連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』32杯目(あさひ町内会/板橋区役所前)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

この日は板橋区役所前駅から旅を始める。
「ねぇタテルくん、1つ相談したいことあってさ」
「どうした」
「セットリストの中に『初恋』があるのね」
「宇多田ヒカルさんの?」
「いや、村下孝蔵さんの」
「渋っ!でも聴いてみたい」
「ありがとう。でもちょっと歌い方に悩んでて…」
「確かに難しそう」
「だからタテルくんに初恋エピソード聞きたくて…」
「初恋?今まさに京子と初恋の最中」
「変なこと言わないでよ」

  

あさひ町内会に到着した。ピークタイムだったため6人待ち。
「あそうだ、小学生の頃好きだった子の話ならある」
「それでいいよ」
「ちょうど良かった。実はね、その子すっぴんの京子にそっくりなんだ。京子を見るといっつも思い出す、あの日々…」

  

小学生時代のタテルが好意を寄せていた、アケミという名の女の子。彼女は人前では一切言葉を発さない人であったが、同じ学童に通うなどして仲良くなり、お互い手紙を交わしていた。でも好きだと言う勇気は出なかった。タテルはその頃から好きな子をいじめるタイプで、アケミの作った紙飛行機を奪い水をかけるという悪戯くらいでしか、愛を表現できなかった。

  

「何それ、酷いんだけど」
「俺も喋ってて思った。どんだけ俺は不器用なんだろう」
「不器用とかじゃない、マジでイカれてる!」
前回のべんてんとは打って変わって、回転が速く15分で入店できた。「20年前恋した味噌ラーメン」が気になるところだが、初来店の2人はベーシックな味噌ラーメンを頼み、タテルはカレーもつけてもらった。

  

高学年になると学童を卒業し、学校以外では会わなくなっていた。勉強のできるタテルは塾に入り中学生の内容を先取りしていたが、そこにアケミが入ってきた。タテルは先生の指示で度々アケミへのコーチングを任された。厳しい指導をする先生とは対照的に優しくサポートするタテル。甘辛指導でアケミの学力はスクスクと伸びていった。

  

「素敵な話だ」
「でしょ」
「紙飛行機濡らした人とは思えない変わり様」
「あれはたまたまだから!じゃなきゃこんな親密にならない」

  

そんな話をしているうちに味噌ラーメンがやってきた。普通の味噌ラーメンでは感じられない、味噌のコクの深さを覚えた。ネギやもやしがたっぷり乗っていても、生姜を溶かしても、薄まることのない味噌の力強さ。タテルの思い描いていた「理想の味噌ラーメン」はここにあった。一方でカレーはコクがありすぎて、ラーメンと合わせるには重すぎる。

  

「タテルくんって本当不思議。意地悪されても嫌いになれない。なんか放っておけないんだよね」
「この前はごめんな、寂しい思いさせて…」
「大丈夫よ!ほら、次の店行こう」

  

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