連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』42杯目(田中商店/六町)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共97年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

北千住駅に到着したタテルと京子。
「ここが『北千住駅のプラットホーム』か!」
「そうだよ。俺には当たり前すぎる風景だけどな」
「タテルくんと出逢ってなければ来なかったよこんなとこ」
「こんなとこ、って…まあでもびっくりしたもん、京子の口から『北千住駅』が出てきた時は」
「歌詞通り歌ってるから当たり前でしょ。私だって最初は意味わからなかったもん」
「みさえとひろしが出会った場所が俺の地元だなんて誇らしい。さ、俺の両親に挨拶しに行こうか。手土産は持った?服装乱れてないね?どういう話するか決めた?」
「結婚の挨拶じゃん」
「せっかくだから挨拶はしていこうぜ」
「たしかに。親の顔見てみたい」
「どういうことだよそれ」

  

タテル家の最寄駅は西新井。東武線に乗り換えさらに5分。
「あ、あれがタテルくんの車?あはじめまして、佐藤京子です」
「京子ちゃん、ようこそ足立区へ」
「ウチの息子がいつもお世話になってます」
「いえいえ」
「まさかこうやって俺が恋人を紹介する日が来るとはな」
「恋人じゃないから」
「タテル、調子に乗るんじゃない」
「はーい…」

  

車で10分ほど行ったところに、タテル一家の住むマンションがある。エレベーターで12階に上がる。
「へぇ、タテルくん意外といい所住んでるんだね」
「京子ほどじゃないって。ここ足立区だよ」
「だから何?」

  

「さ、入って入って」
「お邪魔します!うわぁ、いいとこ住んでるじゃんタテルくん」
「ごめんね狭くて。ソファの配置失敗しちゃって」
「これくらいありゃ十分でしょ。ワインセラーまであるし、タテルくんもお金持ちなのね」
「京子ほどじゃないから。年収1億ってすごいよね」
「そんな稼いでない!」
「仲良いわね2人とも。ほら、テーブルに座って。お茶が良い?ジュースもあるわよ」タテルの母がおもてなしをする。
「えいいんですか?じゃあお茶でお願いします」
「お菓子食べる?お煎餅とかチョコとか、万世でもらった饅頭もあるよ」
「あ大丈夫です、お菓子食べると太っちゃうので」
「体型管理大変だもんね。でもまさか京子ちゃんが来てくれるとは思わなかったよ」
「お父さんったら、タテルの影響ですっかりハマっちゃって」
「京子ちゃん面白いじゃん。自由奔放なところとか、食リポ下手なところとか」
「お父さんまで私のことバカにしてくる」
「アハハ。そこが京子の魅力なんだよ」
「タテル、京子ちゃんに迷惑かけてないでしょうね?」
「かけてないって」
「タテルったら、人に合わせないし気は利かないし。頭いいのに世渡り下手でね」
「妙なこだわりあるしね。腹も舌も肥えちゃって」
「京子の前で言いたい放題しないで!」
「それにしてもよく京子ちゃんと仲良くなったね。京子ちゃんの方から話しかけてくれたの?」
「そうです」
「いきなり話しかけられたからビックリしたもん」
「やっぱ不思議な子だね京子ちゃんは」
「そうですか?」

  

18時近くになったため、タテル父の運転で目当てのラーメン店「田中商店」へ出発した。
「せっかく来ていただいたので、今日は私たちが奢ります」
「いいんですか?ありがとうございます!」
「替玉券あるから食べたかったら遠慮なく言ってね」

  

最寄駅の六町駅からでさえ1km以上離れた場所にあるのに、休日には行列が当たり前のようにできる豚骨ラーメンの店。駐車場は店から少し北に行った路地にあり初見では分かりにくいが、常連のタテル一家は迷うことなく車を停めた。
「ありがとうございます。1人だったら絶対に来なかったと思います」
「辺鄙な場所だからね」
「そういえば京子と豚骨ラーメン食べるの、初めてじゃね?」
「そう言われてみれば、今まで豚骨ラーメンは無かった」
「普段どういうラーメン食べてるの?」
「百名店に入るラーメンって、醤油ラーメンが圧倒的に多いんだよね」
「そうそう。魚介豚骨なら食べたことあるんですけど」
「一番美味しかったラーメン屋は?」
「難しいですね…三ノ輪のトイボックスとか秋葉原の青島食堂とか」
「醤油ラーメンじゃなければあさひ町内会の味噌ラーメンも」
「今は何でもインターネットで調べられるんだね」
「母さんったら、全然スマホとか使いこなせないの。京子教えてあげて、インスタの使い方とか」
「タテルくんが教えなさいよ」
「インスタって何?」
「こういう感じだから。いちいち使い方教えるの大変なのよ」

