連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.026:ボケットだん!あくやくのこころえ(バー ノーブル マリンタワー店)

ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む19歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えている。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ユーカク(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)

  

ユイガオープンにおいてミッチーらと大喧嘩したサッチーが、行方をくらまして1ヶ月。
「ミッチー、いい加減ふたりでカビンゴ攫いするニャ」
「無理に決まってんだろ。あんな重いの、流石にふたりだけで運べないわ」
「吸引機使えばひょひょいのひょいニャ」
「本当にひょひょいのひょいならとっくのとうに捕まえてるわ。はあ、別の団員あてがってくれないかな〜」
「ボスに聞いたけどダメだとニャ。お前らには何も期待してないから、ってニャ……」
「最悪。早く帰って来いよサッチー」
「やっと気付いたニャ、相棒の大切さに」
「べ、別にそんな訳。要らねぇよあんなチキン女」
「いた方がマシ、探すニャ!」
「はぁ、だるっ」

  

三日三晩ヨコハマおよび周辺のシティを捜索するも、サッチーは見つからない。
「向いのホームにも路地裏の窓にもいない」
「交差点にも急行待ちの踏切にもいないニャ」
「仕方ない、ヤマシタウンに戻るか」
「灯台下暗し、ニャンてこともあり得るニャ。探すついでにアザトトガールのカビンゴ攫えるかもニャ」

  

ヤマシタウンの古びたマンションを通りかかった時のこと。
「プロレスの練習場?ってあれ、サナ様じゃない?」
「ミャーも知ってるニャ。現代版凶悪イーンとか言われているプロレスラーだニャ」
「朝の番組で観たことあるからな。まあかっけえ奴だな」
「否定はできないニャ。……ニャんと、あれはサッチーかニャ⁈」
「間違いない。なんでプロレスなんかやってんのよ。連れ戻してや…」
「待つニャ。ポスターが貼ってあるニャ。明日アリーナで公式戦、新人のデビュー戦とも書いてあるニャ」
「サッチーが出場するのか?」
「わからないニャ」
「まあ突撃するよりかは、客としてしれっと空間を共にする方が良いか」
「珍しく冷静ニャ。それが良いニャ」

  

翌日、なけなしの金でチケットを購入し試合を観覧するミッチーとドラネコ。その近くには何故かスミレとカビンゴが座っていた。
「カビンゴちゃん、プロレス観戦楽しみ?」
「ちょっと怖いけど面白そうだンゴ。やっぱりサナ様は美人さんだンゴ」
「悪役だけど凛々しくてかっこいい。スミレ惚れちゃう〜」

  

「何よアザトトガール、柄にも無く悪役推しやがって。襲ってや…」
「我慢するニャ、ミッチー。今日の目的はサッチーに振り向いてもらうことニャ」
「そっか……大人しく観戦しよう。一応うちわとか作ってきたけど、掲げていいもんなの?」
「アイドルじゃないから駄目ニャ。名前を呼ぶくらいにするニャ」
「そっか。あくまでも私は客よ客……」

  

プロレスの試合が始まった。まずはサナ様が相棒ポケンモ・キンザムライを従え入場。対戦相手の善玉レスラーを口汚く罵る。
「お前のぶりっ子、気に障るんだよ!」
「ぶりっ子?そんなつもり微塵も無いわ!」
「自覚ねえのかよ。楽屋ではクールなくせに都合の良い時だけ可愛い子ぶって、うざいんだよ!」
「じゃあアンタの素性バラしてやるよ。本当は女々しくてすぐ泣く、ってことをな」
「テメェ大嘘つきだな。何がしたいんだ?」
「無理して悪役してるアンタを、正義の海に引き戻してやる」
「余計なお世話だ。逆にテメェを地獄の沼に引き摺り込んでやる!」
「いいや、正義は勝つ!」
「かかってこいよ、べろべろべー!」

  

「スミレさん、プロレスに喧嘩はつきものンゴ?」
「そうよ。大丈夫、あれはパフォーマンスよ」
「僕には怖いンゴ」
「ごめんね。でも最後まで観れば考え変わるかもよ」

  

試合が始まると、サナ様は一斗缶で相手を殴ったりレフェリーを蹴り倒すなどアウトローな振る舞いを見せる。
「おい、こんなやりたい放題の世界に入るのかよサッチーは」
「ミャーらだってやりたい放題ニャ!」
「いざ身内がやられると思うと怖い……」
「サッチーの選んだ道ニャ。確と見届けるニャ」

  

本編はサナ様の圧勝で幕を閉じた。
「やっぱり悪は強い。善玉は所詮ただの偽善」
「敵役こそ生物の本質ニャ」
「よっしゃ、アザトトガールのカビンゴを…」
「今じゃないニャ。あ、サッチーだニャ」
「これより新人ヒールレスラー・サッチーのデビュー戦を執り行う」

  

