人気女性アイドルグループ・TO-NAにおけるクイズスターであるコノが卒業を発表した。その卒業制作として、過去2回挑んできたクイズ旅「プレッシャーSTEADY」を地元京都で撮影する。コノと共に挑むのは、東大卒プロデューサーのタテル、そしてTO-NAのニュークイズスター候補であるカコ、レジェ、ニコ。果たして一行はノルマをクリアして日本一の中国料理にありつくことができるのか。
「なんで私呼ばれちゃったかな……」
「それはテストの成績が良かったから」
「学力テストはできても、知識は持ち合わせてないです。思考力も足りてないと思いますし」
「キャプテンが闇に堕ちたらゲームは終わりだ。いいか、これはコノの修学旅行だ。コノが諦める前にカコが諦めてどうする」
「そうだよカコちゃん。まだ挽回の可能性はある。私は諦めたくない」
「コノもこう言ってる。早く甘味処行くぞ、閉店まで時間がない」

閉店15分前に甘味処に駆け込んだ一行。前に2組注文を待つ客がいたが、メニューを見極めるには最適な待ち時間であった。最初に新幹線改札内にて入店した店と同じ系列であるが、ここでは下鴨神社伝統の「申餅」が提供されている。かつて葵祭の期間中よく食べられていたのだが、明治の始まりと共に廃れてしまっていた。それを2010年、宮司の口伝を参考にして宝泉堂が復刻させた。この甘味処でしか戴くことのできない貴重な菓子である。

餅のほんのりとした茶色(朱華色)は、小豆の茹で汁で餅をつくことに由来する。分厚めの餅だが食感口当たり共にとても美しく、中の餡からは丹波小豆の力強いアタック。強さと美しさを兼ね備えた素晴らしい菓子である。
「食べることで身体を清め、元気の気をいただき、無事息災に過ごせます……」
「そう聞くと何だか元気出てくるな。だろ、カコ?」
「出ますねこれは」
「体の内から何かが湧き出している感覚です」
「それな。胡散臭いかもしれないけど本当に力湧く。桃太郎のきび団子的な」

さらにタテルは温かい豆茶で物理的にも内臓を温める。香ばしい黒豆のエッセンスはそこそこに抽出され、面白いのは出涸らしの豆も食べられる点である。そのままでも黒豆本来の香ばしさが心地良いし、塩を少し合わせれば甘みも強調される。
「どこで止めようかな。残すの勿体無いけど全部食うと腹膨れるし…」
「ちょっと待って、ニコちゃんまた泣いてる!」
「団子食べながら」
「ハクにおにぎり渡された千尋かよ」
「どうしてこうくよくよしちゃうんだろう私……」
「ニコはアイツみたいなところがあるな」
「アイツって誰ですか?」
「DIVerse時代の圧倒的インテリジェンス先輩。期待背負ってクイズ番組出て、でもすぐ敗退してしまって。裏ですごい泣いてたらしい。それでもクイズが大好きだから、自分の可能性を信じて血の滲むような努力して、遂に優勝を勝ち取った。あれは格好良かった。惚れたな」
「今でも胸が熱くなりますね」
「ニコもいずれそういう存在になるんじゃないかな。自分に期待するから情けなくて泣く。そして前進する。いっぱい失敗しろ、それでも情熱を灯し続けろ。クイズ界のスーパースターになる日は近い」
タテルの今度は温かい激励を、ニコは何度も頷いて噛み締めた。
この日最後となるであろう出題の舞台を決める。夕食の店が丸太町にあり、その予約時間のことを考えると二条から五条くらいには収まってほしいところである。
「どうだ?……三条大橋!」
「東海道の終点だ。良いところ引きましたね」
「河原町三条まで下りて少し歩く感じ。アクセスも良好ですね」
盆を返却口に持って行く。早くバスに乗りたいところであったが回収が間に合っておらず置き場所が無い。すると同じく盆を下げに来た女性が奥の店員に目配せして盆を片付けるよう仕向けてくれた。
「コノさんですよね」
「あ、はい!TO-NAのコノです」
「毎週聴いてますよラジオ」
「うわあ、ありがとうございます!」
「卒業してもラジオ続けてください。コノさんのお話が大好きなので!」
「嬉しいです……ダメだ涙出てきちゃう」
温かい人との出会いもまた旅の醍醐味。連敗で澱んだ空気もすっかり軽くなり、意気揚々と次の問題に向けてバスに乗り込んだ。

