連続百名店小説スピンオフ『あの話、どうなった?〜忍び猫(2024年12月公開)〜』(静龍苑/清澄白河)

*『忍び猫』本編を読破してから読むとより楽しめます。初手から『忍び猫』のネタバレがあるため、先に読んでおくことをおすすめいたします。
https://todaihoteisiki-sue.com/連続百名店小説『忍び猫』1st-stage-①cepages-中央前橋/
*2度訪れた分を1回の話に纏めています。そのため写真では上タン塩・上ロース盛りが2回登場します。

  

世界に誇る日本のアスレチック番組・SASIKO。2024年の大会では、当時女性アイドルグループTO-NAのメンバーであったメイが英才教育を受けた結果、第一砦・第二砦を難なくクリア。日本人女性初の第三砦進出を決めると勢いで別次元崖衣紋掛、絶凶・垂直極限という超高難易度の障害を越えるまさかの快挙を見せた。その後の最終管滑走で着地に失敗するも、前代未聞の活躍に感心した番組プロデューサーの辰巳から、翌年の大会にTO-NAから2人分の出場枠を授与された。

  

メイは24年末をもってTO-NAを卒業したため、グループ内での選考を勝ち抜いたパルとリオが2025年大会に出場。その打ち上げを、TO-NAプロデューサー兼SASIKO選抜監督のタテルが開催する。

  

打ち上げとはいえその舞台選びには気を抜かないタテル、なんと清澄白河にある予約困難の焼肉屋を押さえていた。毎月15日解禁の電話予約は熾烈な争いだがその翌日解禁のネット予約は真剣に10時打ちをすればサラッと取れる、と彼は言う。

  

予約時刻16:30の2分前に名物女将の案内で入店する。4人以上の組で来る客も多いが1人での来店も可能で、その人は入ってすぐのボックス席(柱の関係で片方のソファが半分の長さになっている)に案内されていた。

  

「ああ、悔しい!」
乾杯のビールを呑み込むと共に嘆きの声が突き上がる。無理はない、2人とも本番では第一砦第一障害「黄水晶大変(New Prism Seesaw)」で落水したのである。
「あんなの無理ですよ!せっかく練習したのに全部水の泡!」
「ですよね。初っ端に置くもんじゃないです!」
「まあまあまあ。悔しい気持ちは解る。俺だって悔しい。でもSASIKOとは本来そういうものなんだよ」
「どういうものですか?説明してください」
「もう本っ当に悔しくて悔しくて!」

  

悔しくて堪らない時は美味いものを食うべきである。この店の名物である塩物から。最初のオーダーでしか注文できないので注意しよう。先ず中タンは、引き締まった身から少しずつ脂の旨みが出る。

  

上タンは最初から脂たっぷりだが、塩ダレが美味いので軽く食べられる。少し念入りに焼くと縁がカリカリになるのもをかし。焼いた後少し時間をおくと、脂と塩ダレの旨みが融合して何だかトリュフみたいな香りさえ感じる。

  

この日はハラミもあったため塩物盛り合わせに含めてもらった。兎に角ジューシーで柔らかく、あっさり食べられる。

  

さらにミノ塩。生焼けを気にするタテルは念入りに焼いたが、硬くなりすぎず弾力がある。味が染み込みづらい部位ではあるが、噛んでいるうちに塩ダレが少しではあるが馴染んでくる。

  

「SASIKOに予定調和なんて無い。無いからこそ面白い。悔しいけど、久しぶりに刺激的な大会だった」

  

ここ数年、制作費削減の煽りを受けていたSASIKOは新しい障害を導入することができないでいた。それはつまり、プライベートでセットを組んで、或いはセットのある練習場に行って繰り返し練習すればクリアできてしまう、ということである。勿論細かな仕様変更や本番での緊張により上手くいかないケースの方が多いのだが、第一第二砦のクリア者数がインフレ傾向にあり、砦としての威厳が薄れていた。

  

そこへ導入された久しぶりの新障害が黄水晶大変。力が加わると前後に激しく揺れる不安定なシーソーに飛び乗り、その先端から今度は着地面が5段のローラーになっている坂に飛び移る。足の置き方を少し間違えただけで回転し沼地へ引き摺り込まれるから憎い。リオは台に乗った後揺れを押さえきれず踏み切りが覚束なくて落水。パルは慎重になって揺れを抑えてから飛び、ローラーには足をかけたが回してしまいずり落ちてしまった。
「最終的に100人中50人超が脱落。これぞ大幅リニューアルの醍醐味だ」
「こっちからしたら大迷惑ですよ。呆気なく終わっちゃった」
「それも含めてSASIKOだ」
「練習した意味が〜!」
「SASIKOは練習の成果を発表する場じゃない。確かに難関障害は定着してセット練が必要になるが、一方で即興性を試す要素が強くて、それがまた面白みでもあった」
「即興性……」
「SASIKOはそんなに甘くない。文句を垂れる前に、次に繋がることを考えるんだ」

  

キムチは唐辛子の真っ直ぐな辛さが痛快である。これだけでもご飯が進んでしまう。

  

ナムル盛り合わせもまたヴォリューム満点。豆もやしやほうれん草は程良く胡麻油(?)を纏っている。ぜんまいは単体で食うには重いかもしれない。なます様のものも酸味がバチっと効いていると尚良さそうである。

  

期待はずれの結果に終わってしまった現役TO-NA勢であったが、では伝説を呼んだメイはどのような結果に終わったのだろうか。ここでいったん止めて続きは来週、なんてやったら「これが本当の崖衣紋掛(Cliffhanger)」と〆ることができるが、一枚岩に拘る当ブログでは焦らすことはしない。

