超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第6章:働いて休んで働いて休んで休もう 11話

フランス帰りのカケルは、「アパーランドの皇帝」として問題だらけのこの国に革命を起こそうとする。かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・Écluneをプロパガンダに利用しながら。
第6章あらすじ
有名企業「サンクスインターナショナル株式会社」(通称:TI社)で若手女性社員・黒澤ユウカの過労自殺事件が発生した。社長の真黒は謝罪するどころか黒澤を甘ったれと批判し大炎上。さらに、あけぼの大学法学部教授の石竹が真黒の考えを全面的に支持し黒澤を中傷する投稿をしてこれまた大炎上していた。
カケルはTI社に対し「働いて5班」を、あけぼの大学に対し「休んで4班」を結成、真黒と石竹にじわじわと迫り罪を与える作戦を開始した。

*この作品は完全なるフィクションです。実在の人物・店・団体、そして著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

その男はあろうことかTI社の懐事情を公に晒していた。そして丁度カケルが目線を合わせた画面に、しごでき学校への送金履歴が記されていたのである。カケルは男や周囲の客にバレないよう画面を撮影する。フランスでの活動中に何度も練習していたから手際良く隠密に犯行を完遂した。

  

アパーランド基地に向かい、働いて5班に画像を共有する。
「本当に⁈引きが良すぎますよカケルさん」
「自分でも驚いた。危うく声が出るところだったよ」
「よく抑えました」
「しごでき学校に毎月100万の援助。会社の金で間違いない。そしてご丁寧に身分まで明かしてくれたな。社長室の高平さん、メールアドレスはチョメチョメ」

  

即刻この画像を拡散したいところであるが、そうすると高平が真っ先にあの時隣にいた客が、と疑いかねない。一応カケルはマスクをして服装も平凡にしているが、身バレするリスクは少し高い。高平の記憶が少しでも薄まるのを期待して、石竹のしごでき学校脱出予定日を目処に晒すこととする。

  

そして翌日、遂にニュースサイトにて石竹教授の失踪が報じられた。石竹の問題発言に恨みを持った者が石竹を襲撃した可能性を世論は指摘。それが誰なのかは様々な議論があるが、そこにアパーランドの名前が挙がるようになっていた。アパーランドの影響力が増大している証である。

  

そのまた翌日、休んで4班の新井と見山はあけぼの大学の学生達と落ち合い、彼らが所望する焼き魚を求めて割烹店の定食ランチに向かった。11:05頃の到着でギリギリ空いていた1卓に座る。そしてすぐ待機列が発生した。
「人気は鯖の塩焼きですね。提供の仕方がちょっと独特で」
「どんなんだろう」
「でも俺は珍しいの食べたい。銀ひらすって何だろう」
「食べたことないですね。僕もそれにしてみようかな」

  

「石竹がまさか失踪するとはね。学内でも騒ぎになってる?」
「なってますね。でもなんか皆せいせいしてるようですよ」
「そうそう。あんなこと言うからバチが当たったんだ、って主張する人も多くて」
「でもやり方は過激すぎますよ。まさかアパーランドの仕業?」

  

働いて案件の白石・赤井とは裏腹に、あけぼの大生とのやり取りは控えめにしているアパーランド。皇帝カケルにはちょっとした考えがあった。
社会に出たら余裕がなくなる。TI社の事例は極端だけど、人間が一番活動的な昼間の時間を全て自分ではなく社に捧げる、というのは無慈悲なものだよ。学生のうちに真昼間という時間を、自分らしく過ごす時間に充ててほしい。だから手は煩わせない。
「アパーランドね。あり得るかもしれない。でも確証は無い」
「憶測で語るのは良くないですね」
「感情抜きにすれば、自分から行方眩ませた可能性もゼロじゃない」

  

真相解明は警察らに任せて、こちらは焼魚を食らう。鯖は皮を裏にして仰向けで器に置かれている独特のスタイル。
「普通皮が表だよね」
「そうそう。だからといって何が変わるかはわからない」
「皮目に脂が留まって滴り落ちないとか?」
「シンプルに食べやすいんじゃない?魚の骨取る時ってひっくり返さないと厳しい」
「行儀悪いと思いつつ裏返しちゃいますよね」

  

ただ班長が食べるのは銀ひらす漬焼。しっかり焼きが入って硬そうな見た目であるが、割って口に含んでみるとホクっと解け、身の味わいが漬けによる程良い甘さと融合して華やかな旨味となる。脂も載りすぎず落ちすぎずの良い塩梅。よってご飯が進む。こんなに綺麗な焼魚は到底家では味わえない。チェーン店でもこの輪郭ある柔らかな身に焼き上げることはできまい。

  

「この後授業無いんだっけ?」
「はい、めっちゃ暇です!」
「じゃあ遊びに行こうぜ。俺ちょうどやりたいと思ってたんだよな、ボウリング」
「いいですね!この辺だとどこにあります?」

  

湾岸の放送局付近にある大きな遊戯場にて、ボウリングとスポーツ遊戯を楽しむ4人。日が暮れるまで遊び尽くし、カケルの理想をそのまま体現する格好となった。

  

