人気女性アイドルグループ・TO-NAにおけるクイズスターであるコノが卒業を発表した。その卒業制作として、過去2回挑んできたクイズ旅「プレッシャーSTEADY」を地元京都で撮影する。コノと共に挑むのは、東大卒プロデューサーのタテル、そしてTO-NAのニュークイズスター候補であるカコ、レジェ、ニコ。果たして一行はノルマをクリアして日本一の中国料理にありつくことができるのか。
その場に立ち尽くし慟哭するコノ。門出を祝ってもらえるチャンスを自らの手で潰してしまった悔しさは計り知れない。後輩達はかける言葉を見つけられず、ただ貰い泣きをすることしかできなかった。タテルも「未だゲームは終わっていない」と声をかけようとしたが、それは先程から何度も口にしていることであり、今更言ってもコノに響く可能性は無かった。やるせない感情を噛み潰して、狼狽えるメンバーの代わりに百名店くじを引く。そして絶望した。南禅寺からは程遠い、一乗寺のラーメン屋を引いてしまったのである。その事実を知り、コノの慟哭は激しさを増す。
「コノ。そんなんじゃ俺は君を送り出せない。まだ1回はできるぞ、ここで終わりたくはない」
「これ以上のプレッシャー、耐えられないですって!」
「せめて行こうぜ。行かないと始まんない」
タイムリミットは迫ってきている。だが根性論を以て無理にコノを動かすことは許されない。タテルがどうしたものかと悩んでいると、ニコがコノに肩を差し出す。
「私の肩に捕まってください。一緒に歩きましょう」
「ニコちゃん……」
「ゆっくりで構わないので、進みましょう」
ニコに触発されたカコとレジェも漸く励ましの言葉を見つけた。足取りの重いコノを全員で支え、最寄りのバス停へ歩き出す。
その時コノのスマホが鳴る。母親からの着信であった。
「もしもし」
「どうしたのコノ、涙声じゃない!」
「致命的なミスしちゃった……」
「あらら。まあそういうこともあるよ。元気出しな。これってさ、百名店行った数だけクイズできるんだっけ?」
「そうだよ」
「今気付いたんだけどね、朝に食べたパン、百名店のものだったんだ」
「そうなの⁈」
そのパンとは、先程一行が訪れていた京都御苑今出川門の程近くにあるベーカリーにて、コノの従妹アキが昨晩購入したものであった。日も暮れた遅い時間だったため大半のパンは品切れであったが、クロワッサンだけがそこそこ売れ残っていた。ステレオタイプの京都民らしくやや高圧的な店員の接客を受けて、コノ一家とメンバーの人数分購入した。
「おじさんには特別に、オレンジピールとチョコの入ったものを!」
「ありがとさん。ん?どうしたタテル君、物欲しそうな顔して」
「え?してないですしてないです」
「タテル君にあげるよ」
「いいんですか?」
「俺はいつでも買いに行けるから」

という訳でタテルは独り贅沢な方を戴く。本当はオーブンを借りたいところであったが烏滸がましいため控える。それでもここのデニッシュ生地はよく出来たものであって、1つ1つの層がとても薄く、翌日まで持ち越してもパリパリした食感が残っている。オレンジピールは1本をそのまま入れてあってこれがとても高貴な味。ショコラは控えめな量であるがオレンジピールにより味が引き立つ。生地も程よい重さであり、他のパンに対する期待も高まる。
「何の電話?」
「私達、知らないうちにもう1軒百名店行ってました」
「あのパンか。確かに美味かったもんな」
「でもあれですよね、指定された百名店じゃないと……」
スタッフは特例でクイズへの挑戦権を与えることにした。異様なほど号泣するコノを不憫に思い、卒業祝いが懸かっていることもあって温情が施される運びとなった。それでも出題場所はくじで決定する。選ばれたのは八坂神社。悪くない距離感である。
だからといってコノの気持ちが上向く訳ではない。八坂神社が近づくにつれ震え出す手。もしまた間違えてしまったらどうしよう。考えれば考えるほど不安に押し潰される。
辛辛八坂神社に到着。7月には祇園祭の舞台となる高名な神社であり、既に日は落ちていたが国内外問わず多くの観光客が詰めかけていた。立ち並ぶ屋台の数々には目もくれず本殿へと登って行く。

