連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.024:ユイガビーチオープン!vsナギ、いんねんのたたかい(勝烈庵/馬車道)

ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む19歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えている。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ユーカク(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)

  

真夏のヨコハマシティ。スミレのカビンゴは、暑い中でも街に繰り出し、出会したポケンモとの稽古を積み重ねていた。
「いけモース、おおもりかいづかだ!」
「ンゴォォ!」
「耐えてカビンゴ!よしっ!」
「どんな技出してくるのかな、カビンゴさん?」
「いけカビンゴ、デストロイヤーだ!」
「モオォォー!」
「モース、戦意喪失!カビンゴの勝ち!」
「やった!勝った!」

  

「スミレさん、お喜びの所申し訳ない。デストロイヤーは最終手段ですよね」
「出してしまいました。貴方のモースさん、お強かったもので」
「スミレさんのカビンゴなら、もっと低威力の特殊技で仕留めるくらいでないと。確かにデストロイヤーはアブノーマル派で最も強力だ。その代わり体力を大きく消耗させる。安易に使うべきではない」
「そうですよね……」
「手厳しいことを言うが、今の実力ではトップ層に太刀打ちできない。世間の期待に応えられず後ろ指を指されるトレーナー人生になってしまうぞ。小さな技をコツコツ磨いて、自信持って繰り出せるようになりなさい」
「はい!ありがとうございます!」
厳しい指摘も真摯に聞き入れるスミレ。ボケット団からは毎度のように甘い甘いと言いがかりをつけられているが、本当は知的でストイックな人なのである。

  

次に出場するファイトの大会はユイガビーチオープン。ビギコンにて不覚を取った相手・ナギとの再戦を約束した場所である。
「ナギちゃんに勝たないと。あの悔しさを晴らすために」
「ナギさんもだけど、そこまで勝ち上がらないことには戦えないンゴ」
「そうだね。その前のファイトも油断禁物。予選、準決勝、決勝。3回全て同じポケンモ1匹で戦う」
「スタミナが必要だンゴ」
「トーナメント表見たんだけど、ナギさんとは決勝まで当たらないんだ」
「準決勝までで負けたら絶望だンゴ」
「逆にナギちゃんが敗退する可能性もある。全参加者の傾向を分析して対策を練ろう」

  

一方のナギも、スミレとの再戦を心待ちにしていた。カマクラシティの弓道場にて、相棒ポケンモのひとり・ズバピカと弓を射る。
「ズバピカ!」
「おお〜流石!ど真ん中を射たね!」
「ズバズバ!」
「後はこの射を何本も連続してできるようになろうね。少しでも違うことを考えると照準がブレてしまう。ズバピカには総じてその癖があるから注意よ」
「ズバ……」
「はい、集中!頑張ろうね!」

  

No.100 ズバピカ いなずま派
きんぴかポケンモ
武道に長けている一方で英語が堪能。金色に輝く見た目に違わず豪華絢爛な物が好きで放蕩癖がある。

  

スミレのカビンゴは、派一致の特殊技「おなかかいかい」「おおきなはらのしたで」の強化に乗り出す。食べる量は増やしつつも、筋肉を鍛えるためのプランク、瞬発力を鍛えるための猫じゃらしキャッチ、体のコントロール力を高めるための脳カベなど負荷のかかるトレーニングを始めた。

  

張りや毛並は維持しつつ屈強な肉体に仕上げ、いよいよ大会前夜。験担ぎとしてバシャストリートのとんかつ屋を訪れる。人気店のため混んではいたが、席数には余裕がある。
「ヨコハマシティの住民心の味よ。カビンゴちゃんもきっと大喜び!」
「嬉しいンゴ!とんかつは一番力が出るンゴ」
「ここの一番人気はヒレカツなんだ。筋肉にも良いと思うよ」
「いっぱい食べて元気もりもりになるンゴ」

  

2階席には何故かボケット団が座っていた。いつもなら贅沢は出来ない筈だが、どうやらボスから特別手当が出たようである。
「おミャーらには古典的な験担ぎが一番お似合いニャ、だってよ」
「結局馬鹿にされてんじゃんアタイら」
「文句言わず食べようよ。肉なんて何十年ぶりだろうね?」
「大袈裟な。昨日だって食べたでしょ」
「ハム1枚を3人で分けただけじゃない。食べたうちに入らないわよ」
「全てはミッチーがちゃんとしないから!」
「ちゃんとしてないのはサッチーの方でしょ?」
「何を!」
「お客さん、周りのお客様もいるのでお静かに」
「……すみません」

  

この店名物のヒレカツ。硬そうに見える肉質だがしっとり仕上がっており柔らかい。臭みも無く、衣もしっかり肉と一体になっている。

  

「ソースが出ないンゴ」
「おかしいね……あ、穴塞いでるからだよ」
「穴ンゴ?」
「ここから空気が入らないと、容器の中の空気圧に押されてソースが外へ出られなくなるの。ストローの口を塞いでジュースから出すと、ジュースがストローの中に留まって落ちないでしょ?それと同じ原理」
「スミレさんは理科が得意ンゴ。格好良いンゴ」
「カビンゴちゃんは手が大きいから、仕方ないわね」
組成や製法は企業秘密らしいが、トマトが主なのだろうか、酸味が程良く際立つ美味しいソースである。派手さは無いのに素直に美味しいと思える、愛される味である。

  

「はぁ〜、食った食った!これで2,3日は持つわい!……あれ、アザトトガールがいる」
「ボケット団⁈どうしてこの店に⁈」

  

