連続百名店小説『みちのく旅2026』第六魂(サロン・ド・ロワイヤル 陸前高田店)

人気女性アイドルグループ「TO-NA」のプロデューサー・タテルとキャプテン代行・カコが、新幹線含めたJR東日本全線乗り放題のキュンパスを利用して、浮いたお金で旅をする企画「キュン旅」。今回は震災から15年が経つ三陸をリレー形式で旅する大型番組『JOURNEY!JOURNEY!JOURNEY!』の一企画として実施される。出越徹夫の『充電したい旅』から襷を受け取り、いよいよ三陸南下の旅が始まる。
☆旅のルール
キュンパスのフリーエリア内における移動をする度に、もしキュンパスを使用しなかった場合かかる運賃が軍資金に追加される。1泊2日の旅中、移動代や食費、宿泊費など全ての費用をその軍資金で賄うこと。旅の最後に残った軍資金がそのまま、3区『梨子・あさ乃の5万円旅』の資金に加算される。

  

「あ、佐々木朗希選手の幟が」
「大船渡高校だもんな」
「地元の誇りですよね、間違いなく」

  

盛から気仙沼方面へはBRTと呼ばれるバスに乗る。バスとは言いつつ専用の道を通るため定時性には長けている。ここはかつて大船渡線の一部であったのだが津波により破壊され、BRTにて仮復旧。それがそのまま定着したものである。JR東日本の路線であることに変わりなく、キュンパスも18きっぷも使える。ただし倉井の鉄道旅では使わせてもらえない。
「あれ、大船渡に行く回ありましたよね。あの時どうしてましたっけ」
「なけなしのタクシー代を使って、残りは20kmくらい歩いた」
「なんて過酷な」
「あまりにも長距離だから一気に行けなくて、途中の小さな民宿に泊まってましたよね」
「民宿の方がすごく優しくて、陸前高田までなら車で送るよ、って言われてさ。でもスタッフがダメだって言い張るから流石に頭に来て」
「宿の送迎くらい許してほしいですよね。あんな歩かせたら怪我しますよ」
「そうですよね」
「一番過酷だったのは?」
「群馬湯めぐり回かな。渋川から伊香保、中之条から四万、長野原草津口から草津、どれもエグい」
「カコも遥香もピンときてないと思うけど、だいぶイカれてるからなこれ」
「そのうち山登らされるかも」
「鉄道旅富士登山SP」
「問題になるわ」

  

バスもまた海岸沿いを突き進む。大船渡温泉や碁石海岸など海スポは沢山あるのだが、疲れていた一行は誤って右側の席を陣取ってしまい景色を我が物にできなかった。ちなみに一行が今乗っている便は気仙沼までは行かず、陸前高田駅から内陸方面へ進み陸前矢作という場所に向かう。鉄道駅時代は気仙沼から直接行ける場所であったが、BRT開通時に再編され本線から外されてしまったらしい。

  

「あれ、さっきバーガー屋さんにいましたよね?」
「はい!」
バーガーショップでテイクアウトを注文していた女子高生3人組が乗り合わせていた。これも何かの縁だと判断したカコがふれあいを始める。
「もしかして、大船渡高校ですか?」
「そうです!朗希選手の母校です」
「すごいよね。皆さんも何か部活やられてるんですか?」
「えーっと……帰宅部です」
「なんかすみません」
「いえいえ。3人で放課後自由に遊ぶのが生き甲斐なんですよ」
「今日は学年末試験終わりでご褒美にバーガー屋さんに」
「へぇ。何のバーガー選んだ?」
「私はデリシャス」
「同じだ。美味しかったよそれ」
「嬉しいです!私大好きなんですよこのバーガー」
「間違いない美味しさだよ。他のみんなは?」
「ヤキトリです」
「アボカドバーガーにしました」
「持ち帰りなんだね」
「はい。お母さんにもちょっとあげたくて」
「良い子だねぇ。高校時代なんて反抗期真っ只中じゃん」
「実はお父さんが震災の犠牲になって……お母さんが1人で一生懸命育ててくれたんです」
「そうなんだ……」
「反抗なんてできないですよ。忙しく働いてくれているのに」
「すごい泣ける……」
「将来は何になりたいの?」
「看護師です」
「間違いなく向いてるね」
「その優しさで、辛いことあっても乗り越えて」
「ありがとうございます!」

  

感動的な出会いを経て陸前高田駅に到着。ここで乗客全員が降りていった。最後に降りる一行だが、タテルにトラブルが発生する。キュンパスのきっぷが見当たらないのである。これを失くしてしまうと旅は打ち止め、実費での帰宅を余儀なくされる。
「こんなパンパンの財布に入れるから!」
「でもバス乗る時持ってましたよね」
「じゃあ車内にありますよ」
「もう一回座席に戻ってみたら?」