  

メイも今回は第一砦で脱落。余弦波滑降でのトランポリンの踏み込みで膝が崩れ、棒に届かず沼地へダイヴ。普段なら絶対しないミス、原因はその前にあった。
「今回は黄水晶大変以外にも意地悪な改変があった。既存の魚骨は回転が逆になり今までのやり方が通用しない。そして2年前にメイを陥れた二連金剛君は2つ目が×型になった金剛君落第に。回転する×型の足場を駆け上がるのは相当脚に来る所業であり、余弦波滑降に到達した時点でメイの脚力は限界を迎えた」
「確かに異様でしたもんね。その後の反立壁を登れない人も多かったですし」
「第一砦で落ちないような人達が続々と姿を消した。ショッキングだったな」
「逆に言えばメイさん凄いですよね。新障害やリニューアル障害を越えはしているから」
「だな。ボルダリングもパルクールもすんごい究めているらしい。オモロかったもんな、はりまや橋四十八手」
「橋の渡り方にあんなヴァリエーションあったとは」
「あと通天閣の外っ側登ってましたよね」
「あれは壮観だったね。壮観で萌える」
「オリンピック出場も夢じゃなくなってきましたもんね」
「もう雲の上の存在だ」

  

*上カルビ・カルロスに加え、上ロースとして五大和牛が揃い踏み。
脂まみれの出世劇で胃がもたれ詳しく味わう余裕が無かったため説明は省きます。

続いてタレ物が登場。追加注文もできなくなさそうであるが、「上」と名のつくものは初手でないと頼めないので注意。上カルビは脂がこれでもかと溢れ出してくる。カルビとロースの中間にあるカルロスは程良く赤身がありコクがある。カカオのような香ばしさもある。しかしどちらも脂が強く、堪える人には堪えるものである。

  

「もうチャンス無いですよね私達……」
「まあ道は険しいな」

  

1大会100枠、そのうち4分の1くらいは視聴率稼ぎのため道化に充てられてしまう。残った少ない枠を懸けて厳しい予選会が繰り広げられ、勝ち上がっても本番で活躍できなければ出直しである。その「活躍」の基準が最近は上がっているようで、第二砦はクリアしないといけない雰囲気である。

  

パルとリオの場合はアイドル予選会に挑むこととなる。
「『青雲それは君が見た光』の子が凄すぎて」
「あの子はSASIKOに対する理解が半端ない。言っちゃ悪いがパルとリオは負けている」
「……」

  

次があるかどうか不安になったところへ上ロースが来た。世間一般の焼肉屋で出てくるロース肉ではなく、店主お任せの豪華盛り合わせが登場する。今回は特選栃木牛サーロイン、米沢牛トモサンカク、そしてなんと松阪牛のシャトーブリアン。合わせて1人5,000円。

  

脂の少ないものから焼く。松阪牛のシャトーブリアンなんて絶対良い肉だからと、生焼けが苦手なタテルがレアで引き上げご飯に載せた。しかし生すぎて美味しさが解らず、端の方でもう一度焼き直す。ミディアムくらいに火を通した方が、脂が纏まって旨さを実感しやすい。

  

トモサンカクは脂たっぷりのように見えるが、実際は程良い加減。

  

サーロインも意外と赤身がかっちりしていて美味しく食べられる。

  

スマホを開くと、辰巳からメールが来ていた。女性版SASIKO「ICOLA」にパルとリオを出場させる、とのことである。
「やった!まだチャンスはあった!」
「ICOLAなら陥落も夢じゃない!」
「あまりナメるな。でも期待はしてくれてるようだな」

  

飛び移り先は平坦な台であるものの、黄水晶大変はICOLAにもある。ここで如何に冷静になるか。その先は対策済みの障害が続くが油断は禁物。少しでも迷うと負けだ。そして第二砦はスピード勝負。蜘蛛走、逆流泳、そして障害間もスピーディーに。逆走工場は天井が低くてSASIKOより厄介だ。第三砦は空中戦に目がいくが真逆骨牌(Sponge Bridge)も鬼門。ここも重点的に……

  

「タテルさん、カルロス焦げますよ!」
「しまった!つい気が逸って」
「タテルさんが食べ物を疎かにするなんて」
「食と同じくらい、SASIKOもお好きなんですね」
「タテルさんの情熱、裏切らないようにしないとだね」

  

〆はテグタン。赤の発色が良くて辛そうにみえるが、玉子や牛テール、ご飯で良い加減に整っている。

  

第一砦での大量脱落も印象的であったが、第三砦では前回最終砦進出者のバンカーが順逆逆で不覚を取るなどし誰1人として崖衣紋さえ越えられず。そんな中最後の挑戦者サシコくんが意地を見せて因縁の絶凶・垂直極限を突破。最終砦に進出し魔城陥落の機運が高まるが、一歩及ばずという結果に終わった。
「SASIKOに挑む人に、悔い無く終われる人なんて殆どいない。虚しい終わり方して当然なんだよ。それでも人は陥落を信じて魔城に立ち向かう。今は前を向くこと。そして楽しむこと。それがSASIKOに対する向き合い方だ」

  

会計を済ませると、年始限定の干支キーホルダーを貰った。今年は午年、馬のように快足で砦を駆け抜け駆け上がる。
「まずはICOLAで爪痕を残す。分岐点は第三砦の崖衣紋としよう。ここまで行けばまたSASIKOに出られる」
「鍛錬します」
「メイさんと共に、桜旋風を巻き起こす!」

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