  

テーブル席がようやく空き店内に通された。百名店のラーメン屋ではたんたん亭とこうかいぼうくらいでしかない後会計システム。タテルはネギラーメンを注文した。博多豚骨なのですぐ着丼する。

  

まろやかで濃厚な、間違いなくホンモノの豚骨スープが麺にじっとり絡む。ネギまみれにしたことにより香りに取り憑かれる。
タテル父母はにんにくを大量に入れる。
「本格的な豚骨ラーメンににんにくは違うと思うけどな」
「いいじゃん。私はにんにくが好きなの」
「母さんの感覚マジでわからん。テレビ観ながら寝るし」
「いいじゃん。私は早く起きてんだ!」
「タテルくん、食べてる時に喧嘩仕掛けない」
「はーい…」
しゅんとしたタテルは心配になるくらい大量に辛子高菜を入れる。辛さが新しい旨味となって一等星のように灯るのだ。
「見てよあのスープ。1人だけ全然色が違う」
「タテルさんってホント自分を貫いてますよね」
「貫きすぎ」
「でも私も一匹狼とかよく言われます」
「だから印象に残るんだな」

  

結局替玉を2回も頼んだタテルと京子。満腹になった帰り際、京子は気になっていたことを訊ねる。
「家にいる時のタテルさんの印象ってどうですか?」
「どうだろう…まあよく喋るかな」
「相撲とかクイズとか綱の手引き坂観てる時とか、うるさいもん」
「そんなにうるさい?」タテルは少しムッとした。
「うるさい。私言われてもわからないし」
「母さんだって、酒入ると俺のコンプレックス煽ってくるじゃん。結構嫌だからね」
「すぐ揉めるんだから2人とも。京子ちゃんといる時のタテルってどうなの?」父が話を戻す。
「カメラ回っていない時はそこまでうるさくないですね」
「1人の時とか家族といる時は感情が表に出やすいんだ。世話になっている人の前では良い人を演じてる」自己分析するタテル。
「京子ちゃんとタテルって喧嘩する?」
「あでも最近、喧嘩とまではいかないですけど揉めること増えてきたかもしれません」
「そうだな…」
「なんかいい関係だね。腹を割って本音を曝け出せるような友達、タテルにはいなかった。だから京子ちゃんには感謝してます」
「あ、ありがとうございます…」
「これからも迷惑かけるかもしれないけど、タテルのことよろしくお願いします」
「タテル、京子ちゃんに変なこと言わないでよ。ちゃんと思い遣ってあげる」
「言われなくてもわかってるよ…」

  

西新井駅に戻った一行。京子はバスに乗り池袋まで出る。
「今日はありがとうございました。ラーメン美味しかったです」
「京子ちゃんと色々話せて楽しかった。これからも末永くよろしくお願いします」
「気をつけて帰ってね」

  

〽︎どんな未来がこちらを覗いてるかな
「タテルくん、上機嫌だね。もしかしてそろそろ結婚?」残コットンきょんこが囃し立てる。
「そんなことないですって」
「いやいや、そんな顔してるじゃん」残コットン東村も乗っかる。
「その顔絶対『すぅきぃ』って言ってる。恋なんて興味ないって言ってたくせにさ」
「やめてよ…」
「認めるんだな?恋人いるの認めるんだな?」
「あぁもうじゃ宣言するよ!僕は付き合ってます!」
「…おめでとう!みんな、タテルくんに恋人ができたってよ!」
「今日は兆楽で打ち上げだ!」
「兆楽は行かない」
「水臭いなタテル。たまには来いよ」
「行きません!」そそくさとその場を去るタテル。
「これだからタテルは…」
「絶対別れるな、あの調子じゃ」
「な」

  

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