連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.023:やきがしといしょうのへや(ベイクルーム/関内)

ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む19歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えている。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ユーカク(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)

  

金曜日の夜、カビンゴを寝かしつけたスミレはキラリとテレビ電話をしていた。キューティーコンクール優勝を目指す仲間兼ライバルとして、すっかり仲良しの2人である。
「ねえねえキラリちゃん、明日さどこ行く?」
「こんな店があるんだけど」
「焼菓子屋さん?美味しそう!」
「でも行列するんだよね。大丈夫?」
「全然大丈夫だよ。1時間くらいなら待てるよ」
「すごいねスミレちゃん。私も頑張って並ぶよ」
「喋ってればあっという間だよ。楽しみだ〜!」

  

サクラギえきとカンナイえきの中間、オオオカリバーの少しカンナイ寄りの場所にある焼き菓子専門店。フライデーナイトの名残が少し気になる歩道に20人近い行列が発生している。
「本当にすごい行列だね」
「土曜日だけしか営業してないんだって」
「思い切った営業方式ね。あ、ポカチューちゃん可愛い〜」
「今日は特に毛並みが良いんだ」
「ポカポカチュー!」
「カビンゴちゃんも毛並み良いね。お腹に張りもあって」
「美味しいもの沢山食べさせてくれるンゴ」
「幸せだねカビンゴちゃん」
「幸せンゴ」
「自分で言うのもなんだけど、私たち絶対優勝目指せるよね。後はお洋服やアクセ…」

  

「キューティーコンクール目指してるの?」
前に並んでいた女性が振り返り話しかける。
「あれ?アイさんじゃないですか!」
「私のこと知ってくれてる!嬉しい!」
「勿論ですよ。2001年キューコン全国準グランプリ」
「よく知ってるね」
「印象的でしたよ。まっくろポケンモのクロンと共に、黒ずくめの衣装で出てきましたもんね」
「あれは印象的だったね、自分で言っちゃうけど。おっ!」

  

突如顔をカビンゴの腹に埋めるアイ。
「びっくりしたンゴ」
「このカビンゴはゴージャスだね。モフモフしたくなっちゃう。うちの夫みたいで可愛い」
「ああ、あの旦那さん確かにフォルムがそっくり」
「ポカチューちゃんも良い色してるね。そうだ、良かったら家来る?」
「えっ、いいんですか⁈」
「お洋服探してるんでしょ?家に色々あるから持っていけば?」
「アイさんのお洋服貰えるなんて、嬉しいですぅ!」
「ポカポカ!」

  

1時間以上並んで漸く入店する。焼菓子とは言いつつ、生のケーキに引けを取らない多彩な商品がずらっと並んでいる。

  

「こっからここまで全部くださいンゴ」
「おぉカビンゴ、思いっきりの良い買い方だね」
「どれも美味しそうで選べないンゴ」

「こっからここまで全部く〜ださい!」
「すすスミレちゃん、全部食べるの?」
「これくらいならまあね。2日くらいは糖質制限しなきゃだけど」
「凄すぎるよスミレちゃん。言葉が出ない」

  

カビンゴとスミレは袋(無料)を各々2つ提げ、アイカの家に向かう。その姿をボケット団も目撃していた。
「アザトトガールと……誰だアイツ?」
「年上の女も一緒にいるニャ!」
「あれは確か、キューコン準グランプリのアイ?」
「ああ、キューコンのタイトルホルダーに似つかわしくないぶっ飛びキャラで世間からの評判が悪いことで知られるおばさんね」
「知性があるようでない。金持ちアピールも鼻につくし」
「陰で悪口言うのは卑怯ニャ!仕留めるならとっとと仕留めるニャ!」
「偉そうなこと言うな!」

  

アメリカおかにあるアイの家に到着した一行。
「うわぁ、豪邸だ!」
「キューコン準優勝の肩書きに恥じない生活をね」
「さすがお嬢様。格が違いますね」
「紅茶淹れるからそこ座って待ってて。先食べててもいいよ〜」

  

*物語上では買ってすぐ食べたことになっていますが、筆者は購入翌日以降に食べております。

  

食べ物の前で食欲を抑えられないカビンゴは早速チョコミントブラウニーから貪る。香ばしさもあるブラウニーの上にチョコミントの円やかなガナッシュ。ミントの香りはとても穏やかであり、ブラウニー本体の味を邪魔しない。

  

チーズケーキブラウニー。ブラウニーがショコラテリーヌのように滑らかに溶け、下のチーズが円やかさを演出する。

  

アメリカンチェリーのチーズバー。チーズというよりかはチェリーの存在感が主体。果物LOVEのカビンゴも満足である。

  

