連続氷菓小説『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』①(伊太利亜のじぇらぁとや/浅草)

アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19)を誘い出し、美味しい氷菓探しの旅をしている。

  

「よし、今日からマリモをジェラートの沼に引きずり込むぞ。おっす『アイツ』ちゃん」
「…『コイツ』さんご機嫌よう。今日は思う存分ジェラート楽しませてください」
「おいおい、『コイツ』って…」
「『コイツ』さんが私のこと『アイツ』って呼んできたんじゃないですか。訂正するのも面倒なんで『コイツ』さんと呼ばせていただきます」
「まあ悪い気はしねぇな」

  

2人が訪れていたのは浅草。休日のため人でいっぱいであった。
「いつも平日に来ていたからさ、こんな混雑してるの初めて」
「私あまり浅草来ないのでわかりません」
「浅草はエグいよ。渋谷並みに混む。浅草寺に繋がる仲見世なんて歩くのもままならないから」
「そうなんですね」
「で今から行くのは、そこから1本ずれた観音通り。ここにジェラート屋が…あったあった、やっぱ行列できてるね」

  

行列に並ぶ人の半数は外国人である。店名にもある通り、ジェラートとはイタリアの食べ物だ。本場ものではないはずの食べ物を沢山の旅行客が求めるという不思議な現象。その所以はフレーバーのラインナップを見れば自ずとわかる。
「甘酒、梅酒、カルピス、豆腐…和の食材が目立ちますね」
「オーソドックスなのもいきたいけど和食材も気になる…3種類じゃ足りないよ」
「私2周しますよ」
「マジで⁈」
「胃がバカなんで!」
「只者じゃねぇな『アイツ』」
「せめて『ちゃん』付けで呼んでください!」

  

外国人の多い店らしく、券売機でチケットを買うシステム。苦手な日本人も多いようだが、人手不足と国際化の進む昨今、こういう仕様に慣れてもらわないと困るものである。サクッと券を購入したタテルは、定番のピスタチオ、そして和食材から梅酒と甘酒を組み合わせた3点盛りをカスタマイズした。
「それでは改めて、ジェラートの楽しみ方確認しましょう。『素材を味わう』んだったよね」

  

まずはジェラート屋の実力を測るピスタチオ。素材の味が強く純粋に押し寄せる。この店は本物だ、と確信するタテル。
「どうだマリモ、ジェラートもいいだろ」
「かき氷にはない滑らかさ。クセになりそうです」
梅酒は一転して青梅の爽やかな果実味に目を見張る。夏の暑さでへたった喉を潤したかったのか、スプーンを持つ手が止まらない。
甘酒もまた甘酒の由緒正しい味がする。ただピスタチオと梅酒が強くて若干影に隠れてしまった。

  

マリモは早くも1周目を完食した。
「じゃあもう1周しますね」
「言い忘れてたんだけど、もう1軒行くんだった」
「ジェラート屋さんにですか?」
「そうだね。抹茶ジェラート」
「私何個でもいけますよ」

  

結局マリモは2周目も難なく完食してしまった。
「Yummy?」列に並んでいた外国人が問いかける。
「Yeah, it’s so tasty. She has eaten six cups.」
「Six cups?! She ate almost all of the flavors, didn’t she?」
「Right. Her stomach is mad.」
「タテルさん、何喋ってるのですか」
「マリモの胃はバカだ、って」
「やめてください、恥ずかしいです!」
「6杯も食べた、って」
「話盛らないでください!6杯じゃなくて6種類です!six…」
「flavors、ね。『天才』ちゃんなのにflavorって単語出てこないんだ」
「あらやだ、お恥ずかしい…」
「大丈夫?もう1杯食える?」
「大丈夫です、今のところは」

  

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