女性アイドルグループ「TO-NA」の頭脳派メンバー・コノは、東大卒のクイズ好きであるTO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)・タテルと共に、約1年ぶりのクイズ修行「プレッシャーSTEADY」に挑む。静岡を舞台に、予約困難天ぷら店・日本料理店での食事を懸けて、一般市民を巻き込みながら難題を解いていく。
☆ルール
静岡市内にある食べログ百名店を1軒満喫する度にくじを引き、そこに書かれた場所に到着して周りの人を6人集めたら出題スタート。回答順はコノ→タテル→一般の方々6名→コノ→タテル。
タテルは旅館のスタッフ達に挨拶するのがやっとの精神状態であった。言葉を発さぬまま、静岡駅行き10:41発のバスに乗る。
「タテルさん、泣いてます?」
「泣いてないもん」
「泣きたい時は泣いていいんですよ」
「コノより先に泣くなんてリーダー失格だ」
「強がらないでください。泣いたら楽になりますよ」
その言葉を聞いて、タテルの涙腺は容易く決壊した。無駄に大きな背中をさすりタテルを慰めるコノ。
「私だって前回ミスした時、消えてしまいたいくらい落ち込みました。でもタテルさんに希望を見出していただいて乗り越えられた。だから困った時はお互い様です」
「ありがとう…ありがとうだよコノ」
「まだチャンスはありますからね。あと1問、うまくいけば2問できるかもしれません」
「そうだね。うまくいくと信じたい」
「戦いに備えて、今はゆっくりしましょう」
「…」
「寝てます?すぐ寝ちゃうんだから」
そう言いながら、自分も眠気に襲われるコノ。2人仲良く、30分ほど眠りこける。
「あっ、お昼どこで食べます?」
「ハンバーグ食べたい!」幼児退行したような声でタテルが言う。
「ハンバーグだと…ここですかね?」
「そうだね。煮込みハンバーグが有名らしい」
「さわやかだけじゃないんですね、静岡のハンバーグ」
静岡駅の手前、中町バス停で下車する。そこは駿府城公園の入口に程近い場所である。とりあえず伊勢丹を目指し、そこから少しすぎた路地に目当ての店がある。

チェーン展開している店ではあるが個人経営の洋食店のようにこじんまりとした店構えで、平日ランチのピークタイムは過ぎていたが待ちが発生していた。
「ここでの指定メニューはありません。ハンバーグがメインになっていればOKです」
「となると煮込みハンバーグかな」

「平日ランチもありますよ。煮込みじゃないですけどハンバーグにエビフライ、マカロニまでついて豪華ですね」
「悩ましいなぁ。どっちにしよう」
「私ライス要らないので煮込みにします!」
「となると俺は平日ランチか。ハンバーグだけで足りる、コノ?」
「じゃあポタージュも貰いますかね」

タテルの頼んだ平日ランチには野菜スープがついてくる。野菜の旨味由来と思われるちょっとクリーミーな味を感じた。
「タテルさんハンバーグにうるさいですよね」
「まあうるさいね。ハンバーグと名乗っておきながらミートボールになってやがるものが」
2時間前まで意気消沈としていた人とは思えない口の悪さである。
「肉肉しさがあるものが良いんですよね」
「そういうこと。粗挽きとか牛100%とか大好き」
「今日のハンバーグは…牛豚合い挽きみたいですね」
「まあそれでも美味しくやれるところはやれるからな。肉汁を閉じ込めて、ソースを工夫して。いろんな形があるよねハンバーグって。でも素人はすぐミートボールに…」
「ミートボールも美味しいですよ。お弁当に入ってるとワクワクしません?」
「しない、ミートボールごときで。家でお弁当作ったらすぐ傷むし」
「傷みませんよ。やり方知らないだけですよね、全部京子さんにやらせて…」
「京子は一切料理しない。殆ど外食だよ」
「そ、そうでしたね…」

すっかり元気になったタテルの元にランチプレートがやってきた。デミグラスがかかって美味しそうである。しかしタテルの表情は弛まない。
「ミートボール、とまでは言わないけどのっぺりしてるな」
「そうですか?煮込みバーグは美味しいですよ」
「そっちにすれば良かった。デミグラスも質は良いけどコクより苦みと酸味が主だからご飯が進まない。ライスあげれば良かったね」
「確かにちょっとライスの量多めですね」