「は〜い、タッカシマヤで買ったお紅茶よ〜。香り良いからいっぱい飲んで!」
「アフタヌーンティーみたいで楽しいね」
「あれカビンゴ、もう3個も食べちゃったの?」
「ここの焼菓子美味しいンゴ」
「流石だねカビンゴ。夫に負けない食べっぷりだわ」
「旦那さんと大食い対決したいンゴ」
「また今度だね。夫はまさしく今『とにかくグルメ』のロケ。ベイクルームの焼菓子食べた〜い、って言うから3個だけ買っておいた」
「もっと食べたいんじゃないですか?」
「ロケで食べまくってるからね、家では抑えてもらってるの」
「可哀想だンゴ。僕の少しあげたいンゴ」
「太ってるのは可愛いんだけど、やっぱ長生きもしてもらわなきゃ。ごめんね」
「理解したンゴ」

  

スミレとキラリは、パッションフルーツの軽やかなクリームを挟んだヴィクトリアケーキから手をつける。生地自体にはあまり香りが無いが、パッションフルーツの味に触れると黒糖由来の甘みが立ち途端に活き活きとする。

  

苺のリコッタチーズケーキ。やはりチーズは控えめで苺の味が主体。

  

「キラリちゃんも専業のポケンモトレーナーなの?」
「いえ。モトマチタウンのケーキ屋さんで働きながらキューコン目指してます」
「もしかしてサヨコさんのとこ?」
「はい、そうです!」
「だからこんな美人さんなんだね」
「いやあ全然」
「働き始めの頃よりお顔がシュッとしたよね」スミレがすかさず持ち上げる。
「確かにムチっとしてたかも。サヨコさんに美容器具貰って垢抜けたのかな」
「もっと自信持ちなよキラリちゃん」
「スミレちゃんの言う通りよ。私なんて自信しかないから。もう少し落ち込め、っていつも怒られる」
「全然大丈夫ですよ。アイさん可愛いしそのままでいてほしいです」

  

人たらしのスミレは引き続きケーキを食べる。ラムレーズンとシナモンのケーキ。上部(写真は上下逆だが)のグラサージュを砕き、ラムレーズンとミックスナッツの力強い味を堪能する。

  

カビンゴが最も気に入ったと云うのが、パイナップルのアップサイドダウンケーキ。贅沢に載ったパイナップルの程よく詰まった果実味に、キャラメリゼのように焦げた砂糖の苦みが効いて絶品となっている。

  

「ジャーン!私の相棒ポケンモ、クロンちゃんだよ!」
「う゛ぉー!」
「キラリちゃん、声が太い……」
「つい出ちゃった。ツルッツルスベッスベでテッカテカですね」
「クロンは少しでもお世話をサボるとすぐ散らかしたり盗み食いしたりするの。難しいポケンモだけど愛着湧くのよね」
「クロンちゃんのこの黒光り、堪らない〜!」
「私にはお世話できない。アイさん凄い……」

  

No.084 クロン ダーク派
トレーナーに隠れてがっつりしたものを食べるきらいにあるので要注意。周りを可愛い女性で囲んであげると調子に乗る。

  

バナナブレッドは冷やしてから食べる。バナナの瑞々しさが残っており、ブレッド生地からも華やかな香り。買ってすぐ食べるのがベストかと思われる。

  

具沢山コーンブレッド。シンプルではあるが生地がふくよかなので退屈しない。

  

キラリが満腹になったため、ここで洋服を見繕うこととする。お昼の帯番組のMCを務め、クロン以外にも様々なポケンモに衣装を着せて楽しんでおり、ポカチューに合うものも多々あった。
「これはモトマチタウンのミナミムラで買った小柄ポケンモ用バッグ。お洒落でしょ?」
「ポカポッカ!」
「このバッグに合わせるとなると、花柄が良いかな。ちょっと着てみて。あとカビンゴちゃんは夫の衣装が良いわね。えーっと、あら!こんなのどう?」
「女形の格好ンゴ?……」
「似合うと思うよ。着てみたら?」
「どうなっちゃうのかンゴ……」
アイの助言も貰いながら、各々愛ポケンモをドレスアップ・メイクアップするスミレとキラリ。

  

「うわぁ、可愛いねポカちゃん!」
「これでヨコハマシティ歩くの、画になりそう」
「絶対モテモテだよ」
「いいんですか、頂いても」
「もちろん!」

  

「くすぐったいンゴ」
「カビンゴちゃん我慢して。我慢できたら焼菓子の続き食べようね〜」
「……耐えるンゴ」

  

「できた!ありゃ可愛い。女形のカビンゴ大将」
「恥ずかしいンゴ。でも何か面白いンゴ」
「最初これで出て観る者をざわつかせて、お色直しして正統派の可愛さを見せればインパクト大だと思う。優勝狙えるんじゃない、スミレちゃん?」
「はい!正統派の方も考えてみます」

  

女形の格好のまま続きの焼菓子を食べるカビンゴ。苺ホワイトチョコクランブルは、ホワイトチョコの染みたクランブル生地の香りが良く、苺も味わいが濃くてやはり絶品。

  