「どうしてこの店に、と言わ(以下略)
「今晩こそカビンゴをいただきだい」
「美味しいとんかつの〆にはカビンゴという名のデザートを頂きだわ」
「ボケット団よお、うちのカビンゴを口直しみたいに言うなんて生意気じゃのう!」
「アンタは甘々すぎるから要らないわよ。カビンゴだけ渡してくれれば」
「カビンゴだけ、とはなんじゃい!それに俺は甘々じゃねえ!明日の大会に向けてどれだけ鍛錬したと思ってる!」
「明日の大会?へぇ、面白そうじゃないの」
「今掻っ攫えば大騒ぎ間違いなしよ」
「ミッチー、それは流石に世間からの反感買う」
「はぁ?好感度なんてアタイらには不要だよ」
「怒った世論の力、ナメたらダメ」
「攫おうとしてる時点で怒り買ってるだろ。何したって怖いもの無しよ。攫うなら今!」
「今じゃない!」
「今でしょ!」
「今じゃないでしょ!」

  

「なんか揉めてるみたいね。帰ろ帰ろ」
「帰るンゴ。明日のために体力残しておくンゴ」

  

「あれ?アザトトガール達は?」
「アンタらが揉めてる間にどっか行ってしまったニャ!」
「そんな〜!何で止めてくれなかったのドラネコ?」
「ニャーひとりじゃ倒せないニャ!」
「この役立たずが!」
「お客様、喧嘩は外に出てからしてください!」
「すみません!……もういつになったらカビンゴ奪えるの!」
「いやーんばかーん……」

  

「使えるポケンモは1匹のみ。唯我のみで勝ち上がれ!ユイガビーチオープン!」
真夏のユイガビーチにおける目玉イベント・ユイガビーチオープン。カナガワエリアの腕利きのトレーナーが招待される誉高き大会に、今年はカナガワビギコン覇者のナギ、ファーストカビンゴスミレが招かれた。
「ミュラミュラ〜」
「暑くて溶けそう、か。アイス派にはハードだよね」
「ミュラ、ミュラ!」
「応援ありがとう。カビンゴちゃんも喜ぶね」

  

スミレ初戦の相手はロック派のデーガン。トレーナーはユイガビーチを地元としているウミヘイである。スマホイトダによる解説。

  

毎年出場している名物おじさん。昔はふさふさだったが今やすっかり禿げ上がり。あくまでも記念受験枠であり殆どの年で初戦敗退している。

  

「まあ油断はしません。カビンゴちゃん、手を抜かず技出してね」
「勿論だンゴ」
「ナニイッテ、ウルルたいざいきだ!」
「ンゴォ!」
「耐えた耐えた。よしカビンゴ、とびのりだ!」
「デエェェェ〜!」

  

「デーガン、戦意喪失!スミレの勝利!」
「やった〜!一撃だったね」
「目標通りだンゴ」
「お嬢さんのカビンゴ、強いねぇ。ここまで強い相手に負かされたら却って清々しい」
「長年ファイトなされていて尊敬いたします。私もお婆ちゃんになるまで頑張ろう」

  

ナギも難なく初戦を突破。そして準決勝、スミレのカビンゴの相手はヒタチヤマ。ハーブ派、そしてカビンゴの弱点ぶとう派のポケンモである。
「重量級の戦い。ヒタチヤマが有利。でもカビンゴは負けない。カビンゴ、ハナイキアラシよ!」

  

フライ派の技を繰り出したことにより、ヒタチヤマの二重弱点を突ける。大きなダメージを与えることに成功した。
「嘘でしょ⁈どんだけ多才なんだあのカビンゴは⁈でもまだこれから!ヒタチヤマ、かちあげスフィンクスだ!」
「ンゴゴゴゴゴォ!」
「全然大丈夫!守りも鍛えたもんね!いけカビンゴ、おおきなはらのしたでよ!」
「ヤマアァァァ〜!」

  

「ヒタチヤマ、戦意喪失!スミレの勝利!」
「お見事だよカビンゴちゃん!華麗な寝技!」
「まだまだ体力余裕だンゴ。省エネでも勝てるように仕上げて良かったンゴ」
「これでナギちゃんと戦える。ビギコンの借り、返す時が来た!」

  

準決勝第2試合、ナギのズバピカに試練が訪れる。相手はヨコハマシティのレジェンドトレーナー・レイが育成するぶとう派ポケンモ・レンボー。
「ズバピカ、エレクトリだ!」
「レンボォォ!」
「レンボー、あばれんぼうサンタ!」
「ピカァァァ!」

  

均衡は突如として破れる。
「レンボー、もう一度あばれんぼうサンタ!」
「ズバアァァーン!」

  

「ズバピカ、戦意喪失!レイの勝利!」
「えええ⁈ナギちゃんが負けた……」
騒然とする場内。確かにレイもレジェンドトレーナーとして強力ではあるのだが、下馬評ではナギの勝利がほぼ確定的とされていた。

  

その場に立ち尽くすナギ。見かねたスミレが声をかけに行く。
「ナギちゃん……」
「ごめんなさい……スミレちゃんと再戦すると誓ったのに……果たせなかった……」
かける言葉が見つからないスミレ。カビンゴも心配そうに見つめる。
「悔しい……悔しいよ!」
「ナギちゃん……」

  

「スミレさん、何とも言えない気持ちになるのはわかるンゴ。でも決勝があるンゴ。レイさんのレンボーと良い勝負をする、そのことだけに集中するンゴ」
「そうだね。ナギちゃん、私がレイさんに勝ってみせる」
「勝ってほしい。仇を取ってほしい」
「強敵だけど頑張るンゴ」

  

因縁の相手がまさかの敗退。それでもスミレがやるべきことはただ一つ、決勝を勝って優勝することである。真夏の砂浜で闘志を燃やせ、スミレとカビンゴ。

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