人気女性アイドルグループ・TO-NAにおけるクイズスターであるコノが卒業を発表した。その卒業制作として、過去2回挑んできたクイズ旅「プレッシャーSTEADY」を地元京都で撮影する。コノと共に挑むのは、東大卒プロデューサーのタテル、そしてTO-NAのニュークイズスター候補であるカコ、レジェ、ニコ。果たして一行はノルマをクリアして日本一の中国料理にありつくことができるのか。
自らの手でドボンを引いてしまい、すっかり落ち込んでしまうタテル。
「東京五輪の時、47都道府県メダリスト揃った、ってニュースでやってたよな。今思い出した。何やってんだろう俺」
「元気出してください。まだ終わってませんから!」
「そうですよ、クイズできる人でも、ドボンや2択にとことん弱い人いるじゃないですか」
「……いたな。この前も期待に違わずやらかしてた」
どこかの軍曹のことを思い出しケロッと立ち直ったタテル。他人の不幸は蜜の味、と言わんばかりの急な態度の変化であった。もう少し反省しては如何。
そしてここで、一度に2ポイント取れる上級問題が、あと1セットしか用意されていないことが発表された。現在4ポイント獲得、高級中華まではあと3ポイント。次のセットを落とすと、8時間で3セットクリアして店に向かわなければならない。昨日のペースを鑑みると間に合わない可能性が高い。
「じゃあ昨晩の2軒目分の問題、やりに行きましょう。くじお願いします」
次の出題場所に選ばれたのは大徳寺であった。
「ああ、大徳寺納豆でお馴染みの」
「大徳寺納豆?」
「京都民でも知らないのか。発酵が進んで塩辛い旨味が詰まった、中華でいう豆豉みたいな食材だ」
「回鍋肉や麻婆豆腐に入れると美味しいやつですか?」
「そうそう。お、ミッションも大徳寺納豆を購入、だって」
「早速行きましょう」
———
深夜の祇園を歩く一行。町家の並ぶいかにも京都らしい街並みであり、目当てのバーも外から見れば料亭の面構えである。中に入ると、右脇に2階へ続く階段が見える。どうやら座敷席があるらしいが、今回は1階のシンプルなバー空間に入りテーブル席に通された。
*実際の店舗での運用は不明です。筆者は1人でカウンターに座りました。

そろそろ京都らしい蒸溜酒を飲んでおきたいと思ったタテルは、季の美でジントニックを拵えてもらった。柚子や山椒、玉露、赤紫蘇など京都らしいボタニカルを使用し、ブレが生じないよう個別に蒸溜して配合していることでお馴染みの季の美。しかしジントニック自体はライムの果汁に思いの外溢れており、ジンの魅力を感じ取ることはできなかった。ジンを味聞きするのであればジンソーダが最適なところ、ジントニックの方がよりバーテンダーの手技が光るのではないか、単にソーダで割るよりお得なのではないか、等考えて後者を選んでしまった。やはり考えすぎは良くないものである。
作家脳のコノが場を回し始めた。一行の中で唯一競技クイズを経験しているニコに興味津々の様子である。
「クイズ研究会ってさ、問題を解くだけじゃなくて作ることもするんだよね?」
「しますね。私も沢山作りました」
「問題作る時意識してることって、何かある?」
「やっぱり正確さ、ですかね。裏取りを徹底して、別解が出ないか、表記揺れも想定するとか」
「そうそう。意外と考えること多いんだよね」
「その上で問題文の美しさも磨きます。短く、かつどこでボタン押してもらえるか、も意識して」
「手間暇かかってる〜」
「問題作ってくださる方々に感謝ですね」
「問題のネタ探しってどうしてるの?」
「本を読んだり新聞読んだり、あと先人の方々が問題集作ってくださっているのでそこから着想を得たり」
「日常生活全般にアンテナ張ってる感じなのかな。些細なことでも掘り下げて知識として蓄える」
「そうですタテルさん!少しでも気になることあるとすぐスマホで検索しちゃいます」
「カズキレーザーさんと同じだ。すぐ調べたくなるからスマホ手放せない」
「良いスマホ依存ですね」
「憧れるでしょ」
「いや、それは……」

次飲む酒のイメージを欠いていたタテルはメニューを貰うこととする。オリジナルカクテルも気になるが、このバーはフィンランドに縁があるらしく、フィンランドはじめ北欧産のウォッカやアクアヴィットを取り扱っている。
「フィンランドのウイスキー?珍しいな。五大産地はスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本」
「日本が入っているの誇らしいですね」
「だろ。折角だからフィンランドウイスキー、試してみっか」

