連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』5杯目(はつね/西荻窪)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

八王子の旅以来、京子のことが気になりすぎたタテル。Instagramのアカウントをフォローし、テレビやまとめサイトで動向をチェックするようになった。
「フトーフロと番組やってるんだ。あいつもなかなかのやさぐれだけど、京子も結構変な発言するんだな」

  

するとLINEの通知が入った。
「今度またラーメン行きましょう。西荻窪に行きたい店があるんです」

  

約束の日、きらきらきアイドルはまず来なさそうな西荻窪に、京子はたしかに舞い降りていた。
「遅いなタテルくん。時間過ぎたらもう行っちゃおう」
「ハァハァハァ、ギリ間に合った…」
「タテルくん危ないよ、もっと余裕もって来て」
「いやぁ…君めっちゃ遅刻に厳しいから焦ったよ」
「まぁね。あ、こうしてる時間がもったいない、行こう」

  

駅から1分もしない場所に、古めかしい建物のタンメン屋があった。
「前に8人…結構いますね。京子さんどうします?」
「我慢して待つだけ」
「えっ?先に次の店行くとか…」
「ごちゃごちゃ言わない。この店はこれくらい待つの」

  

カウンターは5席しかなく、1回転しただけでは入れないくらいの待ちであった。しかし後ろからは誰も並んで来ない。結局2人は、この日この店に並んだ人のうち最も長く待った人たちとなった。2人が並んでから15分後にやって来た中年男性と共に、2人は入店した。
席についてからもロスがあった。ちょうどお湯の取り換えの時間になってしまったのだ。着丼まで余計に時間がかかる。

  

その間京子は自慢の黒いロングヘアを束ねた。
「もうこれさー、パワハラだよね。俺1人でこんなアイドルタイム耐えられない」
「アイドルタイム?私はいつもアイドルよ」
「idolじゃなくてidle。無駄な時間ってこと。1人でも待てるの?」
「待つね。ラヲタならこれくらい普通」

  

漸くタンメンにありつけた。後のことを考えチャーシューは載せなかった。ベジタリアン仕様の1杯である。
「タテルくん、まずはスープから!」
「は、はい…」

  

するとタテルは顔をしかめた。さらに京子もスープを飲んだ途端、西川やすしのように目を見開いた。塩辛いのだ。60歳は過ぎているであろう爺さんの味つけは、25の若者には強すぎたようだ。
「(ダメだダメだ…これは味変が必要)」
タテルは横山きよしのようなアウトローぶりで胡椒をぶち撒けた。するとようやく、尖った塩辛さのレベルに見合った旨味が到達した。強く美味しくなったのだ。

  

タテルの暴挙を見た京子は戸惑いを隠しきれなかった。それでも味変は必要と判断し少し入れてみると再び、西川やすしの見開きを見せた。
店主は困り顔であった。でもこれこそが至上の食べ方であると、2人は譲らないのだ。

  

「タテルくんって自由なんだね。こんな派手な味変するなんて思いもしなかった」
「俺はしがらみとか知らんから。基本は出されたまま食うけど、卓上に調味料があったら自分好みにカスタマイズする。そういうメッセージだろ」
「でも本当は良くないことだからね。今日は許すけど、次やったら怒るよ」
「はい…」
「あの、食べ終わったなら席空けてもらえる?」
「あらごめんなさい。退散退散。続いては日大問題です」

  

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