グルメすぎる芸人・タテルと、人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバーで現在は宝刀芸能所属の俳優・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。
「あぁ…」
「大丈夫か京子」
「また風邪引いちゃった…」
「ごめんな、俺の風邪うつしちゃったかも」
「しょうがないよ。一緒に暮らしている以上避けられない」
「飴とスポドリ、あと熱冷ましも置いておくから、ゆっくり寝てて」
「ありがとう。タテルくんって優しいよね」
「京子も素直で助かるよ。俺のオカンはすぐ文句言うもん、薄情者ガァとかもっと労われとか」
「お母さんは大事にしてあげないとダメ」
「…まあそうだな。今日はしっかり休もう」
タテルはリヴィングで動画編集やコメント返しに勤しむ。そしてお仕事依頼用のアドレス宛に届いたメールをチェックすると、中高生からの問い合わせが数十件寄せられていた。
2人がたまに披露する歌声、美しくて心震えます。僕の学校の文化祭に来て歌ってほしいです。
学園祭でトークショーやってほしいです!2人のかけ合い、見ていて楽しいです!
シャインマスカットを7粒ほど持って京子の元に届けるタテル。そのついでに、学生から学校に来てほしいと言われている件について相談を持ちかける。
「えめっちゃ嬉しい。求められているなら行きたいし何曲でも歌うよ」
「良かった京子も前向きで」
「でもうちの事務所が許可してくれるかわからない」
「そうだよな。俺はある程度自分で決められるけど、京子は大きな事務所だから難しいか…」
「まだわかんないから。やりたい気持ちはしっかり伝える」
幸い京子は次の日には快復し、冠番組のイヴェントやバラエティ番組の収録、次の映画に向けた演技レッスンと、忙しい2日間を過ごした。
「マネージャーさん、ちょっとご相談なんですけど」
「どした?」
「今YouTubeの方で、タテルくんと学校の文化祭に来て歌ってほしいというオファーを受けているんですけど」
「なるほど。それは嬉しいね」
「もうめっちゃ嬉しいです」
「でも手放しで行かせてあげる訳にはいかないんだ。事務所が主体となって取ってきた仕事じゃないから、うちの案件を優先してもらう必要がある」
「それはそうですよね」
「それに私が帯同するのもグレーゾーン。かと言って2人だけで行くのも危険だから許可はできない。もしどうしてもやりたいのなら、代わりのマネージャー見つけて私たちに知らせて」
「わかりました…」
翌日は京子もタテルも休みであったため、代々木上原にあるラーメン店「蔦」を訪れる。人気店という認識であったが、TableCheckでの予約は前日であってもすんなり取れた。来店日が土日でもかなり余裕があり、(志半ばで旅立った)先代の頃の方が良かった、という思いの人が多いのだろうかと勘繰るタテル。
店に入る前に食券を購入する。高級志向の店とあってかキャッシュレスにも満遍なく対応している。特製醤油Sobaは3000円と、2人にとって人生最高額の1杯である。タテルはそこにクラフトコーラやら肉めしやらバニラアイスやらつけて、1人4000円台まで会計が跳ね上がってしまった。
入店すると、フレンチレストランでもよくある、自分の名前を書かれた歓迎プレートが席に置かれていて、タテルは気恥ずかしさを覚えた。
「タテルくん、学校へ行こうの件なんだけど」
「V6の番組みたいに言うね。どうした?」
「うちのマネージャーは同伴できないって。宝刀芸能とは関係のない仕事だから」
「そっか。やっぱ闇営業みたいになっちゃうのかな」
「それは大丈夫。だけど何かあるといけないからマネージャーはつけて行ってほしいって。タテルくんのマネージャーは空いてるかな?」
「言えば帯同してくれると思うけどな。聞いてみるね」
ラーメンがやってきた。醤油の味が濃いスープで、トリュフなど個性強めの味が混ざっても醤油の味がたしかにする点に意識の高さを見出した。麺はつるっとしており喉越しが抜群である。
別皿にお洒落に盛られた具材は、すき焼きのように卵ソースを纏わせて食べる黒毛和牛など、ギラギラした味付けが多いラーメン界隈の中では異端といえる上品さ。チリペッパーソース、塩漬け胡椒、黒糖クランブルといった味変要素まで用意している。ただこれだけ要素が多いと組み合わせが何十通りも考えられ、それらを試すとなると具材の量がもっとあった方が良いと思う。
その点肉飯はシンプルな味つけで、難しいこと考えなくても、脂身からぶりんとした赤身、ドロっとしたちょいクセ肉までそれぞれの個性を理解できるから良い。
「あの、すいません…」
おどおどしながら店員を呼ぼうとするタテル。しかしなかなか呼び止められない。
「タテルくん、もっとハキハキしよう。TO-NAのみんなをまとめる時のあの強気が嘘みたい」
「いや、ここの店員さんあまり気付きが良くないと思う」
「そう?まあでもちょっと壁はあるか。お客さんも外国人が多いし、大変そうではあるけどね」
何とか店員を呼び止め、バニラアイスを持ってきてもらった。アイスクリーム自体は適温で柔らかく濃厚なのだが、嵐を呼ぶはずのトリュフバルサミコが少量すぎて特別感を覚えなかった。
「ダメだ、TO-NAメンバーの都合もあるからリソース確保の保証はできないって」
「やっぱ無理か…でも行きたいな、学生さんの元へ」
沈んだ気持ちで店を後にすると、店にいた別の客が声をかけてきた。
「キョコってるのお2人ですよね?」
「はい!」
「突然すみません。私『荒々しいガキ』のプロデューサーのヤシマです」
「あれ、学校でかくれんぼやるやつですよね?」
「そうです!丁度良かった、実は2人にオファーを出そうと思ってたところなんです」
「えめっちゃ嬉しいです」
「まさか同じラーメン屋にいるとは思いませんでしたよ。会話も少し盗み聞きしちゃいました」
「恥ずかしいですって」
「是非お2人にはかくれんぼに出てもらいたい」
「いいんじゃない、京子?俺もやりたいと思ってたし」
「うん、いいと思う」
「ありがとうございます!改めてオファー出しますね!」
NEXT