冷涼で寒暖差の緩やかな気候、大麦の栽培も盛ん。ウイスキー製造の潜在能力に期待が集まるフィンランドよりの旗手「テーレンペリ」を、ここではクロ、サヴ、カスキの3種類取り扱っていて、タテルはクロとサヴを選択した。クロはシェリー樽熟成。シェリー樽熟成らしく、レーズンに喩えられるような濃く甘美な味わいが確と感じられる。サヴは穏やかにピートを効かせたもの。穏やかにピートを効かせたものらしく、細やかな燻製香がモルトのしなやかな甘みに溶け込みそれを押し出してくれる。どちらも特徴がはっきりしており、初心者でも良さのわかるものである。タテルに勧められ、メンバーも続々とソーダ割りで注文した。
「競技クイズとテレビのクイズって、やっぱ違うもの?」
「全然違いますね。テレビのクイズは、老若男女みんなが平等に楽しめるものだと思います」
「なるほど」
「テレビのクイズに競技クイズ持ち込むと、視聴者はついていけないからな。一時期の高校生クイズとか、殆どの人は1問も解けなくて退屈だったと思う」
「言われればそうですね。格好良いとは思いましたが」
「問い方は変えても、最終的には都道府県名とか夏目漱石とか、万人が知っているものに着地する」
「そうなんですよ。その分1つ1つの物事を深く理解しなきゃいけなくて、それが却って難しいんです」
「クイズプレーヤーが能動的に仕入れる知識が、芸能人が受動的に身につける知識に敵わない」
「そうですそうです!レジェさん良いこと言いました」
「その点俺は後者寄りだな。学生系とかマジでとっつきにくい」
「タテルさんは高校生クイズ、出ようと思わなかったんですか?」
「思ったよ。だけど最終的には頓挫した」
高校1年生のタテルは、自分にはあんな難問解けないと、高校生クイズへの応募を避けていた。しかしその年から高校生クイズは難問傾向を取りやめ原点回帰。タテルにとって丁度良い難易度のクイズとなっていたが、内容がつまらないと感じたタテルは2年目も応募を避けていた。2年目はアメリカ横断ウルトラクイズの復刻版ともいえる内容で、これなら出てみたい、という気持ちが強くなった。しかし3年生ともなれば受験勉強真っ只中であり、タテルは相方を募るも皆に断られてしまった。おまけにタテル自身も東大模試の判定は最底辺であり、アメリカ横断などしている場合ではない、と担任団の先生に叱られてしまう。結果的に高校生クイズへの参加は叶わなかった。
「せめてもう1年、変化のスパンが早かったらなぁ」
「惜しかったですね」
「今こうやって皆とクイズやれてるの、青春って感じがして楽しい。コノもそうだろ?」
「勿論です。旅をしながら、悔し涙も嬉し涙も流して。こんな経験ができるなんて夢にも思わなかったです」
「コノが真摯にクイズに向き合ってくれたお陰だ。後輩にもその姿勢を受け継ぐ。2日目はもっと楽しもう」
会計を済ませ店を出た一行。静かに円陣を組んで、タテルはホテルへ、メンバーはコノの実家へ向かった。
———
京都タワーから大徳寺へは、先ず地下鉄で北大路まで移動。そこには大きな地下バスターミナルがあり大徳寺方面へ行くバスが発着する。本数は多いはずなのだが、10分経ってもバスがやってこない。焦りが生じるタテルだが、コノが再び場を回して気を紛らわせてくれた。
北大路から25分かけて大徳寺前のバス停に到着。看板の案内に従って入口へと向かう。

その前に大徳寺納豆を売る店が数軒現れた。
「大きいの買います?」
「いや、そんな使わないだろ」
「おつまみになりません?」
「塩辛いと思う。関東人にとっても」
小さいサイズの大徳寺納豆を購入し、クイズに参加する一般人を探す。しかし大徳寺はマニアックなスポットでありなかなか人を集められない。

