昨年の独立騒動を乗り越え人気を取り戻した女性アイドルグループ・TO-NA。しかしメンバーの卒業が相次ぎ、特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)としてグループを支える渡辺タテルは新メンバーを募集することにした。
一方、独立騒動の結果業界から追放されたTO-NAの前プロデューサー・Fは、とある芸能事務所社長の野元友揶(のもと・ゆうや)に声をかけ、「世界一を目指す女性ダンス&ヴォーカルグループ」のプロデュース、そしてTO-NA潰しを依頼する。そこにタテルの戦友であったエイジも合流して……
*物語の展開(料理に関する記述除く)は実在の店舗と全く関係ございません。
「タテルはエイジをさす九呼ばわりし……してないって!九州男児、とは言ったけどさす九なんて差別的すぎる」
「取材対象者から出た言葉を拾って、悪意のある表現に捏造する。アイツらの常套手段だ」
「でも何で俺とTO-NAを攻撃するんだ?」
「わからない。兎に角このままではTO-NAのオーディションが失敗してしまう。急いで再募集の準備を……」
「その必要は無いよ」
「はっ⁈」
「突然の訪問ですまんね。ドリームプッシュエンターテインメントの野元だ。ご愁傷様だねタテル君、あんな記事が出ちゃって。酷いよね週刊誌は、あることないこと書き立てて」
「本当ですよ。参りました」
野元の仕業であることなど露知らず、同情に乗っかるタテル。
「TO-NAオーディション、どこまで進んでるの?」
「次が最終です。合宿審査を2週間ほど」
「何人残ってるんだい?」
「辞退が重なって今は8人です」
「丁度僕もね、ガールズグループのオーディションやってるでしょ?そこで僕が泣く泣く落とした候補生、TO-NAに譲ってもいいけど」
「でも野元さんの下で活動したい人の集まりですよね?それをTO-NAに斡旋しようなんて、望む人いるんですかね?」
「それがいるんだよね」
「なるほど……でも受け入れられないです。はなからTO-NAに入りたいと思って応募してくれた子を採用したい。それに、今までTO-NAのやり方で候補者を絞ってきた。野元さんのやり方と俺のやり方はだいぶ違うと思うんです。絶対に合わないと思います、TO-NAの空気感とは」
「君はなかなか強気だね。僕の有難い提案、拒むつもりかい?」
「そ、それは……」
「タテルくん、受け入れた方が良い」
プロデューサー大久保が口を挟む。
「大久保さん、でも純粋にTO-NAを目指す人を…」
「ずべこべ言っている余裕は無い。このまま8人で合宿審査やって、人間性に問題ある子が多かったらどうする?TOMOKI先生や菅井ちゃん先生のキツいダンスヴォーカルレッスンで離脱する人だっているかもしれない。かと言って再募集なんかしたら時間も金もかかるし、残っている人達が納得しないだろう。候補者譲ってもらえるのなら受け入れるべきだ」
「そっか……野元さん、有難く頂戴いたします」
「健闘を祈るよ。ま、上手くいくとは思わないけどね」
最後の一言に背筋が凍る感覚のしたタテルと大久保であった。

合宿審査が始まって3日目。タテルはTO-NAきっての寿司好きメンバー・ミクを連れて南青山の高級寿司店を訪れていた。この日の客の半数近くは外国人であり、その中には全身タトゥーの強者もいた。

洒落ているタテルはイチローズモルトのハイボールで乾杯とする。
「『誰かの心臓になれたら』ドラマ撮影お疲れ様でした!」
「素晴らしい現場になりましたね。タルさんの遺志も引き継いで」
「本当はタルさんがご存命のうちに続編やるはずだったのに。Fが憎い」
「でも続編やれただけでも嬉しいですよ。タルさんも空の上で喜んで下さると思います」

