連続ラーメン百名店小説『東京ラーメンストーリー』4杯目(もつけ/八王子)

この店は現在閉店しております。

  

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋の話。

  

八王子駅に戻った2人。
「じゃあ今日はこの辺で。僕と一緒に帰ると問題だ。先行ってくれ」
「何言ってるのタテルくん、まだ1軒あるんだけど」
「…京子ってよく食べるんだね。この前も渋谷で2タテしてたじゃん」
「最近モデルの仕事してるからラーメン控えててさ。でももう我慢できない」
少しでも太ったら衆愚に叩きのめされる日本の女性芸能人。計り知れないプレッシャーに耐えきれず、一線を越えようとしていた
「チートデイ、ってことにしよか」
「何ですかチートデイって?」
「体型維持にストイックになりすぎるとストレス溜まるから、1日だけ好きなものを好きなだけ食べて良い、ってこと」
「アヤが言ってたやつ!チートデイ、チートデイだ!」京子は突如舞い上がった。低い声で突然テンションが上がるのが、京子の面白いところである。

  

南口を出て国道16号沿いへ。店の前には待ち人が2人いた。
「平日なのに待つなんて、人気の店なんだね」
「何言ってんの。百名店だからここ」
「百名店だからって無条件に美味いわけじゃないと思うけど…」
「ガタガタ言わないで、ほら、順番来たよ」

  

2人はここでも中華そばを選択。タテルは担々麺を食べたかったが、京子の目が少し怖かった。
「別に担々麺にしてくれても良かったんだけどね」
「今言われてもさ…」

  

中華そばがやってきた。店主は近所の世話好きおじさん風だ。
「(お、さっきよりはスープと麺が合ってる。でもやっぱ苦い!)」
この店の中華そばもまた、煮干が主体のスープであった。
「(なんでそんな煮干が流行るんだ…チャーシューとメンマは硬いし)」
「(タテルくんまたなんか変な顔してる)」
京子は考え込んでしまった。苦味に敏感なお子ちゃま舌のタテルにはまたしてもハマらない結果となってしまった。やはり担々麺にしておけば良かったのかもしれない。

  

無言のまま八王子駅まで戻ってきた。
「じゃあ今度こそバイバイだね。京子から先帰って」
「えーなんでですか?一緒に帰りましょうよ」
付き合っていると思われてはいけない。でも一方で、こんな人気アイドルを1人で帰すわけにもいかないことに気づいた。結果、一緒に帰ることにした。

  

中央線の旅は長い。無言の時間を取り返そうと、タテルが切り出した。
「あれ、出身は?」
「東京生まれ東京育ち。タテルくんもそうでしょ」
「うん、ずっと足立区。京子はどこなの?」
「それは言えない」
「そっか…血液型は?」
「A型。タテルくんもそうでしょ」
「何でも知ってるな京子。怖いよ」
都心に向かう列車なのに混み始めてきた。すると2人の前に立った男性が声を上げる。
「アイドルが男といるぞ!」
タテルはすかさず否定する。
「友達なだけですけど!」
「冗談よせよ、男と女2人きりでただの友達なわけ」

  

すると京子も動いた。
「お兄様は常識を知っていますか⁈」
「は⁈なんだテメェ」
「ここ電車の中ですけど。黙りましょう。それに初対面の人にその口のきき方、失礼ですよ」
男性はバツが悪そうに去って行った。タテルは京子の毅然とした態度に感嘆した。
「すごいアイドルに出逢ってしまったのかもしれない…」

  

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