グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。
「カラオケ対決、シンプルに得点の高い方が勝ち!まずは両者何を歌うか発表してください」ものまね王座決定戦のように仕切るスタッフ大石田。
「はい、先攻タテルはハイロウズの『青春』歌います!」
「後攻の私は宇多田ヒカルさんの『First Love』行かさせていただきます」
︎〽︎冬におぼえた歌を忘れた
歌のイメージなど全くない芸人タテルだが、実は歌が大好き。最近の曲もある程度歌いこなすし、日頃父親が風呂場でかけているのを聴いているからかフォークやグループサウンズもイケる。浜千鳥の神レンチャンを熱心に観ており音程のとり方も心得ていた。
「98点⁉︎やった!『スター誕生!サインして下さい』だって!」
「へぇタテルくん、意外とやるのね…」
でも私は負けない、綱の手引き坂46を国民的アイドルにするために。人から笑われる大きな夢でも持っていた方がいい。それを絶対に叶えたいと、声を大にして言おう。
堂々と熱語りするも、いざ歌おうとすると和田アキ男のようにマイクを持つ手が震える京子。タテルの思いがけない高得点に明らかに動揺していた。
それでも歌い出すと、自慢の低音ボイスを綺麗に響かせる。
〽︎You are always gonna be the one
この曲の最高音、京子は力を振り絞り外さず出しきった。
〽︎まだ悲しい love song yeah…
しかしもう一つの難関、”yeah”のフェイクでこぶしを効かせすぎ外してしまった。
「あ、1音低い!」思わず野次が出てしまうタテル。
「タテルくん、黙って聴いてよ」歌い終わった京子はご機嫌斜めだった。
「得点は、何点、何点、なんてんだぁ!」堺雅人のように点数を発表する大石田。
「…97点!」
その場に蹲る京子。
「やったぁ!」タテルは気にせず喜ぶ。「京子もスターだって!サインして下さいだってよ、喜びなって」
「負けて喜ぶ人がどこにいます?」
「どうも〜ソラマチ隆史です!」
鬼塚英吉風の金髪のカツラを被り押上駅に降り立ったタテル。
「京子、見て!スカイツリー!」
「そんなの後でいいから早く行こうよ」
十間橋方面へ川沿いを歩くと、ラーメン屋とは思えないロックな店構え。大相撲力士のエンホーも常連だというが、駅から遠い上平日だったためか空席が目立つ。
「俺は味玉鶏ホタテそばにしよう。ご飯ものは…」
「あまり高いものはナシね。半ライスくらいにして」
「いや、黒トリュフとチーズのリゾットで」
「はぁマジか…」
この後約15分、2人は会話を交わすことなくスマホを見続けた。
ここのラーメンは変化球だとよく言われるが、鶏ホタテそばのベースは鶏白湯スープである。これがとても濃厚で、太めの麺にもしっかり絡む。
ホタテの要素はペーストとして存在する。冷たい状態で盛られているため、一度に溶かさず少しずつ崩して混ぜる。しかし白湯があまりにも強く、ホタテらしさはどこかに消えてしまった。
ラーメンでは珍しく、トッピングの肉に牛肉を使用。豚や鶏と違い噛み締めて旨味を味わう。ローストビーフの出来など、下手なホテルビュッフェより上である。一方で青梗菜はじめ他のトッピングは多すぎて存在意義を感じられなかった。
残ったスープをチーズ黒トリュフご飯にかけて〆る。トリュフの香りはあまりなく、ただのおじやの域を出ない。
「ねぇ京子、ソラマチ行こうか」雪解けを図るタテル。
「まあせっかく来たから行こうか。初めてだし」
「俺ソラマチは高校の時からずっと通ってるから、何でも聞いて」
ソラマチに着いた2人。
「私、洋服買いたい。オススメの店ある?」京子がソラマチ隆史にリクエストする。
「具体的な店はわからないけど、3階にいっぱいあるから探しな」
「ソラマチ名人なんですよね?」
「俺男だぞ。洋服なんて興味ないし…それにしてもお前プク顔可愛いな」
タテルは京子の行く先についていく。京子が洋服を見繕うのに付き合っていなければならなかった。段々耐えきれなくなり、タテルはこっそりその場を離れて梅干し屋で一服することにした。
「あれ、タテルくんいない。どこ行ったの?」選び終わった京子が訝しむ。そこへタテルが戻ってきた。
「ねぇタテルくん!急にいなくならないでよ」
「買い物長ぇんだよ!人の買い物に付き合うのマジで嫌!」突如怒り出すタテル。
「だからって勝手に消えないでよ!」
「もう早く会計しろ!」
「あすいません、このイヤリングも追加で」
「さっさとしろって」
「配送でお願いします。住所は東京都○○区…」
「何やってんだよ、後ろの客に迷惑だろ」
「あぁもううるさい!黙っててよタテル」
「周り見ろよ!人に合わせろって」
「アンタに言われたくないわ!」
「もう帰る!京子のことなんかもう知らん!」
「勝手にすれば⁈」
タテルは金髪カツラをその場に放り投げ、ソラマチを出ていった。
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