オレンジミルクチョコチーズケーキも王道の美味しさ。オレンジ・チョコ・チーズ全てが口の中で三位一体となり華やかで芳しい。

  

絶品焼菓子を味わっていると、インターホンが鳴った。どうやら荷物が届いたようである。
「お取り寄せのお菓子頼んでたんだ。みんなにも分けてあげる!」
「いいんですか?」
「いいのいいの。はーいお待たせ……キャーーッ!」
「アイさん⁈」

  

スミレとキラリが玄関に向かう。そこにいたのは宅配業者を装ったボケット団であった。アイは張り倒されクロンが檻に入れられていた。
「な、何をしてるんですか!」

  

「な、何をしてるんですか、と言わ(以下略)
「またお前らか!何してくれてんのぅ!」
「えっ?今どこから声出た?」
ヤンスミへの豹変ぶりに驚くアイ。
「あらあらアザトトガールちゃん?どうしてこんなところにいるんだい?」
「こっちの台詞じゃ!どうしてこういつも顔合わせるんじゃい!」
「カビンゴ狙ってるからだよ」
「ニャーらがアイの家に上がっているのは把握済みニャ」
「ほら、早くカビンゴ出しなさい」
「その前にクロンを解放せんかい」
「誑かそうとしても無駄だよ。カビンゴを差し出す方が先だ。早く!」

  

奥からカビンゴ(おやまのすがた)が現れた。
「えっ……」
「アハハ、アハハハ!何その格好ちゃんちゃら可笑しい」
「可笑しすぎるニャ!」
「失礼だな!カビンゴは本気じゃい!」
「そうじゃいそうじゃい!」
「何同調してんのよその女!……アハハハッ!ダメだツボに入っちゃった!」

  

沸々と怒りを溜めるカビンゴ。
「そんなに嘲笑して楽しいどすンゴ?」
「アハハ!何『どすンゴ』って!」
「今よカビンゴ、あきまへんだ!」
「どすンゴォォ!」

  

「バカモーンのヴァリエーション⁈」
「ヒェーッ!何が何だかわからないよお!」
「変な奴らの集まりニャー!」
「いやーんばかーん!」

  

ハムライピの剣捌きにより、クロンは檻から解放された。
「強〜いカビンゴ!」
「怪我なくて良かったですねアイさん」
「まさか騙されるなんて。でも助かったわ。強くて可愛いポケンモ、憧れ!」
「これからもアイさんの憧れであれるよう頑張るンゴ」
「キューコンと主要ファイト大会の2冠は今まで誰も成し遂げていない。でもスミレちゃんなら絶対できるよ」
「そうそう。こんな張りのある綺麗なカビンゴが相棒なら無敵だよ」
「そんな、期待しすぎですよ〜」
「自信持ちな!あ、もう1着良いのがある。スミレちゃんに似合うと思うよ」

  

「……スパンコールじゃないですか?」
「うわ!眩しいですねこれ」
「カビンゴと合わせてスミレちゃんもドラスティックに!」
「思い切りが良すぎますよ」
「でも楽しそう」
「悪くないンゴ。試す価値あるンゴ」
「カビンゴちゃんまで……」

  

残りのケーキは持ち帰り、翌日食べることにした。
「あらスミちゃん!その衣装、アイさんから貰ったの?」
「そうなの。最初は恥ずかしいと思ったんだけど、いざ袖通してみると面白くて」
「似合ってるンゴ。スタイル抜群だからンゴ」
「これは踊りたくなっちゃうね。和のカビンゴちゃんと洋の私。ハマる曲ないかな〜」

  

オールドファッションコーヒー。コーヒーの味はちゃんとあるが、もう少し早めに食べた方が完璧なバランスだった。

  

ココナッツパイナップルケーキは一転、一晩置いて柔らかくなったパインとたっぷりのココナッツが食感のコントラストを演出し、生地とのバランスも良い。

  

メイプルベーコンマフィン。ベーコンは小さいながらも塩気と旨味が確とあり、メープルも後から香る。水分を奪われないよう小さく小さく切り崩して食べる。

  

「美味しいわねここのお菓子。知らなかったわ」
「アイさんも常連なんだって。レイフ地方(≒アメリカ)が大好きで」
「今度私も買いに行ってみるわ」
「ミュラミュラ、ミュラ!」
「えっ?和洋折衷の良い曲がある?」

  

スーミュラが勧めたのは、和楽器で奏でるロックソングの名曲である。
「私が舞っているところにカビンゴちゃんが桜の花びら散らすのとかどう?」
「愉快な画だンゴ。試してみるンゴ」
「じゃあ早速振り付け考えるね。カビンゴちゃんは仁王立ちしてれば大丈夫だから!」
「行動が早いンゴ」

  

年明けのキューティーコンクールに向け、いよいよパフォーマンスを練り始めたスミレ。前人未到のキューコン・主要ファイト大会2冠を目指す挑戦は始まったばかりである。

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