エビフライもあまり身が締まっておらず、惰性で食べてしまう。一方でマカロニはアルデンテっぽさがあって食べ甲斐がある。
「いやあ申し訳ない。次は煮込みハンバーグ食べよう」
「デミチーズ、イタリア風、鉄板バーグのゴマ風味、いそ風味…何回か行けば好みのメニュー見つかるかもですね」
「また来よう。これで暫くさわやかには行けないな」
会計は奥で行うが、店内は狭くレジカウンターの間近にも客が座っているため、金の受け渡しにも一苦労である。コノがその苦労役を買って出て、タテルはくじを引く広場を探す。
「なんかお洒落な商業施設あったな。あそこで引けないかな」
「見つかりました?」
「見つかった。行ってみよう」
アルティエという商業施設の前でくじを引いてみる。選ばれた場所は「富士山展望ロビー」であった。どこにあるかわからないため、近くにいる人に訊いてみる。
「ああ、県庁ですねそれ。行けばわかりますよ」
「ありがとうございます!」
「良かったぁ、近いところで」
県庁別館21階にその展望ロビーはある。正面を右に行って東館に入り、床の耐久性に不安を抱く細い通路を抜けると別館のエレベーターホールに辿り着く。エレベーターにはちらほらと職員が乗っていて途中の階で降りていく。21階に向かうのはタテルとコノ、そして警備員らしき爺さんの3人のみであった。

「ふじさん、ふじさん…は見えないよな」
「雲が分厚いですもんね」
「さっきまで雨降ってたけど、晴れ間が覗いているだけでも良しとするか」

平日ということもあってか客は疎らであり、クイズへの挑戦者を選り好みすることはできない状態である。
「すみません、クイズに参加しませんか?商品券1000円あげますので」
「ワタシニホンゴワカラナイ」
「中国の方みたいですね」
「あと2人必要なんだけど…悉く断られたからな」
「参加してもらいます?」
参加の意思はある中国人。翻訳機能を使用して出題することは可能であるが、慣用句や四字熟語、日本史など世界共通でないネタがあてがわれた場合は運任せとなってしまう。
「このまま誰か来るの待った方がいいかな」
「でも10分くらい誰も入場していない…集まって下さった人待たせる訳にもいきませんし、やるしかないです」
「ダメだったら大やきいも行こう。じゃあやりましょう!」

①今年(2025年)は閏年である
「これは…ノンジャンル?」
「閏年という概念、外国にあるのかな」
翻訳にかけて中国人女性に出題する。
今年是闰年吗?
「チガイマス」
②2時間は100分より長い
两小时比 100 分钟长。
「ソウデス」
何とか中国人2人に正解してもらうことができたが、ハラハラヒリヒリする展開は続く。
③料理の「さしすせそ」において「そ」が指すのはソースである
「知らない人いそうだな〜」
「味噌だから×」
「助かった…」
④パスポートの発行は無料である
「急にドキッとする問題」
「1万くらい取られた記憶。×です」
⑤一般的な西瓜は水に浮く
「これ大きさに反して浮くんだよね確か。○で」
⑥6点式点字において6つの点全てが凸の場合に対応するひらがなは「わ」である
「わかんない…すみません当てずっぽうで、×!」
一般人ゾーンは全員クリア。再びコノとタテルが、自分自身の力で運命を決める時が訪れた。
⑦セブンイレブンの日本1号店は現在もセブンイレブンとして営業している
「知らないよぉ。でも⑦で出るということは、面白いと思える方を正解にすると思うんだよな」
「放送作家の考え方」
「○で!」
⑧二八蕎麦とは蕎麦粉と小麦粉の比率が2:8であるもののことをいう
「うわっ、これ間違えたらグルメとしての面目丸潰れだよ。冷静に冷静に。そんなに蕎麦粉が少なかったらほぼ素麺になるよな。比率逆だよね?×」
⑨東京23区で9月に降雪を観測したことがある
「そんなことある?山間部じゃないし、⑨だと流石にただの大ホラ吹きの可能性あるよね?ええどっちだ…無い方を選ぶ勇気、×!」
作家脳をフルに活かしたコノ。最後のタテルへ望みを託す。
⑩(2025/4/11)現在Google検索で「細魚」と検索した時最初に出てくるのはサヨリではなく木山裕策である
「はぁ⁈急に(オールスター)後夜祭みたいなテイスト。俺嫌だよ、こんな奇問で間違えて泣くの。ええ、流石にサヨリが出るべきだとは思うよ。正しい知識を大事にするものとして。木山さんもう細魚返上したし。でも○だとしたら面白すぎるもんな。あの番組の影響力すごいし有り得なくはない。結局は面白い答えで終わるんじゃないかな。ああもうわかんないや!もうめちゃくちゃな方にしよう、○だ!」

「おめでとうございます!10問連続正解、温石での夕食獲得〜!」
「うそ…正解だった?」
「やりましたねタテルさん!」
「良かったぁ!なんか変な問題だったけど…当てられて良かった」
「リラックスして挑めたのが勝因だったかもですね。それにしても嬉しい…」
「汚名返上できました!コノ、元気づけてくれてありがとう!皆さんもしっかり繋いでいただいてありがとうございました!謝謝!」
震える声を何とか抑え、堂々と大団円を迎えた2人であった。