連続百名店小説『クイズアイドル 永遠に』第10問:悲しみに暮れる前にクイズしようぜ!(六曜社珈琲店(地下店)/京都市役所前)

人気女性アイドルグループ・TO-NAにおけるクイズスターであるコノが卒業を発表した。その卒業制作として、過去2回挑んできたクイズ旅「プレッシャーSTEADY」を地元京都で撮影する。コノと共に挑むのは、東大卒プロデューサーのタテル、そしてTO-NAのニュークイズスター候補であるカコ、レジェ、ニコ。果たして一行はノルマをクリアして日本一の中国料理にありつくことができるのか。

  

急いで次に訪れる百名店を決める。これまでと同様少しでも近場、かつ軽いスイーツ系の店を引きたいところ。その願いは叶って、京都市役所から少し南下した場所にある喫茶店が選ばれた。例によってバスでの移動が可能なのだが、そのバスがタッチの差で発車してしまい、20分は来ないことが判明した。カコの言う通り、甘味処の分の問題を京都御苑で解けることになった時点で運を使い果たしたとしか思えない展開である。
乱暴な見方をすれば、ここまで問題に9セット挑んでクリアまで持っていけたのは4セット。半分にも満たない。上級2つとって調子良く最終盤に持ち込めただけで、一行のクイズの実力には疑問を抱く視聴者も多いことだろう。そんなことを考えていたら雰囲気が鉛のように重くなってしまう。

  

「おい、まだ終わってないから!地下鉄の駅も近いよな?乗り換え必要だけど早着できるくない?」
「確かにその方が早いですかね」
「そうしましょう。チャンスを1回でも多く!」

  

今出川駅から地下鉄に乗車、烏丸御池駅で乗り換えて京都市役所前で下車。立派な市役所庁舎やあの本能寺が至近であるが、それらには目もくれず河原町通を南進する。

  

目当ての喫茶店について、大元は同じ店であるのだが、食べログにおいては1階と地下1階は別々の店舗扱いで、両方が百名店に認定されている。1階にはモーニングがあり、その後は喫煙可の喫茶店。地下は正午からの営業で常に禁煙、昼間は1階には無い各国の豆を使ったストレート珈琲も提供する喫茶営業、夜はバー営業も行う。

  

一行が引いたのは地下の方であり、丁度広いテーブル席が空いていたので着席した。ドーナツなどのスイーツも気になるが、腹を満たしすぎぬようアイスのブレンドコーヒーだけ注文する。

  

「砂糖は入れてしまってよろしいでしょうか?」
「砂糖……えっ?コノ、京都のブラックコーヒーってデフォで砂糖入るもの?」
「京都だから、って訳ではないですけど、この店は入れてます」
「じゃあ店のやり方に倣おう」

  

缶コーヒーを除けば人生で初めて飲む、ブラックコーヒーの砂糖ありミルクなし。そのまま飲むと苦味の強い類と思われるコーヒーだが、砂糖を入れることにより苦味が丸くなって洒落た味になる。これは夏に飲みたい。暑い体に堪える苦味を砂糖で中和し序でに糖分補給。

  

本当は産地別のホットコーヒーやウイスキーコーヒーなども嗜みたいところだが控えておく。午前中までの雰囲気であれば歓談するところ、余裕のない一行は黙々と、世界地図や日本史用語集、漢字ペディア等を転々と眺める。側から見れば受験生である。店内は決して広くないので長居はしないでほしい。

  

次の出題場所が南禅寺に決定してからも、ルートを確定させそそくさと会計を済ませ地下鉄に乗ると勉強に集中する。インクラインを訪れるために降りた蹴上駅へ再び降臨する。二度手間である。

  

ねじりまんぽという小さな隧道を抜け暫く歩くと現れる南禅寺。臨済宗における最高位の寺院であり、京都五山および鎌倉五山の上をいく格式高い場所である。

  

そうと聞いたらぜひ方丈を拝観したいところであったが、時刻は16:10を過ぎており、これまたタッチの差で拝観受付時間に間に合わなかった。

  

