連続百名店小説『トラベルドクター』第6話(さかえや/東武日光)

トラベルドクター・建。末期がんなどで余命宣告を受けた人々へ、人生最後の旅行を企画しサポートするのが彼の使命である。ある日プライベートで足利を旅していた建は偶然、おばあちゃんに最後の旅をプレゼントしたいと言う江森一家と出会った。
*この物語はフィクションです。実在する「トラベルドクター」様とは関係ありません。実際のバリアフリー対応については店舗にお問い合わせください。

  

深夜も、建らスタッフは交代で就寝中のおばあちゃんの体調を監視した。その間、建はどうしたら甚六さんに会えるのか徹底的に調べ考える。
その時ふと、小学校の修学旅行で日光彫り体験をしたことを思い出した。あの時はビジターセンターみたいな場所で彫っていた記憶がある。さらに記憶を辿ってみた時のことだった。
「あれ、指導してくれた人、もしかして甚六さんだったかも」
「ホントですか⁈」
「名札をよく見る癖があってな、『甚六』って名前がすごい印象的だったんだ」
「もしかして建さん、『サザエさん』観てました?」
「観てたねぇ。伊佐坂先生の息子ね」
ただ確かな記憶ではなかったため、建は結局東武日光駅周辺で聞き込むことにした。

  

朝は無事に訪れた。この日の明里はタバコの絵が描いてあるトレーナーを着ていた。
「これもおばあちゃんが買ってくれたんですか?」
「そうです!」
「明里さんらしくて素敵です」
「いやあ照れますね。そう言ってくれるの本当に建さんだけなんで」

  

ランチの和牛ステーキは14時の予約のため朝食はしっかり摂る。チェックアウトを済ませ30分弱の移動、いよいよ日光の中心街へ到着した。

  

「東武日光駅、懐かしいわね。あの頃はこんな駅舎じゃなかった」
「新しい店も多いですよね」

  

お目当ての揚げゆばまんじゅう店は駅のすぐそばにある。マツコの知らない世界などでも取り上げられ、長くはなくとも行列の絶えない名店である。
「この店は昔からあったの?」明里がおばあちゃんに問う。
「あったわよ。甚六さんと落ち合ったらいつもまずここで食べるの。懐かしいわね」

  

1個250円の揚げゆばまんじゅう。見た目は完全に天ぷらである。湯葉らしさがあるかと言われたら疑問ではあるが、天然塩が振りかけられていることにより油のくどさがとれ病みつきになる味を醸し出す。あんこも優しい甘さで、湯葉衣の香ばしさを立てる名脇役である。その場にいる全員が大絶賛し、家で食べる用にもう1個ずつ買って帰った。おばあちゃんに至っては感動で涙していた。

  

「懐かしい。甚六さんとこれを食べたあの日々が甦る…建さん、やっぱり甚六さんに会いたいです」
「そう言うと思いまして、僕も色々考えていたんです。そしたら僕、甚六さんに日光彫り教わったかもしれないって思い出しました」
「本当ですか⁈」
「朧気ではありますが、日光彫り体験の指導員をしていたのではないかと。恐らくここです。行ってみましょう」

  

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