連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』夏休み厚木SP 2杯目(ZUND-BAR/七沢温泉)

綱の手引き坂46特別アンバサダーを務めるタテル(25)は、エースメンバー・京子(25)とラーメンYouTube『僕たちはキョコってる』を運営している。いつもは都内のラーメン店を巡っているが、今回は夏休み特別編として、同じグループのメンバー・スズカ(22)と厚木市内のラーメンを食べ尽くす。

  

〽︎One and only darling 駆けぬけるゼブラのストライプ
スズカと京子の歌声は、ラーメンの脂が喉を潤しより艶やかになっていた。
「ここからは昭和の曲歌わない?」京子が提案する。
「いいですね」
「俺も昭和歌謡大好き。フォークやグループサウンズもいいよね」

  

〽︎恋人よぼくは旅立つ〜
「いいね2人。スター誕生してるよ」
「ありがとうございます!」
「タテルくんは何歌う?」
「じゃあ陽水さんいってみようかな」

  

〽︎探しものは何ですか?見つけにくいものですか?
「皆さん、気持ち悪いですか?」
「そんなことないって。夢の中へ行きたくなるよね」
「そうですね。今晩はどんな夢見られるかな」

  

「次なる対決の舞台はこちらです!」
「森の中…」
「私マジで無理。自然の中に入るのすら嫌」案の定拒否反応を示すシティガール京子。
「ここで行うのは、ツリーアドベンチャー対決です!」
「楽しそう!」アクティビティ大好きスズカの目が輝き出す。
「SASUKEみたい!京子さんもタテルさんも大好きですよね」
「観てる分にはね。やるのは自信ない」運動音痴の大男タテル。
「嫌だ。怖い」三半規管が弱く高所恐怖症の京子。
「今日は特別に3コースピックアップしています。3コース全部を最も速く走破した人が優勝、最も遅かった人が次の店で自腹です」

  

一番手は乗り気のスズカ。
「たーのしーい!永遠にやってられる」
「信じられない。なんであんな楽しそうなのよ」怖気付く京子。

  

〽︎Fu Fu Fu Fu Fu 準備OK?
アスレチックの途中にも関わらず、スズカは踊る余裕をみせた。
「イカれてるよスズカ」
「日本のSASUKEでエリア間にアクロバット挟むアメリカ人か!」マニアックなツッコミが冴え渡るタテル。

  

「わーい!」スズカはターザンロープを無邪気に下りゴールした。
「もう終わっちゃった…」
「よく楽しめるね」
「私もうちょっと遊んできてもいいですか?」
「…いいよ。ご自由にどうぞ」

  

続いてタテル。体が重たいためスズカほど速くは動けなかったが、森の中で体を動かす喜びを味わった。
最後は京子。生まれたての仔鹿のように足がすくみ全く動けない。
「あれ?京子さん、まだそこなんですか?」1周して戻ってきたスズカが挑発する。
「本当に無理なんだって!」半泣きで叫ぶ京子。結局貸切の時間が過ぎ、京子は途中リタイアという形で自腹が決定した。

  

「楽しかったYO!YO!YO!YO!」相変わらずハイテンションのスズカ。
「なんか変だよ、スズカ」
「それな。おかしなものでも飲んだんじゃない?」
「卵子の頃からアタイはパリピ!」
「ねぇ、スズカってこんなダル絡みしてくる子だったっけ?」
「しないよ。私も初めて見た」
「奇妙だな…」

  

〽︎渚のはいから人魚
昭和歌謡モードが続く車内。
「タテルさんが歌ってて一番気持ちいい昭和歌謡って何ですか?」
「神レンチャン観て知ったんだけど…」

  

〽︎薔薇より美しい ああ君は〜
「くるっくぅ!」
「きゃあっ!」

  

  

スズカは危うく衝突事故を起こすところでした。幸い損傷はありませんでしたが、同乗者は当然不安に駆られます。
「スズカちゃんどうした?」
「俺が悪かった?今度は『変わった』がどうしても『くるっくぅ』になって…」
「タテルさんのせいじゃないです!私が寝不足なんです…」
「どうりでテンションおかしいなと思った」
「実は昨日の仕事終わり残って練習してて、寝たの朝5時なんです」
「何だって⁈」
「練習しないと不安すぎて止められなかったんです。本当にごめんなさい…」
スズカは涙ぐみ憔悴しきっていました。
「調子悪そう…ちょっと休もうか。タテルくん、大石田さん、いいですよね?」
「時間はまだあるから大丈夫ですよ」
「休んだ方がいいね」

  