三条大橋は鴨川に架かる橋である。関東人は鴨川と聞くとどうしてもシーワールドを思い浮かべてしまいがちだが、カップルが等間隔に並んだり現代の酷暑下では納涼とはならない川床があったりする、京都を象徴するスポットである。

「綺麗ですね〜。川床もライトアップされてて」
「京都らしい夜景」
「暫くボーッとしていたい」

三条大橋は、大正時代に行われた日本初の駅伝におけるスタート地点としても知られる。ここから東京上野不忍池まで、夜も休まず2日間かけて繋いだと云う。そんな場所で出題されるのはドボン問題。問題文と共に11個の項目が示され、そのうち1つだけ問題文の条件に反するもの、つまりドボンがある。それを避けながら1人1つ項目を解答し、10人全員がドボンを避けて正解を選びきることができたらクリアである。サドンデスの恐怖が付き纏う究極のプレッシャークイズである。
箱根駅伝のコースの沿道(1km以内)にあるものを選べ。
「直線距離で1kmです。また、その施設の敷地全体ではなく、一部でも1km以内にあれば良しとします」
・日本橋
・東京駅
・東京タワー
・横浜ランドマークタワー
・江の島
・サザンビーチちがさき
・大磯ロングビーチ
・小田原城
・箱根湯本あじさい橋
・彫刻の森美術館
・箱根神社平和の鳥居
「うわあ悩ましい。でもたぶん湯本は通るはずだから、あじさい橋。ふぅ助かった……」
通っている大学が箱根駅伝の常連校であるレジェとカコも、それぞれ大磯ロングビーチと日本橋を選び難なくドボンを回避。そして一般人5人もプレッシャーを跳ね除け、ランドマークタワー・江の島・平和の鳥居を残してタテルへ繋いだ。
「ドボンはドボンの顔をしていない。これは大丈夫だと思うな、平和の鳥居!よっしゃあ!」
恐らくタテルはドボンの項目をわかっているものと思われた。ドボンはドボンの顔をしていない、これは間接的なヒントではないか。
「行きます!横浜ランドマークタワー!」
大正解。最後までドボンを回避し、やっと2つ目のクリアを手にすることができた。
「ナイスコノ!よく江の島を避けた」
「自信は無かったです。でもタテルさんがそれとなく導いてくださって」
「導いた?」
「江の島はセーフに見えるじゃないですか。箱根駅伝といえば湘南のイメージがあって、中継でも映っていた気がします」
「ランドマークタワーも結構ギリだと思うけどね」
タテルの言う通り、セーフの項目の中で一番コースから離れているのはランドマークタワーである。
「海沿いに出るのが茅ヶ崎からなんですよね。江の島はその手前なので遠いのかな、と思いました」
「よく見極めた。さすが東京インテリのカコ」
「なぜに東京」
「そして横浜インテリのレジェとニコもお見事。皆さんはどちらから?」
「平塚から来ました」
「さすが湘南インテリですね」
「やだあ、インテリだって!ご冗談がお上手で」
こうして一行は2つ目の七福神ストラップ・大黒天を獲得した。打ち出の小槌で金運アップ、TO-NAの財政が潤うことを期待する。
しかし中華への道のりはあと5つと遠い。ここで追加ルールが発表される。今までより難易度の高い問題に挑む代わりに、1セットクリアで2つキーホルダーを貰うことができる、というものである。
「初級セットを1つ、上級セットを2つ取れば最短3ターンでコンプだ」
「そう上手くいきますかね」
「やってみないとわからんよ。やってみようぜ」
「コノさん男前ですね」
「よし、明日は上級を攻めよう」