連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』38杯目(青島食堂/秋葉原)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

ホットプレートを取り置きしてもらい、一行は次のラーメン屋へと向かう。浅草橋方面へ歩くこと約5分。ピークタイムを外したつもりだったが、青島食堂はかなりの行列であった。その間一行は、花火大会の日の段取りを詰める。
「肉はどこで買う?いい店知ってるでしょタテルくん」京子が問う。
「近くの精肉店でいいんじゃない?」
「え〜、そんなテキトーに決められても…」
「俺料理しないから精肉店とか知らんし。あ、でも末広町にあるわ良い店」
「じゃあそこで買ってきて」
「そしたら1kgの塊で買ってきて」大石田が急に提案する。
「…まあいいですけど」
「私は野菜買ってくる。タテルくん苦手な野菜ない?」
「きのこと大きなネギがダメ」
「子供みたいだねタテルくん」
「いいじゃん好き嫌いの1つ2つくらい。京子だってグリーンピース嫌いじゃん」
「まあそうだけどさ…」
「そういえば、食材冷やすのってどうする?」
「あ、冷蔵庫ないよね」
「冷蔵庫、買う?」
「…買おうか」
「やった!大石田さんありがとうございます」
「YouTubeの収益から出すということで、いい?」
「いいですもちろん!」

  

30分並んでようやく入店。さらに少し待って出てきたラーメンは長岡の生姜醤油スープ。生姜が効きすぎていないか心配だったが、旨味としてしっかり機能していた。あくまでも街のラーメン、というのが根底にあるのだろうか、普通の中華麺っぽいがこれがよく合うのだ。
たっぷり入ったチャーシューは、赤身も脂も両方旨味抜群。後味まで穏やかな旨味が残る素晴らしい1杯である。お腹いっぱいだったはずのタテルも余裕で完食した。

  

ヨドバシカメラに戻った一行。冷蔵庫売り場を覗いていると、そこにはなんと家電大好き芸人の工田がいた。
「工田さん、お久しぶりです」えのき坂46時代に冠番組で共演していた京子が挨拶する。
「京子、久しぶり!この前のソロライブ、すごく良かったよ」
「ありがとうございます♪」
「あ、タテル君も一緒か」
「初めまして、ガンダッシュのTATERUです」
「観てるよYouTube。息ぴったりで面白い」
「ありがとうございます!」
「タテル君、相方のO-JIMA君とは最近どうなの?」
「あんまり会わないですね」
「オージマさんより私といる時間の方が長いんですよ」
「タテル君、もうちょっと本業頑張りな。忙しいのはわかるけど」
「そうですよね…」
「共倒れコント面白いじゃん。どんどんやってほしいな」

  

ふと我にかえるタテル。言われてみればたしかに、自分は何者なのか。芸人であることを忘れ、綱の手引き坂メンバーと遊んでばかりの日々。楽しいけど、永遠に続けられるわけではないこともわかっている。
「全くその通りですよね」
「ちゃんと日程調整して、2人で語り合いな。頑張って」
「ありがとうございます!」
「あ、冷蔵庫ならこれオススメ。容量大きいけどスリムで、背の高い物も立てて入れられる。湿度高めで野菜の長期保存ができる。しかもね、中にカメラがついていて、外にいても冷蔵庫の中身がわかる。だからスペースとか考えて買い物できるんだ。すごいでしょ」
「そんなシステムあるとは…進化してますね」
工田お勧めの冷蔵庫を購入し、調律の時間となったため一行は基地に戻る。

  

「はい、これで調律完了です。ちょっと弾いてみてください」
「はい…うわ!いい音だ」目が輝く京子。
「俺も弾きたい」
「タテルくんはダメ。指太いし、なんかすぐ壊しそう」
「バレた?俺本当にすぐ物壊す。『静かなるデストロイヤー』なんて言われちゃって」
「誇らしげに語らないで」

  

冷蔵庫も完備され、いよいよ隅田川花火大会の日。浴衣姿で基地に現れた京子とタテル。
「京子の浴衣姿…あぁ、そそられる」
「何よそそられるって。下心丸見えよ」
「俺の浴衣は特注だ。大相撲剣翔関の浴衣をオマージュしたんだ。どうだい、ポップだろ?」
「思ってたのと違う…でも面白いね」
「せっかくだから5色作ってもらった」
「何それ。24時間テレビのチャリTシャツみたい」