広い敷地内を彷徨っていると、コノの従妹Bが突如驚きの声を上げた。
「え、久しぶりじゃん!」
「ああ、久しぶり!」
高校生クイズでベスト4まで進んだ際、優勝チームにいた男子学生とその家族に再会したB。父親もまたクイズの猛者であって、ミラクルアタック225の年間王者に輝いたこともある。
「月見里225くんじゃん。元気にしてた?」
「元気だよ。懐かしいなその渾名」
「懐かしいね。……」
「どうした?悩みでもある?」
「まあね。何か、うん……」
「あれ、あの人は確か小鳥遊256…」
「タテルさん違いますよ。漢字3文字の難読苗字、という点でしか合ってませんし、16じゃなくて15の平方ですし」
「よく的確にツッコめたなニコ。大抵の視聴者はポカンだぞ」
丁度4人家族であったためプレステに参戦してもらうことにした。次のセットは2択問題である。
「B、俺の枠に入れ」
「私がですか?無茶ですよ!」
「君ならできる。自信を取り戻すチャンスだ」
クイズ好きの月見里母・妹から始まり、カコ、レジェ、タテルまでが前半。そしてニコ、月見里父が続き、8枠に月見里225、そして彼の戦友たる京大志望B、Bの従姉コノへと繋ぐ最強の布陣。

清水や金閣などと比べると知名度は劣るでしょうこの大徳寺、しかしあの一休を輩出し、茶の湯との関わりも深い名刹でございます。知る人ぞ知るこの寺に集いし者は、クイズ界の猛者揃い。プレステ上級最終セット、きっとクリアしてみせることでしょう。いくぞ、英語2択問題!
次の日本語に相当する英単語を選びなさい。
「番号を指定したら問題が出ます。選び直しはできません、自分で選んだ番号の問題を責任持って解答してください。間違えたら即終了、失敗となります」
誤答の許されない難しいゲーム。①から順に開けるのが定石である。
①りんご apple / grape
②光 light / right
早速迷いやすい問いに直面するが、学のある者なら迷わない。
③アイドル(偶像) idle / idol
「アイドルがこれ間違えちゃダメですよ。idolです」
④餅 rice cake / rice cookie
「は〜い、rice cake」
⑤協力 cooperation / corporation
「カタカナで考えるから迷う。共にオペレーション、cooperation」
危なげなく、クイズで名を馳せた強者達へバトンを繋ぐ。まずは『西大后』高校生大会2022準優勝チームリーダー、TO-NAのニコ。
⑥先進国 developing country / developed country
「えーっと、先進国は既にdevelopしてるから、developed country」
続いてはミラクルアタック225の2018年年間王者、出版社勤務の月見里父。
⑦大食いする eat a cow / eat a horse
「午年にぴったりの問題ですね。eat a horse」
さすが猛者、迷いなく正解を選び抜く。順番が近づき不安に苛まれるB。
「コノお姉ちゃん、私できるかな……」
「大丈夫だよ。元気出して」
そっと両肩を押さえ、Bに愛と勇気を与えるコノ。自身にもアンカーのプレッシャーがあるだろうに、優しくて温かい女性である。
高校生クイズ優勝チームメンバー、現在は一橋大学に通う月見里225。
⑧鰯雲 bonito sky / mackerel sky
「鰯はsardineだけど選択肢には無い。鰹雲か鯖雲?……そっか、鰯雲はさば雲とも言うから、mackerel skyかな?」
圧巻の推察力でBにバトンを繋いだ月見里225。
⑨仏頂面 a short face / a long face
「あれ待って、わかるかも!a long faceです!」
ここまでの不安などなんのその、自前の知識で難問を即答したB。漸く表情が緩んできた。
「コノお姉ちゃん頑張って!」
運命は小1クイズ全問正解1000万円獲得経験者・コノに託された。
⑩温州みかん satsuma / tosa
「うわあ全然わかんない!」
「時間いっぱい使って」
「薩摩か土佐?どっちも蜜柑のイメージない」
作家脳をフル回転させながら決め手を探るも、自信を持って解答するには至らなかった。
「ごめんなさい、運任せで!satsumaだ!」
大正解。上級最終セットを見事勝ち取った。
「でかしたぞコノ!」
「お姉ちゃんかっこいい!」
「本当に勘だよ。え、知ってる人いた?」
タテルと月見里225が手を挙げた。
「薩摩藩からアメリカに温州みかんが伝わったからsatsumaになった、でしたかね」
「そうなんですね。また一つ勉強になった」
「俺代わってもらって良かった。いつも通り9枠だったら外してたかも」
「流石だねアキちゃん。変わらず強い、あの時と」
「アキちゃん?あそっか、名前訊いてなかった」
「はい、アキと言います!」
「良かった、明るくなって」
「会えて嬉しいよ。アキちゃんが大学生になったら、またクイズしようぜ」
「うん!」
高級中華へ王手をかけると共に、コノの従妹を元気づける任務まで完遂した一行。しかしそう一筋縄でクリアできないのがプレステ旅というものである。