「入りたかったのに!」
南禅寺を訪れることが夢だったニコがあからさまに悔しがる。普段は落ち着いた印象のあるニコが感情を出してしまいたくなるくらい雰囲気は張り詰めていた。

  

「ちょっとみんな。今の感じ、TO-NAらしくないよ」
口を開いたのはコノであった。
「さっきから血眼になって知識詰め込んでいるけど、雰囲気重すぎてちょっと居心地悪い」
「みんなが私のために尽くしてくれてることはわかる。でもつまんないよ今の旅」
「……」
「緊張感は大事だけど、もっと楽しくやりたい。私の卒業旅行だよ?昨日の晩みたいにキャッキャしようよ」
「したいですよぉ!したいですけど……後悔の残る終わり方は嫌で」
「まあそうだけど」
「口では結果なんてどうでも良い、と言いましたけどやっぱりダメです!だから頑張らないと」

  

するとタテルがフォトジェニックな構造物を見つけた。上に何か通っていそうな、アーチ状の煉瓦造りの橋。これは水路閣という、蹴上インクラインと同じく琵琶湖疏水を構成する水路橋である。

  

こういう遺産は遠くから見て楽しむもの、と思っていたが登り口があった。取り込み中のメンバー達をよそに揚々と段を登り水路に出る。

  

「ちょっとタテルさん!」
「うわあ、いいねぇこのスリル!油断したらザブーンだぞ」
「カコちゃんなら落ちずに鉄骨ポンポンポンって渡り歩けそう」
「やってみたら」
「やめてください!」

  

「これ先の方へ歩いて行けるんですかね?」
「行ってみる?」

  

足下に用心しながら茂みの方へ歩いて行く。やがて広場が現れた。もう少し行けば蹴上インクラインの上部、という地点である。太い水道管のような物と共に京都の街並みが映える。

  

ちょっとした冒険を経て、修学旅行らしい気分を取り戻した一行。今度こそ最高のフィナーレを決めたいところである。

  

〜世界地理○×クイズ〜
①パリはイギリスの首都である

「フランスだよね?だから×。ああ当たり前のことでも怖い!」

  

②今年の冬季五輪が開催されるミラノはイタリアにある
「ま〜る」
「レジェにはいずれミラノコレクションに出てほしい」

  

③マチュピチュはペルーにある
「世界遺産ならお任せください。○」

  

④グリーンランドはカナダ領である
「おお難易度上がった。これはデンマークだから×」

  

⑤プーケットはベトナムにある
「リゾート地詳しくない……けどまれのすけさんのメンバーが写真集で行ってた。あそこはタイだ。×!」
1周目をクリア。ここまでいけるだけでも大したことである。

  

⑥日本とロンドンの時差は9時間である(サマータイム無し)
「地理の授業でさんざん意識してた。○」

  

⑦国名と首都名が一致する国はシンガポールのみである
「わかんなぁい。あるのかな。小さな国だとあり得そう。あると思います、×!」

  

⑧モハメド・アリの試合が行われたことで有名なキンシャサは現在のコンゴ共和国にある
「首都は全部憶えたので!キンシャサはコンゴ『民主』共和国の首都なので×です!」

  

⑨日付変更線は全て海上を通る
「絶妙なとこ突くな。考えろ。あれ派手にギザギザしてるよな。直線にしない理由……陸地通っていたらそれがどこか押さえてるはずなんだよな。日付変更線跨いで反復横跳びしよう、とか考えるもん。全部海上だな、○!」

  

時間を使って考えた甲斐あって、遂にアンカーのコノへ運命が託される。

  

⑩サハラ砂漠がまたがる国は10ヶ国以上ある
「うわあ、これはもう運だね」
「あと20秒!」
「えーどうしよう!サハラ砂漠は大きいもんね、なんて言ってさっき北海道の大きさ過大評価したしなぁ」
「あと10秒!」
「お願い、当たっててください!×!」

  

コノの願い虚しく、3回目のチャレンジは後一歩のところで失敗に終わった。先進国の多くが国家承認していない西サハラ地域を含めても10ヶ国は下回らない。言葉が出ないコノ。そして自ずと涙が溢れ出す。

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