サッチーは相手の気迫に押されたのか防戦一方。ボコボコに殴られ蹴られ絞められる。我慢ならないミッチー。
「これ以上サッチーを虐めるな!」
「えっ?ミッチー……」
「おいミッチー、声が大きいニャ!」
「そこ!試合の邪魔だ、退場させるぞ」
「すすす、すみません!」

  

ミッチーはボロボロになって敗北した。
「あんな世界に身を置いたら死んじまう。救いに行くぞ」

  

急いでバックヤードに突撃するミッチー達。
「おいお前ら、サッチーを返せ!」
「誰だテメェら!」

  

「誰だテメェら、と言われたら!」
「……」

「続き言えよサッチー」
「ああ!お前らさっき試合を邪魔した奴だな。出てけ!早く!」
「待て」

  

サナ様が制止する。
「おいアンタ、名前は?」
「えっ……ミッチー」
「サッチーの仲間だったのか?」
「だった、じゃなくて仲間だ今も」
「それはどうかな?まあちゃんと話しよう。良いバーあるんだ、一緒に来い」
「バー?ぼったくりとか…」
「んなとこじゃねえ。いいから来い!」

  

ヤマシタウンの象徴・マリンとうの近くを歩くスミレの一行。
「サナさん、今日もクールだったね〜」
「なんだかんだで良い人だったンゴ」
「でもまさかボケット団のサッチーがプロレスデビューするとはね」
「ボロボロだったンゴ。……あれ、サナさんがいるンゴ!」
「本当だ。マリンとうに入っていったけど、展望台は閉館時間過ぎてるよね」
「下にバーがあるみたいだンゴ」
「へぇ打ち上げか。楽しそうだね、ついていっちゃお!」
「待つンゴ。ボケット団がいるンゴ」
「……危ない危ない。ってか何でボケット団が?」
「サッチーに話つけに来たのかな?まあ私達は距離をとりましょ」
「また襲われるといけないンゴ。家に帰るンゴ」

  

スミレの存在に気づいていないボケット団とサナ達はバーに入っていった。スミレママがハムライピをゲインしたカンナイタウンのバーの支店であり、いつも混雑している本店と比べると穴場となっている。
「好きなの頼みな。フレッシュフルーツのモヒート、オリジナルカクテル辺りがお勧めな」
「え、じゃあ……アタイはいちじくのモヒートを」
「OK。じゃあウチらはオレンジジュースで」
「え⁈酒飲まないのかよ」
「頭にパンチ食らったら飲酒は御法度だ」
「じゃあ何でバーに誘った!」
*創作上の設定です。実際の店舗ではノンアルの扱いは無い模様です。

  

旬の果実とモヒートを組み合わせた、このバーならではの1杯。底に沈んだ果肉をストローで掬いながら、快適な甘さと種のつぶつぶ食感を楽しむ。

  

「でサッチーは返してくれるのか」
「話が早すぎるだろ。どういう関係性なのか説明しろ」
「アタイとコイツとドラネコの三人でポケンモを奪う……」
「え待って、リアル悪人じゃん」
「しまった!また口を滑らせた!」
「あんまこんなこと言いたかないけどよ、アタイらは悪人の面を被ってるだけだ。本当に悪いことしてるテメェらとは訳が違ぇ」
「ああ違ぇよ。だから何だ」
「サッチーはアタイらのものだ。犯罪者になるより立派なプロレスラーになる方が良い、これ常識な」
「テメェ、アタイを馬鹿にしやがって。奪ってやろうかそのキンザムライ」
「アァ⁈」

  

「そういうとこだよミッチー」
ここまで口を閉ざしていたサッチーが呟く。
「何だよサッチー。アタイらを裏切りやがって」
「今までありがとね。私は真っ当に生きていくわ」
「おい待てよ。アタイは何も許可してねぇ」
「じゃあいつになったらアザトトガールのカビンゴ攫えるの?ナギの強力なポケンモ達攫えるの?ね〜え!」
「ああもううるせぇ!やってらんねぇわ、酒持ってこい!」
*良い子の皆さん、自棄酒は止めましょう。ここは美酒を愉しむ場です。

  

続いてオリジナルカクテルのオーチャード。ピーチとカシスで甘美に、ウイスキーの下支え。

  

「なあサナさん教えてくれよ、どういう流れでサッチーは入団したんだ」
「仕方ねぇ、教えてやるよ」

  

サッチーはトツカタウンの路上で倒れていた。そこを丁度アタイらが通りかかって介抱したんだ。
「おいアンタ、名前は?」
「サチコ。夢中で歩いてたらフラフラして……」
「暑いのに何無茶してんだよ」
「悪い人から逃げてきた」
「なるほど。改心をしたい訳だ。アタイはヒールのレスラーだ」
「ハイヒールで戦うのか?」
「違うよ、悪役だよ悪役。悪役レスラーやってみないか?」
「私なんかにできっこないわよ!」
「根性があればできるさ。行き場無いんだろ?嫌な日々を抜け出したいんだろ?やるしかないじゃん」