摘みとして千葉県産の蚕豆。無になって咀嚼すると豆の旨味が解る。皮と一緒に食べた方が、味わいに多様性が生まれる。

滑川産の蛍烏賊は酢味噌で。墨と身の華やかな旨味は堂に入った味わいである。
「合宿始まりましたね。昨日ちょっと覗いてみましたけど、スキル高い人達の集まりでした」
「スキルは、なんだよな……」
「何かあったんですか?」
「俺もこの2日間、レッスン外も含めて時間の許す限り様子を見ていた。そしたら人間性に難のある人が多すぎてな。特に途中から参加してきた組が……」
野元がTO-NAに譲渡した候補生は、スキルこそ高けれど色々問題を抱える者ばかりであった。勿論これも野元の策略である。
「これだけ問題を抱える者であれば、僕みたいな常人なら先ず採らないだろうね。グループの和を乱すだろうし、いずれ週刊誌に載るようなことして脱退となるよ。トラブルメーカー間違いなし。TO-NAはコイツらを採ったら崩壊、採らなかったら古びて自然消滅。採るも採らないも地獄。嗚呼、面白くなってきたねえ」


野元の意図など知る由も無いタテルとミクは、港区らしい贅沢を楽しむ。粗食のシンボルである玄米に、贅沢の急先鋒である自家製キャビアを載せる。交じり合わなさそうな両者だが、玄米の甘みをキャビアが見事に引き立てる。上戸彩と上地雄輔が繰り広げる恋愛劇のような逸品である。
「この前さ、俺がメンバーと食事に行くのって港区女子のパパ活みたいですね、って記者に言われて」
「そう見えてもおかしくはないですよ」
「やっぱり?」
「メンバーに一流を知ってもらいたい、というタテルさんの狙いは良いと思いますよ。でもやっぱりタテルさんが先を行きすぎているきらいがあって、私達には味が解らないこともしばしばあると思います」
「それは承知だ。でも何回か食べるうちに慣れてくることもある。最初から一流を理解できる人なんていないよ、GACKTさんだって勉強してるくらいなんだから」

ウォーミングアップの最後を飾るのは枕崎の鰹、玉ねぎ醤油で。単体では赤身がクリアすぎて味気なさそうなところ、醤油に浸った玉ねぎの旨味が補ってくれるから美味い。
「新メンバーともこんな感じで食事します?」
「したいとは思ってる。でもいよいよ歳の差が問題だよね」
「今候補で残っている最年少が14歳。タテルさんは97年生まれでしたっけ?」
「そう。だから一回り以上離れてる」
「そうなるとすっかりパパ活ですね。私達年長メンバーも同伴しましょうか?そしたら如何わしさも軽減できそうですし」
「そうだな。そうしよう」

ここから握りが登場する。まずは淡路島の春子鯛。最初から旨味がしっかり感じられ、ネタの良さを実感する。醤油は少し薫香を覚えた。

ミクが写真旅で訪れた五島列島に程近い、小値賀島からイサキ。筋肉質が強く、入りは鯛より淡白に思えるが、じわじわと濃い旨味が滲み出てきて鯛を上回る味の良さである。

対馬ののどぐろ「紅瞳」。第一印象はとても柔らかくシャリと融合。そのあと炙りの香ばしさも際立ち始める。もちろん旨味も抜群。

ここでタテルは日本酒に切り替える。お任せにしてもらうと、大将は店員に「阿櫻」と呟いた。純米吟醸秋田酒こまち無濾過原酒超旨辛口+10。とどのつまり辛口ではあるが、メロンらしいフルーティさも感じられる美しい酒である。
「具体的にどんな問題抱えてる子がいました?」
「とある子は自分が一番だと言い張って口が悪い」
「所謂ビッグマウスですね」
「またある子は逆に寡黙。話しかけても何も喋ってくれない」
「それも困りものですね」
「やたらと攻撃的な子、恋愛話しかしない子、肌に傷跡がある子……ほぼ全員、見逃す訳にはいかない問題を抱えている」
「不良債権を…」
「そんな言い方するもんじゃない!」
「……ごめんなさい。私すぐ迂闊なこと言っちゃう」
「口を滑らしたくなる気持ちは解る。でも皆、TO-NAへの加入を目指している。セカンドチャンスを掴もうと足掻いていることだろう。色眼鏡かけることなく公平に審査をさせてもらうよ」