京子の判断により、一行はしばらく休むことにしました。自身の運転ミスで先輩を命の危機に晒してしまったスズカを励まそうと、タテルは例によって歌い出します。

  

〽︎○*¥■%♡◇ TIRO・TIRO・TIN
京子はゲラが止まりません。ナンセンスな歌を真面目に歌い上げるタテルの姿を見て、スズカは元気を取り戻しました。

  

(大山名水がふつふつ湧く→ラーメンの出汁をぐつぐつ煮る→麺をぐつぐつ茹でるサブリミナル映像)

  

しかしこの時、スズカは大事なことに気づいていなかったのです。

  

—本当は怖いラースト〜呪骸スープ〜—

  

運動してお腹を空かせた一行は、近くにある名店「ZUND-BAR」に到着。京子も大好きだというラーメンチェーン「AFURI」の総本山です。山奥にも関わらず多くの客が訪れ、ピークタイムを過ぎても待ちが発生しています。駐車場脇の小川に降り素足を浸し待つこと20分。店内に入ると、タテルはひとりパイナップルビールを注文しました。
「タテルくん、余計なもの頼まないで」
「いいじゃないか、今日はお祭りだよ」
「私が奢りの時いつもビールとか頼むんだ」
「それ多分京子さんのこと信頼してる証ですよ」
「えー、そう?」
「好きな人にはそうしたくなるものですよ」
「スズカちゃん、恋愛したことあるの?」
「いや、ないですけど…」

  

待望の塩ラーメンがやってきました。鶏油の量が少ない「淡麗」と多い「まろ味」が選べますが、タテルは淡麗を選択しました。出汁は海老のような味がし、丁寧に炙られたチャーシューの焼き目が香ばしい一方、麺が角立ちすぎて優しいスープに合いません。出汁を味わいたい気持ちもわかりますが、まろ味にした方が麺との一体感を楽しめることでしょう。

  

「優勝したスズカさんにはAFURIのギフトを送ります。ラーメン3食と丼2種入りセットを2セット差し上げます」
「嬉しい!」
「もちろん京子さんがお支払いです。追加で16720円お納めください」
「は⁈高すぎるって!」
「京子さん、ゴチになります!」

  

午後3時半、一行は七沢温泉の旅館に到着しました。
「あ、部屋にお手洗いないんだ。布団敷くのもめんどいし、これだから旅館は…」
「タテルくん、贅沢言わない」
「旅館だって味わいあって楽しいですよ」
文句の多いタテルを、京子とスズカが牽制しました。

  

夕食の時間まで、女性陣と男性陣は一旦各々の部屋に別れることにしました。
「タテルさん、温泉行きましょう」スタッフ大石田がタテルに問いかけます。
「もう行くんですか⁈」
「ずっと部屋に居てもすることない」
「一人でひっそり入ろうと思ったのに…大石田さん、俺の裸見ないでくださいね」
「見ませんって。誰もタテルさんの裸なんか見ないから」

  

荷物を整理する京子とスズカは、ここでようやくあのことに気づきます。
「あれ、おかまたち濱内さんのキーホルダーがない…」
「あらら…どこかで取れちゃったのかな?」
「車の中にあるかもしれない…ま、明日探してみるか」
「じゃあ温泉行こう!」
「行きましょう!」

  

4人は心ゆくまで温泉を堪能し、気づけばあっという間に夕食の時間となっていました。
「いただきます!」
「あぁ…温泉、気持ち良かった〜」
「スズカちゃんの温泉の入り方、クセがスゴすぎて」
「めっちゃ気になる」
「頭を湯の中に入れて、足を外に出してるの」
「何それ⁈犬神家じゃん!」テンション高くツッコむタテル。
「イヌガミケ?」
「…えっ?犬神家知らない?逆立ちして湯に浮かんでるやつ」
「知りません」
「普通に通じると思っていたのに…」
タテルは実年齢以上に古い趣味をお持ちのようです。一人でビール1杯と日本酒3合を飲み干し上機嫌でした。

  

「ではこの後の行程を発表します。まず男性陣の部屋に集まって明日1軒目での自腹を懸けた対決を行います。その後、肝試しがてら夜景を観に行きましょう」
「俺おばけ苦手…」
「でも私たち3人なら怖いものなしですよ」
「宿泊学習みたいで楽しいよね」

  

真っ暗にしたタテルと大石田の部屋。
「じゃあ対決を始めましょう。対決内容は『持ち寄りホラー対決』です」
「何で肝試しの前に怖がらせるんだよ」不満げなタテル。
「皆さんには1人30分以内で『怖いもの』を紹介していただきます。京子とタテルからは事前に『怖い作品』をリクエストしてもらったので映像持ってきました。梅グループのDVDプレーヤーで観ましょう」
「スズカは何する気だろう…」

