連続百名店小説『みちのく旅2026』第五魂(THE BURGER HEARTS/盛(大船渡))

人気女性アイドルグループ「TO-NA」のプロデューサー・タテルとキャプテン代行・カコが、新幹線含めたJR東日本全線乗り放題のキュンパスを利用して、浮いたお金で旅をする企画「キュン旅」。今回は震災から15年が経つ三陸をリレー形式で旅する大型番組『JOURNEY!JOURNEY!JOURNEY!』の一企画として実施される。出越徹夫の『充電したい旅』から襷を受け取り、いよいよ三陸南下の旅が始まる。
☆旅のルール
キュンパスのフリーエリア内における移動をする度に、もしキュンパスを使用しなかった場合かかる運賃が軍資金に追加される。1泊2日の旅中、移動代や食費、宿泊費など全ての費用をその軍資金で賄うこと。旅の最後に残った軍資金がそのまま、3区『梨子・あさ乃の5万円旅』の資金に加算される。

  

三陸鉄道の待合室に行ってみると、改札待ちの行列が発生していた。並んでおいた方が良いと判断しそこに留まる。
「私達が乗るのって『さかり』って書いてあるやつですよね」
「そうそう。あっ、平仮名なんだ」

  

「盛」行き(三陸鉄道線)と「盛岡」行き(JR山田線)の両方が発着する宮古駅。誤乗防止のため電光掲示板では「盛」の方を平仮名表記にしている模様である。
「盛岡行き、次3時かあ。随分と本数少ない」
「もう盛岡には戻れないんですね」
「そうだよ。引き返せない旅」
「ドキドキワクワク」

  

いざホームに出ると、そこには僅か1両の列車が停まっていた。あの行列の全員が乗り込むと立ちが発生するくらいの容量である。車内の座席は殆どがボックス席であり、少し並ぶのが遅かった一行は、海の見える進行方向左側を確保することができず仕方なく右側に座る。そして未だ安定しないネット環境に抗いながら、Googleマップを見てオーシャンヴュースポット(海スポ)を探る。
「まず津軽石駅の少し手前。次に陸中山田の前後、浪板海岸からの吉里吉里」
「吉里吉里って面白い名前だね。なんか強そう」
「それは吉田沙保里さん。吉里吉里人は井上ひさし先生の作品」
「でもそこに登場する吉里吉里国は内陸の方らしいですね」

  

他にも多数のスポットを見出したところで列車が出発する。山田線とは違い(と言いつつ今走行中の宮古〜釜石の区間は震災前まで山田線であったのだが)街中を走っていく、かと思えば山勝ちな区間を走る場面もあったりして面白い。車窓からの眺めを愉しんでいると突如ブレーキがかかった。

  

「えー只今、鹿を轢きかけたためブレーキをかけました。お騒がせして申し訳ございません」
「あ、鹿があっちに行った!」
「ホントだ!まさかここで見ることになるとは」

  

写真にも鹿の姿を収めたつもりでいたが、タイムラグがあったようではっきりとは写っていない。目を凝らせば画面中央ほんの少し左側にそれらしき姿が有るような無いような、という程度である。

  

間も無く最初の海スポ・津軽石駅に到着。しかし防波堤があって海は見えなかった。津波から街や人を護るものだから文句を言ってはならない。

  

各駅には謳い文句(愛称)が設定されていて駅名標に記されている。例えば払川駅の謳い文句は「新たな希望」。震災による津波の被害を免れ、被災者が多数移住してきたことにより新設された駅である。

  

次の海スポがある陸中山田駅に到着した。しかし未だに高い堤防に遮られる。

  

この調子が続くのだろうかと少し落ち込んでいたところ、駅を出発して間も無く、遂に海が見えた。

  

織笠駅を過ぎると陸橋越しによりはっきりと見えた。しかしその海は崖と崖の間に入り組んだ湾であるから、奥にはまた急峻な陸地が見える。これぞリアス海岸ならではの光景である。