北海道のスルメイカを、紫雲丹で塩辛に拵える。スルメイカの官能的なとろみを雲丹が下支えするエモい関係性。臭みも無いため、通常の塩辛が苦手なタテルも美味しく戴いた。

寿司からもイカが登場。こちらは紀伊半島熊野のアオリイカに、徳島酢橘と呉の雪塩を振った三都物語。イカは確かにねっとりしているのだが、やはりシャリとは反抗期にあるように感じた。
「イカのお寿司って、どこで食っても美味しいとはならないんだよな。イカってコクが無いから…」
ミクは耳を貸すことなく落ち込んでいた。タテルの叱責のせいである。
「どうしたミク?この前はよく頑張ったよね、ぶりっ子大会」
「えっ?あ、ありがとうございます……」
「ミクは落ち着いた印象があるからぶりっ子とは無縁だと思ってた。でもいざ解放してみたら全力ぶりっ子で大爆笑。その後恥ずかしくなって崩れ落ちたところまで、ミクのぶりっ子って感じがして素敵」
「全力でやって良かったです」
「あまりにも面白いから毎朝これを観て出勤してる。先輩の面白さを受け継ごうと頑張っているよねミクは。心強いよ」

タテルは笑四季という日本酒を合わせてもらう。Masterpiece 純米大吟醸 阿。先程の辛口から一転、ウェットなメロン味にとれる。阿櫻と笑四季は鞭と飴のような関係。一つ叱ったら十褒めてあげる、これがタテルのモットー「一鞭十飴」である。

そこへ続く寿司は関あじ。単価3万を超える寿司屋とあってかネタが綺麗。鯵独特の旨味を確と感じた。

さらに焼物も登場。愛媛産鰆の幽庵焼き。しっかり火が入っていて、身がボソボソなのではないかという不安に駆られるが、繊維が整然としていて良い弾力に仕上がっている。
その頃野元とエイジは、野元曰く「この国で唯一まともな鰻屋」で食事をしていた。
「タテルはとことん甘いね」
「全くその通りです。呑気過ぎるんですよ」
「ああ。メンバーとの距離が近すぎて、つまらない内輪ノリに運営が加担している。これじゃあグループの外に魅力は伝わらないね」
「俺正直言いまして、今のアイドルはキャバクラと変わらないと思ってます。ただおっさんにちやほやされるだけの職業、アーティストとして認められません」
「エイジ君は真っ直ぐな人だね。そうだよ、実力の無いアイドルが持て囃される世界、健全じゃないよね。この国の歌やダンスのレベル、世界から大きく遅れをとっている。だから僕のプロデュースするグループが、世界水準のパフォーマンスで芸能界を圧倒してみせる。そうなったら、仲良しこよしのTO-NAは用済みだろうね」
「野元先生のグループが天下を取る。楽しみですね」
「グッバイタテル、グッバイTO-NA」

いよいよ鮪の登場ということで、その前に日本酒を追加するタテル。スラムダンク作者も愛する三井の寿から、純米吟醸大辛口。
「辛口でくるのか」
「タテルさん甘いの好きそうですよね」
「そんなことないよ。寿司に合うのは辛口だし」

先ずは宮城塩竈のはえ縄144.2kgの赤身漬け。味気なくなりがちな赤身だが、良質な醤油が効いて味わい深くなっている。

同じ鮪から、今度は中トロ。最初のうちは脂のねっとり感が強く感じるが、徐々にシャリと融合して良い塩梅となる。

大トロは一転、伊豆下田、御用邸があることでお馴染み須崎産を使用。フリフリとほどけ脂が等間隔のスタッカートに乗って舞う。
「本当は隣の男性に新政が出てたから、それを飲みたかったんだ」
「新政って、私飲んだことないですけどすごく美味しいんですよね?カコニちゃんから聞いてます」
「そうそう。実はこの後日本酒のイベントに行く予定なんだけどついてくる?新政も出展してるよ」
「気にはなりますけど、今日はこれ以上飲むと倒れてしまいそうで。すみません!」
「構わないよ。身の程知って節制できるのは素晴らしいことだ」

ヤングコーンと湯葉の入った茶碗蒸しでさっぱり口直しとする。

「楽器正宗だ」
「よく飲みますねタテルさん。大丈夫ですか、このあと日本酒イベント控えてるのに?」
「まあ大丈夫でしょう。中途半端に飲むと地味に疲れるんだけど、ある程度飲むと楽しくなるもんなんだ」
「それってあまり聞こえ良くないような」
「クスリみたいに言うな。まあ楽しくなったところで調子に乗りすぎると後がキツい、というのは確かだ」
「気をつけてくださいね。合宿は続いてますから」