夕暮れのプロムナードを歩きながら、未来のことを考える学生達。
「ずっと遊んで過ごしたいな。無理なのかな」
「不労所得が出たら良いけど、難しいよね」
「ならせめてさ、自分が楽しいと思えることを仕事にすれば?」
「それできたら最高じゃん。何好きなん?」
「温泉。旅行はいっつも温泉目的」
「いいじゃん」
「今時の学生で温泉好きって珍しいもん?」
「いや、結構好きな人いますよ。でもちょっとした趣味止まりですかね」
「仕事にするなら、温泉旅館で働くとか、ブログで発信するとか?」
「チャッピーに訊いてみよう。ほうほう、旅行社や観光協会。あっ、温泉工学に携わるのもアリか。文系だけど工学とかできるのかな?」
「あけぼの大学でそれっぽいことやってる教授がいたら、話だけでも聴いてみたら?」
「調べてみよう」
「俺らはもう動いてますよ、ゴミ箱マップ作り」
「本気で起業目指します!」
「素晴らしい。社会の犬にならず、自分らしい生き方を模索する。それでこそ人間だ」

  

一方、しごでき学校に押し込められた石竹はすっかり抵抗する気力を失くしていた。自分は田中ではない、何者かに攫われて強制的に来させられた、せめて電話させろ、ニュースにもなってるはずだ、など主張するが指導員は聞き入れない。情報社会から隔絶されたしごでき学校には石竹失踪の報せが入ってきておらず、目の前にいる生徒が石竹であることに指導員はじめスタッフは全く気付かない。
「しごでき学校の異常性がわかってしまったな。有無を言わせない支配体制、電子機器の過剰な排除」
「普通なら学校から通報が入るものなのに」
「時代遅れの教育法ももうすぐ終わりだ。TI社諸共地獄に堕ちるが良い」

  

メディアは石竹の報道一色である一方、TI社の過労自殺事件については殆ど扱わなくなっていた。好き勝手物事を言えるネット民は挙って、過労死した黒澤さんよりもそれを小馬鹿にした石竹を大事にするのか、と怒りの弁を述べる。勿論石竹を拐う行為は犯罪であり放っておく訳にはいかないのだが、それを因果応報と割り切ってしまうのがネット民の思想でありアパーランドも賛同するところである。

  

石竹がしごでき学校に収監されて5日目になるが未だに解放の兆しが見えない。そろそろ犯行声明を出すタイミングだろう、と考えるカケルであるが、良くない気持ちの昂りを察知したため先に腹を満たすこととする。

  

オペラシアターの近くにある平日しか営業していないカレー屋に、例の如く13時の来店。ピークを越えて混雑は下り坂でありすぐ入ることができた。ちなみにこの店はXを活用していて、12:40過ぎ、13:00過ぎにその日の残り提供数を教えてくれる。日にもよるだろうが13:00迄に着けばありつけ、人が少なければ13:30過ぎでも残っている感覚である。
辛さは最低0(中辛レベル)からお好みの辛さに。程良い辛いもの好きのカケルは5に設定した。

  

第一印象は蕎麦屋のカレー。鰹や昆布、椎茸の出汁が前面に来る。そこにスパイスの辛さがやってくるが、出汁の力で丸くなって美味しいカレーとなる。チキンは味わいこそ控えめだがかなり柔らかい。ここに至るまで様々なカレーを食べ歩いたカケルであったが、これが最も絶品であるとのことである。ドバイチョコや麻辣湯もいいけど、この国の出汁をきかせたカレーこそが流行りの食べ物になってほしいと願う。

  

余計な力が抜けたところでオペラシアターのカフェに場所を移し文章を作成する。

  

!!!ATTENTION!!!
石竹は我々が連行しました。連行先を教えましょう。扱出来育成学校で元気に研修受けてますよ。とりあえず無事は確認されましたね。一安心ですね。

  

これが投稿されると世間は大騒ぎ。警察は急いでしごでき学校へ石竹を保護しに向かう。到着した頃には丁度、川端康成の『雪国』を似つかわしくない大声で音読するという内容の訓練が行われていた。
「声が足りていないのでやり直し!なんだその弛んだ口調は!」
「ゆ、雪の降る穏やかな光景を描きたく!」
「聞こえなきゃ意味ない!大きな声で読み上げ!」
「警察です。石竹さんはどちらに」
「石竹…という名前の方はいらっしゃいませんが」

  

「すみません、私です!私が石竹です!」
「え、何?どういうこと?」
「石竹さんはアパーランドによりここに誘拐されてきたようですが」
「助けてくれ!家に帰らせろ!」
「許可しません。会社に戻れませんよそれじゃ」
「もしかしてご存じないのですか?石竹教授失踪事件」
「知りません」
「流石にあり得ないでしょ」
「ここテレビもネットも無いので」
「本当?怪しいな、もしかして貴方達が誘拐した?」
「失礼な!」
「アパーランドはお前らか」
「何ですかそれ」

  

無能警察と石頭講師に挟まれ中々救出してもらえないない石竹。怒りが沸々と喉元へ上がってくる。
「いい加減にしろ!俺は被害者なんだよ。素性もわからん奴に押し込まれて山に捨てられてんだ!まずは俺を救え!話はそれからだろ!」
「そ、そうですね……」

  

こうして石竹は警察に保護され自宅に帰還することができた。残った警察官はしごでき学校の講師やスタッフがアパーランドの一味ではないかと思い込み、彼らの圧に負けず聴取を行う。

  

!!!ATTENTION!!!
なんとTI社の社長、しごでき学校に会社の資金を横流ししてるようです。社員には大して金渡さないくせに、パワハラを奨励する企業に献金。社員は納得するのかな?世間はもっと厳しいぞ。

  

カフェで盗撮した送金履歴の画面を晒したカケル。アパーランドからの立て続けの暴露に再び世間が騒つく。パワハラ騒動に続き社長の汚職、TI社への怒りは誰もが抱くものとなっていた。

  

「真黒社長、何故しごでき学校に巨額の賄賂を?」
「知りません。AIによるフェイクだ」
「校長は認めてますよ、金を受け取ったこと」
「……」

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