ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えている。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ユーカク(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)
日曜日の朝、スミレはいつものようにひと足先に起きるとテレビアニメを観ていた。カビンゴが珍しく目が覚め、寝ぼけお腹を掻きながらスミレの知られざる趣味を目の当たりにする。
「あらカビンゴちゃん、今日は自分でおっきしたの?」
「ンゴ。何を観ているンゴ?」
「戦隊アニメだよ」
「こんな日曜の朝早くに、皆観るンゴ?」
「そうだよ。世の子供は早起きなの」
「僕はいつもお昼近くまで寝るンゴ」
「カビンゴちゃんはよく寝るから可愛いの。今日は戦隊ヒーローの展示会に行くよ」
「楽しみンゴ。スミレさんに解説してほしいンゴ」
「いっぱい解説してあげる!」
バシャストリートのミュージアムで開催されている、歴代戦隊ヒーローの展示会。老若男女が集い大賑わいであった。スミレは少女の頃に戻ったみたいに戦隊を仰ぎ見たり怪人に怯える。
「戦隊ものは男の子が好むイメージだンゴ」
「女の子のファンも多いよ。そもそも戦隊ものの主人公は男女混合の5人組なの」
「だから男女幅広くウケるのかンゴ」
「赤・青・黄・桃・緑の5色で、作品によって忍者とか恐竜とかモチーフがあるんだ。歴代の作品全部が今ここに集まっているの」
「モチーフが多様で格好良いンゴ。一番の作品は何だンゴ」
「ん〜、いっぱいあって決めきれない!」
「愚問だったンゴ」
「でも電車戦隊が思い出深いな。小学4年生の時なんだけど、初めてヨコハマシティを出てトーキョーシティのイベントに行ったの。慣れない電車に乗って駅に降りたらね……」
「ワーン、ワーン!ママどこ?ワーン!」
「あら、迷子かい?」
「知らない人について行って、ママを見失っちゃったの……」
「駅員さんのところ行こうか。お母さんいるかもよ」
「ママ〜!」
「スミちゃん!良かった、また人の後ついていっちゃったのね!」
「ごめんなさい……」
「いいのいいの。すみません、連れてきてくださってありがとうございます」
「いえいえ。お嬢ちゃん、もしかして戦隊もの好き?」
「はい大好きです!電車戦隊イーデンジャー!」
「おばちゃんステッカー貰ったんだけどね、わからないから誰かにあげようと思ってて」
「わあ、デングリーンだ!」
「好きかい?じゃああげる!」
「ありがとうございます……!」
「次は逸れないようにね」
「それ以来ずっと貼ってるんだ、デングリーンのステッカー」
「素敵な話だンゴ」
「武道に長けていてね、蹴りとか突きとか格好良いの!」
「僕も観てみたいンゴ」
一方、ボケット団も何故か戦隊展示会に足を運んでいた。
「はぁ〜、何でアタイらも来なきゃならないんだ」
「イケメン俳優に会えるかもしれないニャ」
「いくら暇だからって、アタイらを巻き込むことはないでしょ!」
「本当に来る保証あるの?」
「ないニャ」
「はぁ⁈信じられないんだけど」
「予告なく現れるニャ。辛抱強く待つニャ」
「くだらない。アタイら帰るよ」
「待つニャ!アザトトガールもいるニャ!」
「え⁈どうしてここに?」
「それは向こうに言わせるの。アザトトガール、ポケンモのことなんか忘れて楽しんじゃってるわよ。今のうちにカビンゴを…」
「ニャーー!」
突如会場に現れたのは、デングリーン役を演じた俳優リュウセイ。スミレの目は忽ちハートになる。
「キャー、リュウセイさん!こっち見て〜!あっ、目が合った!スミレ困っちゃう〜」
「すっかり夢中だンゴ。僕はどうすればいいンゴ」
「もう最高!次はサイン貰いたいな〜。……あれ、カビンゴちゃんは?」
カビンゴはイーデンジャーの展示に腰掛け休憩していた。そこへボケット団が接近する。
「おいカビンゴ、アタイらのものになるんだ!」
「アザトトガールに見捨てられて可哀想だな!」
「おいボケット団よぉ、うちのカビンゴに何してくれてんのよぉ!」
「何してくれてんのよぉ、と言われ(中略)
「スノウカントリー白い明日が待ってるぜ」
「……」
「おいドラネコ、どこ行った⁈」
「リュウセイさんニャリュウセイさんニャ!生で拝めて最高ニャ!生きてて良かったニャ!」
「お前らだってドラネコ見捨ててるじゃないかよ!人のこと言えるのかな?」
「あ、アタイらだって好きで見捨てた訳じゃないから。来いドラネコ、来いって」
「待つニャ!未だリュウセイさんにファンサ貰ってないニャ!」
「駄目だこりゃ。こうなったら2人でカビンゴを…」
ドラネコを引き戻そうとしているうちに、スミレとカビンゴは人気の無い場所へ退避してしまった。
「はぁ〜、今日もダメか……」
「ごめんねカビンゴちゃん、寂しい思いさせたね」
「置いてけぼりにしないでンゴ」
「本当にごめん。後で美味しいラーメン食べようね」
「やったンゴ!リュウセイさんは確かに美形だンゴ」
「でしょ〜。今や話題作にいっぱい出演している名俳優。戦隊ものは、一流俳優への登竜門なんだ」
「僕も出たいンゴ。赤紫色でも出れるンゴ?」
「出れるといいね。5色のカビンゴ集めて撮ったら可愛くて面白そう。マイウさんの橙色のカビンゴちゃんと、あと3人集めて。必殺技はクインテットプレス…」
妄想が止まらないスミレは、この後もカビンゴを気にかけつつ小一時間展示を楽しむ。
カンナイえきを越えた先のラーメン店で昼食とする。白トリュフオイルを使用したラーメンが人気の店。入口は網戸になっていて、カビンゴは体を横にしないと通れないくらい狭い。店内もこじんまりとしていて、カビンゴが空間の半分を占めてしまった。