厚岸浜中のバフンウニは普通の店と比べて2倍量盛られている。頭でっかちのため箸で取る前に倒れてしまった。これも寿司の醍醐味であろうか。味は普通に美味しいくらいである。
「ん?爪楊枝を包丁で切ってる?」
「何が始まるのでしょう?」
爪楊枝を2本、包丁で切れ目を入れて固定し、その間に胡瓜をセット、ひと思いに転がして桂剥きをしてみせた。
「なんという神業でしょう」
「さすがジョプチューンの寿司職人。一流の技術だ」
「タテルさんもジョプチューンで審査員されてますよね?」
「してるけど、寿司回は断ってる。寿司のことは心得てないからさ」
「確かに、寿司なら私の方が詳しいですね」
「今度ミクを推薦しておこうか?審査員に」
「その勇気は無いですよ。すぐ叩かれるじゃないですか」
「俺は気にしてない。あの番組で審査員に文句言う奴は何もわかっちゃいない。この国の食のレベルを底上げする機会、奪おうとしてるんだよ」
「庶民派チェーン店のごはんが美味しい、というのはこの国の誇りですもんね。そう言われるともう大納得です」
「だろ。勿論たまに有益な問題提供する人もいるけど、大半は過激派ネット民の戯言だから。大将、負けちゃいけませんよ俺ら」

山口宇部の車海老。女性は半分にカットされるが、男は一口でいけ、ということらしい。肉質がありつつ臭みの無い仕上がりは間違いなく合格。だけどやっぱりカットしてもらって、2回に分けて味わった方が喜びも2倍で良いと思う。
「京子と別れてもう1ヶ月経とうとしてる」
「立ち直りました?」
「立ち直らなきゃ駄目でしょ。みんなのこと守らきゃだし、へこたれてたらタレント失格だよ」
エイジと野元もまた、タテルの失恋を酒の摘みとしていた。
「タテルの野郎、俺のこと頑固者だって言うんですよ。人のこと言えるのか、って話です」
「きっと亭主関白なんだろうねタテルは。生牡蠣食うなとか子供作るなとか、お子ちゃまの捏ねる駄々だよね」
「社会人として駄目過ぎます。俺が叩き直そうと思ったけど見事に拒否されました」
「いいんじゃない。君の時間を割く価値、タテルには無いよ。我儘で偏屈なタテルはTO-NAを私物化する。メンバーも逃げ出すだろうね。まあ、逃げ出したところで、歌と踊りの実力が無ければ居場所は無いな」
「ミク、改めて日藝写真学科卒業おめでとう。カメラマンとしても活動してほしいな」
「したいですね。インスタにいっぱい写真載せたいです」
「人物写真とか風景写真とかあるけど、どういったジャンルが得意とかあるのかな?」
「やっぱり人物ですかね。メンバーの振袖姿、親御さんにも大好評だったので」
「京子が卒業する時撮ってくれた2ショット、今でも飾ってるんだ。別れてもしまえない、それくらい思いの込められた写真なんだ」
涙ぐむタテルとミク。
「嬉しいです……こんなに喜んでくださる人がいるのって」
「だからミクにはこれからも写真を撮り続けてほしい」
「勿論撮ります!みんなの振袖写真も、卒業写真も、終いには遺影も」
「おいおい、先のこと考えすぎだい!……やっぱり、突き抜けた個性があるっていいよね。アイドルって、歌とダンスだけじゃない個性を愛でる楽しさがある」
「今頑張ってる候補生からも、個性引き出したいですね」

穴子は甘だれをたっぷり纏わせて出す店が多い中、甘だれはそこそこに柚子を利用する。身は勿論ほろほろと解け、柚子の香りであっさりと食べられる。
太巻きは先ほど桂剥きされた胡瓜に加え、烏賊、そして鮪3種を大胆に載せて巻く。具材のはみ出た端っこを食べたい人は、大将が募るので勇気を出して志願する。
「俺結構腹一杯。ミク食べなよ」
「いやぁ、ちょっと遠慮しちゃいますね」
「寿司アイドルが遠慮してどうする」
結局志願したのはタテル以上にゆっくり食べる男と全腕タトゥーの外国人であった。