  

倉井の助言で席に戻ると、足下にきっぷが落ちていた。間一髪助かったタテル。
「お騒がせして大変申し訳ございませんでした!失礼します!」
「まったく、ちゃんと鞄のチャック閉めてくださいよ」
「せっかくの感動ムード、壊さないでほしかった」
「何やってんだろうな俺」

  

名ばかりのポンコツリーダー・タテルが次の目的地に選んだのはチョコレート専門店である。その道中、隈研吾設計の現代的な建築物から裏手に回り進んで行くと慰霊碑が現れた。

  

その三方を囲むようにまた碑があって、震災で犠牲になった人々の名前が1709名刻銘されている。
「こんなに沢山の方々が……」

  

言葉が出ない一行。茫然自失と立ち尽くすこと5分、自然と涙が溢れるカコと遥香。タテルと倉井も目が潤んで仕方なかった。

  

それでも前を向くと、街を一望できる見晴台があった。何も無さげな広い土地にぽつんと、「米沢商会」と書かれた鉄筋コンクリートの建物が残されていた。
「なんで1つだけ残っているんでしょうね」
「震災遺構と言われるものかな」

  

米沢商会は包装資材などを取り扱う会社で、この建物は店舗として使用されていた。震災が発生し、津波が街を直撃していた頃、店主は1人でこの建物に居た。状況を察知して急いで屋上、さらにその上の煙突の頂上まで逃げた結果、足元こそ濡れてしまったものの被害を免れることができた。
震災の後、ビルは安全性に問題無しと判定された。周りのビルが解体される中、震災前の街並みを思い出す手がかりとして、自宅と両親・弟を失った自分の形見として、娘に経験を語り継ぐものとして、店主は自費で保全することを決めたと云う。
「あの煙突に避難したんですか⁈」
「狭そう」
「でもベストな判断に間違いなかったもんね」
「一本松もすごいけど、一棟ビルもまたすごいや」

  

思いを十分馳せたところでショコラトリーに向かう。これまた現代的な建物の中にある。サロンデュショコラ金賞受賞、関西が本拠地で京都店は百名店にも選出されている。

  

入店するとまずはピーカンナッツチョコの試食が供される。苦味のない胡桃みたいなもので、ロイヤルホストのパフェに使われていることでもお馴染みのナッツである。
「今ここでもピーカンナッツを育てているんです。慰霊碑から見て右手の辺りでも…」
「あれ更地じゃないんですね?」
「津波で流されてそのままだったところに植樹したんです」

  

震災による耕作放棄からの復興を目指すにあたり注目されたのが、少ない手間で育てられ、1本の木から200年以上も実りを得られる持続性の高さを持つピーカンナッツであった。
それを加工し、チョコレート等絶品の菓子に仕立てる施設としてこの建物がある。名を陸前高田市ピーカンナッツ産業振興施設という。一次(栽培)、二次(製造)、三次産業(販売)全てを地元で行う画期的な取り組みである。店舗の奥にはお茶ができそうな場所があるが、カフェ営業はしておらず多目的スペースとなっている。
「じゃあここをゲーム会場としましょう」
「ゲーム?」
「今から皆さんには、ボーナスを懸けて『長〜いといいね!駅名あいうえお』に挑んでもらいます」
「なんじゃそりゃ」

  

鉄道好きの集まった一行に、指定された頭文字から始まる駅名を答えさせるクイズが出題される。出てきた駅名の仮名での文字数の合計(「えき」は除く」)に応じて、この店の商品を軍資金関係なく購入することができる。
「頭文字は、ここ陸前高田の地名にちなんで、り・く・ぜ・た・か・たん、とします」
「ちょっと違う」
「最後リズミカル」
「『ん』から始まる駅名が無いのと、『た』がダブっているという事情がありまして」
「『ぜ』が難しいね」
解答は1人2回。同じ頭文字を答えても良いが6つ全ての頭文字を最低1回は解答する必要がある。

  

唯一鉄道に疎いカコから。東京の強い駅名「溜池山王」を捻り出した。
続いては鉄オタ女優・倉井。関西出身の利を活かし「丹波口」を解答。
隠れ鉄道アイドル・遥香はお見事、「鹿島サッカースタジアム」で文字数を稼ぐ。
東武沿線出身・タテルは、特急で直行できる「龍王峡」を出した。
「ここまで34文字。ちなみに5文字につき1粒のボンボンショコラまたは1袋のピーカンナッツチョコと交換できます」
「ビッくらポンスタイル」
「もれなく当たりだけどね」