本殿もまた人が多く、何の為かはわからないが巫覡が忙しく動き回っていた。

時間も無いためバタバタと参拝を済ませ、人の少ない場所に移動してクイズに挑もうとした時であった。手の甲に水の感触がした。雨である。祇園に雨が降ってきた。予報に無い雨である。庇を求め急いでバス停方面へ戻る。

コノは相変わらず精悍な顔つきで八坂神社の西楼門を見つめていた。突然の雨が彼女の精神状態を物語っている。震えるのは寒さのせいか緊張のせいか。とてもクイズに挑める状況ではなかった。
「えーっと、ここからご褒美の店までは1時間弱かかるんですよね。先に近くまで行くのアリですか?」
「先に行くのは流石に……」
「コノはインターバルを取った方が良いと思うんです。あの状態で終わりというのは辛いものがあります」
情に訴えてくるタテル。スタッフ側でも、八坂神社および祇園は人が多く、クイズに挑む様子を撮影すると迷惑がかかりそうであるという事情を抱えていた。利害関係が一致した今、ご褒美の店付近へ移動し、その近辺で最後の挑戦を執り行うというフローが採択される。
この旅最後のバス、西賀茂車庫前行きの便に乗車。50分弱の時間を使い、コノは改めて心を落ち着けようとする。真面目でならした頼れるキャプテン代行・カコ(①⑥担当)が終始手を握り、あざと可愛いに裏打ちされた頭脳派・レジェ(②⑦担当)が甘々ヴォイスで声かけ、高校クイズ界に旋風を巻き起こした新進気鋭のクイズマドンナ・ニコ(③⑧担当)が良きタイミングで肩を揉む。遠くから眺めるは、演者も交渉役もできる、某クイズ集団に入りそびれた東大卒プロデューサー・タテル(④⑨担当)。全員が一丸となって、小1クイズ覇者のラジオスター・コノ(⑤⑩担当)の門出を明るくする。バスが交通公園に到着すると、コノは狼のような顔つきで降りてきてスタッフに要求をする。
「すいません、桶と氷水持ってきてください!」
ここに来てニコの根性論勉強法を所望したコノ。弱気な自分を捨てるにはこれしか無かった。ブーツとソックスを脱いで、最終問題への準備は万端整った。
〜日本史○×クイズ〜
「あぁ〜冷たい!でもシャキンとしてきた!」
「絶対取りましょう。ここまで来たんだから!」
①日本の初代内閣総理大臣は伊藤博文である
②源頼朝は室町幕府の初代将軍である
③関ヶ原の戦いは1700年に起こった
この辺りは無駄口を叩かず乗り越える。
④中大兄皇子は後の天武天皇である
「だから難易度の跳ね上がり!天智天皇だから×!」
⑤弥生時代は縄文時代より前である
「落ち着いて」
「旧石器、縄文、弥生。だから弥生は縄文より後。×!」
⑥長篠の戦いには織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の全員が参戦した
「資料集で見たことある!○です!」
⑦坂本龍馬は池田屋事件で暗殺された
「全然わからな〜い!待って、違和感無いよね。違和感無さすぎてこわい。あ〜どうしよう!」
その時レジェの脳裏を過ったのは、「ドボンはドボンの顔をしていない」という前日のタテルの言葉であった。正しいことをサラッと述べているようで実は違うのではないか。
「×で!」
⑧今日(2026/2/3)から丁度100年前の元号は昭和である
「1926年は昭和元年だけど、改元したのは年末。だから未だ大正15年ですね、×!」
⑨現代でも人気の百貨店・三越、髙島屋、大丸はどれも江戸時代に創業した
「江戸時代のイメージだけどなぁ。いやあ江戸でしょ?江戸より前ってこともあり得る?いやいや絶対江戸でしょ。ああ怖い!でも信じる、○!」
⑩京都で発生した出来事 以下の時系列は正しい 保元・平治の乱→承久の乱→応仁の乱→蛤御門の変→鳥羽・伏見の戦い
「何これ〜!わかんないよ、日本史選択じゃないし!」
「考えられるところは考えて」
「鳥羽伏見は戊辰戦争だし、蛤御門は幕末だし。承久の乱はワン・ツー・ツー・ワンでしょ。……」
中空のコノ。何度も屈辱を舐めたプレステもこれが最後の問題である。
「あと10秒!」
一瞬先の未来、その成功例をイメージする。今コノがラストアンサーを叫ぶ。
「○!」