  

「本州最東端の駅・岩手船越。あ、ここが最東端なんですね」
「岩手県がね、弓形に東へ迫り出しているんだよな。魹ヶ崎が最東端地点」

  

ここからは乗降扉に張り付いて海を撮影する。浪板海岸〜吉里吉里は絶好の海スポ地帯である。はっきり見える区間も多いのだが、シャッターを切ろうとした途端に細枝の木々が邪魔してくる。タテルと遥香は集中力を絶やさず窓外の様子を窺う。ちなみに手持ち無沙汰のカコは隣の乗客に話しかけふれあいの画を創出していた。

  

「タテルさん、この先ひょうたん島のモデルとなった島があるみたいです」
「井上ひさし先生繋がりじゃん」
「でも角度的に見えないかもしれません」
懸念した通り、ひょうたん島のモデルのひとつとされる蓬莱島は車窓からは発見できない。

  

その代わり現れたのは綺麗に整備された芝生広場。堤防の麓には小さな地蔵が並んでいた。7ヶ月前に完成したばかりの大槌町鎮魂の森「あえーる」。この旅で初めて目にした震災関連施設。ここまで燥いでいたタテルと遥香も、会話を楽しんでいたカコも、確と広場を見つめ、震災で失われた命を悼む。

  

その後も鵜住居からはラグビーワールドカップでも使用された釜石鵜住居復興スタジアムを、両石からは漁港の青々とした穏やかな海を眺める。

  

JR釜石線の乗り入れる釜石駅に到着。ここで多くの乗客が降り、一行は海側のクロスシートへ移動が叶った。発車予定時刻を過ぎていたが、釜石線からの列車の到着が遅れており出発が後ろ倒しになる。

「お待たせしました〜」
「えっ?伍長?」
3人には報されていなかった特別ゲストの合流。女優の倉井は芸能界きっての旅行好き・鉄道好きであり、これまた東テレの人気旅番組『鉄道好きがバスに浮気なんてすんなよ?旅』にてリーダーを担当。長距離歩きにも物怖じしない姿勢から「伍長」の異名を持つ。タテルおよびカコと伍長はクイズ番組での競演が数度あり親交も浅くはない。
「えっ、今日来たんですか?」
「そうよ。3時半起き」
「東京から新花巻通って釜石線ですよね」
「そうそう」
「新型車両乗れました?」
「いや、従来の列車だった。でも楽しいよ、のんびり鉄道に揺られるのは」
「伍長、良かったら窓際へ。海眺めたいかと思いまして」
「いいよ。私何度か乗ってるし」
「この先どこが眺め良いとか覚えています?唐丹、吉浜、越喜来、恋し浜」
「たぶん吉浜の辺りが近くまで海迫ってたような。あとそうだ、恋し浜でたしか……」

  

まず唐丹駅周辺。例によって防波堤に遮られるが、それでも美しい海面を垣間見る。

  

吉浜では伍長の言う通り海を近くに見ることができた。白い波飛沫まできっちり観察できる。そして車内アナウンスでは、吉浜は鮑の名産地であり香港等で食される高級干し鮑もここのもの(吉品鮑)が多く使用されるとの話がなされた。涎が出そうになるタテル。
「そうだよ干し鮑じゃん。書いてあるもん高級中華のメニューに、吉浜産干し鮑20頭とか」
「『頭』って数えるんですね」
「個数じゃないんだよ。なんか基準となる重さがあって、それに達するには同じ鮑が何個必要か、で20頭とか30頭とか決まるんじゃなかったかな」
「数字が小さくなるほど大きな鮑、ってことですかね?」
「そういうこと」
「ここで降りたら、美味しい鮑食べられるんですかね?」
「どうだろう?良いやつは皆買い取られてしまいそうだよね」
「3頭の干し鮑を食べる、高級ズワイガニを1杯丸ごと食う、フランス各地のグランメゾンを食べ歩く。俺の三大夢グルメです」
「タテルくんって本当に食に詳しいよね。私からっきしだから教えてほしい」

