フランス帰りのカケルは、「アパーランドの皇帝」として問題だらけのこの国に革命を起こそうとする。かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・Écluneをプロパガンダに利用しながら。
*この作品は完全なるフィクションです。過激な話が展開されますが、実在の人物・店・団体とは全く関係ありませんし、著者含め誰かの思想を示すものでもありません。
!!!ATTENTION!!!
Écluneメンバーsnnを襲った当て逃げチャリカスを拐いました。我々にも自転車でぶつかってきたのでとっ捕まえました。周りを見ず常に冷たい目をしているムスッとした男です。恐らく性格も曲がりくねっていることでしょう。観察してみます。
「作戦大成功。警察をミスリードして攪乱させ、アパーランドが犯人を確保した」
「警察に捕まってたらお咎め無しも同然で野に放たれますもんね」
「アパーランドが捕まえてこそ、悪人が正当に償いを受け、この国の平和は守られる」
達成感を覚えたカケルは翌日、Écluneメンバーのmzkを連れて老舗の鰻を食べに行く。
「snnは大丈夫そうか?」
「お陰様で回復しています。でも1ヶ月くらいは治療に専念だそうです」
「とんだ迷惑だよ。犯人は見つかって良かったけど」
「アパーランドが連れ去ったんですよね?」
「そうみたいね」
他人事を演じるカケル。鰻屋は予約のできる店であったが、今回は飛び込みのため11:00開店の10分前に到着し行列に並ぶ。5組目であり、1巡目に間に合ったか不安になる。
開店時刻少し前に記名して店内の待機席に通される。そこから少しして前3組が3階に案内され、その後直前の1人客とカケル達は1階テーブル席に通された。
「待つ羽目にならなくて良かった。心労絶えなかったろう、気兼ねなくコース頼みなさい」
「8,000円近くしますよ。いいんですか?」
「遠慮するな。精をつけておきなさい。鰻巻きも貰おう」
ちなみにコースは1人から、鰻巻きも1切れから注文可能なため、おひとりさまでも気軽に鰻を楽しめる店である。

飲み物は鰻に合うであろう山椒エールを注文。山椒の味わいはありつつも、ビールの膨よかな味わいに上手く溶け込んでいる。

コースのお通しは煮凝り。鰻独特の味わいに、遅れて溶け出る鰹出汁っぽい味が融合する。
「しかし自転車も厄介なものだよ。歩行者に対してはオラオラして、車に対しては交通弱者装って譲るようオラオラ」
「そんな全員オラオラはしてませんよ。でも目立ちますよねマナー違反は」
「飛び出し、一時停止無視、夜間の無灯火、逆走、片手運転。これらが本当に目につくよね。歩行者に当たって怪我を負わせ、ドライバーに当てさせて賠償を負わせる。調子乗ってんのか、ってな」
「まあまあまあ。事故はありましたけど、あまり自転車を恨まないでください」

鰻巻きは確り鰻の存在感あり。優しい味の卵焼きにさっと乗っかる鰻。大根おろしを載せるとさっぱり快活な味わいになる。
「この国の道路状況が自転車に合わないんだと思います。本来自転車は車道の端を走るものですけど、それやられると自動車にとって邪魔になってしまう。危険を感じて自転車は歩道を走るけど、我が物顔で走る迷惑行為が横行し、車道を走れと言われるようになる。結局どっち走ればいいかわからない乗り物となってしまいました」
「不思議だよね。フランスは自転車教育しっかりやってるからあまりそんなことにはならない」
「たしかに、この国ではルールが周知徹底されてないです。イヤホンとか傘差しとか、知らずにしてしまう人多いですもん」
「フランスじゃあり得ないからね。自転車のためのインフラ整備と乗り手の教育を強化しないと」

白焼き。何もつけずに食べると、鰻独特の味わいは抑えめに、脂がどろっともったり口に溶け出す。これでも勿論美味しいのだが、そこにわさびを載せると味が締まり、塩をかけると鰻の香りがふつふつとし、醤油をつけると焼き魚を嗜む感覚を味わえる。鰻の多様な味わいを楽しむ、何とも乙な体験である。
「ああ、鰻美味え!」
「白焼きなんて初めてですけど、イケますねこれ」
「濃い味の鰻重を食べる前に、白焼きで鰻本来の味を確かめる。これが伝統的な鰻の楽しみ方のようだな」
「鰻って、冷静に考えたらお魚の1種ですよね」
「まあそうだね」
「鯖とか鮭は、捌き方や焼き方で特別なこと無いじゃないですか。なのに鰻はその辺色々技があって一人前になるまでに時間がかかる。不思議ですよね」
「言われてみれば確かに。フランスでも鰻はよく食べるけど、煮込み料理が中心かな。こんなじっくり向き合って焼いてそれを有り難るのは独特な文化だ」
「素材の良さと技術力の高さが売りですからね、この国は」

いよいよ真打の鰻重。東方スタイルであり、西方出身のmzkにとっては慣れないものである。しかしそこは流石老舗、やわやわと溢れる鰻の旨味でご飯が進む。
「身がふわふわ。柔らかすぎないのが良いですよね」
「たまに飲めるくらい柔らかい店あるけど、身を確と感じられるくらいの柔らかさが良いよね」
「その辺はやっぱり熟練された名人芸になるのでしょうか」
「だな。何事も鍛錬しなければならない。自転車も免許制にして鍛えさせるべきだ」
「免許制……」
「自転車のルール違反はやっぱり目立つからな。自動車学校は生徒数が減って経営厳しいみたいね。自転車の教習をやらせたら持ち直すんじゃね?」
「アイデアとしては面白いと思います」
「自動車と同じく、学科試験は免許センターで。自治体によっては不便もあるけど、それくらいの覚悟を持って自転車は運転しなければならない」
「手軽さは失われますけど、安全性は増すでしょうね」
「で違反もバシバシ切る。これだけ違反が多けりゃ警察も潤うね」
「お金稼ぎのために取り締まってる訳じゃないですよ」
「とにかく自転車の悪行を放っておく訳にはいかない。思いきった改革をやってもらいたいものだね」
事務所に戻り、カケルはアパーランドの皇帝として声明を出す。犯行声明ではないが、アパーランドらしい文面での投稿である。
???SUGGESTION???
傍若無人な自転車による事故が多発しています。いっそのこと自動車と同等の免許制と取り締まりを導入すべきです。しかしただ規制強化するのも酷であることは認識しています。自転車が気兼ねなく走行できる環境整備にも併せて取り組みましょう。
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