  

2周目、カコは大人しく「九段下」と解答。
倉井は難しい「ぜ」を埋めるべく「膳所(ぜぜ)」。
遥香は「り」を弄る。
「リゾートゲートウェイ・ステーション!」
「え、何それ?」
「ディズニーです」
「ああなるほど!」

  

「ステーション」まで込みで16文字の荒稼ぎ。ここまで48文字。最後は少なくとも2文字伸ばしたい。
「ぜい、ぜん……」
「『く』でも良いですよ」
「7文字の『く』は出てこない!ぜい、ぜん……善行!小田急江ノ島線!」

  

51文字達成。見事10点の商品を無償で獲得した。
「よくそっちで行けましたね」
「ある?『く』の長いやつ」
「くりこま高原、黒部宇奈月温泉がありますね」
「新幹線か!」

  

何はともあれ鱈腹ご褒美を勝ち取った一行。協議の結果、ピーカンナッツチョコを1人1袋、ボンボンショコラを1人2粒。ボンボン2粒分のみ軍資金より支払う。タテルを除き、滅多に高級チョコを食べない一同。
「どうだカコ、焼酎みかんの味は」
「結構お酒の感じが強いかも。蜜柑が…あんまわかんない」
「洋梨と日本酒の方も要素はわからないかな。でも香りが良い」
「高級チョコに慣れてないと難しいですよね。どれどれ、俺の貴腐ワインフロマージュは……おっ、ちゃんと貴腐ワインだ。チーズのザラっと感もある。ガナッシュが滑らかだとより良いな」
「流石サロショガチ勢」

  

遥香は黙ってピーカンナッツの焼きショコラ(ビター)から。サクサクとした食感に仕上がっていて軽く食べられる。もう1粒はタルトタタン。林檎の果肉感とシナモンの香りが堪らないとのことである。

  

「タテルくんの選んだUMAMI、昆布と味噌やんね。めっちゃ気になるんやけど」
「食べてみます。……ん!昆布と味噌のうま味がガナッシュの乳のコクを増強させてる。これは絶品」
「昆布とチョコなんて合わないと思ってた。そんな美味しいんだ」
「ちゃんと融合するんですよ。あと形状もベスト。薄いからガナッシュの溶け出しが早い。舌との接地面積も大きいからうま味が解る」
「その形状、タルトタタンにも合ってます。グニグニ食感と咀嚼の波長が合うので」
「まさか陸前高田の地でハイスペショコラを食べることになるとはな」

  

そして土産のピーカンナッツチョコを選ぶ。陸前高田の建物の写真や、当地在住のアーティスト・田崎飛鳥氏の作品がプリントされた限定包装である。中には小袋が3個入っていて、家族や友達に配りやすい土産である。

  

周りのチョコに味のヴァリエーションがあって、人気はストロベリーらしい。苺らしき味のする厚いコーティングの中から軽く弾けるピーカンナッツの香ばしさ。

  

塩味のものはナッツの香ばしさがより引き立っている。ただピーカンナッツとは本来大粒であり、それを小さく割ってチョコでコーティングするというのは何とも口寂しい。

  

ココアがけのものはそのままのサイズでコーティングしてある。そうそうこれである。ナッツがサクッと弾けつつヴォリュームを感じられる、これが理想のピーカンナッツチョコである。

  

「陸前高田という都心部から隔絶された場所でこのような店を営む、というのは難しいことだと思います。でもピーカンナッツを拠り所に陸前高田の産業を振興する理念は大変素晴らしいものです。志半ばで折れそうになった際は必ずその理念を思い出してください。陸前高田がピーカンナッツの一大産地である、と教科書に載る未来を。一次・二次・三次産業という言葉を肌で学べる社会科見学の定番スポットにこの施設が選ばれる未来を。クイズ番組で『ピーカンナッツの生産量No.1の市町村は?』と問われて、胸張って『陸前高田』と答えられる未来を、楽しみにしています」

  

次の目的地へ向かうBRTの発車時刻が迫っていたため停留所に戻る。
「タテルさんめっちゃ台詞練習してましたよね」
「練習しないと変なこと言っちゃうから」
「腑抜けてるようで真面目なんだから」
「あ、また佐々木朗希選手の幟。大船渡だけじゃないんですね」
「高校は大船渡高校だけど出身は陸前高田」
「確かに通学圏内ですね」
「三陸を背負って世界で戦う侍。色々吠える外野もいるけど、気にせずやってほしいね」

