連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』101杯目(ソラノイロ/麹町)

グルメすぎる東大卒芸人・タテルと、人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバーで現在は宝刀芸能所属の俳優・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のお話。

  

ある日の夜、京子がドラマ撮影現場から帰宅すると、タテルが背中を丸めて正座しながらぶつぶつ何かを唱えていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「どうしたのタテルくん?うわ、ニンニクの匂い…」
「実家に帰ったついでに地元で有名な二郎系食べに行ったんだ。そしたら量が多い上にあんまり美味しくなくてさ、残しちゃったんだ…」
「まあ確かに罪深いことだね」
「せめて豚肉だけでも完食すべきだった、ってすごい後悔してる」
「そういうことだったんだ。これからは麺少なめで頼みなね」
「それ以前にもう行かないようにする。それが僕にできる精一杯の贖罪だ」

  

上品なラーメンで口直しをしたいとタテルが言ったから、次の日は急遽ラーメンを食べに行くことにした。急いで自腹を懸けたゲームを収録する。
「歌しりとり!歌詞でしりとりします。一節歌って、お尻の文字から始まる別の曲の歌詞で歌い返してください。3秒以内に歌え返せなかったら負けです」
「俺これ得意だね」
「私もめっちゃ得意。しりとりで負けたことないんだよね」
「嘘つけ」
「嘘じゃない!私を見くびると痛い目に遭うよ」
「いいでしょう。俺は限界しりとり芸能界最強プレーヤーだ。伊沢さんにも勝てるべ」
「無いでしょ戦ったこと」
「戦う前からわかるね」

  

タテル先攻でゲームを始める。
〽︎好きだよと言えずに初恋は〜
〽︎晴れ渡る日も雨の日も〜
〽︎もう恋なんてしないなんて
〽︎手を繋いで帰ろうか
〽︎帰ろうか帰ろうよ
〽︎夜空のむこうにはもう明日が待っている

  

歌詞しりとりにおいても「る」は鬼門である。しかしそこはしりとり王タテル。
〽︎ルララ宇宙の風に乗る〜
「よっしゃ、『る』で返してやった!これでもう思い浮かばないだろ!」
〽︎ルールルルルー…
「嘘だろ待て、もう『る』無いって!」
「はい、タテルくんの負け!油断するからこうなるんだよ」
「ズルいぞ、夜明けのスキャット出してくるの」
「立派な曲でしょ。由紀さおりさんに謝りなさい」
「すみませんでした!潔く負け認めます!」

  

翌日、午前午後と番町スタジオでの収録があるという京子のスケジュールの合間を縫って、近くにあるソラノイロでラーメンを食べることにした2人。午前の収録を終えスタジオの外に出た京子は、待ち構えていたタテルと落ち合い店に向かう。
「タテルくん見て見て、共演者の方と写真撮ったんだ!」
「…アカリさんじゃないか!」
「場を明るくしてくれるあの笑顔、変わらず素敵だったなぁ」
「そうだ、もうすぐアカリさんの誕生日じゃないか。すっかり忘れるところだった」
「良くないよ。人生の恩人なんでしょアカリさんは」
「ホントそう。初心を忘れちゃいけないね」

  

ランチのピークタイムを過ぎていたため待ち無く入店することができた。タテルはシンプルに中華そばを選択した。
「世界もろ見えの収録どうだった?」
「めっちゃ楽しかった。たけしさんのクリーム砲、ちょっと浴びちゃったけど」
「マジかよ」
「なんとかだま、ってやつ?」
「流れ弾、って言いたいのか。顔にちょこんとクリームがついた京子、きっと可愛いんだろうな」
「ニヤニヤしないで」

  

天草大王の出汁や鶏油を使用したラーメン。スープは天草大王の要素を特別感じる訳ではないが、旨味がいっぱい詰まっていて飲み干したくなる。
ソラノイロ特有のもっちりとした太麺ともよく絡み、ヴォリュームと一体感を両立させている。部位毎に調理のアプローチを変えているチャーシューにも満足する。
そしてこちらもこの店特有の具材、ワカメ。口内のモードがガラッと変わり、口直しとして機能する。

  

ミニ丼としてネギ飯も頼んでいたタテル。肉は最小限にし、葱独特のクセと甘みを集中して楽しめる構成である。

  

「やっぱラーメンはこうじゃないとね。危うく舌がバカになるところだった」
「そんなに美味しくなかったの昨日のラーメン?」
「でも思い出すと不味くない気がしてきた。これから二郎系では麺半分だね」

  

午後の収録『堪えてワラって』の入り時間が近づいていたが、番町スタジオの前の広場で京子はタテルと自撮り写真を撮り始める。
「何枚撮るんだよ」
「実はね、そろそろアレやろうかなって思ってて」
「アレ?どういうこと?」
「…タテルくんにはまだ秘密」
「えー、そんな言い方されると知りたくなるよ。もしかしてゾクゾクすること?」
「どういうことよ」
「ほら、俺らもう立派な恋人じゃん。だからもうそろ…」
「あいけない、もう入り時間だ。じゃあね」
「あぁ、頑張って…」

  

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