連続カフェ&喫茶店百名店小説『Time Hopper』第5幕:大人ぶる 後編(さぼうる/神保町)

不定期連載小説『Time Hopper』
現代を生きる時生翔(ときおかける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」の代表「ま○ぽ」を名乗る女性が現れ、翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。

  

壁穴の向こうに落下した2人。そこに東京ドームは無かった。ここは1975年の水道橋である。
「1975年⁈私達が出会ったのは1978年では…」
「ということは、トキさんにとっても過去なのか!」
「やった!そしたら過去の私に、大学生だからって遊んでばかりいないで勉強しなさい、って言いにいきたい」
「よくないよそれ、タイムパラドックスになる」
「パラドックス?魔剤と同じ類?」
「矛盾、っていう意味。ま○ぽさん説明してない?」
「聞いてない」
「俺が説明するのか…例えばトキさんがもっと前に戻って若かりし頃のお母さんに会ったとする。トキさんがお母さんを説得して別の人と結婚させた場合、トキさんは生まれて来ないことになる」
「それは大問題だね。安易に話しかけちゃいけないわけだ」
「歴史を変えるようなこと言わなければ大丈夫」
「そうなると私達の関係性ってどうなるんでしょう?私と翔くんが結ばれたら、何か複雑なことになりそう」
「ふ、複雑だね…まあでもいいんじゃない?そこはま○ぽさんが上手くやってくれるよ」

  

現代で歩いたのと同じ道を辿りながら、後楽園から神保町方面に歩く2人。
「トキさんの通っていた大学って、もしかして明治大学?」
「明大は難しいよ。私はここ、専修大学」
「そうなんだ」
「現代の大学の序列ってどうなってるの?」
「私立は早慶が一番上。上智と東京理科大もそれくらいになってきてるかな。次に明治・青山・立教・中央・法政。俺の親父は中央の商学部」
「すごいね。中央って八王子にキャンパス移転したから通うの大変そう」
「言ってた、遊ぶ場所も無いって。でも現代になってキャンパスがまた後楽園に戻って来た」
「そっちの方が便利よね。あそうだ、私がよく行く喫茶店あるんだ。行きましょう」

  

専大前交差点から大通りを東進し、神保町交差点から小さな路地に入ると目的の喫茶店「さぼうる」がある。
「さぼうる、有名じゃん。今でも行列ができる人気店だよ」
「現代にもあるんだ。嬉しいね。翔さんもよく行くの?」
「いやあ、忙しいからなかなか行けない。行ったら俺はいつもクリームソーダ頼む」
「私も!何色頼む?」
「ブルーだね」
「私も!気が合うね!」

  

距離の近づいた2人は早速店内に入る。人とのつながりが軽薄となった現代を生きる翔にとって、席の配置は全体的に窮屈に思えた。だが可愛らしくて気の合うトキと喋っていれば細かいことなど気にならないのだ。

  

名物のクリームソーダ。濃厚なバニラアイスと爽やかなソーダのコントラストが美しい。氷は溶けにくいものを使っているそうで、ありがちなクリームソーダと違い最後まで美味しく飲める。

  

「クリームソーダの色、4種類か。現代で訪れた時は7種類あったような」
「7色?虹じゃん」
「そうそう。現代ではクリームソーダは『映え』の対象だからね」
「『映え』ね。ちゃんと覚えた。確かにエモいよねこのクリームソーダ」
「『エモい』もわかるんだ。勉強熱心だな」
「向こうでテレビいっぱい観てるから」
「素晴らしい…」

  

一緒に頼んだチーズケーキ。チーズクリームには程よい酸味があり、スポンジがふわっと受け止める。ビスケットが土台のチーズケーキとは違った、喫茶店ならではの趣を持っている。

  

♪あの頃はふたり共…
「大人ぶってコーヒー飲むのも良いけど、こうやってクリームソーダ飲むのも良いよね」
「そうね。私達、まだまだ若さを噛み締めたい。タイムパラ…」
「タイムパラドックス、ね。そんなの気にしない。好きな人のことは好きでいればいいんだ。先のこととかどうでもいい」
「翔くん、頼もしくなったね。そんな翔くんのことが私大好き」
その日2人は夜遅くまで、翔の住むアパートでテレビを観ていたと云う。

  

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