スミレ一行に続いて入店してきたのは、まさかのリュウセイであった。
「えええ、え⁈」
「ご一緒させていただきます」
「大歓迎ですぅ!」

「彼女はスミレさんだンゴ。戦隊、特撮、少女漫画系、アイドル育成など幅広い嗜好の持ち主だンゴ」
「へぇ、素晴らしい趣味だ。デングリーン好きなんだね、嬉しいよ」
「デングリーンさんの美しい技の出し方、嫋やかだけど芯の強い立ち回り方に憧れています。闘う姿見て勇気貰ってるんですよ〜」
「そう言っていただけると、演じた甲斐がありますね」
「僕もリュウセイさんみたいに格好良く動きたいンゴ。体大きくてもできるンゴ?」
「できるよ。柔道とかどうかな?重量級の選手として」
「やりたいンゴ!でも腕と脚がほぼないンゴ」
「カビンゴちゃんは力強いから、投げ技で無双するかもね」
「食べ終わったら俺のヤサツボで一回試してみようよ」
「嬉しい〜!憧れの俳優さんとポケンモファイトなんて夢みたい」
「スミレさん、舞い上がりすぎンゴ」


カビンゴは塩ラーメンを注文。白トリュフの香りは時に全体を支配してしまいがちなものであるが、程良く香らせつつスープの円いコクも立てており効果的な使い方ができている。麺は弾力がありつつも美しく、ギコギコと噛んでスープの味を染みさせる。
特製にしたためチャーシューも豚鶏たっぷりと。派手さは無いが一流ラーメン店の仕上がり。味玉も卵に拘っているようでコクが深い。
「小さく纏まっているようだけど一流の味で満足だンゴ」
「良かったねカビンゴちゃん」
「いやあ美味しかった。ファイトする力が漲ってきましたね。スミレさんはこの辺地元ですか?」
「ええ。生粋のハマっ子です。あれ、リュウセイさんも……」
「俺は生まれはヨコハマシティなんですけど、すぐ引っ越しちゃったんですよね。だからあまりこの辺詳しくなくて。どっか良いフィールドあります?」
「イセザキえきへ延びる公園があります」
No.066 ヤサツボ ぶとう派
程良い力加減で足を揉み、フットワークを軽くし血中の老廃物を促す。少しくすぐったいだろうが我慢しよう。
「ではこれよりファイトを行う。武道は礼に始まり礼に終わります。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「では私から。ヤサツボ、むそううちだ!」
「ンゴオォォ!」
「負けないぞぉ!カビンゴ、だきしめたいだ!」
「ツボォォゥ!」
「流石カビンゴ、強いな。こうなったら特別な技だ。いけヤサツボ、ユウセンだ!」
「ンゴオォォ!」
「強力すぎる技・ユウセン。進化前なのに覚えているって凄いなリュウセイさん。カビンゴちゃん、大丈夫?」
「まだやれるンゴ」
「ありがとう。いけカビンゴ、おおきなはらのした…」
「ちょっと待ったぁ!そのカビンゴとヤサツボ、アタイらが頂きだ!」
「何者だお前ら。今ファイトの途中だ、後にしろ」
「知らないね。サッチー、やっておしまい」
「ああ。いけサムリナ、スコシモサムクナ…」
「待つニャ。リュウセイさんのポケンモは襲うなニャ」
「なんでよ。このヤサツボは強いんだ、貰って損はない」
「カビンゴだけにするニャ。二ポケを追う者は一ポケをも得ずニャ」
「わかったわよ。カビンゴだけね、サムリナやってしまえ……」
ヤサツボに寝技を仕掛けられたサムリナ。強い圧で封じ込められてしまい何もできない。
「頼りないな。じゃあアタイのコリシンを…」
「カビンゴ、2人をイッコーぜおいよ!」
「ンゴオォォ!」
「また未知の技にやられた!」
「リュウセイさんのポケンモ守れたから満足ニャ」
「気楽なこと言うな!一ポケも得られてないから!」
「いやーんばかーん!」
「スミレさん!俺のヤサツボにもイッコーぜおいをお願いします」
「いいんですか?」
「強くなりたいので!」
「わかりました!カビンゴ、今度はヤサツボにリスペクトのイッコーぜおいよ!」
「ツボォォ〜ゥ!」
「効いた……」
リュウセイからラムボールを与えられたヤサツボ。忽ち体が光に包まれる。ヤサツボはマーイタに進化した。
「進化だ……おめでたい!」
「やった、やったよ!ありがとうスミレさん」
「力になれて嬉しいですぅ!あの時デングリーンから頂いた勇気、少しでも恩返しできましたかね」
「できてるよ。貴女のカビンゴは強い。心込めて育てているんだな、って思います」
「夢みたいです、リュウセイさんに会えてファイトまでするなんて」
「楽しかったよ。あ、そろそろ撮影の時間だ。これからも戦隊の応援、よろしくね!」
「ありがとうございました〜!」
時を越え、幼き頃に力を貰っていた戦隊ヒーローに力を与えたスミレとカビンゴ。次はこのふたりが、観る者に勇気と希望を与える番である。逆風に負けず勇姿を見せ続けろ、スミレ、カビンゴ。