連続カフェ&喫茶店百名店小説『Time Hopper』第7幕:春眠〜歌えない子守唄〜 前編(COFFEE VALLEY/池袋)

不定期連載小説『Time Hopper』
現代を生きる時生翔(ときお・かける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」の代表「ま○ぽ」を名乗る女性が現れる。翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。

  

—第7幕:春眠〜歌えない子守唄〜—

  

トキの待つ部屋に戻った翔は、疲れが溜まっていたのかそのまま寝てしまった。トキも少しだけ添い寝するはずだったが、2人して朝を迎えてしまった。

  

「えっ、もう朝⁈」
「これが『春眠暁を覚えず』というものか…」
「ああ、メイク落としてない!肌荒れちゃう…」
「それは良くない。急いでお風呂入ろう!俺も家帰ってシャワー浴びてくる」
「じゃあ13:00、池袋東口に集合ね!」

  

現代の池袋東口。西武百貨店やタカセ、そしてトキと出会った1978年に開業したサンシャイン60などは変わらずそこにある。しかし同じ名前であっても、過去と現在で全く違う趣のものがある。
「え⁈こんな綺麗な公園だったっけここ⁈」
「南池袋公園ね。お洒落なカフェがいっぱいできた」
「随分と変わったものだ」
「一時期ものすごく治安が悪かったんだけど、再開発が進んでこんな綺麗になった。近くの和菓子屋さんでどら焼き買ってここで食べるのが乙なんだよね」
「そこは古風なお菓子なんだ」
「そう。見て見てこの動画」
「…プロレスの方ですかね?」
「みたいね。厳つい見た目でパクパクどら焼きを食べるギャップよ」
「わからない。違和感しかない」
「まあチャンネル登録者数10人だからね」
「それってだいぶ少ないじゃん」
「多い少ないの基準、わかるようになったか。アップデートできてるね」

  

2人は公園付近でも特に人気のカフェ「COFFEE VALLEY」を訪れた。日曜の13時の時点ではそこまで混んでいないが、もう少し遅い時間になると行列ができることも多い。イートインの場合、注文した商品は自分で席まで運ばないといけないのだが、そこそこ往来の激しい狭い階段を登って3階席まで零さず持ち運ぶのは過酷である。

  

翔が頼んだのは、同じ豆をエスプレッソ・マキアート・ブラックコーヒーの3種類でテイスティングできる3 PEAKS。この日はコロンビア・エルアルト農園。

  

エスプレッソは酸味のフレアの奥に苦味のコアがある。春にしては暑いくらいのこの日、喉が渇いていた翔はそのフレアで少し火傷した。

  

マキアートにすると、ミルクがコーヒーと化学反応を起こし、トンカ豆のような(≒杏仁豆腐のような)ニュアンスが生まれる。

  

コーヒーにすると酸味が穏やかになり、じわじわと広がるコクを感じられる。

  

「テレビでやってたけど、池袋ってアニメの街なんだって?」
「そうそう。アニメイトっていう大きなアニメグッズショップがあって、皆挙って訪れてる」
「そうなんだ。トキワ荘も近いよね」
「トキワ荘は解体されたけど、近くで復元してマンガミュージアムになってる」
「面白そう。行ってみたいな」
「予約制だからまた今度だね。トキワ荘の住人の作品は今でも大人気。ドラえもんは今でもアニメやってる」
「あれ?ドラえもんって終わってなかったっけ?」
「終わった?そんな話聞いたことない」
「日テレでやってたけど…」
「日テレ?嘘つけ、テレ朝だろ」
「ホントに日テレでやってたって」
「調べてみようじゃないか。…本当だ、日テレ版あったんだ」
「でしょ?」
「テレ朝版は1979年から、か。1978年のトキさんは未だ知らないんだ」
「でもドラえもんが永く愛される作品で良かった。私大好きなの。ということは藤子不二雄先生もご存命なんだ」
「いや、F先生の方はだいぶ前にこの世を去った」
「F先生?あ、2人でやってたけど別れたのか」
「そうそう。A先生はつい最近までご健在だったけどね。F先生のミュージアムは登戸にあって大人気なんだ。そっちも今度行こう」

  

菓子も2つ注文した。ショコラタルトはサクッと軽いタルト生地にフルーティさが後から広がるガナッシュ。

  

ビスコッティはかなり硬めな上やや不思議な風味があり、お菓子としては少し違和感を覚えた。

  

「最近のアニメってどんなものがあるの?」
「多すぎて追えていないな。女の子が空から降ってきたりとか?」
「何それ。浮世離れにもほどがあるわ」
「西武池袋線沿線はアニメにゆかりのある場所が多いね。練馬はあだち充作品、飯能は山登りのアニメ、秩父はエモいアニメの舞台になっている」
「今度見てみよう」

  

コーヒーに取り憑かれた2人は追加でアイスコーヒーをテイクアウトした。2杯目ということで100円引きである。ポイントカードがあるのでやり込み要素もある。コロンビアのラスフローレス農園を選択し、南池袋公園に戻りながら飲んでみる。酸味が駆け抜けた後に苦味の基盤が残る。

  

「国民的アニメといえばドラゴンボール、名探偵コナン、ONE PIECEとかかな。ONE PIECE FILM Zはすごく良かった」

  

〽︎Listen up baby 消えない染みのようなハピネス

  

「何それ?」
「劇中歌のウタカタララバイ。ふぁ〜、何か眠くなってきた」
「嘘でしょ。激しい歌うたってコーヒー飲んで、眠くなるわけ…」
2人は芝生の上で、いつの間にか眠りについてしまった。

  

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