  

「という訳でサッチーはアタイらの組織に加入、厳しい練習を乗り越えて今日に至る、と」
「でも今日はダメだった。練習してきたこと、何も出せなかった」
「最初は誰でもそんなものさ。アタイだって、本当はキューティーコンクール目指していたのに何故かプロレス始めていて、実力無いうちは先が全く見えなかった。でも今はこんなに皆さんから注目いただいてさ、真剣にやってれば何が起こるかわからないよね」
「沁みるぜその言葉……」
「すっかり染まってやがる。ああやってらんねぇ、強い酒持ってこい!」

  

No.049 キンザムライ ダーク派/サウンド派
さむらいポケンモ
スラっとした体型に小さな顔、多彩な声を操り歌の実力も開花。その才能を妬む薄汚れた男からはよく卑猥なあだ名をつけられる。

  

ウイスキーをストレートで飲むことにするミッチー。ウイスキー産業衰退から復活したキャンベルタウンより、キルケラン8年バーボンカスク。ピートと塩気の効いた非常に個性的な味。この塩気はベーコンやハムといった燻製肉に喩えてもおかしくはないだろう。メープルベーコン、またはマックグリドルなんかを思い浮かべても良いかもしれない。

  

「今やサッチーとの絆はアタイらの方が深い。残念だがミッチーに返す余地は無いようだね」
「うるせぇ。テメェが何と言おうともミッチーはアタイらのものだ」
「いいか?悪役たる者、チームの絆が不可欠だ。お前はサッチーのこと理解してんのか?好きな食べ物とかさ」
「初歩的すぎるぜ。カレーだよカレー」
「不正解。かくさんうどんの人参うどんでした〜」
「カレーって言っときゃいいや、という魂胆丸見え。カッコ悪いよサッチー」
「うっせえミッチー!アンタもはっきり言いなさいよ、私はボケット団の一員だって」
「言わねえよサッチーは。話は聴いたぜ。サッチーもドラネコも、向いてる方向がてんでバラバラ。そりゃカビンゴ攫いにも梃子摺る訳だ」
「ならお前がやってみろよ」
「やる理由が無い。悪役はオフまで悪役でいちゃいけないんだ。可愛げが無いと誰も許してくれない」
「アタイが可愛げないとでも?」
「ああそうだよ!」
「何コライカコラ!●×☆%*〒¥!」
「呂律回ってねぇぞ。酒止めろ」
「いやあもう一杯!」

  

贅沢にもキタノ地方アッケシタウンの「立春」を選択したサッチー。ピートが効きつつも花の蜜のように穏やかな甘みがある味わい深いウイスキー。明らかにヤケクソの中飲むものではないのだが、無学なミッチーにはどうでも良かった。

  

「あのな、悪事働くことも勿論ダメだけどよ、それ以上に仲間を思いやれないことに怒ってるんだよ!」

  

途端に黙ってしまうミッチー。
「大事なところで自分を押し付けて大喧嘩、結果ターゲットに反撃されたり逃げられる。そして責任をなすりつけ合う。最悪だなこのチーム」
「……最悪だよ。認めざるを得ない」
「でしょ。アタイらは本音でぶつかることもあるけど勝手なことはしない。その辺理解してもらえる?」
「わかったよ。ごめんなサッチー、喧嘩ばかりでよ」
「ミッチー……私、ボケット団に戻りたいかも」
「えっ?」

  

唖然とするミッチーとサナ達。
「プロレス、自分には合わないや。仕方なくやるうちにハマる可能性はあるけど、ミッチーが迎えに来てくれて心が揺らいだぜ」
「サッチー、ホントか?」
「ああ。なんだかんだ言って、ポケンモをたかろうと旅する日々は刺激的だ。ああだこうだ揉めるのも、アタイららしくて可愛いかもしれんな」
「ちょっとサッチー、恥ずいぜ。強ち間違ってないもんそれ」
「方針ならここではっきりさせようぜ。ブレることなくアザトトガールのカビンゴを狙う、いいねミッチー、ドラネコ」
「その通りだ!」
「勿論ニャ!」
「待てよ、プロレス辞めようとしている?」
「辞めさせてもらうぜ」
「困るって!勝手なことするなよ」
「ボケット団ミサネコはミサネコらしく悪を貫く。サッチーは独り逃げ出したことにしときな。アンタらはアタイらと違って真の悪人ではない、真の悪人にさせない。だから約束な」
「嫌だよ、もっとちゃんと話してから…」
「世話になったなサナさん。サラバだ!」

  

「ちょっと!おい!」
「あのお客さんの分7,450円、お支払いお願いします」
「金払ってけよ!不義理働いといて何だ!」

  

こうしてサッチーはめでたくボケット団に復帰し、ミッチー・ドラネコと共にカビンゴを追いかけ回す日々を再開した。一途に目指せ、国民的憎めない敵役を。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です