連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』25杯目(巧真/八王子)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

大喧嘩を乗り越えた2人に、スタッフ大石田がある提案をする。
「お2人には出会った時のことを思い出していただきたい。今回は趣向を変えて、ラーメンレポはしますが、自腹を懸けたゲームの代わりに、2人が出会ったきっかけを話してもらいます」
「あ、いいですね」
「ちょっとクセある出会いだからね。じゃあ大石田さん、俺らが初めて一緒にラーメンを啜った、八王子に行きましょう」

  

八王子駅に到着した一行。
「そもそもなぜ八王子?遠いよね?」疑問を呈する大石田。
「あ、最初に出会ったのは渋谷です」京子が飄々と述べる。「私が食べに来ていたラーメン屋にタテルくんもいたんです」
「そうそう、めっちゃ京子っぽい人が降りてきて…」
「っぽい、じゃなくて私だから。タテルくん全然信じてないの、私がホンモノだって」
「ホンモノって…こんなトップアイドルが渋谷にふらっと来ると思う?」
「でもわかるでしょ?」
「声は完全に京子だったからね。で違う店行ったらまた会って、京子から急に『八王子にラーメン食べに行きませんか?』って話しかけてきたんです」
「めっちゃ急!初対面の人を八王子に誘うなんて、ワイルドすぎるよ京子さん」
「そうかな?私はタテルくんのこと知ってたし」
「コイツ俺の情報なんでも知ってる。怖かったよ正直」

  

そうこうしているうちに始まりの店が見えてきた。タテルが紹介する。
「初めて一緒にラーメンを啜ったのはこちらの店、『煮干鰮らーめん圓』さんです」
「タテルくんえらーい!ちゃんと『鰮』読めたね」
「京子、やめてよそれ恥ずかしい」
「タテルくん東大なのに読めなかったんですこの漢字」
「びっくりしたもん。いきなり『東大なのに鰮読めないんですね』なんて声かけられてさ」
「そりゃ声かけたくなるって。私でも読めるのに」
「俺西大后じゃないから。書類審査で落ちてる」
「でもここでようやくタテルくんが私のことを認識してくれました」
「そうだった。今でこそ動画だからちゃんと化粧してるけど、普段はすっぴんなんだよね京子」
「メイクするのめんどくさくてね」
「だから余計確信持てなくて」
「いやいや、大体わかるでしょ。あ、今日はここでは食べません」

  

一行は国道20号線を東に進み、目当てのラーメン屋に到着した。行列はなかった。百名店に載るようなラーメン屋としては意外と珍しい、くっきりとした明朝体の文字に息を呑む。それでいて券売機には、ロックなシールが無造作に多数貼られている。
「この後たぶん1時間くらい待つことになるから、特製にしてもいいと思うよ」
「わかった。京子が言うなら特製にしよう」
そう言って京子は普通の醤油ラーメンを注文した。
「おいおい、人に勧めておいて何だよ」
「いや、時間空くとかえってお腹いっぱいになるからさ、せめてここは控えめに」
「言ってることが違う…まあそれが京子らしくていいんだけど」

  

やってきた醤油ラーメンは、フライドオニオンのような香りがした。京子を初めて見かけた喜楽を思い出す。でもそこのラーメンとは違って、フライドオニオンの欠片は見当たらない。香りの元は葱油であった。そして実際に飲んでみると、節の旨味を感じた。
だがこのスープは決して強力なものとは言えず、麺と合わせると麺の方に比重が寄る。惜しくも一体感は出せていなかった。
チャーシューは同じように見えるが微妙に調味や火入れが違うようだ。脂身から旨味がよく出ている。
ワンタンの餡は餃子みたいで、にんにくだか何だか知らないが味の強いものが入っていて完全に浮いていた。交互に押し寄せる賛否。

  

「タテルくん、満足した?」
「まあね。ちょっと惜しいところはあるけど」
「タテルくんも成長したね。あの頃はずっとイマイチだっていう顔してた」
「まだ慣れていなかったのかな。その日のコンディション次第、というのもありそう」
「タテルくん、分析力スゴいよね。さすが東大」
「やめてよ〜、照れるじゃないか」
「じゃあ次行くよ。今度は南口ね」

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です