  

京子、タテル、スズカの順番で紹介していくことになりました。まず京子が持ってきたのは、『世にも奇妙な物語』から『ががばば』です。

「うわっ!ダメだダメだ…」
「これだけじゃないからね。実際に『ががばば』って検索してごらん」
「…キャーーーーー!よせよ京子、こんな怖いもの持ってくるなって」
「タテルくんってビビりなんだね」
「ビビりだよ!」

  

そんなタテルが持ってきた作品は、20年近く前に放送された『本当は怖い家庭の医学』のある回でした。
「医療番組?」
「そうだよ。でもナメてかかってはいけない。小1の時から俺を苦しめてきた恐怖、味わってもらおうじゃないか…」

  

水虫の女性。仕事で忙しい中つかの間の休暇で旅行に行きます。すると旅の途中、脚全体が最初は赤く腫れ、放っておくと紫、そしてやがて黒く染まっていきました…

  

「あ待って、怖い怖い怖い…」
「グロテスクすぎるって…」

  

最終的に強い痛みや高熱に苦しみ、各臓器の働きが停止。彼女は帰らぬ人となったのです…

  

「なんかちょっとリアルすぎる…」
「嫌だ!死にたくない!」
京子とスズカは水虫がないか、自らの足を確認しました。
「番組サイドの思う壺だ。だけどちょっと俺だって怖いな…」

  

「タテルくん!勝負だからって本気出しすぎ!」
「俺だって怖いさ!頻繁にフラッシュバックするんだよこの恐怖…」
「あれ、スズカどこ行った?」

  

すると襖から白い煙が湧き出しました。
「何が起きてるの?」
煙の量はどんどん増していきます。
「もしかして…火事⁈」
「やばいやばい、外出よう!」

  

「テッテレー!ただの粉でした」スズカが現れネタバラシが行われました。
「なにそれ…」
「『ようかいけむり』です」
「シンプルに規模がちいちゃい!」
「ガチホラーの後にドッキリはナシだね」
手厳しい評価を下すタテルと京子。火事かもしれないという恐怖心を煽ることには成功しましたが、ネタバラシにより醒めてしまい、結果スズカが最下位となってしまいました。優勝は満場一致でタテルに決まりました。
「優勝したタテルさんには、明日行くアウトレットでの買い物で5000円サービスします。その5000円は最下位のスズカに払ってもらいます」
「いいなタテルくん。2回もご褒美もらって、自腹もないし」

  

肝試しに向かう準備をする一同。
「あ、おかまたち濱内さんの靴下。それ履くと水虫になるよ」タテルはスズカにおどけ脅しました。
「そういうのやめてください。5000円あげませんからね」スズカは真剣に怒りました。

  

4人揃って展望台のある公園へ歩いて向かいます。
「始まってんの?始まってんの?」
「何言ってるんだ京子」
「平気な顔しないで。タテルくんのせいだからね、こんな怖い思いするの」
「俺だって怖いよ…」
「何であんな怖いもの持ってきたの…」
「まだ聞く?あれしか思いつかなかったんだよ。ごめんって」

  

道中怖くて仕方ない一同。物音がする度に大袈裟なほど身を震わせます。
〽︎おばけなんてないさ おばけなんてうそさ
「タテルくん、びっくりさせないでよ」
「大声出し続けるといいかなって…」
「それ熊除けのやり方ですよ。霊には効きませんって」

  

そして昼間に訪れたラーメン店に差し掛かった時のことでした。外に置いてあった寸胴から、大きな物音がしました。それはやがてカタカタと震え始め、独りでに移動し出したのです。

  

「ギャーーーーーーーーーーーー!」
悲鳴を上げ、一同は一目散に宿の方へ走り去って行きました。

  

「あ、あ…明らかにいる!」
「間違いない、幽霊だよ」
「本当にいる…」普段冷静さを欠かないスタッフ大石田でさえ、恐怖に慄き震えています。

  

〽︎全部嘘さそんなもんさ
「夏の霊はまぼろし!」
タテルは気を紛らわすため全力で歌いました。しかし寸胴のある方から再び声が聞こえます。

  

「お、ま、え、た、ち…」

  

「待って!声がする…」

  

「お、れ、の、こ、と…」

  

「えっ?」

  

「見殺しにする気かぁ!」

  

「ギャーーーーーーーーーーーーーーーー!」
夜景を見に行くどころではありません。4人は無我夢中で宿まで駆け戻りました。

  

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