グルメすぎる東大卒芸人・タテルと、人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバーで現在は宝刀芸能所属の俳優・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のお話。
学生人気の高まりを受け、霜降明け星(そいや・ソロロロ)、ももいろプラネット(松戸・永田)、タカネ(岡山・秋田・柏)MCの人気番組『荒々しいガキ』に出演する。
二度に渡る荒々しいガキの収録に同行し、2人の持つ歌の力に圧倒された宝刀芸能のマネージャー。当初は学校訪問なんて野暮なものだと思っていたが、1回くらいなら2人を学園祭に送り込んでもいいのでは、という考えにシフトしていた。
「部長、京子さんのことなんですけど」
「どうした?」
「タテルさんとのYouTubeで、キョコってるとして学校に来てほしいという話が出てましたよね」
「ああ、うちとしては厳しいと言ったはずだが」
「見ました、京子さんが荒々しいガキで訪れた学校からのファンレター?」
「見てないな。ちょっと見ようか」
「なるほど、京子君の歌の力は立派なものがあるな」
「ですよね!タテルさんの事務所にもファンレターいっぱい来てるみたいで」
「でも文化祭に送り込むのは簡単なことではないぞ。関係各所を調整しなければならない」
「それはわかっています。でも、せめて1校だけでも行かせてあげたいんです」
「…まあ1校だけならやれなくもないか。君の熱意には負けるよ」
「ありがとうございます!」
荒々しいガキのオンエア当日、タテルはTO-NAハウスに京子を招き、TO-NAメンバーと餃子パーティをしながら放送を見守る。
「京子さんすごっ」
「アハハ、タテルさん何回間違えるんですか!」
「恥ずかしいよ…」
「あぁ、京子さんすぐ見つかっちゃった…」
「残るはタテルさん!頑張れ!」
「アハハ、タテルさん何やってんですか!」
「転んでバレるなんて、ばいきんまんみたいですね」
「アーン、パンチ!」
「バイバイキーン…じゃねぇって!」
ゲームパートではきゃっきゃっやっていたメンバーだったが、國學院久我山における京子の歌唱、日大櫻丘における出水のギタープレイおよびタテルの歌唱が流れると全員が聴き入って、涙を流すメンバーも多かった。
「まさか私たちまでこんなに元気づけられるとは思いませんでした。凄すぎます2人とも…」
「こんなに人を感動させられる歌い手が先輩でありスタッフであるなんて、すごい誇りに思います」
「元々好きな番組ですけど、今回は特に神がかっていた。伝説の回ですね!」
一般の視聴者からの評判も上々で、Tverの再生回数は番組史上最多ペースであった。こうなると事務所としても、文化祭での歌唱を叶えてあげたい気持ちが高まってくるものである。
「タテルくん、ほうとうだよ!」
「え?また夜ご飯食べるの?」
「違う違う、うれしいお知らせがあるよってこと」
「それ言うなら『朗報』ね。ほうとうは山梨の麺料理か京子の所属事務所」
「文化祭で歌えるってよ!」
「ホントか⁈嬉しい!」
「10月の頭、ピノ高校のフィナーレのステージだって!」
「ピノ高校なら俺何度か進路講話しに行ってる。ホリケンタさんの母校だよ」
「そうなの⁈」
「結構有名人輩出してるんだよね、校舎も綺麗になったばっかりで、良い高校だと思うよ」
「楽しみだ…よし、早速練習しよう!」
本番10日前の木曜日、打ち合わせのため車でピノ高校に向かう2人。ハンドルを握るのは、2週間前に免許を取得したばかりの京子であった。
「あれだけ皆に止められていた京子が、まさか免許取るとは」
「私が一番意外に思ってる。一度やるとハマっちゃうんだよね」
「ファッションまでキメちゃって、惚れ惚れしちゃうよ」
「今後の運転は私にお任せあれ」
「任せる。俺は酒飲みに徹するよ」
「何それ。そういう態度だと乗せないからね」
♡馬鹿にしないでよ もう僕ら…
♤不自由の海を自由に泳いでる
車内でも絶えず歌声を響かせる2人。あっという間に国立府中インターまでやってきた。ピノ高校とは逆方向ではあるが、ラーメンを食べに「陰日向」へ向かった。オープンして半年経っていないにも関わらず食べログの星急が上昇中。前に10人の待ちで、ギリギリ店前の待機列に滑り込むことができた。
「中はカウンター4席と2人がけテーブル1つか…こりゃ結構待つね」
「都心から離れていてしかも平日。相当すごいんだろうね。あそうだ、自腹かけたゲームやってないよね。どうする?」
