超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第3章:政治を国民の手に取り戻そう 1話(HIGASHIYA man/表参道)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。同じく革命を目論んでいるフランス帰りの男・カケル(21)に招かれ、今再びこの国を変えようと動き出す。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

速報です。ジャネー歌麿氏の性加害問題を受け、ジャネーノ事務所が補償業務を完了し次第廃業する運びとなりました。所属タレントは希望すれば新会社に移籍できるとのことです。

  

「カケルさん、今日は一段とご機嫌ですね」
「ああ。遂にやってやったからさ」
「何をですか?」
「上の階からベランダに水滴が垂れてきてたんだ。明らかに柵から葉っぱがはみ出していて、上の住人が水やりするとその葉っぱから水が落ちてくる」
「嫌ですねそれ。洗濯物汚れちゃう」
「原因は明らかなのにその住人は容疑を否認する。管理人に言ってもダメ、理事会や警察に言ってもダメ。なら自分でやっちゃえ、ってことでドローン操縦して枯葉剤撒いてやった」
「こ、怖いですって!」
「好きにしていい、って言われてるようなもんだからな。自分の身は自分で守る。何が悪いって言うんだ!」
「あのぉ、今日から3期生合流してるんですけど…」
「あ、そうか。初対面でこんな過激な話したら引くよな」
「ちゃんと説明してからにしましょう。じゃあ3期生のみんな、カケルさんにご挨拶して!」

  

3期生として加わったのはnjk、erng、rnrn、snn、ymai、sik、dnzb、kit、bnj、mmr、mzkの11名。過半数が南関東以外の地方出身である。
「全国からよく集めてくれた。これで俺らの思想が日本全土に広まる。でも北海道・東北地方と四国地方からも選んで欲しかったな」
「あまり応募ないんですよねその辺からは…」
「まあいいや、頑張って貰おうじゃないないか。早速差し入れだ」

  

表参道の和菓子店「HIGASHIYA man」から夏(立秋が過ぎていたので正確には初秋)のお菓子を見繕ったカケル。お洒落な和菓子屋で値段も少しお高め。「某バスの中で寝てしまう茅ヶ崎在住のおじいちゃん」の真似して爆買いするような雰囲気ではない。
「1人1種類だけだ。慎重に選べ」

  

まずは麩饅頭。あんこの上品さはわかるが全体としては印象に残りづらい。値が張る分期待値を上げ過ぎてしまったカケル。一方で貰うだけのメンバーは嬉しそうに食べていた。

  

山椒餅は思いの外山椒の味が強く、お菓子として食べると戸惑ってしまう。

  

「カケルさん何飲んでるんですか?」東京出身のmmrが問う。
「冷やしあめ、って言ってたかな。生姜が効いていて上品な甘さだ」
「関西ではポピュラーですよ」京都出身のmzkが指摘する。
「いいなぁ、冷やしあめが飲みたかった。東京じゃ売ってないんだもん…」羨ましがる関西出身メンバー。
「じ、自分で買いに行けばいいじゃん。表参道は行動範囲内だろ?」
「そうですけど…」

  

プチプチ食感と琥珀のような甘さが心地よい無花果羊羹を貪りながら、カケルはこれからの話をする。
「まずジャネーノは解体、再出発の道を選んだ。当然の成り行きだな。所属タレントの活躍を祈る」
「はい」
「ただこの国には未だ問題が山積みだ。同じショービジネス界から、今度は宝町歌劇団にてパワハラ自殺事件が発生した。運営側はパワハラの存在を否定し、被害者への謝罪も不十分である。こうなったら宝町歌劇団を潰すしかないな」
「潰すって、具体的にはどういうことを?」
「まずは脅そう。脅しに屈して罪を認めてくれれば存続を考えてやろう」
「そう簡単に屈しますかね?」
「屈しないと思う。そうなったら黒幕をタキヤマプリズン送りだ」
「タキヤマプリズン?」3期生にとっては初耳の用語である。
「簡単に言えばア*シ*ヴ*ッ*だな。重犯罪者を収容して、食事もろくに与えず衰弱させる」
「お、悍ましい…」血の気が引く3期生達。
「この国は犯罪者に甘すぎる。目には目を、歯には歯を。人を死なせた奴は死ぬべきだ、余程酌むべき事情がない限り」
言葉を失うメンバー達。しかしもう逃げられない。
「政治家も官僚も裁判官も浮世離れしすぎなのさ。私利私欲に目が眩んで、国民のことなど何も考えちゃいない。今こそ主権を国民の手に戻す時だ」

  

「カケルさん、主権は国民にありますよ」
「あってないようなものだ」
「政治家は国民が選挙で選んでる。最高裁の裁判官も国民審査で罷免される可能性がある」
「真剣に選んでる奴なんてこの国にはいない」
「カケルさんがやろうとしていることって独裁ですよね?独裁の犠牲になった人、どれだけいるかわかってます⁈」
「いるよいっぱい。だから俺はマイルドな独裁を目指してる。何の罪もない国民を虐げたりはしない」
学力の高い人が多い3期生、カケルに対し容赦しない。

「すごいな3期生、ズバズバ意見言ってる」
「ちょっと俺に刃向かったくらいで処すとかしないから。旧メンバー達も言いたいことあったら言いな」
「わ、わかりました…」

  

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