  

やってきたバスに乗り込む一行。しかしなんか嫌な予感を察知したタテル。車内のモニターを確認すると、大船渡方面へ戻る便であることを確認し汗汗としながら下車した。
「あぶね、戻っちゃうところだった」
「しっかりしてくださいタテルさん」
「焦ったぁ」

  

大船渡方面のバス出発から2分足らずで気仙沼方面のバスが到着。このように上下線の発車時刻が近い場合、疲れていると誤乗しかねないため注意が必要である。

  

僅か1駅で下車。BRT整備により新設された「奇跡の一本松駅」である。道の駅高田松原に設けられているのだが、スケールの大きい現代的な建物であり異質な雰囲気を感じ取る。

  

「真っ直ぐな線、直角の壁面。遠近法を描き分ける練習台になりそうな景色。綺麗なんだよ。でもこんな真っ新な箱物が建つということは、この街が一度破壊し尽くされたことの暗示に違いない」

  

浜辺へ続く道は巨大ターミナル駅前の歩道橋のように長い。

  

歩ききった先の階段を登ると展望台が現れた。花が数束置かれた台の先に松原と海が見える。直接見る海とガラスの柵越しに見る海の異なる色が何とも美しい。

  

柵の奥を改めて覗くと、松原の隙間の道から波打ち際まで出られそうにあることが判明した。

  

「松原へ下りれそう?」
「左手に階段あります!」

  

階段を降りると、展望台が高い防波堤の上にあることがわかった。この辺りは高田松原と呼ばれる箇所であり、かつて三陸を津波が襲った際は松原が盾となって市街地への被害を防いでいた。しかし東日本大震災における未曾有の大津波の前には無力であった。流されてしまった松原を再生すべく、2017年から2021年にかけて植樹が行われた。元の松原に戻るまでは50年くらいかかるらしい。

  

松原を抜けると波打ち際が現れる。リアス海岸の湾内だから波の音は響くし、錆びついた大きい何かが打ち上げられていたりはするが、穏やかで美しい海が現前する。これが15年前のある日、化け物となって人や街を呑み込んだ海である。

  

「想像もつかない」
「でも実際にあったんですよ」
「普段は静かだけど暴れると手がつけられない。自然とはそういうものだ」
「畏れるべき存在」
それでも砂浜には世間話をする漁師達や恋バナをする女子高生達がいて、陸前高田の海にも日常が戻ってきていることを実感する。

  

そして松原の中でも数少ない、津波に抗った個体があの奇跡の一本松である。再び堤防を登り左(西)へ進んだ場所にある。今や一大観光地となり、人の訪れが途切れないスポットである。

  

しかしこの松も生きてはいない。海水による塩害等を免れることはできず根が枯れてしまった。防腐処置や補強を施したモニュメントとして、一本松は今ここに立っている。

  

「ああ、ちょっと逆光だな」
「この時間やからね、しょうがない」
「見上げてみてください。青い空に映えますよ、この枝葉」
「おお素晴らしい!良かったあ、今日晴れで」
「離れたくないな。枯れ木とはいえ力を貰いたい」

  

一本松の近くにはやなせたかし氏の絵がある。朝日小学生新聞の当時の担当編集者が陸前高田の出身であり、彼女が支援を申し入れたところ一本松の話や歌、絵を制作し寄贈したと云う。

  

その奥には倒壊したままの建物が見える。震災遺構の陸前高田ユースホステルである。
「倒壊したまま……よく耐えてますね」
「こんなリアルな遺構を目の当たりにするとは」
「一本松だけやないんやね。米沢商会やユースホステルも立派な遺構」
「震災遺構見て満足、とはならない。最後はお金を落として帰らないと」

  

ということで残りの時間は道の駅での買い物に費やす。陸前高田の名産である林檎のジュースを1人1本、加えて各々1000円以内で買いたいものを買う。北限のゆずやおやつ昆布、三陸の地ビール等を思い思いに購入した。

  

「震災資料館もあったんや。見たかったな」
「コーヒー屋も寄りたかった」
「そもそも大槌や釜石の街も見たかったです」
「1日じゃ物足りないね。今度はゆっくり来よう」
一行は後ろ髪を引かれながら、3区への中継所がある気仙沼に向け満員のBRTに乗り込んだ。

  

これまでの軍資金残高 22,154円
☆獲得軍資金(*運賃改定前)
盛〜陸前高田 1,680
陸前高田〜奇跡の一本松 600
★出費
チョコレート 660(+番組側からの奢り)
道の駅 4,522

  

現時点での軍資金 19,252円

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