「タテルくんにお任せするよ」
「じゃあ『みんはや』やろう。5問先取の早押しクイズ」
「ちょ待って。絶対タテルくん有利じゃん」
「京子が1問でも俺を差し置いて正解したら俺が自腹ということで。問題も一番簡単なランクのやつにするね」
「それなら勝ち目あるかも。じゃあ高校着いたら車の中で撮影だね」
回転の遅さを懸念していたが、他愛のない会話をしていれば列はいつの間にか進み、30分の待ちで先頭まで来てしまった。その時点でカウンター席が1つだけ空いていたため後ろの1人客が先に入店したが、程なくしてテーブルが空き、そこに2人は座ることになった。
人気ラーメン店では珍しく、食券の無い後払い制。注文は席に着いて間も無くしなければならず、事前にメニューを見られる訳でも無いので予習していないと慌しい。生姜丼(肉味噌の載ったごはん)、スキヤキモドキなど謎のサイドメニューもあり一瞬戸惑うが、2人は迷うこと無くワンタンチャーシュウメンのみを選択した。
「京子、ここの麺太いんだよね」
「そうそう。この前のかめ囲よりずっと太いと思う」
「それこそほうとうみたいな?」
「私の事務所がどうかした?」
「いやいや、山梨の麺料理のこと。まあ宝刀芸能のパイプの太さにも感謝だけど」
「パイプの太さ?それどういう意味?」
「噛み合わないな」
「難しい言葉ばっか使われると親しみにくくなる」
「使ってないだろ。京子がちょっとおバカな…」
「今なんて言った⁈」
「ごごご、ごめんなさい!ほっぺつねるの止めて!」
ラーメンがやってきた。スープを口にすると、最初は生姜焼きのようなニュアンスがあるが、醤油の濃い味がそれを力強く平定する。
そして一反木綿のように幅広い麺。モチモチの食感をイメージするだろうが、実際は柔めの箇所の方が多い。接地面積が広いからスープをよく受け止める。
チャーシューは柔らかく煮込まれており、ほろっと軽く食べてしまえそうであるが脂が徐々に胃にのしかかる。味濃いめのスープ、極太の麺と相待って食べ疲れてくる2人。ご飯ものを頼むと却ってヘヴィーになりそうである。
「スキヤキモドキって何ですか?」次に入店した客が店主に訊ねる。
「生卵です」
「なるほどね、この濃いスープとチャーシューに生卵を合わせるとすき焼きみたい、ってことか」
「京子ん家のすき焼きってどんな感じ?最高級松阪牛と…」
「な訳ないでしょ。本当に普通のすき焼きだから」
「春菊は入れる?」
「入れるけど私は食べない。苦手だから」
「贅沢な。俺なんて食べたいのに、親が嫌いだから入んないんだよ。まったく、これだからお子ちゃま舌は」
「何ですって⁈タテルくんこそお子ちゃまでしょ⁈回転寿司行って揚げ物ばっか頼んで」
「生魚は好き好んで食べない」
「わさび塗りたくって醤油ジャブジャブかけて、一緒にいて恥ずかしい」
「そうでもしないと腹壊すんだよ」
「じゃあ冷たい物ばっかり飲まない!」
「かき氷ばっか食ってるやつに言われたくないね」
出口の方に目を遣ると、何となく冷たい視線を感じたタテル。我に返り、さっさと会計を済ませ退店する。
「俺が喧嘩吹っかけてしまった。ごめんな」
「大丈夫だよ。私もムキになってしまった」
「あ、早く行かないと。駐車料金が余分にかかってしまう」
「ホントだ。急ごう!」
分倍河原からピノ高校まではそう遠くない道のりで、14時集合のところ1時間以上早く到着した。ここで自腹を懸けたクイズ対決を行う。
「エンドレスチャンスを導入しましょう。俺が間違えたら京子に解答権が回ってきます。その場合京子は最後まで問題文を見れるので正解の可能性は高め。お手付きできないスリルが俺にはある」
「絶対勝ってみせます」
「望むところだ」
絶対に貫く矛と…
「はいわかった、矛盾!」
「早すぎるって、タテルくん…」
「京子には一回もボタンを押させません!」
夫にミュージシャンのDAIGOを…
「はい、北川景子さん」
「ああ、ちょっと遅かった!」悔しがる京子。
「おおがい!」
「大宝律令!」
タテルがあっという間に4連続正解し、京子は窮地に追い込まれた。
ボウリングにおいて、パーフェクトゲームを達成した…
「勝ち確だ!300点…あ、しまった!」
「アハハハ!309、って打ってる!」
「こういうことあるんだよな、みんはやは」
「ダッサ!アハハハ」
「笑い過ぎだって。好感度下がるよ」
「ゲラが止まらない!アッハッハ!」
「ダメだこりゃ」
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