき氷はここではラーメンの丼に盛られて提供される。レンゲまでついてきて、大量に掬って腕白食いできそうである。

チョコミントはとにかくミントの味が強烈であった。チョコミント嫌いにとってはまさしく「歯磨き粉」味であろう。それでもチョコの味が負けておらず、カカオニブの食感およびダイスチョコの口溶けもあってバランスが取れている。
気になる氷の感覚はというと、天然氷と比べ結晶構造をはっきりと感じる。でもやっぱり質が良いので違和感は一切ない。

「さっきのが貴景勝や大栄翔みたいな押し相撲タイプだとすれば、これは翔猿や宇良みたいなよく動くタイプ」
「よくわかりません」
「ごめん。大相撲の期間中だからどうしても相撲で例えたくなった。マリモちゃんはどっちが好き?」
「どっちも好きですね。タテルさんみたいに考えながら食べてないので」
「俺が考えすぎなだけか?」
「考えすぎですよ、『コイツ』さん」
「『コイツ』って、俺?」
「タテルさん以外に誰がいるというのですか」
「やめてよ〜」と言いつつ嬉しそうなタテル。『アイツ』と『コイツ』のかき氷珍道中は始まったばかりである。

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