とはいえタテルとミクにも鮪の割合が特に高い部分が割り当てられた。鮪の柔らかさとイカの弾力で食感にメリハリをつけており、胡瓜の香りも堪らない。

最後は静岡の苺「きらぴ香」でフィニッシュ。タテルの会計は38,000円強である。
「こんな高い寿司、食べたことないです私」
「俺もだよ。金沢の弥助は2万くらいで収まったからな、東京の寿司はやっぱお高めだね」
「何をもって高級たり得るのか。寿司フリークの私でさえ解らないです」
「解ろうとしなくても良いんじゃない?解った瞬間、がっかりする可能性もあるから」
「なるほど……」

ただこの店のおしぼり、そしてお手洗いのタオルには寿司が描かれていて可愛らしい。
「ミクと話して改めて実感した、俺は個性の花咲くグループが大好きなんだと。新メンバー加入でより多様な個性がぶつかり合い磨かれる。パフォーマンスでは優しさ、喜び、凛々しさ、時に怒り悲しみ、様々な感情を表現する。TO-NAはその確かな実力と共に、個性の光る魅力的で親近感のあるグループになる」
「僕は実力主義のグループを作るよ。個性なんて邪魔だね。尖った個性は均してあげるよ」
「圧倒的な実力で他のグループを黙らせる。野元先生の理念、素敵です!」
「スタッフの君たちには、タテルの様子を偵察してもらいたい。日本酒が好きだから、あのイベント行くかもね。悪いが連日見張りをしてもらえるかな。あ、僕は行かないからね。大して特別感の無い日本酒に粗末なメシ、そのくせ人が多くて居心地悪いんだよ」
「コロッケうま。じゃがいもが甘やか〜」
全国各地の酒造が選りすぐりの酒を提供する日本酒イベント。調子良いタテル以外にも、カケルという男が参加していた。彼はタテルの生き別れていた弟。TO-NAと同じ流れを汲むガールズグループ「Éclune(エクルン)」を手がけてる一方、秘密裏で改革派組織を結成し、暴力的な手段を使って悪者を懲らしめ世間を混乱と熱狂の渦に巻き込んでいる。
「何だあの男。スタッフを脅してやがる。これだから酒のイベントは嫌なんだよ」
カケルは下っ端に電話し、脅迫した酔っ払い男を矯正施設へ拉致させた。
「こんなとこいたらおかしくなる。帰ろっ……あれ、あそこにいるのはタテル?」
タテルはハンターを見つけた逃走者のように急なダッシュを始めた。そして前を歩いていた男と肩がぶつかる。
「おいテメェ、何ぶつかってんだよ」
「そっちがちんたら歩くからでしょ」
「うっせぇデブ。自分の肩幅認知しろよ」
「お前こそ端に寄って歩け。こっちは一分一秒争ってんだ」
「黙れよ。ガキみたいな振る舞いしやがって」
そこへカケルが駆けつけた。
「すみませんねお兄さん。ちょっとこっち来なさい」
「タテル、お前もう帰れ。お前までFになられちゃ困る」 「すみません……でも呼び出すことないでしょ。あっちだって喧嘩売ってきた」 「相手もちょっとアレだけど、でもタテルはそれ以上にFだ!」
「…」
「はあ、何でこうもF***ばかりなんだ、このイベントは。タテル、恥を知りなさい。TO-NAを守る者として、あのムーヴは無さすぎる」
「反省します」
「うわべだけじゃないだろうな。突発的な行為で人に迷惑をかける、お前の悪い癖だ。いつどこで見られてるかわからないからな、立場を弁えて行動するように。以上!」
この一連のやりとりを、アパレルショップ内からこっそり撮影していた野元のスタッフ。CLASH記者に垂れ込み、翌日にはネットニュースとなって世間の知るところとなった。
TO-NA特別アンバサダー・渡辺タテル、人気日本酒イベントで酒乱!男性にぶつかり逆ギレ「ちんたら歩くなよ」
「どこから漏れたんだこの話……」
「タテルくん、大変なことしてくれたな!」
「大久保さん!また騒がすようなことしてしまい申し訳ございませんでした!」
「本当に迷惑だ。親御さんは君のこと、もう信頼してないよ。合宿審査、半分が辞退して帰ってしまった。しかも端からTO-NAに応募してた子は2人だけになった……」
「そんな……」
「君の口からちゃんと説明しなさい。あとプロデューサーの立場として、君には処分を下すことになる。覚悟しなさい」
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