  

三陸駅から甫嶺駅にかけて広がる越喜来湾の景色もまた良い。

  

そして恋し浜駅では停車時間が3分程設けられ、列車の外に出ることが許された。ここまで窓越しに眺めていた海を直接眺めることができる。

  

「恋」という字が駅名に含まれているからか、ベルが設置されているのだが、恋愛をする暇のないTO-NA一行と家庭のある倉井は一瞥だけして待合室を覗く。

  

そこには帆立の貝殻が多数吊るされていて絵馬のようになっている。
「帆立が名産なんですかね」
「みたいだね。左手に帆立小屋もあるし」
「この後行くバーガーショップにも帆立フライバーガーがあるらしい」
「え待って、お昼ハンバーガーなん?」
「すみません伍長、お伝えしてなかった。盛駅の近くにあるんです、東北No.1バーガーショップが」
「バーガーか……海産物食べるつもりだったのに」
「安心してください。夜は仙台で寿司です」
「ならいいけど」
やや不満げな伍長の言葉に緊張感が走るが、あくまでもこの旅のホストは自分達であるからと、タテルは方針を捻じ曲げない姿勢を見せる。

  

終点であり大船渡市役所の最寄り駅・盛に到着。大半の乗客は一目散にBRTへと乗り継ぐ一方、タテルの一行は駅舎を出て街中に繰り出し、右に曲がってバーガーショップに向かう。徒歩3分と十分駅近であるが、乗車予定のBRTは50分後の出発のため先を急ぐ。

  

「良かった、開いてた」
「タテルさん臨時休業引く傾向ありますからね、私達もハラハラでした」
外観は無個性であるが、中に入ってみると本格的なバーガーショップの内装である。訪れたことは無いがアメリカの田舎のロードサイド店舗らしい雰囲気があるとタテルは云う。

  

ここに来る途中、三陸の地ビールというものが数多存在することを押さえていたタテル。バーガーショップなら間違いなく取り扱っているだろう、いざお清め、と意気込むもアルコールメニューはベタなビール3種類のみであり肩透かしを喰らう。節約のため飲み物は無しとした。

  

一方でバーガーのメニューはとても豊富。まずパティが多岐に渡る。肉類は一関の黒毛和牛と住田の四元豚の合挽、久慈の短角牛100%、地元産の南部どり、大槌の鹿肉、豪州のラム。さらに魚介類パティは地元産のタラフライと品切れであったが恋し浜のホタテフライ。これまた地元の丸橋とうふ店の豆腐をパティにしたものもある。
「殆どが岩手の食材なんだ。これは面白いね」
「迷っちゃいます〜」
「肉好きのカコならやっぱ、牛100%じゃね?」
「ですね」
「岩手の牛肉で赤身が主のもの、ってなったら短角牛だな。野菜無しでいっちゃおう」

  

ということでタテルとカコはデリシャスバーガーを選択。他の具材はチーズと玉ねぎ炒めのみであり、粗挽きにされた短角牛の肉肉しさを確と噛み締める。玉ねぎが飴色に炒まっていて良い味を出している。バンズには程よく肉汁などが染み、パンらしさを残しつつ具材と一体になっている。

  

タテルはポテトとサラダのセットも注文していた。ポテトは油控えめで芋の重さを残した仕上がりである。バーガー1つに対してこの量だと少し重たく、片方だけがセットをつけてポテトをシェアする、もう1個バーガーを食べるなどすれば釣り合いがとれると思われる。サラダには少量のヴィネガードレッシングがかかっていてさっぱりとした仕上がり。

  

