連続カフェ&喫茶店百名店小説『Time Hopper』第4幕:踊り子 後編(和光ティーサロン/銀座)

不定期連載小説『Time Hopper』
現代を生きる時生翔(ときおかける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」のスタッフを名乗る女性が現れ、翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。

  

「トキさん…良かった無事で」
「翔さん、何で階段で踊り出すの⁈危ないでしょうが」
「ごめんって…あれ⁈三愛がない、銀座プレイスがある…」
「また現代に飛んできたのね!」

  

現代の銀座四丁目もまた人で溢れている。歩行者天国が行われていたが、晴海通りは交通量が多いためそこだけ車が往来していた。

  

「え⁈和光にこんなお洒落なケーキショップがある…そして行列ができてる」
「どれどれ…パフェか。気になるね、整理券取ろう」
「ペリカンカフェでもあった並ばなくて良いシステム。有難いね」
「それじゃ現代の銀座を歩いてみようか」

  

六丁目に差し掛かると、ここにも昔と大違いの点がある。
「えっ、G SIX?松坂屋は?」
「無い」
「嘘だ…銀座で一番古い百貨店が無いなんて」
「今はGINZA SIXっていうラグジュアリー商業施設になってて」
「ラグジュアリーって何?私英語苦手」
「高級な、っていう意味。時間あるし入ってみよう。俺はよく地下に行くんだ」

  

「うわぁすごい!美味しそうなお菓子たくさん!」
「だろ。俺は日本酒やワインを飲みによく来る。鯛茶漬けの美味しい店もあるんだ」
「いいなあ」
「スイーツだとオススメはアルノーラエール。ケーキもいいけど燻製の効いたボンボンショコラが堪らないのよ」
「燻製ショコラ?全然わからない」
「ショコラ通の楠田枝里子さんが絶賛してる」
「楠田枝里子さんって、日本テレビのアナウンサーの方?」
「アナウンサーだけど、日テレだったの?」
「そうよ。今でもご活躍されているんだ」
「テレビではあまり見ないけどね」

  

現代の菓子やブランド品を多数購入したトキ。順番が近づいたので和光に戻る。
「ミナルディーズは売り切れか…残念」
「私はあまおうのパフェにしようかな。でも結構お高い」
「現代のパフェはそれくらいするもんだ。アサコイワヤナギなんて6000円くらいとる」
「そんなに⁈パフェも進化してるんだね」
「お酒飲んだ後の〆としてパフェを食べるのも流行りなんだ。よし、俺はライチとフランボワーズのパフェにしよう」

  

窓際の席に案内された2人。セットドリンクはダージリンを選択。1210円するだけあって上品で香り高い紅茶である。
「ライチとフランボワーズ。ローズのジャムも入ってるから、イスパハンだね」
「イスパハン?」
「この組み合わせはイスパハン。ピエールエルメっていうケーキ屋が現代にはあるんだけど、そこの名物なんだ」
「へぇ、斬新な組み合わせね。私の時代のケーキ店といったらブールミッシュくらいかな。現代にもある?」
「あるよ。デパ地下でよく見かけるし、もちろん銀座本店も健在。ショートケーキが好きだな俺は」

  

パフェが到着した。生クリームの下にはカスタードクリームとライチの果実が入っている。優しい果実味がクリームなどの甘さにマスキングされることなく確と感じられる。その下のロイヤルティーヌ(薄焼きクッキーのフレーク)も、コーンフレークなどとは違い余計な味やがめつい食感が無く、作品を邪魔しない。フランボワーズの果実に尖った酸味は無く純粋に甘さを覚える。最下層の白ワインゼリーは間違いなく良い物を使っている。上から下へ、ライチの果実を含めて絡め取ればパルフェ(完璧な)イスパハンの完成である。

  

「トキさんのあまおうパフェも美味しそうだな。少し頂戴」
「うーん、私達まだそこまでの関係性じゃないかな」
「でもいずれ通る道じゃん」
「そうだけど。まあいいでしょう、私ちょっとお腹いっぱいになってきたし少し食べて」
「やった!」

  

美味しい現代のパフェに気を良くしたトキ。
「私実はバレエ習ってるんだ」
「バレエか。バレエ習ってる女の子、好きだな」
「ちょっと踊ってみていい?」
「見たい見たい!」

  

〽︎回り出したあの子と僕の未来が…
人の多い中央通りの歩行者天国でしなやかに舞うトキ。周りの目など気にしない。

  

「ブラボー!」通りがかりの老若男女、さらには外国人観光客らも賛辞を送る。
「トキさん…好きだ。好きすぎる」

  

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