  

そして大石田からお知らせが。
「この前の青島食堂のお金、私が全部払いましたよね。ということでここで対決を行います!」
「もしかして、1kgの肉塊を?」
「そう。牛肉ぴったしチャレンジです」
「『ぼかぼか』でやってるやつか!」
「タテルさんと京子さんには、200gを目指して肉を切ってもらいます。200gに遠かった方が、ラーメンとこの肉を自腹です」
「肉も⁈」
「破産するって!」
「これは怖いね…」

  

京子もタテルも、包丁を持つ手が震えて上手く切れない。
「では計量します。京子さんが325g」
「え待って、そんな多かった⁈」
「タテルさんが258g。自腹は京子さん!」
「えぇ〜、嫌だよ!絶対タテルくんが有利なやつじゃん!」
「京子って、欲張りなんだね」
「タテルくんだってオーバーしてるじゃん!」
「そういえば、本家では±10gの誤差しか認めてませんよね…」大石田が良からぬことを思いつく。
「2人とも失敗ということで、肉代は2人で折半にします!」
「おい、勝手にルール変えるな!」
「さすがに全部京子さんに払わすのは気がひける」
「まあそうだけどさ…」
「タテルくん、残念でした〜」
「へ〜い…」

  

焼肉パーティーが始まる。
「タテルくん、どんだけビール冷やしてるのよ」
「暑いからいっぱい飲みたいの」
「ワインまで持ってきてるし!飲むのタテルくんだけだからね」
「いいじゃん別に」
「また太るよ」
「はい、まず焼肉用の肉ね!」唯一料理ができる大石田に全てを任せた2人。
「野菜もしっかり食べる!グリーンピースポタージュとネギポタージュ」
「グリーンピース嫌いなのに…」
「いやいや、ポタージュにすれば美味しいんだよ。ほら食べてみる!」
「…美味しい!」
「野菜の甘みを味わえるんだよね。大石田さんナイスです」

  

「お肉も美味しい〜」
「タテルくん流石。いい店知ってるよね」
「でも和牛だからそんな量食べれない」
「じゃあうちのメンバー呼ぶ?」
「お願い!」

  

そして1時間後、グミ・マナ・アヤ・メイ・ナオ・ヒヨリ・カコニの7名が集った。
「すごい!グランドピアノがある」
「買ったんだ」
「マジで⁈すごいね京子」
「肉いっぱいあるからどんどん食べてね」
「あ、もうすぐ花火が打ち上がるよ!」
4年ぶりの隅田川の花火。人ごみを避け、スカイツリーを挟み2つの会場で打ち上がる様を観られる贅沢なポジション。大好きな京子と一緒にそれを観る喜びを、タテルは噛み締めていた。

  

〽︎夏の星座にぶらさがって上から花火を見下ろして
美しい花火に美しい京子の歌声。その場にいる人全員が心を奪われた。
「タテルくんも歌いなよ」
「プロのみんなの前で歌うなんて…」
「パーティーだからいいの!歌って!」

  

〽︎決して捕まえることの出来ない花火のような光だとしたって
「もう一回もう一回、もう一回もう一回…」
「つい乗っちゃうね」
「タテルさんも歌上手いんですね」
「よかった、満足してもらえて」

  

その後も花火と歌を楽しむメンバーらとタテル。1kgあった肉も食べ尽くされ、〆には京子が韓国風焼きそばを作った。野菜をテキトーにちぎって入れたりインスタントラーメンを塊ごと入れたりするなどの暴挙があったが、完成してみれば意外と美味しいものである。

  

メンバーが帰り、祭りのあと。花火の果てた夜空を見ながら語り合う京子とタテル。
「こうやって一緒に夏らしいことするの、楽しいね」
「うん。私夏大嫌いだけど、タテルくんと一緒だとマシに思えるよ」
「俺も浴衣嫌いなのに、気づけばこんなノリノリになって」
「楽しいね、夏って」
「スズカとの温泉旅行も楽しみだね。場所はもう決めてるの?」
「とっておきの温泉旅館、予約してあるからね」
「やったー、夏を齧り尽くすぜ!」

  

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