魚介を食べたい遥香と倉井はタラフライバーガーを選択。一般的なフィッシュバーガーとは違い肉厚で弾力のある魚。それをアボカド、マヨネーズ、香味野菜により鱈の持ち味を殺すことなく洋風の洒落た味わいに仕上げる。貪る遥香の頬を涙が伝う。
「遥香ちゃんどうしたの⁈」
「あまりにもこの鱈が力強くて。三陸の皆さんが復興へ力強く歩む様子とすごく重なって……」
「そんな力強いのか。まあこの店も創業は2007年、震災を乗り越えて東北No.1、食べログ百名店にも選出だもんな。立派だよ」
「すごく美味しかった。ごめんね、三陸まで来てハンバーガーなんて、みたいな態度取って」
「いえいえ。喜んでいただけたのなら何よりです」

  

3月ともなると学校は午前授業が多くなり、学校帰りに立ち寄ってバーガーをテイクアウトする学生や教師も散見される。隣の席にはALTとして地元の小学校に赴任したアメリカ人がやってきた。英会話の得意なカコが話しかける。
「How long have you been in Japan?」
「3年になります。あ、私日本語喋るので日本語で話しましょう」
「失礼しました。ずっとこの辺ですか?」
「はい。ずっと大船渡市盛町ですね」
「住所の言い方」
「日本に来るきっかけって何だったんですか?」
「特撮が好きです。ウルトラマンとか仮面ライダーとか」
「嬉しいですね」
「それでALTに応募して、ここに来ることになりました」
「場所って選べないんですよね確か」
「選べないです。でも良かったですよ、こんな美味しいバーガーショップのある街にやってこれて」
「それは良かった」

  

BRT発車まであと15分。最後にひとつ、震災のことについて訊ねてみることにしたタテル。慎重に言葉を選びながら問いを立てる。
「アメリカでも震災のニュース、取り上げられてました?」
「勿論です。あれだけ大きな津波は、遠く離れた私達アメリカ人にとっても衝撃でした」
「そうだよね……」
「私がここに来るってなった時も、津波で大きな被害を受けた話は聴きました。すごく辛い気持ちになります。でも生徒さんとかご近所さんの日常を見ていると、みんな前向きに今を生きているんだな、って強く思います」
「だって15年だよ。今の生徒さん、震災を知らないですよね」
「そうですね。でも津波の教訓は受け継がれていると思いますよ」
「それはそれで大事。なんだけど住民は今を懸命に生きている。普通に暮らしている人の方が多いだろうし。感傷に浸りすぎるのは違うよね」
「東北の楽しさ、三陸の楽しさを皆さんに知ってもらう。それが私達の使命です」

  

時間が来たためお愛想とする。デリシャスバーガーは850円、タラフライバーガーは890円、加えてタテルと倉井の頼んだセットが480円で計4,440円。
「結構リーズナブルですよね」
「グルメバーガーってポテトつけると平気で1,500円いくからな」
「近所に欲しい。鹿肉とか豆腐とか、あと岩手産トマトのケチャップも気になります」

  

さらにここで、倉井が来たことにより軍資金に動きが出ることに気付く。倉井は1日用のキュンパス10,000円を購入している。そして東京駅〜盛の運賃は14,510円。4,510円の軍資金を倉井は齎してくれたのである。
「ありがとうございます倉井さん!福の神!」
「いやいや、私じゃなくてキュンパスがすごいの!夢のようなきっぷだよね」
「こうなったらもう全力で愉しむしかないっすよね」
「それも大事ですけど、梨子さんあさ乃さんが楽しむ分もきっちり残しましょうね」

  

BRT発車5分前に盛駅到着。次に目指す場所は陸前高田、奇跡の一本松である。

  

これまでの軍資金残高 15,154円
☆獲得軍資金(*運賃改定前)
東京〜新花巻〜釜石〜盛 14,510(やまびこ使用、倉井)
宮古〜盛 6,930(タテル、カコ、遥香)
★出費
キュンパス(1日用、倉井) 10,000
ハンバーガー 4,440

  

現時点での軍資金 22,154円

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